モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
77 / 284
閑話3 この世の春(ノエル)

2

しおりを挟む
今、アンファエルン学園は夏休みに入った所だ。僕は自分の家に帰ってきている。

隣のベッドで寝ているクリフは、夏休み前に急に彼の領に帰ってしまったし、その前もなんだか元気が無かったから心配だった。でも、僕が領に戻ったら前と同じように、いや、前よりもなんだか元気になって、うちの屋敷に遊びに来た。
何があったのか、詳しくは聞いてない。きっとそのうち、話したくなったら話してくれるだろう。
それよりも、クリフが元気になった事がうれしかった。今年の夏休みも一緒に過ごせるのだ。しかも、コールリッジ公爵家のアリアナ嬢の別荘で!

(ミリアがアリアナ嬢と友達になってくれて、本当にありがたいよ。コールリッジ家の別荘に招待されるなんて、凄いことだ!)

きっと素晴らしい所だろうし、食事だって豪華に決まってる。楽しみしかないじゃないか。
そんな事を考えながら、僕は眠りに落ちた。



「ノエル、忘れ物は無い?お財布は持った?」

馬車に乗り込んだ僕に、ミリアがそう尋ねた。

「うん、大丈夫だよ。昨日準備してたから。」

「帽子は?かぶってないけど、どこにあるの?」

「あっ!玄関に置いてきた!」

「もう、しっかりしなさいよ。」

僕は1日1回はミリアに注意されてる気がする。帽子を慌てて取りに行ってから、馬車は出発した。

馬車は2台。ミリアとジョーとレティが乗った馬車と、僕とクリフの馬車だ。6人乗りの馬車1台で行こうとしたのだが、荷物が乗り切らなかった。女の子たちは荷物が多いしね。でも、もう1台の馬車はクリフの家が出してくれたし、僕はクリフと二人で道中が気楽で良い。

「ああ、楽しみだなぁ。アリアナ嬢の別荘ってどんなのだと思う?」

僕がそう聞くとクリフは向かい側の席で笑った。

「ノエル、一昨日会ってから、ずっとそればっかり言ってるぞ。」

「だって、楽しみじゃないか!。コールリッジ公爵家の別荘なんだよ。」

「観光地の近くの湖の側で、普通の屋敷ぐらい大きいってさ。父が言ってた。」

「うちの屋敷より、大きいだろうなぁ。」

何せ、向こうは大貴族だ。小さな伯爵家とは格が違う。

「でも、僕ってほんとにラッキーだと思うんだよ。」

「ん?」

「領が隣だってだけで、クリフと友達になれただろ?それにミリアのおかげで、レティやジョーとも親しくなれた。二人とも結構美人だし。」

「・・・ああ、そうだな。」

「しかも、学園に入ってからは、アリアナ嬢とリリー嬢とも懇意になれただろ?学園でもトップクラスに可愛いって有名な二人なんだよ!?。」

「へぇ、そうなんだ。」

「感動が薄いな、クリフは。僕達、周りの男子生徒からは、結構羨ましがられてるんだ。これがラッキーで無くて何だっていうだ?。僕ってほんとについてるよなぁ。」

しみじみ言うと、向かい側でノエルが吹き出した。

(クリフって、ほんと笑い上戸だよな・・・。あっ、でも、こんな風に笑う様になったのって、学園に入ってからかもしれない。)

関心無いようなフリしているが、クリフもきっと、レベルの高い女子に囲まれている学園生活が楽しいのだろう。

「なぁ、アリアナ嬢って婚約者のディーン殿とあまり上手くいって無い噂だろ?」

「そうなのか?」

「クリフはあまり、噂とか興味無さそうだから、知らないかもな。でも、アリアナ嬢もそう言ってたじゃ無いか。ピクニックに行く馬車でさ。ディーン殿にあまり好かれてないって。だからアリアナ嬢だって、将来に備えて働きたいって言ってただろ?」

「ああ。」

「僕だったら、喜んでアリアナ嬢と結婚するけどな。だってアリアナ嬢って、可愛いし、優しいし、頭良いし。お金持ちだし。」

「普通、男って自分より頭が良い女性は、気に入らないようだけど?」

「僕は全然気にしないよ。あっでも結婚したら、家に居て欲しいとは思うけどね。女性を働かせるのは、男のしてどうかと思うし。クリフは自分より頭の良い女性は苦手なのか?」

「いや。」

「そうだろ?。あっ、もしかしたら、そのせいでディーン殿はアリアナ嬢を好きじゃないのかな?」

「それは違う。」

何故か、クリフはきっぱりと断言した。

「それに、ディーン殿は別にアリアナ嬢を嫌っていないと思う。むしろ・・・」

「むしろ?」

「・・・いや、やめとく。本人に聞いたわけじゃないから。」

どういう事だろう?まぁ、クリフの様な頭の良い奴は、色々考える事があるのだろう。

「アリアナ嬢とディーン殿が婚約解消したら、僕にもチャンス無いかなって思ったんだけど。・・・やっぱり無理かな?」

「無理かどうかは、自分次第だろ。・・・ノエルはアリアナ嬢が好きなのか?」

「当たり前だろ!。あ、でもリリー嬢も可愛いよね。やっぱり頭良いし、優しいし。ジョーも良いよね。さっぱりしてるし、美人だし。レティも綺麗だし、迷うなぁ。」

「前言撤回、お前には無理だ。」

クリフは呆れたように溜息をついた。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...