モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
78 / 284
閑話3 この世の春(ノエル)

3

しおりを挟む
コールリッジ家の別荘はうちからは結構遠く、途中で宿に1泊して、次の日の午後にやっと到着した。

そして、別荘は想像していた以上に素晴らしかった。前には大きな青い湖が広がり、後ろには山々がそびえたっている。

「凄い!。うちの屋敷よりも大きいし豪華だ。」

僕は馬車が止まると同時に飛び降りて、別荘と周りの景色に見惚れていた。

(こんな所で夏休みを過ごせるなんて、本当にラッキーだよ。)

入り口を入ってすぐのホールも、高そうな装飾品がいっぱいで、目がチカチカするくらいだ。

(おおーっ!。さすが、皇国一の大貴族の別荘。)

初めて会ったコールリッジ公爵は、なんだか全身からオーラが出てるようで、凄く緊張してしまった。うちの父のようにお腹は出てないし、若々しくてハンサムだ。それに、公爵夫人は年齢が分からないくらい若く、凄い美人だった。さすが、アリアナ嬢のお母さんだと思う。

驚いたことに、僕達と同じ日に、ディーン殿と第二皇子のパーシヴァル殿下もやってきた。つまり僕は、第二皇子と、二人の公爵子息とこの夏休みを過ごすと言う事なのだ。

なんてラッキーなんだ。

貴族社会では、交友関係やツテなんかが、結構重要になってくる。学園生活は勉強だけでなく、そういう人間関係を作る場でもあるのだ。親友のクリフだって侯爵子息だし、これって僕の将来は凄く明るいんじゃないか?

そんなこんなで正直、僕は結構、浮かれていた。整えられた庭での優雅なお茶や、綺麗な滝でのピクニック。食事は豪華で美味しいし、女の子たちは皆、美人で可愛い。

(もっ最高だ。)

夜になると男子はクラーク殿の部屋に集まった。クラーク殿とディーン殿が、皇国の発展の為の政策についての議論を始めたのだが、内容が難しくて良く分からなかった。けれど、なんだか僕も、上級貴族の仲間入りをしたような気分になった。

僕達には一人に一部屋を用意してくれていたけど、僕は一人じゃ寂しいのでクリフと同じ部屋にして貰った。そして寝る前にクリフと、この別荘生活の感動を分かち合っていた。

「人生で一番楽しい夏を過ごしていると言っても、過言じゃないと思うな。・・・なぁ、来年もまたアリアナ嬢は、僕達を招待してくれるかな?。」

「来たばかりで、もう来年の話か?。」

「だって、毎年こんな所で皆と過ごせたら、最高じゃないか。」

「ああ、そうだな。」

クリフはベッドの上で片膝に肘を乗っけてこっちを向いた。僕もクリフの方に、身体を向けた。

「クラーク殿やディーン殿の話の内容って難しくなかったか?。パーシヴァル殿下は理解していたみたいだけど、クリフは分かった?。きっと、3人とも、小さい頃からそういう教育を受けてるんだろうなぁ。良いなぁ。僕も公爵家に生まれたかったな。」

子沢山の地方の伯爵家の家庭教師は、よぼよぼのおじいさんだった。ミリアと一緒に授業を受けたけど、内容は歴史ばかりで政治については教えて貰えなかった。

僕がその事を言うと、クリフは、

「教育を受けたって、本人にそういう意識がなければ身に着かないよ。二人は幼い頃から、ちゃんと自覚していたから出来るのさ。」

そう言って、珍しく、少し悔しそうな顔をした。

(やっぱりクリフは変わったよなぁ。)

前はこんな顔するような奴では無かった。いつも、何をしていても、どこか冷めてて、つまらなそうだった。

(でも、悪い変化じゃない。)

前のクリフも好きだけど、今の感情を見せるクリフの方がもっと好きだ。
そんな風に思っていたら、思い出した事があった。

「そう言えばさ、今日滝にピクニックに行っただろ?」

「ああ」

「僕達が洞窟から出て来た時、クリフとアリアナ嬢、岩で出来た舞台みたいな所に立ってたよな?。」

「うん・・・。」

「あの時さ、二人が精霊のイルクァーレと妖精のシーリーンみたいに見えたんだよなぁ・・・。」

向かい合ってお互いを見ていた二人は、現実世界の者とは思えない程、綺麗だった。美形の威力って凄いなと思った。

(レティシアなんか、見た途端に悲鳴上げてたもんな。何故か、急にスケッチブックを広げだしたから、びっくりしたけど・・・。そう言えばクラーク殿は、ちょっと顔が引きつってな。)

僕は二人の姿が、あまりにも幻想的だったから、馬鹿みたいに口を開けて見惚れていたけど。

「なぁ、あの時二人で何してたんだ?。」

そう聞くと、クリフは急に僕に背中を向けて寝っ転がった。

「別に・・・。もう寝る。」

一瞬見えた顔が赤くなってて、僕はそんなクリフも初めて見たので驚いた。そして、

(やっぱり今のクリフの方がずっと良い。)

そんな風に思った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...