モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
79 / 284
閑話3 この世の春(ノエル)

4

しおりを挟む
次の日、女の子達が買い物に行っている間、僕達はクラーク殿の案内で、遠乗りにも出かけた。
僕は乗馬があまり得意じゃない。だから貸して貰った馬は、凄く良い馬だったけど、皆について行くのがやっとだった。
クリフはそんなに乗馬の練習している様では無かったのに、かなり上手く乗りこなしている。あいつは僕と違って器用な奴なのだ。

遠乗りの途中で、すごく景色の良い場所を見つけた。柔らかい牧草が広がってて、綺麗な花が沢山咲いている所もある。

「ここは良いね。二人乗りでも来れそうだから、アリアナ達も連れてきてあげたいな。明日はここでピクニックをしようか。」

クラーク殿がそう言った。

確かに、皆ここに来たら喜ぶだろう。でも、僕は二人乗りはあまり自信が無かった。

(男は5人。女の子は6人。ジョーは馬に乗れるから良いとして、僕も誰かと二人乗りしなきゃいけないのかな?。だとしたら困ったなぁ・・・。)

でも、心配は杞憂に終わった。グローシア嬢も馬に乗れることが、次の日分かったのだ。僕はホッとして胸を撫で下ろした。


その日は快晴で、馬に乗ってても、とても気持ちが良かった。何より、遠乗りの時と違って、皆も女の子と二人乗りしているから、ゆっくり進んでくれる。僕も落ち着いて馬に乗れるからありがたかった。

ジョーとグローシア嬢は、ちゃんと馬を乗りこなしていて、正直僕より上手なのが、ちょっと悔しい。

(僕だって、もうちょっと慣れれば、女の子よりは上手く乗れるようになるさ。)

そう思って、しばらくは馬を操る事に集中していた。そのかいあってか、少しずつコツを掴めてきたような気がする。

(ふふん、ほら、やれば出来るのさ。)

でもしばらくしたら、なんだかちょっと寂しくなった。だって、ジョーとグローシア嬢は二人で自由に馬を走らせていってしまうし、二人乗りの皆は、それぞれ楽しそうにお喋りしているのだ。

前を見ると、クラーク殿とミリアは、魔術についての難しい話をしている様だった。斜め横を見るとディーン殿とリリー嬢が、何か学校の話をしているようだ。

(それにしても二人は、さすがに噂になっただけあって、美男美女でお似合いだよなぁ。でもディーン殿はアリアナ嬢の婚約者だもんな。不仲説はどうなってるんだろう?。)

僕が見る限り、三人のそれぞれに対する態度は普通に見える。というか、アリアナ嬢とリリー嬢が凄く仲が良い。

(噂が本当なら、アリアナ嬢とリリー嬢が仲良くなる筈無いよな。)

僕は後ろの方へも目をやった。すぐ後ろで、レティとクリフが馬に乗っていたが、何故かレティは無表情で目が虚ろだ。具合でも悪いのかな?。気づいているのか、気づいて無いのか、クリフは様子はいつもと変わらない。

そして最後尾で、アリアナ嬢とパーシヴァル殿下が、何か話しているのが見えた。アリアナ嬢はしきりと後ろを向いたり前を向いたりしている。きっと会話に花が咲いているのだろう。

(良いなぁ。僕も女の子とお喋りしながら、馬に乗りたいなぁ。)



高原に着いたら、思ってた通り女の子達は大喜びだった。景色は良いし、お弁当も美味しいし、僕もピクニックを多いに楽しんだ。

でも、クラーク殿が「そろそろ帰ろうか」と言った時、僕は行きの寂しさを思い出していた。

(折角のピクニックだ。僕だって楽しい思い出を作りたい!)

だから、思い切って提案してみる事にした。

「あのさ、帰りは僕も、二人乗りしてみたいんだけど・・・。」

「ああ良いんじゃないか。ノエルも馬を操るのが上手くなったよ。」

クラーク殿もそう言ってくれたので、僕はすっかり舞い上がってしまった。

(やったー!。これで僕も女の子と馬に乗れる!)

しかも、驚いた事に、なんとアリアナ嬢が僕の馬に乗る事になったのだ!こんなラッキーな事があるだろうか!?

「では、ノエル様、よろしくお願いします。」

そう言って微笑むアリアナ嬢があまりに可愛くて、僕は少しポーっとなりながら、彼女が馬に乗るのに手を貸した。

(やったー!。アリアナ嬢と二人乗り出来るなんて!)

興奮気味に、僕も馬に乗ろうとあぶみに足をかけた。すると、その瞬間、何処からか飛んできた虻が、僕を刺そうと頭の周りを回り始めたのだ。

「うわっ、なんだ・・・くそっ!こいつ。」

僕は虻を追い払おうと、両手を振り回した。でもなかなか虻は逃げて行かない。

(くそっ!早くどっかに行っちまえ!)

そう思って、大きく腕を振った時、あろうことか、僕は誤ってあぶみにかけていた足で、馬の腹を思いっきり蹴ってしまったのだ。

「ブルルルルッ!」

「うわっ!」

驚いた馬が前足を上げたせいで、僕はあぶみから足を踏み外して、思いっきり地面に転がってしまった。顔から落ちたので、口の中に草が入ってしまった。

(不味っ!)

ペッペと吐き出していると、周りから皆の慌てた声が聞こえてきた。

「アリアナ!」

「アリアナ様!」

(えっ!?。そういえば、馬にはアリアナ嬢が乗ってたんだった!)

慌てて顔を上げると、アリアナ嬢を乗せた馬は真っすぐ崖に向かっていた。

「危ない!」

誰かが叫んでいる。アリアナ嬢の馬はどんどん崖に近づいて行く。そしてその後を、ディーン殿とクラーク殿、そしてクリフがそれぞれ馬に乗って、追いかけて行くのが見えた。僕は動転してしまい、地面に四つん這いになったまま、その光景を見ているだけだった。

「アリアナ様!」

声を上げたのはリリー嬢だっただろうか?。馬は、アリアナ嬢を乗せたまま、崖の向こうに消えた。そしてそれを追って、ディーン殿の馬も見えなくなった。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...