モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

文字の大きさ
151 / 284
第6章 悪役令嬢は利用されたくない

28

しおりを挟む
この後、エメラインはヒロインのリリーを憎むあまりラスボス化して、能力値が普段よりも跳ね上がる。通常ならトラヴィスの方が強いのだけど、この時はヒロインと力を合わせてやっと倒すことが出来るのだ。しかも、トラヴィスとの好感度がかなり上がっていないと、どちらかが殺されると言うバッドエンドになっていた。

(エメラインの強さが、その時と同じになってるとしたら、敵うわけがない。)

エメラインの両手に再び火球が浮かんだ。

「どきなさい・・・。邪魔をするのなら、その女ともども殺してやる。」

(ああああ、このセリフも一緒だぁ!)

やっぱり、ゲームの時と同じセリフを言ってる。万事休すじゃん!。

クリフは肩で息をしている。流れる汗が艶めかしい・・・、なんて思ってる場合じゃない!。このままじゃ、皆やられちゃう。いっそ、私だけエメラインの前に飛び出ようか?と思った時だった。

「やめろ!。エメライン」

(や、やったぁ!。やっと来てくれた!)

私は肩の力が抜けるのが分かった。いけない、まだ油断はできないんだから。

エメラインがゆっくりと声の方を見る。そして、声の主であるトラヴィスの姿を見つけると、その横顔に笑みが広がった。

「トラヴィス様。なぜお止めになるのです?。この女は私とあなたの仲を邪魔する者なのですよ。」

「エメライン・・・私の心には最初からお前は居ない。何故分からないのだ。」

(ん?・・・えええっ!?)

私はこの短いやり取りを聞いて、思いっきりズッコケた。

(待て、待てい!。これって、トラヴィスもゲームと同じセリフ言ってんじゃん!。もしかして、ねーさん、ゲームと同じシーンを楽しんでんじゃないでしょうね!?。若干、小鼻が膨らんでるっての!こっちは生命の危機だっていうのに。)

二人の会話は続く。

「わたくしは、由緒あるセルナク国の王女。このような小娘に負ける事などあってはならない。」

(いやいや、エメライン!。別に私、あんたを負かした事なんてないよ!?)

「エメライン。君は彼女に対し、罪を犯し続けた。これは許しがたい事だ。それに・・・それに、私にとって彼女は必要な人なのだ。」

(ねーさん!!。無理にセリフを言うんじゃないよ!。あんたが必要なのは、裏の仕事をする人でしょうが!)

「お可哀そうにトラヴィス様・・・。すっかりあの女に騙されて・・・。少しばかりお待ちくださいねぇ。あの女を殺して、貴方様の目を醒まさせてあげましょう!」

エメラインが両手を振り上げたと同時に、さっきよりも大きい二つの火球が私に向かって飛んできた。

「ぎゃっ!」

(トラヴィスのあほう!)

「くっ!」

クリフが私を庇う様に両手を広げた。

(駄目だ、焼かれる!)

けれど、炎は私の所まで飛んでくることはなく、エメラインとの中間当たりで弾かれ、空に向かって炎の柱を上げると消えてしまった。そしてその炎のオレンジの光に照らされながら、私とクリフの前には、ディーンとクラークが立っていた。

「ディーン様!。それにお兄様も・・・。」

私はへなへなと座り込んだ。

「アリアナ!。大丈夫だったか!?。可哀そうに・・・。」

クラークが私の元に来ると、心配そうに頬に手を添えた。

(は、はは・・・もう駄目かと思いましたよ。)

それに、まだ終わってはいない。エメラインは悔しそうに顔を歪めた。

「この、しつこい女め!」

エメラインが再び手を振り上げた。けれど、その振り上げた手に向かってバシッと言う音と共に大きな稲妻が走った。トラヴィスが魔術を使ったのだ。

「あああっ!」

エメラインの悲鳴が響く。彼女は咄嗟にシールドを張ったようだが、それを突き抜けて彼女の身体を電撃が走り抜けた。エメラインは崩れる様に、ゆっくりと座り込んだ。

「捕縛魔術をかける。」

トラヴィスがそう言ってパシッと手を打ち鳴らすと、エメラインの身体がビクリと硬直して倒れた。魔術で彼女の身体を縛ったのだろう。エメラインは倒れたまま、動けないようだった。

赤い髪が、まるで血の様に地面に広がっている。それを見るとなんだか胸が痛んだ。

(悪役令嬢か・・・。)

彼女だってこんな役、やりたくなかっただろうに。

モブとは言え、私も同じ立場だった。なんとかすり抜けてきたとはいえ、彼女の姿に自分の姿が重なる様な気がした。


「クラーク、ディーン。手を貸せ。エメラインを拘引する。」

「はい」

クラークは私に笑みを向けて頭をポンっと撫でると、ディーンと共にエメラインの方へ走って行った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...