モブ系悪役令嬢は人助けに忙しい(完結)

優摘

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第7章 悪役令嬢は目覚めたくない

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どれくらいの時間が経ったのか、上も下も、時間の感覚すら分からない真っ暗な空間で私は身体を起こした。

まったく光の無い空間なのに、不思議と自分の姿が見える。これは前の世界の私の身体だ。

「初めまして」

声をかけられて振り返ると、ハニーブロンドにエメラルドグリーンの瞳をした美少女が立っていた。

「アリアナ・・・」

私は目を見開き立ち上がる。

「やっと会えましたね」

アリアナは柔らかい微笑みを私に向けた。

「貴女、男の子みたいでしてよ。背が高いわ。それに髪が短いのね。でも素敵な色だわ。」

「はは、ありがとう」

私は自分の髪をつまんでみた。アリアナみたいな奇麗な髪を持った子に言われても苦笑いしか出ない。

「アリアナ・・・ごめん」

「貴女が謝る事は一つもありませんわ。そもそも貴女が来てくれなければ、私はもう存在していませんもの」

それでも私の罪悪感は消えない。

「どうして、こんな事が起きたんだと思う?」

「分かりませんわ。・・・でも、多分わたくしの精神が欠片の様に小さいからでしょう。それこそ生きるのが難しい程に・・・。だから貴女に助けを求めたのかもしれませんわ。でも不思議・・・貴女の精神はこんなにも眩しいくらい大きいのに、わたくしにはどこか足りなく思えますの」

「うん、きっとそれは正しいと思う」

いつもそれは感じてた。私の欠けた部分。

「わたくし達、互いにそれを補えあえるのではなくて?」

「うん・・・私もそう思ったよ・・・」

私とアリアナはお互いの両手を伸ばし手を繋いだ。二人でおでこをくっつけ合って目を閉じる。

「アリアナ。貴方に私の生きる力をあげるよ」

「わたくしは、あなたに人を深く想う気持ちを差し上げるわ」

繋いだ手から光が漏れ、段々と大きくなっていく。大きくなった光は暗闇を消していく。そのまま私達は光の中に溶けていって・・・、


そして・・・私は目を覚ましたのだ。


重い瞼を開けると、まず心配そうなリリーの顔と不安げなマリオット先生の顔が目に入った。

「アリアナ?」

クラークが私を覗きこむ。

私はゆっくりと身体を起こし、額を押さえて頭を振った。

「アリアナ、大丈夫か?。その・・・君はどっちの・・・?」

トラヴィスの声・・・。

その声で我に返った私はすっくと立ちあがり、そのままの勢いで床に正座し、

「この度は申し訳ありませんでしたぁ!」

叫ぶ様に謝ると、べったりと額が付くほど頭を下げた。

いわゆる土下座というやつだ。

「今までアリアナのフリをして、皆様を騙しておりましたぁ!本当にごめんなさい!」


たっぷり10秒程の静寂の後、


「ぶっ・・・くっくっく、あーはっはははは・・・!」

リビングにクリフの笑い声が響いた。

(へ?)

驚いて顔をあげると、笑いをかみ殺している顔と呆気に取られた顔が半々。

クリフは上戸の発作が出たらしく、涙を流しながら座り込んだ。そして、

「うっくっく・・・ああ、君だ。ふふふ、やっと・・・会えた・・・」

そう言って、今度は片手で両目を隠して顔を伏せた。

(ク、クリフ・・・泣いて・・・。いやいや、気持ちは嬉しけど、アリアナの事を考えたら喜べないと言うか・・・)

不安な思いでクラークの方をチラリと見る。すると思いがけず、クラークは優しい笑みを浮かべて私を見ていた。

「やぁおかえり、アリアナ」

その言葉に胸を打たれて、私は泣くのを必死でこらえた。

「違うのです。私には『アリアナ』と呼んで貰う資格は無いのです。だって、私は・・・」

「良いんだ、僕にとっては二人とも大事な『アリアナ』だよ」

そう言って頭にポンと手を乗せてくれた。

(駄目だ・・・)

堪えていた涙が零れ落ちた。

「アリアナ様!」

「アリアナ様ぁ!」

ミリアとグローシアが私に抱きついた。涙を拭きながら見上げると、リリーとレティも泣いていた。

ジョーは満面の笑みで、

「良かった。聖魔術成功だね!」

とマリオット先生の肩を思いっきり叩いた。

トラヴィスは肩の荷が下りたと言う風に溜息をつくと、

「マリオット先生、協力に感謝しますよ。どうやら貴方は相当な魔術の使い手らしい」

「い、いやぁ僕なんて。リリーさんの足を引っ張らなかったようで良かったよ」

マリオット先生は顔を真っ赤に照れながら両手を振った。

トラヴィスは私の顔を見て、肩をすくめると

「そんな情けなさそうな顔をするもんじゃない。皆は怒ったりしていないし、ちゃんと君を歓迎している」

「そ、それは分かります!でも、アリアナが・・・」

彼女をちゃんと知った今、私の気持ちには割り切れなさが残る。

「それに・・・皆を騙していた事は事実ですので・・・」

「そんなのもう良いです」

ミリアが私の両手を握った。

「私達とアリアナ様は友達じゃないですか」

真っすぐ目を見てそう言ってくれた。ヤバい、また泣きそうになってしまう。

「・・・ありがとうございます」

(なんて私は恵まれてるのだろう・・・)

アリアナが私に「良かったですわね」と笑った気がした。
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