208 / 284
第7章 悪役令嬢は目覚めたくない
32
しおりを挟む
どれくらいの時間が経ったのか、上も下も、時間の感覚すら分からない真っ暗な空間で私は身体を起こした。
まったく光の無い空間なのに、不思議と自分の姿が見える。これは前の世界の私の身体だ。
「初めまして」
声をかけられて振り返ると、ハニーブロンドにエメラルドグリーンの瞳をした美少女が立っていた。
「アリアナ・・・」
私は目を見開き立ち上がる。
「やっと会えましたね」
アリアナは柔らかい微笑みを私に向けた。
「貴女、男の子みたいでしてよ。背が高いわ。それに髪が短いのね。でも素敵な色だわ。」
「はは、ありがとう」
私は自分の髪をつまんでみた。アリアナみたいな奇麗な髪を持った子に言われても苦笑いしか出ない。
「アリアナ・・・ごめん」
「貴女が謝る事は一つもありませんわ。そもそも貴女が来てくれなければ、私はもう存在していませんもの」
それでも私の罪悪感は消えない。
「どうして、こんな事が起きたんだと思う?」
「分かりませんわ。・・・でも、多分わたくしの精神が欠片の様に小さいからでしょう。それこそ生きるのが難しい程に・・・。だから貴女に助けを求めたのかもしれませんわ。でも不思議・・・貴女の精神はこんなにも眩しいくらい大きいのに、わたくしにはどこか足りなく思えますの」
「うん、きっとそれは正しいと思う」
いつもそれは感じてた。私の欠けた部分。
「わたくし達、互いにそれを補えあえるのではなくて?」
「うん・・・私もそう思ったよ・・・」
私とアリアナはお互いの両手を伸ばし手を繋いだ。二人でおでこをくっつけ合って目を閉じる。
「アリアナ。貴方に私の生きる力をあげるよ」
「わたくしは、あなたに人を深く想う気持ちを差し上げるわ」
繋いだ手から光が漏れ、段々と大きくなっていく。大きくなった光は暗闇を消していく。そのまま私達は光の中に溶けていって・・・、
そして・・・私は目を覚ましたのだ。
重い瞼を開けると、まず心配そうなリリーの顔と不安げなマリオット先生の顔が目に入った。
「アリアナ?」
クラークが私を覗きこむ。
私はゆっくりと身体を起こし、額を押さえて頭を振った。
「アリアナ、大丈夫か?。その・・・君はどっちの・・・?」
トラヴィスの声・・・。
その声で我に返った私はすっくと立ちあがり、そのままの勢いで床に正座し、
「この度は申し訳ありませんでしたぁ!」
叫ぶ様に謝ると、べったりと額が付くほど頭を下げた。
いわゆる土下座というやつだ。
「今までアリアナのフリをして、皆様を騙しておりましたぁ!本当にごめんなさい!」
たっぷり10秒程の静寂の後、
「ぶっ・・・くっくっく、あーはっはははは・・・!」
リビングにクリフの笑い声が響いた。
(へ?)
驚いて顔をあげると、笑いをかみ殺している顔と呆気に取られた顔が半々。
クリフは上戸の発作が出たらしく、涙を流しながら座り込んだ。そして、
「うっくっく・・・ああ、君だ。ふふふ、やっと・・・会えた・・・」
そう言って、今度は片手で両目を隠して顔を伏せた。
(ク、クリフ・・・泣いて・・・。いやいや、気持ちは嬉しけど、アリアナの事を考えたら喜べないと言うか・・・)
不安な思いでクラークの方をチラリと見る。すると思いがけず、クラークは優しい笑みを浮かべて私を見ていた。
「やぁおかえり、アリアナ」
その言葉に胸を打たれて、私は泣くのを必死でこらえた。
「違うのです。私には『アリアナ』と呼んで貰う資格は無いのです。だって、私は・・・」
「良いんだ、僕にとっては二人とも大事な『アリアナ』だよ」
そう言って頭にポンと手を乗せてくれた。
(駄目だ・・・)
堪えていた涙が零れ落ちた。
「アリアナ様!」
「アリアナ様ぁ!」
ミリアとグローシアが私に抱きついた。涙を拭きながら見上げると、リリーとレティも泣いていた。
ジョーは満面の笑みで、
「良かった。聖魔術成功だね!」
とマリオット先生の肩を思いっきり叩いた。
トラヴィスは肩の荷が下りたと言う風に溜息をつくと、
「マリオット先生、協力に感謝しますよ。どうやら貴方は相当な魔術の使い手らしい」
「い、いやぁ僕なんて。リリーさんの足を引っ張らなかったようで良かったよ」
マリオット先生は顔を真っ赤に照れながら両手を振った。
トラヴィスは私の顔を見て、肩をすくめると
「そんな情けなさそうな顔をするもんじゃない。皆は怒ったりしていないし、ちゃんと君を歓迎している」
「そ、それは分かります!でも、アリアナが・・・」
彼女をちゃんと知った今、私の気持ちには割り切れなさが残る。
「それに・・・皆を騙していた事は事実ですので・・・」
「そんなのもう良いです」
ミリアが私の両手を握った。
「私達とアリアナ様は友達じゃないですか」
真っすぐ目を見てそう言ってくれた。ヤバい、また泣きそうになってしまう。
「・・・ありがとうございます」
(なんて私は恵まれてるのだろう・・・)
アリアナが私に「良かったですわね」と笑った気がした。
まったく光の無い空間なのに、不思議と自分の姿が見える。これは前の世界の私の身体だ。
「初めまして」
声をかけられて振り返ると、ハニーブロンドにエメラルドグリーンの瞳をした美少女が立っていた。
「アリアナ・・・」
私は目を見開き立ち上がる。
「やっと会えましたね」
アリアナは柔らかい微笑みを私に向けた。
「貴女、男の子みたいでしてよ。背が高いわ。それに髪が短いのね。でも素敵な色だわ。」
「はは、ありがとう」
私は自分の髪をつまんでみた。アリアナみたいな奇麗な髪を持った子に言われても苦笑いしか出ない。
「アリアナ・・・ごめん」
「貴女が謝る事は一つもありませんわ。そもそも貴女が来てくれなければ、私はもう存在していませんもの」
それでも私の罪悪感は消えない。
「どうして、こんな事が起きたんだと思う?」
「分かりませんわ。・・・でも、多分わたくしの精神が欠片の様に小さいからでしょう。それこそ生きるのが難しい程に・・・。だから貴女に助けを求めたのかもしれませんわ。でも不思議・・・貴女の精神はこんなにも眩しいくらい大きいのに、わたくしにはどこか足りなく思えますの」
「うん、きっとそれは正しいと思う」
いつもそれは感じてた。私の欠けた部分。
「わたくし達、互いにそれを補えあえるのではなくて?」
「うん・・・私もそう思ったよ・・・」
私とアリアナはお互いの両手を伸ばし手を繋いだ。二人でおでこをくっつけ合って目を閉じる。
「アリアナ。貴方に私の生きる力をあげるよ」
「わたくしは、あなたに人を深く想う気持ちを差し上げるわ」
繋いだ手から光が漏れ、段々と大きくなっていく。大きくなった光は暗闇を消していく。そのまま私達は光の中に溶けていって・・・、
そして・・・私は目を覚ましたのだ。
重い瞼を開けると、まず心配そうなリリーの顔と不安げなマリオット先生の顔が目に入った。
「アリアナ?」
クラークが私を覗きこむ。
私はゆっくりと身体を起こし、額を押さえて頭を振った。
「アリアナ、大丈夫か?。その・・・君はどっちの・・・?」
トラヴィスの声・・・。
その声で我に返った私はすっくと立ちあがり、そのままの勢いで床に正座し、
「この度は申し訳ありませんでしたぁ!」
叫ぶ様に謝ると、べったりと額が付くほど頭を下げた。
いわゆる土下座というやつだ。
「今までアリアナのフリをして、皆様を騙しておりましたぁ!本当にごめんなさい!」
たっぷり10秒程の静寂の後、
「ぶっ・・・くっくっく、あーはっはははは・・・!」
リビングにクリフの笑い声が響いた。
(へ?)
驚いて顔をあげると、笑いをかみ殺している顔と呆気に取られた顔が半々。
クリフは上戸の発作が出たらしく、涙を流しながら座り込んだ。そして、
「うっくっく・・・ああ、君だ。ふふふ、やっと・・・会えた・・・」
そう言って、今度は片手で両目を隠して顔を伏せた。
(ク、クリフ・・・泣いて・・・。いやいや、気持ちは嬉しけど、アリアナの事を考えたら喜べないと言うか・・・)
不安な思いでクラークの方をチラリと見る。すると思いがけず、クラークは優しい笑みを浮かべて私を見ていた。
「やぁおかえり、アリアナ」
その言葉に胸を打たれて、私は泣くのを必死でこらえた。
「違うのです。私には『アリアナ』と呼んで貰う資格は無いのです。だって、私は・・・」
「良いんだ、僕にとっては二人とも大事な『アリアナ』だよ」
そう言って頭にポンと手を乗せてくれた。
(駄目だ・・・)
堪えていた涙が零れ落ちた。
「アリアナ様!」
「アリアナ様ぁ!」
ミリアとグローシアが私に抱きついた。涙を拭きながら見上げると、リリーとレティも泣いていた。
ジョーは満面の笑みで、
「良かった。聖魔術成功だね!」
とマリオット先生の肩を思いっきり叩いた。
トラヴィスは肩の荷が下りたと言う風に溜息をつくと、
「マリオット先生、協力に感謝しますよ。どうやら貴方は相当な魔術の使い手らしい」
「い、いやぁ僕なんて。リリーさんの足を引っ張らなかったようで良かったよ」
マリオット先生は顔を真っ赤に照れながら両手を振った。
トラヴィスは私の顔を見て、肩をすくめると
「そんな情けなさそうな顔をするもんじゃない。皆は怒ったりしていないし、ちゃんと君を歓迎している」
「そ、それは分かります!でも、アリアナが・・・」
彼女をちゃんと知った今、私の気持ちには割り切れなさが残る。
「それに・・・皆を騙していた事は事実ですので・・・」
「そんなのもう良いです」
ミリアが私の両手を握った。
「私達とアリアナ様は友達じゃないですか」
真っすぐ目を見てそう言ってくれた。ヤバい、また泣きそうになってしまう。
「・・・ありがとうございます」
(なんて私は恵まれてるのだろう・・・)
アリアナが私に「良かったですわね」と笑った気がした。
23
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる