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一カ月
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執務室から出ると廊下の端で使用人達が話をしていた。
最近不満が溜まっているようで、聞こえてくる内容は決まってマリリンさん達親子の事だった。
「お客様だって言っても平民よね。なんで貴族みたいな扱いをしなきゃならないの?母乳の出が良くなるからって毎回自分用に新鮮なミルクを要求されるわ」
「赤ちゃんのおむつの洗濯まで私たちに任せるのっておかしくない?自分の子供の洗濯くらいできるでしょうに。もうアーロン君は四カ月でしょう?産後だからっていつまでもベッドで休んでるのおかしいわよ」
「うちの姉は、出産したけど三日後には台所に立ってたわよ。いつまで甘えるつもりかしら」
マリリンさんは客室からめったに出てこなかった。
体調が良くないからと初めのころは気を遣っていたけれど、もう一月経つ。メイドたちの話によると食欲もあって十分元気だという。
挨拶くらいはしたいのだけれど、お茶や昼御飯に誘っても赤ん坊がいるので御迷惑でしょうから。と断られる。
誘いすぎるのもどうかと思い 気が向いたらご一緒しましょうねと言葉をかけていた。部屋の中に閉じこもりすぎるのも良くないので、お庭の散歩はいかがですかとお誘いしたけれど丁重に断られた。
ソフィアも使用人たちが言っていることに間違いはないと思うが、自分までマリリンの愚痴を言ってしまうと、彼女たち親子の立場が悪くなるだろう。
メイド長のダミアがやってきて彼女たちを注意した。
「あなた達、いつまでも油を売っていないで仕事をしなさい」
廊下の端で盗み聞きしてしまった自分も、怒られたように感じ、ギクリとしてしまった。
ダミアは仕事ができるメイド頭だった。そしてメモ魔だった。全てを記録するのが趣味なのか、いつも自前のノートにいろんな事を記入していた。
「ですが、メイド長、マリリンさんは私たちが話しかけて愛想がないのに、旦那様がいらっしゃると、すごく甘えて、人によって態度を変える方なんです」
「奥様にだって、とても失礼な態度なんです。赤ちゃんがいるからっていう理由で何でもお断りになられます。そもそも平民ですよねマリリンさん。いつまでこの屋敷でお世話しなくちゃならないんですか」
ダミアは職務に忠実だ。主人のいう事は絶対なので、使用人たちの愚痴は聞き入れないだろう。
「旦那様がお決めになった事です。手が回らないのであれば、人員を増やしましょう。嫉妬や妬みは羨ましいと思う気持ちから起こるものです。そう思うのは自分がまだ半人前だからです。つべこべ言わずに仕事しなさい」
流石、厳しいわ。
『きっと私もまだ半人前なのね。使用人達の事を上手く纏められるように頑張らなくてはならないわ』
メイド長の言葉に身を引き締めた。
個人的な話などはめったにしないし、打ち解けているかと言われたらそうではない。何年も一緒に住んでいるのに、一線を引いている感じは彼女の持って生まれた気質だろう。
人員が足りないのはその通りだ。
戦争が始まる前と比べると、今では屋敷の使用人の数は三分の一ほどになっている。
「やはり使用人を増やすべきね……」
そんなことを考えながら、皆の不満を解消できるよう努力しなければと思っていた。
最近不満が溜まっているようで、聞こえてくる内容は決まってマリリンさん達親子の事だった。
「お客様だって言っても平民よね。なんで貴族みたいな扱いをしなきゃならないの?母乳の出が良くなるからって毎回自分用に新鮮なミルクを要求されるわ」
「赤ちゃんのおむつの洗濯まで私たちに任せるのっておかしくない?自分の子供の洗濯くらいできるでしょうに。もうアーロン君は四カ月でしょう?産後だからっていつまでもベッドで休んでるのおかしいわよ」
「うちの姉は、出産したけど三日後には台所に立ってたわよ。いつまで甘えるつもりかしら」
マリリンさんは客室からめったに出てこなかった。
体調が良くないからと初めのころは気を遣っていたけれど、もう一月経つ。メイドたちの話によると食欲もあって十分元気だという。
挨拶くらいはしたいのだけれど、お茶や昼御飯に誘っても赤ん坊がいるので御迷惑でしょうから。と断られる。
誘いすぎるのもどうかと思い 気が向いたらご一緒しましょうねと言葉をかけていた。部屋の中に閉じこもりすぎるのも良くないので、お庭の散歩はいかがですかとお誘いしたけれど丁重に断られた。
ソフィアも使用人たちが言っていることに間違いはないと思うが、自分までマリリンの愚痴を言ってしまうと、彼女たち親子の立場が悪くなるだろう。
メイド長のダミアがやってきて彼女たちを注意した。
「あなた達、いつまでも油を売っていないで仕事をしなさい」
廊下の端で盗み聞きしてしまった自分も、怒られたように感じ、ギクリとしてしまった。
ダミアは仕事ができるメイド頭だった。そしてメモ魔だった。全てを記録するのが趣味なのか、いつも自前のノートにいろんな事を記入していた。
「ですが、メイド長、マリリンさんは私たちが話しかけて愛想がないのに、旦那様がいらっしゃると、すごく甘えて、人によって態度を変える方なんです」
「奥様にだって、とても失礼な態度なんです。赤ちゃんがいるからっていう理由で何でもお断りになられます。そもそも平民ですよねマリリンさん。いつまでこの屋敷でお世話しなくちゃならないんですか」
ダミアは職務に忠実だ。主人のいう事は絶対なので、使用人たちの愚痴は聞き入れないだろう。
「旦那様がお決めになった事です。手が回らないのであれば、人員を増やしましょう。嫉妬や妬みは羨ましいと思う気持ちから起こるものです。そう思うのは自分がまだ半人前だからです。つべこべ言わずに仕事しなさい」
流石、厳しいわ。
『きっと私もまだ半人前なのね。使用人達の事を上手く纏められるように頑張らなくてはならないわ』
メイド長の言葉に身を引き締めた。
個人的な話などはめったにしないし、打ち解けているかと言われたらそうではない。何年も一緒に住んでいるのに、一線を引いている感じは彼女の持って生まれた気質だろう。
人員が足りないのはその通りだ。
戦争が始まる前と比べると、今では屋敷の使用人の数は三分の一ほどになっている。
「やはり使用人を増やすべきね……」
そんなことを考えながら、皆の不満を解消できるよう努力しなければと思っていた。
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