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スコットの生還
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スコットは戦地で私の身代わりとなった。
敵の砲弾が飛んできた場所に、私とスコットはいた。
スコットは光を見、私は音を聞いた。
音と光は速度が違う。
音を聞く私は動きが遅れた。
スコットは砲弾から私を守ろうと、私の体を突き飛ばした。その反動でスコットの体は後退し砲弾の餌食となった。
スコットは犠牲になった。
吹き飛ばされるスコットの体は空中を舞った。
今でも夜になるとスローモーションで何度もその光景を思い出す。
その後、砲弾は次から次へと続けざまに飛んできた。皆逃げるのに必死だった。
撤退を叫びながら安全な場所にたどり着くまでかなりの時間を要した。
何時間も私たちは森の中を駆けずり回った。
スコットが吹き飛ばされた場所の捜索に戻れたのは一週間後だった。
辺りは焼け野原だった。
日が暮れるまでずっと、地に膝をつき、灰になった木くずを払い、両手で土を掘った。
焼け焦げた木々の跡から、スコットの亡骸を見つける事はできなかった。
せめてスコットの為に、残された彼の恋人と血を分けた彼の子供を……私が守らなければならないと思った。
「旦那様!旦那様、お気を確かに!」
モーガンの言葉に我に返る。
そうだ。今は過去を思い返している場合ではない。
ガブリエルが走って私のところまでやってきた。
「隊長、すぐに馬の準備をします!」
「ああ」
スコットが生還したのかこの目で確かめなければならない。
本当なのか?あの時砲弾に吹き飛ばされる彼の姿を確かに見た。
神の御加護か……
「私も連れて行ってください!スコット様は幼き頃から旦那様のご友人でした。ご無事の姿を一目見たい」
モーガンが私に懇願する。
同じように使用人の中でもスコットを知っている者は皆連れて行ってくれという。
「今はまだ状況がよく分かっていない。まずは私とガブリエルが行く」
「はい。お供します!」
ガブリエルが真剣な顔つきで返事をする。
彼も信じ難いのだろう。
興奮して拳を握る姿は、軍人であった時の彼を思い起こさせる。
あの戦場で生き残った命の奇跡を目にしたいと。
「コンタン、後は頼む。モーガンは邸で待て、確認次第軍部に早馬をだす。準備をしておくように」
邸内が一気にざわめき出す。
男たちは皆興奮し、慌てた様子でバーナードと共に執務室へ向かう。
そう、部屋の隅でマリリンが立ちすくんでいる事に誰も気づかずに。
その場に数名のメイド達とダミアが残った。
ダミアはメイドに指示を出した。
「この部屋から、マリリン親子を一歩も外へ出さないよう見張りを付けます。メイドを二人部屋の中に置き。窓に鍵を掛け、外に監視の者を置きます」
「はい。え……何故監視を……」
新しいメイドがダミアに訊ねる。
「アーロンさんの父親が生還したんです。マリリンさんは喜び勇んで会いに行ってしまうかもしれないでしょう。今はあちらの状況も分からないですし、ご迷惑がかかるかもしれないので、二人が出ていかないように見張る必要があるわ」
メイドは納得がいかない様子ではあるがしぶしぶ頷いた。
マリリンさんには、勝手に出て行かないで邸で待つように言えばいいだけの話なのにと。
古くからいるメイド達が前に出てきた。
「私たちがマリリンさんのお世話をいたしますわ!」
「ええ!私も是非、監視、いえお世話いたします!」
「ええ。急にお怪我やご病気になられたら大変ですもの。スコット様にお会いになるまでは命がけでお守りしますわ」
マリリンの顔が一気に青ざめていったことをダミアは見逃さなかった。
アーロンがおぼつかない足取りで絨毯の上をよたよた歩く。
ダミアは床に敷かれた絨毯に目をやった。
この絨毯も、アーロンが転んで怪我をしないよう、旦那様が毛足の長い高価な物を買い求めた物だった。
その時はもう、アーロンの様子には誰も注目していなかった。
敵の砲弾が飛んできた場所に、私とスコットはいた。
スコットは光を見、私は音を聞いた。
音と光は速度が違う。
音を聞く私は動きが遅れた。
スコットは砲弾から私を守ろうと、私の体を突き飛ばした。その反動でスコットの体は後退し砲弾の餌食となった。
スコットは犠牲になった。
吹き飛ばされるスコットの体は空中を舞った。
今でも夜になるとスローモーションで何度もその光景を思い出す。
その後、砲弾は次から次へと続けざまに飛んできた。皆逃げるのに必死だった。
撤退を叫びながら安全な場所にたどり着くまでかなりの時間を要した。
何時間も私たちは森の中を駆けずり回った。
スコットが吹き飛ばされた場所の捜索に戻れたのは一週間後だった。
辺りは焼け野原だった。
日が暮れるまでずっと、地に膝をつき、灰になった木くずを払い、両手で土を掘った。
焼け焦げた木々の跡から、スコットの亡骸を見つける事はできなかった。
せめてスコットの為に、残された彼の恋人と血を分けた彼の子供を……私が守らなければならないと思った。
「旦那様!旦那様、お気を確かに!」
モーガンの言葉に我に返る。
そうだ。今は過去を思い返している場合ではない。
ガブリエルが走って私のところまでやってきた。
「隊長、すぐに馬の準備をします!」
「ああ」
スコットが生還したのかこの目で確かめなければならない。
本当なのか?あの時砲弾に吹き飛ばされる彼の姿を確かに見た。
神の御加護か……
「私も連れて行ってください!スコット様は幼き頃から旦那様のご友人でした。ご無事の姿を一目見たい」
モーガンが私に懇願する。
同じように使用人の中でもスコットを知っている者は皆連れて行ってくれという。
「今はまだ状況がよく分かっていない。まずは私とガブリエルが行く」
「はい。お供します!」
ガブリエルが真剣な顔つきで返事をする。
彼も信じ難いのだろう。
興奮して拳を握る姿は、軍人であった時の彼を思い起こさせる。
あの戦場で生き残った命の奇跡を目にしたいと。
「コンタン、後は頼む。モーガンは邸で待て、確認次第軍部に早馬をだす。準備をしておくように」
邸内が一気にざわめき出す。
男たちは皆興奮し、慌てた様子でバーナードと共に執務室へ向かう。
そう、部屋の隅でマリリンが立ちすくんでいる事に誰も気づかずに。
その場に数名のメイド達とダミアが残った。
ダミアはメイドに指示を出した。
「この部屋から、マリリン親子を一歩も外へ出さないよう見張りを付けます。メイドを二人部屋の中に置き。窓に鍵を掛け、外に監視の者を置きます」
「はい。え……何故監視を……」
新しいメイドがダミアに訊ねる。
「アーロンさんの父親が生還したんです。マリリンさんは喜び勇んで会いに行ってしまうかもしれないでしょう。今はあちらの状況も分からないですし、ご迷惑がかかるかもしれないので、二人が出ていかないように見張る必要があるわ」
メイドは納得がいかない様子ではあるがしぶしぶ頷いた。
マリリンさんには、勝手に出て行かないで邸で待つように言えばいいだけの話なのにと。
古くからいるメイド達が前に出てきた。
「私たちがマリリンさんのお世話をいたしますわ!」
「ええ!私も是非、監視、いえお世話いたします!」
「ええ。急にお怪我やご病気になられたら大変ですもの。スコット様にお会いになるまでは命がけでお守りしますわ」
マリリンの顔が一気に青ざめていったことをダミアは見逃さなかった。
アーロンがおぼつかない足取りで絨毯の上をよたよた歩く。
ダミアは床に敷かれた絨毯に目をやった。
この絨毯も、アーロンが転んで怪我をしないよう、旦那様が毛足の長い高価な物を買い求めた物だった。
その時はもう、アーロンの様子には誰も注目していなかった。
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