17 / 28
17
しおりを挟む
有名になった事により、私の行動に制限が掛けられた。
仕方なく侯爵家の執務の仕事を手伝っている。
けれど、なぜお父様がレインとの繋がりを断とうとしないのか。
それがサーシャとレインが愛し合っているからという理由ではないことくらい容易に想像がつく。
多分ウィスパー伯爵の潤沢な資産が目当てなのだろう。
けれど、そこまで侯爵家が資金不足のはずがない。
なぜ……?
私は仕事を手伝う傍ら、お父様の目を盗み自分で調べ始めた。
そして私は、レインの実家である、ウィスパー伯爵家と、お父様が交わした契約書を見つけることに成功した。
「これ……」
お父様は3年前から新しい鉱山事業に投資を始めている。
ここからは鉄鉱石が採掘されている。
今後も莫大な利益が得られる予定だ。
ただ、最近の調査で、資源が底を尽く可能性が示唆され出した。
まだまだ資源が出てくるはずだと、お父様はその鉱山に資産をつぎ込んでいる。
そこにウィスパー伯爵からの援助金が必要不可欠になった。
伯爵としては、次男のレインが侯爵家に婿に入れば、事実上太いパイプとなる。
息子を利用して侯爵家をうまい具合に操りたいと思っているのだろう。
貴族としても、位が上の侯爵だ。
レインが跡継ぎの婿になるのを条件に、援助を打ち切る事はないとした。
そこで結ばれたのが私との婚約。
それが無くなれば、援助は受けられない。
「これって、資金を受ける云々の話じゃないわよね……」
私は鉱山の調査結果を見ながら、過去の同じような鉱山の事例を確認した。
資源を掘り尽くした山の利用価値……
「捨てるしかない」
立地も悪いし、その他の産物も無い。
「これ、他になんの利用法もない山じゃない?」
鉄鉱石の産出量が今期に入って激減している。これ以上投資しても赤字が膨らむだけだ。
今、撤退すればまだなんとかなるかもしれないけれど……
今回のヒグマの件で、私がレインとの婚約解消を望むことは避けられない。そう確信したお父様は、サーシャとの結婚を纏め、侯爵家の跡継ぎを実質上サーシャにし、実権をレインに渡すと言う契約を交わしている。
「ある意味、地獄へ一直線。下手したらウィスパー伯爵家を道連れに共倒れ」
私がいれば、この現状をなんとしても止めるはずだ。
けれど、その契約内容は私には伝えられなかった。勿論サーシャも知らないだろう。
私がこのまま侯爵家に身を捧げれば、鉱山と共に、私もすべて失う可能性がある。
そもそも、契約書には、侯爵家のために尽力し犠牲となる私の処遇は書いていない。
レインでは侯爵家の経営や執務をこなせない。鉱山の事も理解していないだろう。
彼は口だけは達者だ。けれど、実務からは逃げているし、騎士としての気質もない。
侯爵家の婿として、跡を継がせるには力不足なのは目に見えている。
その辺はお父様も分かっているのだろう。
お父様は仕事面に於いて、私を手放すつもりはない。
結局私は、利用されるためだけの、使い捨ての駒に過ぎない。
そんな思い通りにことを運ばせるわけにはいかない。嫌に決まっているじゃない。
たわけたことを……片腹痛いわ!
***
私は侯爵家から逃れるため策を練った。
レインとサーシャ、二人が想い合っているのなら、それは問題ない。結婚でも何でもどうぞだ。
もし、侯爵家が無くなったとして、二人がどうするかは私の知ったところではない。サーシャは騎士の夫を支えていけばいい。
私は家と親を捨てる覚悟で計画を立てた。
そのためには、自分で新しい婚約者を見つけ、私が家を出る。
侯爵よりも身分の高い貴族との結婚。
高位貴族からの縁談でない限りお父様は認めないだろう。
そして、その結婚相手に私が選んだのはファーレン先生だった。
王妃様に王宮へ呼ばれ、話をしていくうちにファーレン先生が王族だということが分かった。
先生は自分の出自を隠していたが、偶然にも私はその正体を知ってしまった。
そして、そのギャップがますます先生に対する興味と尊敬を深めるきっかけになった。
そこで、私はファーレン先生に助けを求めた。
「そうだね。メイベルの婚約がなくなったのなら、僕が君の婚約者になろう」
先生は私のお願いをきいて下さった。
恋愛感情のあるなしは関係なく、これは完全な契約による結婚だ。
「よろしくお願いします」
「結婚すれば、侯爵家に足を踏み入れることは許さないけど、それで大丈夫?婚姻とともに侯爵家と縁を切ってもらう」
「構いません」
「わかった。ならば、話を進める」
先生は礼儀正しく一礼し、私の手を取った。彼は微笑みを浮かべながら、その手の甲に軽く唇を当てキスをした。
先生は自分が義足であるがゆえに、今後、結婚するつもりはなかったらしい。
けれど、子孫を残す必要があり、子を産んでくれる令嬢を探していた。
その相手は、ある程度の頭脳を持ち、健康であることが条件だ。
そして、国の重臣たちを納得させるため、貴族としての教育を受けていれば尚良し。
王家の血を残すために、王族の子は多い方が良い。
私は先生が背負う王族としての重圧と責任を目の当たりにする。
私は先生と結婚し、先生の子を産む。
子を産みさえすれば、後は私の好きなように、自由に過ごしてもいいという。
生活の保障は一生涯。
出て行きたい、離婚したいと私が望むのなら、子を授かった後ならば、それは認められる。
先生と話をしていく上で、自分との立場的な距離を感じつつも、その強さと柔軟性に惹かれていく気持ちが芽生えた。
王族という身分であるにも拘らず、気さくな笑顔と謙虚な態度に、全幅の信頼を寄せていった。
そして私は、先生の不思議な魅力をとても気に入っている。
私と先生の年齢差は10歳だ。
結婚するのに問題が生じるほどの年齢差ではない。
十分有り得ることだろう。
計画は、お父様が反対できない方法を選択した。
それは、国王陛下による王命だ。
王妃様もこの計画には加担している。
私はいわば、王妃様の命を救った恩人。
国王陛下は、望めば願いを叶えると仰せだ。
ファーレン先生は、側妃から生まれた先王の子供、国王陛下の弟にあたる王弟だった。
陛下とは年が17歳も離れていて、国王陛下は先生の事を、兄弟というより、息子のように可愛がっているようだった。
仕方なく侯爵家の執務の仕事を手伝っている。
けれど、なぜお父様がレインとの繋がりを断とうとしないのか。
それがサーシャとレインが愛し合っているからという理由ではないことくらい容易に想像がつく。
多分ウィスパー伯爵の潤沢な資産が目当てなのだろう。
けれど、そこまで侯爵家が資金不足のはずがない。
なぜ……?
私は仕事を手伝う傍ら、お父様の目を盗み自分で調べ始めた。
そして私は、レインの実家である、ウィスパー伯爵家と、お父様が交わした契約書を見つけることに成功した。
「これ……」
お父様は3年前から新しい鉱山事業に投資を始めている。
ここからは鉄鉱石が採掘されている。
今後も莫大な利益が得られる予定だ。
ただ、最近の調査で、資源が底を尽く可能性が示唆され出した。
まだまだ資源が出てくるはずだと、お父様はその鉱山に資産をつぎ込んでいる。
そこにウィスパー伯爵からの援助金が必要不可欠になった。
伯爵としては、次男のレインが侯爵家に婿に入れば、事実上太いパイプとなる。
息子を利用して侯爵家をうまい具合に操りたいと思っているのだろう。
貴族としても、位が上の侯爵だ。
レインが跡継ぎの婿になるのを条件に、援助を打ち切る事はないとした。
そこで結ばれたのが私との婚約。
それが無くなれば、援助は受けられない。
「これって、資金を受ける云々の話じゃないわよね……」
私は鉱山の調査結果を見ながら、過去の同じような鉱山の事例を確認した。
資源を掘り尽くした山の利用価値……
「捨てるしかない」
立地も悪いし、その他の産物も無い。
「これ、他になんの利用法もない山じゃない?」
鉄鉱石の産出量が今期に入って激減している。これ以上投資しても赤字が膨らむだけだ。
今、撤退すればまだなんとかなるかもしれないけれど……
今回のヒグマの件で、私がレインとの婚約解消を望むことは避けられない。そう確信したお父様は、サーシャとの結婚を纏め、侯爵家の跡継ぎを実質上サーシャにし、実権をレインに渡すと言う契約を交わしている。
「ある意味、地獄へ一直線。下手したらウィスパー伯爵家を道連れに共倒れ」
私がいれば、この現状をなんとしても止めるはずだ。
けれど、その契約内容は私には伝えられなかった。勿論サーシャも知らないだろう。
私がこのまま侯爵家に身を捧げれば、鉱山と共に、私もすべて失う可能性がある。
そもそも、契約書には、侯爵家のために尽力し犠牲となる私の処遇は書いていない。
レインでは侯爵家の経営や執務をこなせない。鉱山の事も理解していないだろう。
彼は口だけは達者だ。けれど、実務からは逃げているし、騎士としての気質もない。
侯爵家の婿として、跡を継がせるには力不足なのは目に見えている。
その辺はお父様も分かっているのだろう。
お父様は仕事面に於いて、私を手放すつもりはない。
結局私は、利用されるためだけの、使い捨ての駒に過ぎない。
そんな思い通りにことを運ばせるわけにはいかない。嫌に決まっているじゃない。
たわけたことを……片腹痛いわ!
***
私は侯爵家から逃れるため策を練った。
レインとサーシャ、二人が想い合っているのなら、それは問題ない。結婚でも何でもどうぞだ。
もし、侯爵家が無くなったとして、二人がどうするかは私の知ったところではない。サーシャは騎士の夫を支えていけばいい。
私は家と親を捨てる覚悟で計画を立てた。
そのためには、自分で新しい婚約者を見つけ、私が家を出る。
侯爵よりも身分の高い貴族との結婚。
高位貴族からの縁談でない限りお父様は認めないだろう。
そして、その結婚相手に私が選んだのはファーレン先生だった。
王妃様に王宮へ呼ばれ、話をしていくうちにファーレン先生が王族だということが分かった。
先生は自分の出自を隠していたが、偶然にも私はその正体を知ってしまった。
そして、そのギャップがますます先生に対する興味と尊敬を深めるきっかけになった。
そこで、私はファーレン先生に助けを求めた。
「そうだね。メイベルの婚約がなくなったのなら、僕が君の婚約者になろう」
先生は私のお願いをきいて下さった。
恋愛感情のあるなしは関係なく、これは完全な契約による結婚だ。
「よろしくお願いします」
「結婚すれば、侯爵家に足を踏み入れることは許さないけど、それで大丈夫?婚姻とともに侯爵家と縁を切ってもらう」
「構いません」
「わかった。ならば、話を進める」
先生は礼儀正しく一礼し、私の手を取った。彼は微笑みを浮かべながら、その手の甲に軽く唇を当てキスをした。
先生は自分が義足であるがゆえに、今後、結婚するつもりはなかったらしい。
けれど、子孫を残す必要があり、子を産んでくれる令嬢を探していた。
その相手は、ある程度の頭脳を持ち、健康であることが条件だ。
そして、国の重臣たちを納得させるため、貴族としての教育を受けていれば尚良し。
王家の血を残すために、王族の子は多い方が良い。
私は先生が背負う王族としての重圧と責任を目の当たりにする。
私は先生と結婚し、先生の子を産む。
子を産みさえすれば、後は私の好きなように、自由に過ごしてもいいという。
生活の保障は一生涯。
出て行きたい、離婚したいと私が望むのなら、子を授かった後ならば、それは認められる。
先生と話をしていく上で、自分との立場的な距離を感じつつも、その強さと柔軟性に惹かれていく気持ちが芽生えた。
王族という身分であるにも拘らず、気さくな笑顔と謙虚な態度に、全幅の信頼を寄せていった。
そして私は、先生の不思議な魅力をとても気に入っている。
私と先生の年齢差は10歳だ。
結婚するのに問題が生じるほどの年齢差ではない。
十分有り得ることだろう。
計画は、お父様が反対できない方法を選択した。
それは、国王陛下による王命だ。
王妃様もこの計画には加担している。
私はいわば、王妃様の命を救った恩人。
国王陛下は、望めば願いを叶えると仰せだ。
ファーレン先生は、側妃から生まれた先王の子供、国王陛下の弟にあたる王弟だった。
陛下とは年が17歳も離れていて、国王陛下は先生の事を、兄弟というより、息子のように可愛がっているようだった。
3,441
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢は逃げ出すことにした【完結済】
佐原香奈
恋愛
公爵家の跡取りとして厳しい教育を受けるエリー。
異母妹のアリーはエリーとは逆に甘やかされて育てられていた。
幼い頃からの婚約者であるヘンリーはアリーに惚れている。
その事実を1番隣でいつも見ていた。
一度目の人生と同じ光景をまた繰り返す。
25歳の冬、たった1人で終わらせた人生の繰り返しに嫌気がさし、エリーは逃げ出すことにした。
これからもずっと続く苦痛を知っているのに、耐えることはできなかった。
何も持たず公爵家の門をくぐるエリーが向かった先にいたのは…
完結済ですが、気が向いた時に話を追加しています。
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!
音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。
愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。
「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。
ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。
「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」
従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……
あなたを忘れる魔法があれば
美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。
ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。
私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――?
これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような??
R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。
※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます
初耳なのですが…、本当ですか?
あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た!
でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。
あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のカナリアは、原因不明の高熱に襲われた事がきっかけで、前世の記憶を取り戻した。そしてここが、前世で亡くなる寸前まで読んでいた小説の世界で、ヒーローの婚約者に転生している事に気が付いたのだ。
その物語は、自分を含めた主要の登場人物が全員命を落とすという、まさにバッドエンドの世界!
物心ついた時からずっと自分の傍にいてくれた婚約者のアルトを、心から愛しているカナリアは、酷く動揺する。それでも愛するアルトの為、自分が身を引く事で、バッドエンドをハッピーエンドに変えようと動き出したのだが、なんだか様子がおかしくて…
全く違う物語に転生したと思い込み、迷走を続けるカナリアと、愛するカナリアを失うまいと翻弄するアルトの恋のお話しです。
展開が早く、ご都合主義全開ですが、よろしくお願いしますm(__)m
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる