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第三章 見えない幼馴染と見られる幼馴染
第29話 雨が降り出したらどうする?と言われても
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「……すげーな、浅木」
木下が羨ましそうにしている視線の先では、イケメン女子となった鈴菜が複数の女子に囲まれ、お昼を食べさせてもらっているというハーレム空間が出来ている。
そんな過保護女子たちに対する鈴菜は、照れ隠しもなくその女子の頭を撫でたり頬に触れたりして、余裕っぷりを発揮。
そのせいか、周りの男子からも羨望の眼差しを送られている。あれで髪色が銀色だったらさらに女子を魅了していたのは間違いない。
……朝から俺に起こされないと絶対起きない時や、机に突っ伏して保健室送りされていた同一人物とは思えない変わりっぷりだ。
「ふふーん。でしょ? 鈴菜はね、ただの居眠り女子なんかじゃなかったんだよね~」
「何で音川が嬉しそうにしてるんだ?」
昼休み時間になり、いつもは教室で適当に過ごしているのが当たり前だった俺の周りは、鈴菜の変化ですっかり変わっている。
今までは鈴菜と音川の三人で昼飯を適当にしていたのに、今は鈴菜の代わりが木下になって、俺と音川の三人で昼を食べるようになった。
ここに話しやすい河神がいればマシなんだが、あいつは昼時は一人で食べたいらしく、結果として仕方なくこいつらとつるむことが増えた。
「当然! 今まで鈴菜を推してきたのは私だから! こころちゃんと呼ばれたのも私だけって凄くない? ねぇ、凄くない!?」
しつこい奴め。
「あースゴイスゴイ」
「こころちゃん……確かにイメージ変わる」
「木下くん、それは違くて!」
ただの自己満足だな。
今まで実行委員会の人間として推してきた女子というか鈴菜がランキング二位にまでなって、そんな女子がイメチェンしてさらに凄くなったわけだから、推してきた本人からすれば自分が見出したと言いたくなるし自慢したくなるって意味だろ。
「んでも、鈴菜が変わったのは俺のせいじゃなかったっけ?」
「あ―確かに。悪い意味で」
「おい木下。お前は俺の味方じゃないのかよ?」
「図書室に行った時までは味方だった」
図書室?
鈴菜が誰かに告白されていたあの時か。あの後しっかり鈴菜に問い詰められたけど。
「そう、黒山のせい。黒山には何の得もなくなったけど、私ら女子には眼福って感じ?」
「はいはい、その通りですね」
「ムカつくんだけど? 木下くんもそう思うよね?」
「お、おう」
この間から木下の様子がおかしい。こいつ、まさか――
「――木下。お前まさか……音川を――」
「わーわーわー!!」
真相を訊こうかと思ったら、木下が俺の口を手にしていたパンの欠片で押さえてきた。
「やめろ、息が出来ないだろ!」
「わ、悪い。それ食っていいから」
「口にした以上食べてやる。全く、何も言ってないのに焦りすぎだ」
木下の奴、音川に気があるんだな。
「……男子同士でなーにしてんだか」
俺と木下のじゃれ合いを見ても音川は特に何の興味も持たないようだ。男子から恐怖イメージを持たれている音川が、まさか男子から好意を持たれてるとは思ってないんだろうな。
こっちをあまり気にしてないようなので小声で木下に訊いてみると……。
「何で恐怖女を好きになるかね、お前」
「あぁぁぁ。よりによって鈍い黒山にバレるとか、終わった……」
「落ち着いて残りのパンを食え」
「落ち着けるわけない……あ、浅木がどこか行っちゃうみたいだぞ! 追いかけねーの?」
ちっ、誤魔化しやがって。
「黒山。鈴菜が一人だけでどこか行くのはチャンスじゃないの? 別にあんたが気にしないならどうでもいいけど、気になるなら声かけてみれば?」
木下だけかと思ったら音川もかよ。似た者同士じゃないか。
「うるせーな。言われなくてもいつだって声なんかかけられるんだよ、こっちは」
「どーだか」
「黒山。とにかく、行ってこい! あれは間違いなくお前の視線に気づいてるぞ」
学食で食べてる時点で座ってる場所が離れていても同じ場所にいることがお互いにバレている以上、たとえ視線を送ってなくてもどっちかが気づく。
俺から見た感じ、あえてイケメン女子っぷりを俺に見せている気がした。鈴菜はそういう自慢を見せびらかしたいところがあるからな。
「――ったく」
音川と木下が無駄にうるさいので、鈴菜が歩いて行った廊下に向かう。
おそらく鈴菜の行先は教室方面ではなく、中庭か体育館だと予想。中庭といっても井澄の中庭はそこまで広くなく、吹き抜けの廊下と廊下をショートカットする幅の庭しかない。
ショートカットする時、地面を抜ける必要があるので晴れ以外の時はそこを使う生徒はほとんどいないわけだが。
何となくあいつならその辺に立っていそうだけど。
今のところ雨が降る天気には見えないが、曇っているのは気になるところ。とにかくその辺りを目をやると、予想した通り中庭に立っているのが確認出来た。
「鈴菜! そこで立って何してるんだ?」
「空模様を見てた。君こそ何しにここに来たの?」
……まるで分かっていたみたいな感じがして少しムカつくんだが。
「どこでも迷子になる奴が一人でどこかに行くのが見えたから、追いかけてきた」
「迷子? ん~確かに迷子かな」
冗談交じりで言ったのに本当だったのか?
「俺が教室に案内するから、一人でどこか行くのはやめた方がいいぞ」
「……優しいね。何で?」
「別に、今までだって同じことをしてきただろ。特別な優しさとかでもないだろ」
ボーイッシュ女子に変わったせいで、脱力系だった時の記憶を全部忘れたとかいうオチじゃないだろうな?
というか、今までの俺って鈴菜に優しかったよな?
「うん。そうだね、その通り」
「…………だ、だろ?」
笑いもしないし、怒ってるでもない。全然表情を変えないのがかえって怖いんだが。
「貴俊」
「何?」
「降ってきそう……というか、ポツポツきたけど?」
そう言って鈴菜は手のひらを空に向けている。
ポツポツ、つまり一雨きてる。と言っても、昼休み時間に雨が降り出しても止む可能性もありそうだけど。
「確かに水滴が落ちてきてるな。それがどうかしたか?」
「帰る時まで雨が止まなかったら、どうする?」
「雨が止まなかったら……えっ?」
空から落ちてくる水滴を頬に滴らせながら鈴菜は俺を見てくる。
「帰り、どうする?」
木下が羨ましそうにしている視線の先では、イケメン女子となった鈴菜が複数の女子に囲まれ、お昼を食べさせてもらっているというハーレム空間が出来ている。
そんな過保護女子たちに対する鈴菜は、照れ隠しもなくその女子の頭を撫でたり頬に触れたりして、余裕っぷりを発揮。
そのせいか、周りの男子からも羨望の眼差しを送られている。あれで髪色が銀色だったらさらに女子を魅了していたのは間違いない。
……朝から俺に起こされないと絶対起きない時や、机に突っ伏して保健室送りされていた同一人物とは思えない変わりっぷりだ。
「ふふーん。でしょ? 鈴菜はね、ただの居眠り女子なんかじゃなかったんだよね~」
「何で音川が嬉しそうにしてるんだ?」
昼休み時間になり、いつもは教室で適当に過ごしているのが当たり前だった俺の周りは、鈴菜の変化ですっかり変わっている。
今までは鈴菜と音川の三人で昼飯を適当にしていたのに、今は鈴菜の代わりが木下になって、俺と音川の三人で昼を食べるようになった。
ここに話しやすい河神がいればマシなんだが、あいつは昼時は一人で食べたいらしく、結果として仕方なくこいつらとつるむことが増えた。
「当然! 今まで鈴菜を推してきたのは私だから! こころちゃんと呼ばれたのも私だけって凄くない? ねぇ、凄くない!?」
しつこい奴め。
「あースゴイスゴイ」
「こころちゃん……確かにイメージ変わる」
「木下くん、それは違くて!」
ただの自己満足だな。
今まで実行委員会の人間として推してきた女子というか鈴菜がランキング二位にまでなって、そんな女子がイメチェンしてさらに凄くなったわけだから、推してきた本人からすれば自分が見出したと言いたくなるし自慢したくなるって意味だろ。
「んでも、鈴菜が変わったのは俺のせいじゃなかったっけ?」
「あ―確かに。悪い意味で」
「おい木下。お前は俺の味方じゃないのかよ?」
「図書室に行った時までは味方だった」
図書室?
鈴菜が誰かに告白されていたあの時か。あの後しっかり鈴菜に問い詰められたけど。
「そう、黒山のせい。黒山には何の得もなくなったけど、私ら女子には眼福って感じ?」
「はいはい、その通りですね」
「ムカつくんだけど? 木下くんもそう思うよね?」
「お、おう」
この間から木下の様子がおかしい。こいつ、まさか――
「――木下。お前まさか……音川を――」
「わーわーわー!!」
真相を訊こうかと思ったら、木下が俺の口を手にしていたパンの欠片で押さえてきた。
「やめろ、息が出来ないだろ!」
「わ、悪い。それ食っていいから」
「口にした以上食べてやる。全く、何も言ってないのに焦りすぎだ」
木下の奴、音川に気があるんだな。
「……男子同士でなーにしてんだか」
俺と木下のじゃれ合いを見ても音川は特に何の興味も持たないようだ。男子から恐怖イメージを持たれている音川が、まさか男子から好意を持たれてるとは思ってないんだろうな。
こっちをあまり気にしてないようなので小声で木下に訊いてみると……。
「何で恐怖女を好きになるかね、お前」
「あぁぁぁ。よりによって鈍い黒山にバレるとか、終わった……」
「落ち着いて残りのパンを食え」
「落ち着けるわけない……あ、浅木がどこか行っちゃうみたいだぞ! 追いかけねーの?」
ちっ、誤魔化しやがって。
「黒山。鈴菜が一人だけでどこか行くのはチャンスじゃないの? 別にあんたが気にしないならどうでもいいけど、気になるなら声かけてみれば?」
木下だけかと思ったら音川もかよ。似た者同士じゃないか。
「うるせーな。言われなくてもいつだって声なんかかけられるんだよ、こっちは」
「どーだか」
「黒山。とにかく、行ってこい! あれは間違いなくお前の視線に気づいてるぞ」
学食で食べてる時点で座ってる場所が離れていても同じ場所にいることがお互いにバレている以上、たとえ視線を送ってなくてもどっちかが気づく。
俺から見た感じ、あえてイケメン女子っぷりを俺に見せている気がした。鈴菜はそういう自慢を見せびらかしたいところがあるからな。
「――ったく」
音川と木下が無駄にうるさいので、鈴菜が歩いて行った廊下に向かう。
おそらく鈴菜の行先は教室方面ではなく、中庭か体育館だと予想。中庭といっても井澄の中庭はそこまで広くなく、吹き抜けの廊下と廊下をショートカットする幅の庭しかない。
ショートカットする時、地面を抜ける必要があるので晴れ以外の時はそこを使う生徒はほとんどいないわけだが。
何となくあいつならその辺に立っていそうだけど。
今のところ雨が降る天気には見えないが、曇っているのは気になるところ。とにかくその辺りを目をやると、予想した通り中庭に立っているのが確認出来た。
「鈴菜! そこで立って何してるんだ?」
「空模様を見てた。君こそ何しにここに来たの?」
……まるで分かっていたみたいな感じがして少しムカつくんだが。
「どこでも迷子になる奴が一人でどこかに行くのが見えたから、追いかけてきた」
「迷子? ん~確かに迷子かな」
冗談交じりで言ったのに本当だったのか?
「俺が教室に案内するから、一人でどこか行くのはやめた方がいいぞ」
「……優しいね。何で?」
「別に、今までだって同じことをしてきただろ。特別な優しさとかでもないだろ」
ボーイッシュ女子に変わったせいで、脱力系だった時の記憶を全部忘れたとかいうオチじゃないだろうな?
というか、今までの俺って鈴菜に優しかったよな?
「うん。そうだね、その通り」
「…………だ、だろ?」
笑いもしないし、怒ってるでもない。全然表情を変えないのがかえって怖いんだが。
「貴俊」
「何?」
「降ってきそう……というか、ポツポツきたけど?」
そう言って鈴菜は手のひらを空に向けている。
ポツポツ、つまり一雨きてる。と言っても、昼休み時間に雨が降り出しても止む可能性もありそうだけど。
「確かに水滴が落ちてきてるな。それがどうかしたか?」
「帰る時まで雨が止まなかったら、どうする?」
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