守ってあげたい女子の学園二位に君臨する脱力系幼馴染が俺の義妹を見た結果、対抗手段を間違ってイケメン女子になった

遥風 かずら

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第三章 見えない幼馴染と見られる幼馴染

第30話 ずぶ濡れからの敗北感?

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「どうするって……そんなの――」

 見た目とか色々変わってはいるが、それとこれとは別だしな。そうなると答えなんて決まってる。

「今まで通り同じでいいんじゃないのか?」

 俺の言葉に鈴菜は意外そうな顔を見せているが、

「そこは変わらないんだ?」

 すぐに無表情に戻って俺を見てくる。

「そりゃそうだろ。髪が短くなろうと、性格が以前と変わってても鈴菜との取り決めを変えるつもりはないからな」

 いくら梅雨時でもこのままずっと雨が止まないってことはないだろうし、多分問題ないだろ。

「そっか、分かった」

 そう言って鈴菜は靴の泥をはたいて、教室につながる廊下へ戻っていく。どうやら話はそれで終わったらしく、俺との話を長くするつもりはなかったらしい。

 以前と違う鈴菜に戸惑うものの、雨の時の決まり事を出してくるあたり根本的には変わってないってことが分かっただけでも気が楽になった。

 俺も教室に戻ると、鈴菜は教室に入った俺には見向きもせずに他の女子たちに囲まれて笑顔を見せている。

 ……教室ではあくまで塩対応を貫くつもりなんだろうか?

「ちゃんと追いかけて話し合った?」

 自分の席に着くと、河神が笑いながら声をかけてきた。

「……ん? 早太が何でそれを?」
「ぼっち学食だと周りが見えやすいからね。それに、貴俊と浅木って結構目立つし」
「マジか」

 一人で昼飯を食べる河神にすら目撃されていたとは、なんて恥ずかしい真似をしてしまったんだ俺は。

「ちなみに早太以外に目撃者は?」
「ウワサにはならないだろうけど、貴俊がイケメン女子を追いかけてるっていう声だけは聞こえてきたよ。でも今の浅木なら仕方ない話だよね」

 くそぅ、音川と木下の言う通りに動いたのが周りにバレバレだったとは迂闊すぎた。とにかく追いかけて話をするだけだったのにやってしまった。

「でもまぁ、貴俊的にはわだかまりみたいなものは解消されたんじゃないの?」
「……わだかまり、か。どうだろうな~」

 心の中で何となくモヤモヤしてたのは確かだったけど、解消されたかどうかはまだ何とも言えないんだよな。

「それにしても雨が止まないね。傘は?」

 河神が窓の外を見ながらそういうが。

「それを俺に訊くか?」
「確かに」

 傘を持ってきた試しのない俺を見ながら苦笑していた。しかし、木下や音川と違って河神に話しただけでも楽になった。
 
 そして放課後。

 俺の予想に反して雨が一向に止む気配はなく、ずぶ濡れ確定の時間がやってくる。

 井澄学園の優しい部分として、一時的に傘を借りることが可能だったりするが、借りるには名前と学年とクラスを記入しなければならない決まりがある。

 そうなると必然的に面倒くさいという結論がお互いに出るわけで。

まなかったけど、行くんだ?」

 まるで俺を嘲笑うかのように、鈴菜は昇降口で俺を横目で見てくる。くそう、何か見透かされてるんだよな。

「そりゃあ行くだろ」

 俺も負けじと余裕っぷりを見せるが、

「ふ~ん? 覚悟を決めたんだ?」
「何の覚悟なんだか」
「じゃ、先に行くから」

 そう言うと鈴菜は、ゲリラ豪雨のタイミングでもお構いなしに外へと走り出した。

 ……何もそんな強い時に走り出さなくてもいいのに。

 そう思いつつ、俺よりも足が遅い鈴菜に置いて行かれないように覚悟を決めてゲリラ豪雨の中に俺も続いた。

 雨で前がよく見えない中、鈴菜は全く止まることなく走り続けている。脱力系だった時は途中で息切れを起こして俺が引っ張る手を頼っていたはずなのに、別人のように俺の前を走り続けていて何とも不思議な感覚だ。

 実は真の実力を隠していただけで、あの脱力した姿は仮だった?

 ……などと思いながら鈴菜が住むタワマンに近づいたところで、体力の限界がきていたのか、膝に手をついたままミニ公園で鈴菜が俺を待っていた。

「お前って、足が早かったんだな」
「貴俊が遅いだけ……はぁっ、ふぅっ……はぁっはぁっはぁっ」
「体力は相変わらずないんだな」
「うるさいよ」

 お互いずぶ濡れ状態で疲れ果てているので、すぐに入り口を開けてもらい鈴菜の家に向かった。

「……貴俊。悪いけど、玄関で服脱いで裸になって」
「えぇ?」

 なぜに俺だけそんな目に。

「昨日掃除したばかりだからフローリングとか濡らしたくない」

 そう言われると人の家だから強くは言えなくなる。

「裸になっていいんだな? 言われた通り、真っ裸になるぞ?」
「貴俊のは――大したことないから」

 うぉい!

 はっきりと見せたことないのに断言するなよ!

 などと心の中で抵抗しても無駄なので、ずぶ濡れ状態の鈴菜を待たせるわけにもいかないので、俺は覚悟を決めて玄関で全裸になった。

 鈴菜は全裸になった俺を一瞬だけ見たが、表情は全く変えず小刻みに頷いているだけだった。

「……そのまま浴室に行ってくれる? タイマーですぐ沸くから」
「そうする」

 色んな意味で敗北感を味わいながら、俺だけ先に浴室へ直行した。
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