スカーレット・オーディナリー・デイズ

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1年生、春

部活動開始?

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2階に上がったすぐのところに、1年生だけの仮の名簿がある。2、3年生はちゃんとした名簿で出席をとっている。
練習が始まるまでは自主練したり、邪魔にならないところで喋ったり、自由に過ごせる。今は総体が近いから、台はほぼ先輩が使っている。
「ねぇ、この人名前のところにバツついてる。あ、この人も」
戸倉が男子の名簿を指さしてそう言った。
「あぁその人、もう辞めたんだって。クラス一緒なんだけどね」
海未ちゃんがそう言った。
「え、そうなの?じゃあ堀井さんも辞めたのかな」
女子にも✕がついている人がいた。
「そうだよ。ゆりは辞めるんだって」
下から奥沢さんがやってきた。
「そうなんだ。いきなり3人も辞めちゃうんだね」
「去年も始まってすぐ、男女合わせて5人辞めたんだってさー」
「へー、そういうものなのかな」
「そういうもんだよ」
「そろそろ集合かな?」

だいぶ人が集まってきて、そろそろ部活が始まりそうな雰囲気になってきた。
いつもの場所に集合して、森田先生が前に立った。
「おい、集合遅いぞ。もう4時5分になろうとしている。練習は4時開始だって言っているだろう」
え?そんなこと言っていたか…と思った。チラッと周りを見ても、顔に?が浮かんでいる人がいるように思う。
「こういうのはしっかり守らないといけないからな。おい、校舎階段10往復行ってこい。2、3年は15往復だ。女子は校門北側、男子はグラウンド北側、1年はグラウンド南側走れ」
「はい」
先輩たちは慣れているのか、急ぎ足で階段を降りていく。4時ぴったりに始まるなんて聞いてないし。変な先生だなと思う。



階段ダッシュが始まった。無言で階段を上がっていく。普通に上がるより、1段飛ばしの方が楽だ。私は体力は割とある方だ。バレーのお陰か、元からかはわからない。
何気に、上がるよりも下りる方がしんどい。何故かは分からないけど。

現在、8往復目。1番遅い人を2往復は抜かしてる。結構キツイなと思う。こんなに本気で走ったのは久々だ。男子の1番早い人がラスト1往復だっけな。多分周りはそんなに本気で走ってない。でも私は駅の階段でも周りと勝手に競ってしまうようなタイプだから、こういうのは燃えてしまう。
結局、トータルで3番目に終わった。女子では1番。つかれた。これから練習だよ、何マジになってるんだろうと冷静になってから思う。先輩たちは15往復だから多分まだ走っている。
「はー、緋彩ちゃん、速いねっ。あたし、頑張って追いつこうとしたんだけどな」
そう言いながら、10往復終わったらしい奥沢さんが息を切らしながら下りてきた。今、ここには7人いる。女子は私たちだけだ。
「奥沢さんの方が途中まで速かったし…」
「後半追い上げられるのすごいよねっ、あと、奥沢さんじゃなくて明澄でいいよ」
「じゃあ、明澄ちゃん」



大体皆が走り終わった頃に、先輩たちが体育館に入っていくのが見えた。やっぱ慣れてるのかな、私たちは10往復で、先輩たちは15往復なのに、終わる時間ほとんど一緒なんだもんな。
体育館の2階に戻って、練習が始まる。
「2、3年はいつも通り、1年はこの間教えたフォアとバックの素振りをそれぞれ1000回ずつやってこい」
ここ最近、私たち1年生は2階の両サイドで素振りをしている。バックの素振りが右利きの場合に左側から振る形で、フォアの素振りが右側から振る形だ。何回やったか、大きな声で数えないといけない。この間声で怒られている人がいた。
でもこの後に、先輩に相手して貰って台で球を打たせてもらえる。その時間が練習の中では一番好きだ。

「緋彩ちゃん、今何回?」
隣にいる海未ちゃんが聞いてきた。700回くらいと答える。
「これしんどいよねー、ちょっとなら休憩してもバレないか」
「そうだよね、ちょっとだけなら」
海未ちゃんの向こうにいた戸倉がそういって座り込んだ。合わせて海未ちゃんも座り込む。
「え、マズくない?今先生いるしさ、今は素振りした方がいいんじゃ…」
と、素振りしながら言う。自分でも真面目かよって思うけど、サボってるところなんてバレたらどうなるか…
「おい、齋藤!戸倉!なにやってるんだ!お前ら2人は今日先輩らに相手してもらうな。その間も素振りやっておけ!」
タイミング悪いよ…。なんか私だけ何も言われなくて少し罪悪感。いや、まぁ、座ってたわけじゃないけど。
「吉田の言う通りだったね。あーあ」
小声で戸倉がそう言ってるのが聞こえた。

私たち1年生が相手してもらうのは最後の10分あるかないかくらいの時間だ。先輩たちは最後の試合である総体ってのが近いみたいだし、私たちに時間を費やしている暇はないはず。でも、ほとんどの先輩は優しく丁寧に教えてくれる。
合わせて2000回分の素振りが終わって、今日もその時間が来た。台には先に先輩がいて、空いているところに1年生が入っていく。
たまたま空いていた男子の先輩の対角に入れてもらう。長谷部先輩か。名前と顔覚えた。
「お願いします」
「…」
台に入る時は挨拶をする。先輩後輩関係なく。でもこの先輩は無言だった。小さな声で言ったのかもしれないけど、私には聞こえなかった。
球を出してもらって、さっき練習したフォアの振りをする。緩い球じゃなくて速めだ。ラケットに当てるだけで精一杯。
「ラケットの振りちゃんと出来てないけど、自分で修正していきなよ。球変な方向に返ってるし」
「はいっ…」
どこがどうおかしいのか分からないから、直しようがない。でも、こういうのが当たり前なのかな。総体前なのに時間割いて教えてくれた先輩方が優しかっただけなのか。
「あの、どうしたら綺麗に返りますか…?」
意を決して聞いてみた。
「自分で考えたら?考えるくらいできるでしょ」
「はい…」
考えてわからないから聞いているのに、こんな返答ある?って正直思う。でも関係もない2個下の後輩にわざわざ教えたりしないか。先輩は不機嫌そうだ。そういう顔なのかもしれない。
もしかして私、なにかこの人にまずいことしたのかな。とにかく、早く終われ、この時間。

ピピピピとタイマーがなった。いつもよりこの時間が長く感じた。
「ありがとうございました」
「…」
片付けをして、集合して、解散。ここまでで大体6時になる10分前。そこから荷物を片付けて帰るから、校門を通るのはかなり下校時間ギリギリになる。



「今日疲れたねー、階段10往復から始まってさ」
靴箱で靴を履き替えながら、そんな話を振る。
「ほんとほんと。紫乃とさいとーちゃんなんてずっと素振りだったし!」
「それは自業自得なとこあるでしょー」
「まぁね、それは緋彩ちゃんの言う通りにしてたらよかったかな。ていうか森田先生?理不尽すぎない?」
「あーそれ!紫乃、4時ぴったり開始とか今日初めて聞いたよ」
「やっぱそうだよね?あの先生、ただただ言いがかりつけてるだけに見えるよ」
「それなー」
そんなことを話しながら家路についた。長谷部先輩が2人にもあんな感じなのか聞けばよかったなと1人になってから思い出す。
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