スカーレット・オーディナリー・デイズ

mirage

文字の大きさ
4 / 5
1年生、春

続く退部

しおりを挟む
部活が始まってまる1週間。美丘中卓球部は基本的にはオフがないらしい。平日は放課後~6時。休日は先輩は8時から13時まで練習しているらしいけど、1年生は今日は11時で帰宅する。
土曜日は、平日と同じ素振りの練習をした。日曜は先輩たちの大会があるらしく休みだった。
そして、今日、月曜日。授業が全部終わり、部活の時間が始まった。金曜日の件があるからか、まだ4時まで3分ほど時間があるけどもうみんな集まっている。

「じゃあ今日は2、3年はこのメニューやっとけ。1年は校門側の校舎のホールで待機してろ」
「はい」



何が始まるのだろうか。私たちはホールで邪魔にならないよう端の方に待機した。最初は静かに待っていたけど、中々先生が来ないので徐々にみんな話し始めた。
「ねぇ、眼鏡の3年の男子の先輩わかる?ちょっと怖そうな人」
たまたま隣にいたひかりちゃんが話しかけてきた。
「んー、長谷部先輩?」
「そう!あの人さ、木曜日、相手してもらったんだけどなんかめっちゃ怖かったんだよね。ひかり何もしてないはずなんだけど…」
なんだ、私のせいじゃなかった。揃って何かしでかした可能性はないわけじゃないけど、ひかりちゃんと一緒になにかした記憶もないし…。
「私もそうだったよ。金曜日相手してもらったんだけどさ、球速いし」
「だよね!?ひかりだけにじゃなかったんだ。よかった…」
「私何かしたかなーって思ってたけど、ひかりちゃんもそうなら安心した」
「あ、呼び方、ひかりでいいよ」
「えー、なんか呼び捨てって落ち着かないや。私も緋彩でいいよ」
とかいいつつ、戸倉のことは戸倉って呼んでる。
「緋彩…うーん、なんか呼びづらいなぁ…ひーちゃん?はなんか違う気がするし、吉田…そうだ、ヨッシーって呼んでいい?」
「なんでもいいよ~、でもヨッシーは初めて呼ばれた」
「おーい、先生来たぞー」
廊下側にいる男子がそう言って、ホールは静かになった。森田先生がやってくる。
「入部して1週間経ったな。そろそろラケットとラケットケースの購入をしてもらうつもりだ。ここに初心者向けのラケットを準備した。実際に握ってみてどのラケットが合うか確認してみろ。スポーツショップなんかで各自で買ってもいいが、ここでラケットケースとセットで買うほうが安くつく。この時期、新入生セールやっているからな」
そう言ってラケットを箱のまま床に置いた。
「シェークは3種類、ペンは2種類準備した。あとはラケットケース、このプリントの中から選べ。纏めて注文するから、締切は今週金曜日だ。代金とこの紙持ってくるように」
「はい」
ラケットを順番に回して握ってみる。私はシェークのラケットを買う。1つ目は持つ部分の上側が少し細く、下側が少し太くなっている型。2つ目は持つ部分がまっすぐ。3つ目も持つ部分が真っ直ぐで、他のふたつより軽い。見た目はなんとなく2つ目のやつが青っぽくてかっこいい。けど、地味な灰色の3つ目のラケットにすることを決めた。軽くてなんかしっくりくるような気がしたから。ラケットケースは赤にした。
後からシェークを選んだ女子にどれにしたのか聞いてみたら、みんな2つ目だった。そんな偏る?と思いつつ、間違えなくていっかと思い直す。
ラケットとセットでケースを買うと、ケースが割引されるらしい。ケースは割引されて英世さん1枚くらい。ラケットは、ラバーが既についてる状態で、一葉さんと、英世さん数枚。結構する。絶対やめられないなと思う。



今日はこの後、先輩の球拾いだけをした。仮入部の時にいた異常に上手い1年生は藍那ちゃんだった。藍那ちゃんはもう先輩の練習に混ざっている。明澄ちゃんも少しだけクラブでやっていたらしく、そっちに混ざっていた。男子も数人、1年生が混ざっている。
けど今日は美夜ちゃんが来ていないし、戸倉の先輩(?)の福原先輩や、その先輩と一緒に居る山本先輩もいない。そんなふうによそ見をしていたら…
パーン!
「ごめんっ!」
先輩がミスして打ったドライブが直撃。しかも男子の先輩だ、威力は最強。ピン球は小さい割に当たるとすごく痛い。
「こらぁー吉田!何よそ見してる!集中して球拾いしろ!」
「はっ、はいっ…」
森田先生にどやされた。頬を抑えながら返事をする。あの人、全部見てて怖い。



「大戸さんだっけ、あの天パの子。あの子も卓球部やめたんだって」
いつもの帰り道、どこから聞いてくるのか戸倉がそう言った。
「え、なんで?」
なんで辞めたの?ってのとなんで知ってるの?ってのを合わせた意味でこう言った。
「わかんないけどー、階段ダッシュじゃない?だってあれキッついしさ。紫乃もやめようとちょっと思ったし」
冗談っぽく戸倉が言った。
「辞めたと言えば、福原先輩も辞めたんだってね?あと山本先輩も」
海未ちゃんが言った。戸倉は豆鉄砲を食らったような顔をしている…豆鉄砲が何かはよく知らないけど。
「先輩が?たしかに今日いなかったねー。そんなのどこから聞いたの?」
「最後の片付けの時。グレースちゃんと今日先輩2人いないねーって言ってたら、西野先輩がふたりは辞めたって言ってた。昨日の大会?でなんかあったらしいよ、詳しくは知らないけど」
「えー。福原先輩が辞めたのショックー!」
私だってショックだ。山本先輩は、1回相手してもらった時にとても丁寧に教えてくれたし。福原先輩も仮入部のとき優しくしてくれた。
「なんか、そんな単純に辞めちゃうんだーって思ってさ、みんな。先輩はさ、1年間もやってきたわけじゃん?あっけないね」
海未ちゃんが遠くを見ながらそう言った。
「それ。あ、でも、紫乃がさっき言ったのは冗談だよ?辞めないよ」
「わかってるって。それより、もうすぐ5月じゃん、5月になったら下校時間延びるらしいよ、確か6時半だったかな…」
あまり詳しくは覚えてないけど、聖がこんなことを言っていたのを思い出した。
「マジで?これより長いとか無理なんだけど~。てか、もう4月終わり?日が経つの早いね」
「ほんとね。もう長袖体操服はいらないか」
「そうだね、暑くなってきたし」

後日、大戸さんと福原先輩、山本先輩、そして名前も知らない1年男子が2人辞めていたことを明かされることになる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...