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幼いころの記憶3
しおりを挟むその日、律と健一は律の親が来るまでずっとサッカーをしていた。
律は健一にサッカーを一から教え、健一は普通にパスができるようになるほど成長した。
健一にとってこれが初めて友達と公園で遊んだ日だった。
律は健一に対して嫌な態度をとることもなく、ただ一緒にサッカーを楽しんだ。
あたりが真っ暗になったころ、律の母親が迎えに来た。
「律~遅くなってごめんね。さ、帰ろうか。」
「お母さん今日ね健一と友達になったんだ。ずっとサッカーしてたんだよ!」
迎えに来た母親に律は健一のことを紹介する。
公園に迎えに来た親たちに嫌な目で見られたことしかなかった健一は、下を向いてしまう。
すると、律の母親は
「健一君、今日は律と遊んでくれてありがとう。」
と、少しかがんで健一の目を見てお礼を言った。
「ありがとう」という言葉など言われたことのない健一は何も言えなかった。
ただ律の母親の目を見つめることしかできなかった。
「健一君もそろそろおうちに帰らないとお父さんとお母さんが心配しちゃうよ。送っていくから一緒に帰ろうか?」
律の母親は親切にも健一を家まで送ってくれると言った。
しかし健一は家に帰ると父親からの暴力が待っている。
帰りたいはずがない。
だがせっかく仲良くなった律と律の母親が帰ろうと言ってくれていると考えると健一の選択は一つしかなかった。
「うん、帰る。」
健一は車に乗るのが初めてだった。
小さいころに乗ったことがあるかもしれないが、そんなことは覚えていない。
健一は何日も同じ服を着ている汚い自分が律の車の座席に座るのがいやで、持っていたお世辞でもきれいとは言えないハンドタオルを尻に敷いた。
背中をピンと張り、足を少し浮かし、小学生なりに律の家の車を汚さないようにした。
健一の家に着くまでの車は他愛もない二人の話でいっぱいだった。
「ここが俺の家!」
健一のアパートの前に車が止まる。
ありがとうと言おうとした瞬間律の母親が言った。
「健一君、、、あなたと私たちはお隣さんみたいね!」
二人は驚いて目を合わせ、言った。
「やった!!!!!」
この日は健一にとって人生最高の日だった。
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