怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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4話

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一緒にいた魔物が食料を買いに行き3人だけとなった私たちは特に会話もなくドラルの城に向かって歩いていた。

私と銀髪の少女、リースはゼギウスのあまりにも自分たちに対する関心の無さに驚き不思議そうな表情を浮かべるほかない。と、いうのも1人で歩いているように一切自分たちに目を向けず、おいて行くのも厭わないくらい早歩きで歩いているからだ。

ゼギウスのあまりにも自分たちへの興味の無さに腹が立ち逃げ出そうかと思い始めていた。だが、そうしないのは逃げ出したところで行く当てがないのもあるがそれ以上に周りから向けられる嫌らしい視線が気持ち悪いからだ。

私たちの格好はメイド服で人目を惹きやすい。それが美少女なのだから猶更だ。

必死にゼギウスについて行こうとするがそれでも少しずつ距離が開いていく。今までは早歩きで追い付こうとしていたが距離は開く一方で、走ろうとすると薄気味の悪い男たちに阻まれ囲まれる。

「お嬢ちゃんたち捨てられたのかな?こんなに美人なのに勿体ない。お兄さんたちが拾ってあげるよ」

全身を舐め回すような嫌らしい視線を向けられ、もう自分たちの物にした妄想でもしているのか涎を垂らしている。

気持ち悪い。

「助けてくださいご主人様―!」

吐き気を抑えてそう助けを求めるが、前方にゼギウスの姿はない。

「あれあれー?ご主人様はいないみたいだよー?」

「ご主人様ってのは俺たちのことだろ」

助けが来ず、自分たちでは目の前の男たちには勝てない。それでどうなるかと分かっていても気持ちだけは折れない。そう気だけは強く持つ。

「お嬢ちゃんいい顔するねー。その顔歪ませたくなっちゃうなー」

そう男の1人の手が伸びてくると反射的に目を瞑る。気だけは強く持とうと思っていたのに恐怖に屈してしまった。その後悔と共にこの男たちの望む反応だけはしないと今度こそ気を強く持つ。

しかし、いつまで経っても男たちの手に触れられた感触がしない。不思議に思って目を開けると男たちはいなかった。

まるで今までの光景が幻だったかのように男たちの気配はなく、周りを見回してもその痕跡すらない。何が起こったのか分からないでいると、リースが目の前で起きたことを教えてくれる。

「急に消えた」

聞いても分からなかった。

「あのなぁ、ついてこれないならそう言え」

先を歩いていたはずのゼギウスが後ろから現れる。ゼギウスは合流するなり呆れたように顔に手を当てていた。

呆れたいのはこっちだ。助けを呼んでも来てくれなかった癖に今更来てそんなことを言う。何様のつもりだ。まぁ、ご主人様なんだけど…

「ありがとう、ございます」

自分の中でそんなやり取りをしていたらリースが少し困惑したようにゼギウスにお礼を言っていた。

立場上形式だけでお礼を言っているのかと思い私も「ありがとうございます」と立場を忘れて少し不貞腐れたように言ってしまう。

「こいつ何で怒ってんの?」

「分からない」

何が分からない、よ。リースったら立場を弁えているっていうかドライっていうか……

「さっきのスキル何?」

「名前なんてねぇよ。適当にお前たちに魔力の防壁張ってただけだ」

「スキルを作れる?」

「それとは違うな。単なる魔力操作だ」

いつの間に仲良くなったのかリースとゼギウスが親しげに話している。自分なんてこの空間に居ないようなその扱いに少し苛立つ。

「仲良いですね!」

「いや、本当に何でこいつ怒ってんの?」

「怒ってません!ただ、事が終わってから来るご主人様に買われて不幸だなって思っただけです」

「それは違う。助けてくれたのご主人様。あの男たちを一瞬で全滅させた」

ふぇ……?でも、だって……ゼギウスは終わってから来た…え?

訳が分からずに自分の中でいい訳のようなものをする。だが、リースが嘘を吐くとは思えないし他に助けてくれたような人は見当たらない。…そうなるとどうやって?というか今、私凄く失礼な人になっている!?

「えーっと、ご主人様~。助けてくださりありがとうございま~す」

もうどうすればいいか分からず媚びるような甘えるような声でゼギウスに抱き着く。こんなところで捨てられる訳にはいかない。

「いきなり何だ気持ち悪い。離れろ。こいつは情緒不安定なのか?」

全く効果がないのか表情1つ変えずゼギウスはリースの方に顔を向ける。

「そうかもしれない」

「怒ってないのですか?」

「は?お前、怒られたいの?悪いが俺にそんな趣味はねぇから他を当たれ」

とてつもない勘違いをされているがどうやらゼギウスは怒っていないようだ。それは良かったのだが、「そうかもしれない」って何よ「そうかもしれない」って!

心の中でリースの声真似をしながら文句を言う。

「それでお前らさっきのペースについてこれるか?」

「無理。多分走っても追い付けない」

「じゃあそう言えよ」

「でもご主人様にそんな我が儘言っていいのか分からなかったのです」

それは本当だ。話しかけてくるなオーラが凄かった。

「こうやって戻って来る方が面倒くせぇだろ。まぁ、いいか。これに乗れ」

ゼギウスは背中の大剣を下ろすと《浮遊》をかけて宙に浮かせる。

「そんな、ご主人様を差し置いて私たちだけ乗り物に乗るなんてできません」

「お前のさっきまでの無礼に比べたらこの程度何でもない。ってかこのやり取りも面倒くせぇから早く乗れ」

ようやく冷静になり立場を弁えた発言をしたつもりだったがゼギウスに一蹴された。

これ以上このやり取りを続けてはゼギウスが怒るような気がしておとなしく従う。リースが左側、私が右側に大剣から足を垂らして背中合わせで座る。

私たちが座ったのを確認するとゼギウスは大剣を動かしさっきよりも速く歩いていく。一応少し遅めに歩いていたのかな?それでも常人には追い付けない速さだったが。

「帰ってから話すのも面倒だし先に言っとくぞ。お前たちの名前はララとルルだ。お前たちの過去に興味がなければ今にも興味はない。仕事内容は1日1回俺の飯を作ること。それ以外は自由に過ごせ」

私にララ、リースにルルと名付けると淡々と仕事内容を説明される。

仕事の少なさに対して逆に不安を覚える。それだけなら奴隷を買う必要がない。住み込みで料理人を雇えばいいだけだ。

そう考えていると頭にゼギウスと一緒にいた魔物の姿が浮かぶ。話を聞いていた感じ立場は魔物が、力関係はゼギウスが上だった。

「さっき一緒にいた魔物は何なのでしょうか?」

「俺の居候先の家主で、これからお前たちが住むのは魔物の城だ」

聞けば聞くほど訳が分からない。ゼギウスの言葉が足りないのもあるが、今まで自分が養ってきた知識とかけ離れ過ぎている。それはリースも同じようで普段と変わらず感情の分かりにくい表情をしているが頭に“?”が浮かんでいた。

「あの、意味が分からないのですが…」

「あー、もう面倒くせぇな。後は生活して自分で気づけ」

それ以降ゼギウスは聞こうとする度に機嫌が悪くなり取り付く島もなかった。

ゼギウスに連れてこられたのは大きく立派な城だった。外壁も綺麗に掃除され大事にされているのが分かる。城の規模としては王国や皇国の王城に負けないくらい立派だ。

しかし、中は外から見た時からは想像できないほど寂しい。物がなく折角の外観に対し内装が整っていない。

「ここがお前たちの部屋だ。自由に使え…あー、アルが帰ってくるまでは下手に出歩くなよ」

それだけ言うとゼギウスは隣の部屋に入る。聞いただけでは最後の意味が分からなかったが、それはすぐに分かった。

魔物が血の気の多い目で集まって来たからだ。

急いで部屋に入り扉を閉める。慌てて近くにあった棚を動かして扉を塞ぎベッドに飛び込み布団に隠れた。

こんなことがあるなら先に教えてほしかった。

棚を動かすのを手伝ってはくれたもののリースは落ち着いてベッドに腰掛ける。布団から顔だけを出してルルに話しかける。

「ルルはどう思う?」

「分からない。とても理解が及ばない」

同感だ。人間でありながら魔物の城で暮らしている理由、どうやって男たちを消したのか、何が目的で自分たちをここに連れてきたのか。考えれば考えるほど疑問は頭に浮かんでくる。

いっそのこと醜くも欲に忠実な命令をされた方が奴隷と言う立場を理解できる。それに目的も果たしやすい。それなのに何もされない。その不気味さが怖い。

自分だけなら自惚れかもしれないが、ルルは少し幼く見えるがそれを補って余りあるほど魅力的だ。一部ではそういった趣向の人もいると聞く。それなのに醜い欲求をぶつけられないのが理解できない。楽しみは後にとっておくようなタイプという可能性もあるが本当に私たちに興味がないように見える。

じゃあ何で?

少ない情報の中、考えているとある答えに辿り着く。

「もしかして私たち、食べられる?」

それは変な意味ではなく物理的にという意味だ。

ここは魔物の城で、魔物は人間を食べることもある。高位の魔物はその容姿、年齢、経験があるかどうか等、様々な要素を拘るらしい。そう考えると私たちが選ばれたのもゼギウスが興味を持たなかったのも理解できた。

「早くご主人様の元へ行って気に入られないと」

この部屋に入った時と同様に慌てて棚を動かすと急いでゼギウスの部屋に向かった。
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