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6話
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ひんやりとした何かがぽよん、ぽよんと自分の体の上を通る感触で目が覚めた。
隣にはゼギウスが寝ていて、その隣にはララが寝ている。ゼギウスの体の上には1匹のスライムが居て、それが自分の体の上を通った何かの正体だと気づく。
昨日はあれから自分たちの部屋に戻ったがララが小さな物音1つにもひどく怯えていたのでララと一緒にゼギウスの部屋へ避難した。ゼギウスは何度も「帰れ」と言っていたが私がララの無駄な色仕掛けを止めると言って許してもらった。
本当は止めるつもりなどない。ララにはララの私には私の目的がありそれを果たすためにはゼギウスを籠絡するのが1番早い。それに本当は私も怖かったからララが大手を振って怯えてくれて助かった。
スライムがゼギウスの体の上で何度か跳ねるとゼギウスは「ふわぁ~」と欠伸をしながら体を起こす。どうやらこのスライムが目覚ましのようだ。
「おはようございます、ゼギウス様」
「ん、あぁ。昨日はこの部屋で寝たんだったか。今日からは自分たちの部屋で寝ろよ」
本当にゼギウスは私たちに興味がなさそうだ。ララはパニックになると凄くアホな子になるという欠点はあるが、容姿はとびきり美しい。それだけでも欲情してもいいはずだ。
ララではないけど食用で買われたのではないかと疑いたくなる。いや、流石にそれはないか。
内心で疑問に思っているとゼギウスが何か始める。
「スー、始めるぞ」
ゼギウスがそう声をかけるとスーと呼ばれたスライムは体を縦に伸ばしたり横に伸ばしたり縮めたり形を変えている。
何をやっているのか全く分からない。スライムは最弱の魔物で鍛えたところで強くならなければ何か突出した能力があると聞いたこともない。ゼギウスくらいになると私たちが知らない何かを知っているのだろうか?
気になってゼギウスに尋ねる。
「何をしているの?」
「スーに《変身》のスキルを覚えさせようと思ってな」
「スライムはスキルを習得できない」
スライムが最弱と評されるのはスキルを習得できないからだ。スキルを習得できるとなればその評価は変わり、内容によってはスライムだけでなく魔物全体の危険度が変わりかねない。
「ルルは魔界の奥地に行ったことあるか?」
「ない」
ある訳がない。それこそ七英雄がパーティーを組まなければ辿り着けないと言われている。
「なら魔物のことなんて1割も理解できてねぇな。この人間界近くにいる魔物なんて強さで言えば下の下、そんな浅瀬の魔物で知った気になったらダメだろ」
「む…もしそうならどうしてそのことを広めない?」
「別にそこまでする義理ねぇだろ面倒くせぇし。まぁ、いいか。スライムでもスキル使えるのを証明してやるよ」
そうゼギウスはスーに手を添える。どうやら魔力を送っているようだ。
「スー、ルルの姿に変わろうとしてみろ」
ゼギウスの指示に従ってスーはもう1度体を伸ばしたり縮んだりしている。すると少しずつ体の形が変わっていき顔や体つき、服までも自分にそっくりな姿に変わった。
「嘘…ゼギウス様がスーの姿を変えた?」
目の前で起きても信じられない。ゼギウスが何か小細工をしているとしか思えない。
「んなことしねぇよ。はぁ…面倒くせぇけど説明してやるよ」
ゼギウスは心底面倒くさそうに言葉を続ける。
「まず前提としてこの世にスキルを使えない種なんて存在しない。どんなけ弱い魔物だろうと落ちこぼれの人間だろうとスキルは使える。だが、習得するまでにかかる時間は違う。スライムはその時間が長いからスキルを習得する前に新米冒険者に狩られる。それだけだ」
「それはおかしい。このスライムが特別に長く生きた個体には見えない」
スライムの年齢はその色で判断がつく。色が薄い方が幼く歳を取るにつれ濃くなるが、スーは薄い水色だった。
「そうだな。だから俺が成長の手助けをした」
「でも___」
「んー。おはようございます、ご主人さ…ま?ってルルが2人居る!?」
まだ納得がいかず食い下がろうとするがララの挨拶と驚きの声にかき消された。
「うるせぇな。こいつはスーだ。ルル、この話はここまでな。このアホの居る前で話して理解させられる自信がねぇ」
そう強制的に打ち切られる。
ゼギウスはララを馬鹿だと思っているようだが、魔物に関する知識は私よりも持っている。だからこの話もララがいた方が早く進むのにゼギウスはもう話してくれそうにない。
「スー?どなたでしょうか?」
「俺の世話係の魔物だ。スー、1度《変身》を解け」
ゼギウスの指示に従ってスーは《変身》を解くと、またララが大声を上げる。
「世話係!?私たちに興味がないのもそのスライムだけで事足りるっていう、そういう意味ですか?」
訂正、ララがいると話が進まなくなる。
「アホか。んな訳ねぇだろ」
「じゃあ何でスーちゃんはルルの姿になっていたのですか!…ってスライムがスキルを使った!?ご主人様、どういうことか説明してください!」
「お前たちが料理を教える相手がスーでスライムのままだと料理できねぇから変えさせたんだよ。後はルルに聞け」
「そんなこと言って本当は……はっ、ご主人様はロリコンだった!?痛いっ」
ララに拳骨を落とした。
確かに自分は少し幼く見える自覚はあるが人に言われると腹が立つ。いくらララであってもそこは踏み込んではいけない領域だ。
「そろそろ飯作りに行ってこい。食材の場所と調理場はスーに聞け」
その言葉で私もララも頭を切り替える。ゼギウスの食事を作ることは与えられた唯一の仕事でありここに居られる理由。それだけはしっかりこなそうと昨日2人で決めていた。
「分かりました。スーちゃん案内お願いします」
スーをちゃん呼びで親しくなっているララと今度はララの姿に変身したスーと共に調理場へ向かう。
酷い。それが調理場に入って最初に抱いた感想だ。
鍋やフライパン、包丁といった何にでも使う物がない。いったい今までどんな食事をゼギウスに出していたのだろうか。これならゼギウスが料理人を欲しがる理由も頷ける。
「スーちゃん、これだけですか?」
流石のララもこれには苦笑いで唯一見当たる大小様々な串のような棒を指さしてそう聞く。それに対してスーは何故か自慢気な表情で頷いた。
「ルル、どうしましょう?料理すらまともにできなかったら私たちが食べられかねません」
「それはないと思う。後で頼めば一式調達してくれると思う」
「なーんかルルとご主人様って仲良いですよね。私が寝ている間も仲良くお喋りしていたようですし」
じとー、とララから疑いの視線を向けられる。
別に変なことを言ったつもりはない。料理人として呼ばれたのだから調理器具が必要なのは当然のことだ。ゼギウスはそれが分からないような人ではないはずだ。
話についてもたまたまララが寝ていただけで起きていたとしてもあの話にはなったはずだ。ゼギウスが話を切るのが早くなった可能性は大いにあるが。
「やましいことはない。それよりララの失礼な言葉の方が目立つ」
これは話を逸らしたいのではなく気になっていたことだ。ゼギウスは本気では怒っていないようだが普通なら魔物の餌にされてもおかしくない。
「それはそうですけど…ご主人様も本気で怒ってはいないようですからいいかなと思いまして……それにしてもご主人様って変ですよね」
「確かに。冷たいし私たちに興味ないけどあそこまで寛容なのは異常。隷属の首輪も付けなかったし奴隷として見ていないのかもしれない」
その節は所々から窺える。ゼギウスの部屋と私たちの部屋は大差ないし自由な時間も多い。面倒くさがりながらも聞いたことには答えてくれる。
「そうだとしても立場は弁えないといけません。私たちは奴隷でゼギウス様はご主人様です。そこをはき違えてはいけませんよ」
「ララだけには言われたくない」
「てへっ……はぁ…いつまでもご主人様を待たせる訳にはいきませんしそろそろ始めましょうか」
現実逃避していた私たちだったがゼギウスをいつまでも待たせる訳にも行かず食材選びから始める。幸い、昨日アルメシアが食材調達に行っていたおかげで肉や魚、野菜の種類は豊富だった。まぁ、どれだけ食材があっても出来るのは丸焼きとサラダくらいだが…
せめて焼き方と焼き加減くらいは最善を尽くそうと努力したが、完成した物は単調で寂しかった。
怒られることを覚悟でゼギウスに料理を出したがゼギウスは「美味い」と涙を流して感動していた。本当に今までどんな物を食べていたのか……
隣にはゼギウスが寝ていて、その隣にはララが寝ている。ゼギウスの体の上には1匹のスライムが居て、それが自分の体の上を通った何かの正体だと気づく。
昨日はあれから自分たちの部屋に戻ったがララが小さな物音1つにもひどく怯えていたのでララと一緒にゼギウスの部屋へ避難した。ゼギウスは何度も「帰れ」と言っていたが私がララの無駄な色仕掛けを止めると言って許してもらった。
本当は止めるつもりなどない。ララにはララの私には私の目的がありそれを果たすためにはゼギウスを籠絡するのが1番早い。それに本当は私も怖かったからララが大手を振って怯えてくれて助かった。
スライムがゼギウスの体の上で何度か跳ねるとゼギウスは「ふわぁ~」と欠伸をしながら体を起こす。どうやらこのスライムが目覚ましのようだ。
「おはようございます、ゼギウス様」
「ん、あぁ。昨日はこの部屋で寝たんだったか。今日からは自分たちの部屋で寝ろよ」
本当にゼギウスは私たちに興味がなさそうだ。ララはパニックになると凄くアホな子になるという欠点はあるが、容姿はとびきり美しい。それだけでも欲情してもいいはずだ。
ララではないけど食用で買われたのではないかと疑いたくなる。いや、流石にそれはないか。
内心で疑問に思っているとゼギウスが何か始める。
「スー、始めるぞ」
ゼギウスがそう声をかけるとスーと呼ばれたスライムは体を縦に伸ばしたり横に伸ばしたり縮めたり形を変えている。
何をやっているのか全く分からない。スライムは最弱の魔物で鍛えたところで強くならなければ何か突出した能力があると聞いたこともない。ゼギウスくらいになると私たちが知らない何かを知っているのだろうか?
気になってゼギウスに尋ねる。
「何をしているの?」
「スーに《変身》のスキルを覚えさせようと思ってな」
「スライムはスキルを習得できない」
スライムが最弱と評されるのはスキルを習得できないからだ。スキルを習得できるとなればその評価は変わり、内容によってはスライムだけでなく魔物全体の危険度が変わりかねない。
「ルルは魔界の奥地に行ったことあるか?」
「ない」
ある訳がない。それこそ七英雄がパーティーを組まなければ辿り着けないと言われている。
「なら魔物のことなんて1割も理解できてねぇな。この人間界近くにいる魔物なんて強さで言えば下の下、そんな浅瀬の魔物で知った気になったらダメだろ」
「む…もしそうならどうしてそのことを広めない?」
「別にそこまでする義理ねぇだろ面倒くせぇし。まぁ、いいか。スライムでもスキル使えるのを証明してやるよ」
そうゼギウスはスーに手を添える。どうやら魔力を送っているようだ。
「スー、ルルの姿に変わろうとしてみろ」
ゼギウスの指示に従ってスーはもう1度体を伸ばしたり縮んだりしている。すると少しずつ体の形が変わっていき顔や体つき、服までも自分にそっくりな姿に変わった。
「嘘…ゼギウス様がスーの姿を変えた?」
目の前で起きても信じられない。ゼギウスが何か小細工をしているとしか思えない。
「んなことしねぇよ。はぁ…面倒くせぇけど説明してやるよ」
ゼギウスは心底面倒くさそうに言葉を続ける。
「まず前提としてこの世にスキルを使えない種なんて存在しない。どんなけ弱い魔物だろうと落ちこぼれの人間だろうとスキルは使える。だが、習得するまでにかかる時間は違う。スライムはその時間が長いからスキルを習得する前に新米冒険者に狩られる。それだけだ」
「それはおかしい。このスライムが特別に長く生きた個体には見えない」
スライムの年齢はその色で判断がつく。色が薄い方が幼く歳を取るにつれ濃くなるが、スーは薄い水色だった。
「そうだな。だから俺が成長の手助けをした」
「でも___」
「んー。おはようございます、ご主人さ…ま?ってルルが2人居る!?」
まだ納得がいかず食い下がろうとするがララの挨拶と驚きの声にかき消された。
「うるせぇな。こいつはスーだ。ルル、この話はここまでな。このアホの居る前で話して理解させられる自信がねぇ」
そう強制的に打ち切られる。
ゼギウスはララを馬鹿だと思っているようだが、魔物に関する知識は私よりも持っている。だからこの話もララがいた方が早く進むのにゼギウスはもう話してくれそうにない。
「スー?どなたでしょうか?」
「俺の世話係の魔物だ。スー、1度《変身》を解け」
ゼギウスの指示に従ってスーは《変身》を解くと、またララが大声を上げる。
「世話係!?私たちに興味がないのもそのスライムだけで事足りるっていう、そういう意味ですか?」
訂正、ララがいると話が進まなくなる。
「アホか。んな訳ねぇだろ」
「じゃあ何でスーちゃんはルルの姿になっていたのですか!…ってスライムがスキルを使った!?ご主人様、どういうことか説明してください!」
「お前たちが料理を教える相手がスーでスライムのままだと料理できねぇから変えさせたんだよ。後はルルに聞け」
「そんなこと言って本当は……はっ、ご主人様はロリコンだった!?痛いっ」
ララに拳骨を落とした。
確かに自分は少し幼く見える自覚はあるが人に言われると腹が立つ。いくらララであってもそこは踏み込んではいけない領域だ。
「そろそろ飯作りに行ってこい。食材の場所と調理場はスーに聞け」
その言葉で私もララも頭を切り替える。ゼギウスの食事を作ることは与えられた唯一の仕事でありここに居られる理由。それだけはしっかりこなそうと昨日2人で決めていた。
「分かりました。スーちゃん案内お願いします」
スーをちゃん呼びで親しくなっているララと今度はララの姿に変身したスーと共に調理場へ向かう。
酷い。それが調理場に入って最初に抱いた感想だ。
鍋やフライパン、包丁といった何にでも使う物がない。いったい今までどんな食事をゼギウスに出していたのだろうか。これならゼギウスが料理人を欲しがる理由も頷ける。
「スーちゃん、これだけですか?」
流石のララもこれには苦笑いで唯一見当たる大小様々な串のような棒を指さしてそう聞く。それに対してスーは何故か自慢気な表情で頷いた。
「ルル、どうしましょう?料理すらまともにできなかったら私たちが食べられかねません」
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これは話を逸らしたいのではなく気になっていたことだ。ゼギウスは本気では怒っていないようだが普通なら魔物の餌にされてもおかしくない。
「それはそうですけど…ご主人様も本気で怒ってはいないようですからいいかなと思いまして……それにしてもご主人様って変ですよね」
「確かに。冷たいし私たちに興味ないけどあそこまで寛容なのは異常。隷属の首輪も付けなかったし奴隷として見ていないのかもしれない」
その節は所々から窺える。ゼギウスの部屋と私たちの部屋は大差ないし自由な時間も多い。面倒くさがりながらも聞いたことには答えてくれる。
「そうだとしても立場は弁えないといけません。私たちは奴隷でゼギウス様はご主人様です。そこをはき違えてはいけませんよ」
「ララだけには言われたくない」
「てへっ……はぁ…いつまでもご主人様を待たせる訳にはいきませんしそろそろ始めましょうか」
現実逃避していた私たちだったがゼギウスをいつまでも待たせる訳にも行かず食材選びから始める。幸い、昨日アルメシアが食材調達に行っていたおかげで肉や魚、野菜の種類は豊富だった。まぁ、どれだけ食材があっても出来るのは丸焼きとサラダくらいだが…
せめて焼き方と焼き加減くらいは最善を尽くそうと努力したが、完成した物は単調で寂しかった。
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