怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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49話

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アルメシアと別行動をして城の中に入るとすぐに桁の違うスケルトンを見つけた。

私の秤で底が見えるということは、おそらくこれがムクロという相手だ。ラクルという七罪よりも弱く、私よりも強い。

しかし、不思議なことに怖くはない。スライムという低位な魔物に生まれ何もできず何も知れずに一生を終えるはずだった私にゼギウス様は力を与えてくれた。

今はこの力を失うこと以上に怖いことはない。無能だった私は、少しは役に立つようになった。主のために前線で戦えるようになった。

《爆発》、そう頭の中でスキルの内容を思い浮かべ魔力を変換する。声帯を持たない私は声でスキルの外郭を形成することができない。だから全てを自分の内側で行わなければならないが、そのせいで多くのスキルを覚えれば混ざり合い威力が落ちる。

だからゼギウス様は面白い戦い方を教えてくれた。

この《爆発》はスキルが混ざり合うことを気にしなくていい楽なスキルだ。混ざり合ったとしても暴発として爆発する。

《爆発》はムクロの近くで弾けると窓を割り爆風が廊下の曲がり角にいる私の元まで届く。これでアルメシアへの合図は十分だろう。

後はこのムクロを2体倒し、最後の1体の時間を稼ぐ。

少し前までの私なら考えることすらできない大役に体が震える。が、その震えを力に変え、ムクロの前に立つ。

「何事かと思えばスライムか。こんな芸当を仕込むのはゼギウスだな。……来ているのはドラルの娘とその配下の獣、それにお前か、俺もなめられたものだ」

この辺り一帯の気配を探られたのかここにゼギウス様が居ないと気づかれた。そういった私にはできないことをやってのける辺りムクロは格上なのだと思い知らされる。

だけど、これでいい。ここにゼギウス様が居ないと知られれば相手に油断が生じてスカーとムクロが合流しなくてもいいと判断する可能性がある。

そうゼギウス様は言っていた。

(貴方の相手は私がする。ただのスライムだと侮れば後悔する)

スライムなど侮られて当然だが、ムクロのその様子はない。

「侮りはしない。ゼギウスは無駄なことを嫌い無駄な犠牲は出さない。本当に俺に勝てると思ってお前を送り込んできた。それならゼギウスの予定通りこのムクロの状態でお前の相手をしてやる」

ゼギウス様を相当信頼しているようだ。好敵手同士は戦いの過程で分かり合うと言うがその類のものなのだろうか?いや、ムクロもスカーもゼギウス様の好敵手と言えるほど強くはない。

でも、スカーがそう思っているのなら馬鹿げた話にも乗ってくる。

(1体では足りない。ゼギウス様は私にムクロを3体相手にしろと言った)

ムクロを1体倒して次の1体、最後の1体と戦えば私の生存確率は上がる。多分、1体目は5%、2体目は3%、3体目は1%くらいの勝率はあると思う。しかし、それには時間が掛かり、その間にアルメシアがスカーに負ければ全て終わりだ。

もしアルメシアがスカーを追い詰め、スカーがムクロと合流したらアルメシアに勝ち目はない。だからアルメシアがスカーを追い詰めるまでに私がムクロを2体倒して3体目の相手をしていなければならない。

それは現実的ではない。格上を相手に短期決戦をできるほど優位を取れていない。

だから私が3体を同時に相手する必要がある。それも現実的ではないが、誰かが無理をしなくては勝てない。

アルメシアが無理をするよりも私が無理をした方が勝率は高い…はず…

そう考えムクロに挑発染みたことを伝えるとムクロは笑った。

「ハハハハハ……ゼギウスは俺を相当見くびっているようだな。だが、いい。もしゼギウスが現れてもお前を始末してからで間に合う。ゼギウスには身をもって己の作戦の未熟さを教えてやろう」

どうやらムクロは話に乗ってきたようだ。しかし、私は3体が合流するのを待つ必要はない。

《変身》、《龍の吐息》

姿を龍に模したものに変え、炎の吐息を吐く。それはムクロの体を包み燃やす。

アルメシアの《龍王の咆哮》ほどではないが、スライムにしては桁外れな威力だ。

これがゼギウス様に教わった戦い方。1つの姿につき1つのスキルを使う。これならスキルの外郭を姿で形成することができ、スキルが混合せず本来の威力で使うことができる。

しかし、当然問題もある。戦闘が長引けば相手にどの姿でどのスキルを使うか悟られてしまう。だから私の使えるスキルで1番高威力なものを使った。

それなのに炎が消えてもムクロは平然と立っていた。

「ふ、姿でスキルを形成しているのか。確かにスライムにしては高威力だな。だが、スライムにしては、だ。その程度では同じ低位のスケルトンは倒せても俺は倒せない」

スキルが効かなかっただけじゃなく絡繰りまで知られてしまった。それは圧倒的に不利になったが、私の役目を達成しにくくなっただけで致命的な問題じゃない。

私はムクロの時間を稼げばいいのであって倒さなくてはならない訳じゃない。

そう頭を冷静に保とうとする。正直、先でアルメシアが戦っていなかったら逃げ出したいくらい最悪な状況だ。それでも、アルメシアが戦っているのだから逃げ出す訳にはいかない。

「計算が狂ったか?だが、この程度が通じるほどゼギウスの目も狂ってないだろ。何か隠し球があるなら見せられるうちに見せるんだな」

(そこまで追い込まれてはおらぬ。そういった軽口は我を追い込んでから言うのだな)

「喋り方も変わるのか。それは《変身》ではなく《模倣》の1種か、ゼギウスも面白いものを仕込む。その礼にスライムには過ぎたものを見せてやろう。《骸王の骨兵》」

そのスキルはムクロの周りに次々とスケルトンを生み出していき、あっという間に囲まれる。それを尻尾で薙ぎ払って鉤爪でスケルトンの体をバラバラにしていく。

それらのスケルトンは数こそ居るものの1体1体に大した強さはなく、本当に低位のスケルトンといった感じだ。それがムクロだからなのかスカーでも効果が同じなのかは分からないが、どっちにせよこれは脅威になる。

アルメシアに対して使われればスキルを無駄撃ちして魔力が尽き、スカーに負ける。ムクロは私に私の存在が元々はこれくらい軽いということを見せたかったのだろうが、そんなことを考えている余裕はない。無駄な心配が増えただけだ。

それにしてもアルメシアは配下にこんなに心配させて本当に情けない。ゼギウス様ならこんな無駄な心配を掛けさせないだろう。それでも、そんな情けないアルメシアだから私は配下にしてもらえた。

だからその恩返しをする。

そう無駄に魔力を使わないようにスキルを使わずに龍の体を活かしてスケルトンを倒していく。するとほどなくして残りのムクロ2体が合流した。

「これがお前の望んだ状況だが、どうするんだ?」

(追い込まれていないから何もしない。普通に戦うだけ)

「勘違いをするな。お前に選択権はない。何もしないなら2体のムクロを本体に合流させるだけだ。もう戦闘は始まっているからな」

2度も挑発染みた言動は通じないようで本当にムクロを2体奥へ進ませようとする。スケルトンに囲まれた状態では広範囲且つ高威力スキルでどうにかするしかないが、《龍の吐息》ではスケルトンは倒せてもムクロの足を止めることはできない。

本当はアルメシアとスカーの戦闘の状況を聞き出してから使いたかったが仕方がない。予定よりも少し早いが隠し球、奥の手を使う。

《変身》、《愚鈍なる世界》

ゼギウス様の姿に変身してそのスキルを使った。
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