怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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88話

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「グラ、グラーーーーーッ!!!」

どうしてこうなった?力なく座り込んでいる状態でそんなことを考える。

敵の大半は屍と化し生き残っているのはガゼルガとアタイだけ。そのガゼルガも致命傷に近い傷を負っている。

今なら止めを刺せる。それなのに撤退していくガゼルガを追う気力がない。こんな喪失感を味わうのはいつ振りだろうか。多分、初めてだ。

本当にどうしてこうなったのだろう。そう思い返す。

…………

「グラ、助けに来たよ」

グラを取り囲む大勢の獣の魔物、それらを《愚歪なる世界》で一掃する。が、まだ倒れていないのが5体、ガゼルガと四天王だ。

それらに警戒しながらグラと背中合わせに立つ。

「シアン、ありがとう」

「何言ってるのさ。これくらい当たり前だろ」

メナから聞いてはいたが、想像以上にグラは苦戦していたようだ。体中から血を流し立っているのが不思議なくらいに見える。本当、ここまでよく耐えた。

おそらくアイリスの方にグラを行かせればここまで深手を負わなかっただろう。だが、エストとメビスをここに送っていたら足止めもできずに突破されていた。だからゼギウスの限りなく正解に近いと思う。

強いて言えばアタイとメナドールが動けなかったのが痛かった。それさえなければ…ってそれを考えたところで意味がない。今はこの状況をどう打開するか、それだけに意識を向ける。

そう頭を切り替えようとするとガゼルガから落胆の声が聞こえてくる。

「チッ、外れを引いたか」

「それ、アタイが外れだって言いたい訳?」

「当たり前だ。ゼギウスが来れば面白かったものを。これだとただの掃除だ。やれ、お前たち」

ガゼルガの号令で四天王が同時に仕掛けてくる。グラの状態を考えればアタイが前面に出て対処しなければならない。

広がりながら向かってくる四天王の内、二方向に短剣とナイフを投げて《起爆》する。野生の反応か爆発からも毒からも逃げられたが、それでいい。この攻撃にはもう入ってこられない。

残っている二方向は前面に出て短剣で対処しようとするが、軽い身のこなしからフェイントを交えて連携の取れた行動で翻弄してくる。それを《軽業》で躱しながら短剣で斬りつけていく。数回斬ると2体は引いていった。

どうやら軽い様子見だったようだ。それを表すようにガゼルガは見下すように拍手をする。

「ほぉ、前よりは戦えるようになっているみたいだな。グラだけだと退屈していたから丁度いい」

今度はガゼルガが仕掛けてくる。

四天王よりも速い動きで懐に潜り込まれる。低い姿勢からの鋭い爪を使った引っ掻きがくるが、それを《軽業》で躱す。

いや、躱そうとした。アタイの《軽業》に反応して回避した先に爪が追ってきて横腹を掠める。反撃しようと短剣を振るが簡単に躱され、また引っ掻きが、それを《軽業》で躱そうとするもやはり反応されて爪が肌を掠めた。

もう1度、反撃しようと今度は相打ち覚悟の深い踏み込みをするとガゼルガは引いていく。流石の野生の反応だ。アタイが深い踏み込みをしようとした時には引き始めていた。

しかし、困った。この2回の攻撃でガゼルガも四天王もスキルを使っていない。

それは相手のスキルを《強奪》するアタイも相手のスキルを食べるグラの《暴食》も活かせない。

別にガゼルガも四天王もスキルを使えない訳ではない。寧ろ、スキルで身体を強化するのはこいつ等の十八番だ。それに高威力のスキルもガゼルガは使える。

それなのに使ってこないのはアタイもグラの戦い方を分かっているからではない。アタイもグラもなめられているのだ。

「やはり弱いな。ヴラドサには止められていたが、少し進攻するか。ガオォォォオウッ!」

そうガゼルガが雄叫びを上げると後続から来るガゼルガの配下の足が速まる。この先は皇国、アタイの故郷だ。行かせるわけにはいかない。

後ろにはマルスが防衛線を敷いているらしいが、そこまでしっかりとした面子が集められているとは思えない。少しでも数を下手さないと突破される。

「《愚歪なる世界》」

さっきよりも範囲を広げてガゼルガの配下を屠る。まだ本調子じゃないのかガゼルガにも四天王にも効いている様子はないが仕方がない。それに、これでグラを少しは回復させられる。

その意図を読まれたのか四天王が動き始める。さっきと同じように短剣とナイフを投げるが、それは簡単に躱された。

一瞬、グラの様子を確認するが、まだ四天王に突破されたら厳しそうだ。

《愚歪なる世界》を更に強めると四天王はグラッと体が揺らぐ。それと同時にアタイの体もふらついた。

やっぱりまだ回復し切ってないようだ。いや、これは真継承の方か。

ゼギウスに念押しされていたことだ。まだ慣らしが終わっておらず体内には異物の魔力が多い。それだけならスキルを使う時に異物も勝手に消費されるから問題ないのだが、取り込むので精神・体力共に減っている今は拒絶反応が起こりやすい、らしい。

だけど、そんなことは言っていられない。グラが思っていた以上に傷を負っていたからその分、アタイが無理をしなければならない。

しかし、そんな根性論のようなものが通じるような相手ではない。

アタイの体がふらついたのを見てガゼルガが高速で接近してくる。それに対応しようとするが、体が思うように動かない。

反応から体が動くまでコンマ何秒の遅れだが、ガゼルガの前ではそれが命取りになる。《軽業》を使うが間に合わず、さっきよりも深くガゼルガの爪が抉り込む。

グフッと口から血が漏れ《軽業》を詠唱できない。そこへ更にガゼルガからの追撃が___

終わった。そう本能が告げている。

あぁ、情けないな。助けに来てこのざまって…グラ、アンタだけでも逃げなよ。

そうグラの方を見るとさっきまで居た場所には居なかった。嫌な予感がして再び視線をガゼルガに戻すと、そこには見慣れた丸い体が……

その丸い体はガゼルガに爪に切り刻まれる。いつの間に、何て無駄なことは考えない。上ってきた血を吐き終え次第、グラの動きを無駄にしないために《軽業》を使ってガゼルガの正面に立つ。

そして腰にある短剣とナイフで相打ち上等で残っている全ての魔力を使って《起爆》をする。

しかし、ガゼルガはアタイが《起爆》を唱え終えた時にはもう下がっていた。これだと配下の大半と四天王は持っていけてもガゼルガは生き延びる。あー、アタイだけくらい損だよ。

そう思っているとグラが倒れざまにアタイの腰のポーチを《暴食》で呑み込む。もう動けないくらい傷が深いはずなのに、またグラに助けられた。

「今のを凌ぐか。だが、余興は終わりだ。狩れ、ガオォォォウッ!」

ガゼルガからの号令がかかるとガゼルガの配下は皇国に進攻するのを止めアタイとグラを取り囲む。

そこからはガゼルガの言うようにただの狩りだった。

アタイは魔力が残っておらず《愚歪なる世界》を使えない。グラも体はボロボロで動けない。そんなほぼ無抵抗なアタイとグラをガゼルガの配下が噛みついては離れて噛みついては離れてを繰り返す。

そう言えばガゼルガはそういう奴だった。個で居る時は力で敵を圧倒するが、集で居る時は相手を徹底的に弱らせて安全に狩る。

それが1番、万が一の起こらない方法だ。覚醒にしろ最後の力を振り絞るにしろ、それはガゼルガに届かない。

じわじわと傷が深くなっていくが、アタイもグラも為す術がない。最期がグラと一緒なら悪くはない。何だかんだ七英雄になってからずっと相棒のような存在だった。

そう諦めたようにグラに体を寄せる。

「よかった。シアンから来てくれて。おいらはもう動けなかったから」

「最期は隣り合おうと思ってさ」

「最期にはさせないよ。おいらのせいでシアンまでいなくなるのは嫌だもん」

そんなことをグラが言う。この状況でまだ何かをするつもりなのだろうか。どう見てもアタイもグラも満身創痍だ。

「シアン、手を貸して」

何をやろうとしているのかは分からないが、言われた通りに手を貸す。

「シアン、今まで迷惑かけてごめんね。《継承》」

そこまで聞くとようやくグラのやろうとしていることが分かった。グラからの継承を拒もうと手を離そうとするが、間に合わない。

アタイの体の中にグラの《暴食》の力が流れてきた直後、グラの体はこの辺り一帯を呑み込む大爆発を起こした。
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