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89話
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アイリスとガゼルガの配下が退いてメナの生存も確認し終えると、まだ安否の分からないシアンの様子を見にグラの戦っていた戦場に足を運んでいた。
辺りからは自然が消え、何もない焼け焦げた平地が広がっている。その中心にシアンは1人、項垂れていた。
爆発が起こったのは分かるが、誰がどうやって起こした爆発かは分からない。この規模の爆発に気づかなかったのもそうだが、ここからはまだグラの気配を感じる。
不可解なことが多いが、そんなことを今のシアンに聞ける訳もなく無言で傍に寄る。
「ゼギウスか……」
枯れた力の無い声でシアンはそう言う。相棒を失ったシアンの今の心境は計り知れない。
このままだとシアンは抜け殻になってしまう。怒りでも復讐でも何でもいいからどこかを向かせないと壊れてしまう。こうなったのは俺の責任だし、悪役を買うか。
「あぁ、悪かったな。俺のせいで」
そんな気遣いの欠片もない言葉をかける。俺が悪いのはそうだが、無力を痛感しているのはシアンで、そこに俺が悪かったというのはシアンもグラも侮辱しているに過ぎない。
「そんなことしなくていいよ。アタイとアンタもそこそこの付き合いさ。本心じゃないのは分かってるよ」
これは不味い。完全に悟りを開いている、というか無になっている。後にそうだと分かるのはいいが、今そう思うのは駄目だ。生が終わってしまう。
だが、何を話せばいいか分からない。どうすればシアンが生に向くのだろう。
「そうか……」
なんて声を掛ければいいか分からず適当な返事をして沈黙が生まれる。それから少しするとシアンから語り始めた。
「グラってさ、アタイが居ないと駄目なくらい馬鹿だったじゃん?」
「そうだな」
「アタイもそう思ってたんだよ。手のかかる弟みたいな。だけど戦いだと頼りになる存在でアタイが指示をすれば最強。だから相棒としていい関係だったと思うのさ」
「そうだな」
特に中身のある言葉をかけず相槌を打つ。さっきとは違って敢えての相槌だ。今はシアンの話したいことを聞いて、そこから情報を得る。
「だけど違ったんだよね。グラの最期はさ、アタイに力を託して自爆したんだよ。あのグラが…アタイはもうとっくに諦めてたのに、グラは諦めてなくて……最期に気づかされたよ、馬鹿はアタイの方だったんだなって…」
シアンは涙ながらにそう言う。それでシアンの言いたい事は言い終えたと分かっているのに今度はかける言葉が見つからない。
「そうか…」
力を託して爆発…この規模の爆発でシアンが生きていて他が全て消えた…
……継承だな。グラは最後に《暴食》をシアンに継承したのか。それでグラが今まで《暴食》で溜め込んでいた魔力がただのグラの許容量を超えていて爆発した。
シアンはその爆発も《暴食》で生き延びた。いや、生き延びてしまったってところか。
その状況になったら俺も思いつくか分からない芸当だ。七英雄の称号を1人が2つ持つのは体がもたないという前提があれば思いつかない。それに自分が死ぬと分かっていながら誰かを生かすなんてことは簡単にできることじゃない。
だが、それならシアンにはやらなければならないことがある。このままだとシアンの体内の《強欲》と《暴食》が衝突してしまう。
「…シアン、継承したんだろ?」
「そうだね。一方的に託されたよ。……ゼギウスの言いたいことは分かるよ、1つの体に2つの称号は耐えられない、だろ?だけど、渡す気はないよ。それで死ねるなら本望さ」
やっぱりそうくるよな。グラがそんなことを望んでいないのは分かっているだろうに、その上で自分の我が儘を通そうとしている。
だが、ここでシアンまで失うのは不味い。今後、七英雄の称号をどうするかは分からないが、ここで継承を途絶えさせる訳にはいかない。
「分かった。ならシアンの体内からは取り出さねぇ。ただ、状況確認と時間稼ぎをさせてくれ」
「いいよ。ここでゼギウスは嘘を吐かないし嘘だったとしてもアタイは死ねるからね」
とんでもなく自暴自棄な脅しだが、そうするつもりはない。しかもそれ、俺が嘘を吐いた挙句に止めを刺すってことじゃねぇか。流石にねぇよ。
そう思いながら真継承の慣らしをした時と同じようにシアンの背中に手を置き、体内の状況を確認する。
強欲の核と暴食の核、それらは引きつけられるようにシアンの心臓の近くに集まっていた。魔力生成の中枢が心臓だからそうなるのは当然で、同じ場所に集まるから衝突が起こる。
しかし、不思議なことに2つが衝突している様子はない。まだ衝突が始まっていないだけかもしれないが、それでもこれだけ近くにありながらその気配もないのはおかしい。
核と核を《障壁》で抑え込み応急処置をしようと思ったが、これだけ静かだと俺の《障壁》に対して暴れる方が危険かもしれない。衝突が始まったら止めるとして、それまでは見守る方が良さそうだな。
そう結論に至るとシアンの背中から手を除ける。
「早いね」
「まだ衝突が始まってなかったからな。これなら下手に手を出す方が危ねぇ」
「それ、グラがアタイにまだ死ぬなって言ってるのさ。いつもアタイの指示待ちだったのに最期だけ勝手に動いて…あー、本当に勝手だね」
そう悪態を吐きながらシアンは自分の体を抱きしめる。おそらく内側にグラを感じているのだろう。さっきよりも少しは前を向き始めたような気がする。
しばらく沈黙が続くとシアンから話題を振ってきた。
「それで他の戦場はどうなったのさ」
「メナが重症、黄頭が中傷、赤頭が軽傷。腐れとアル、スーはほぼ無傷。マルスとカイは分からねぇ」
「メナドールが重症って、ゼギウスがついてながら何があったのさ」
やっぱりそう聞かれるよな。グラを失いシアンも重症、いや、《暴食》のおかげで中傷か。それに加えて今話した内容…大敗もいいところだ。
完璧な指揮を執れているなら全員が中傷以内で誰も失わずに済んだ。無傷や軽傷は本人が想定以上に活躍したのもあるが、俺の計算能力の無さ。俺の指揮能力の無さに他ならない。
「相手の方が1枚上手だった」
「どういうこと?」
「ガゼルガとアイリスは揺動だと思い込まされた。結局はガゼルガ、アイリスを先陣に後続でライガ、ヴラドサ、ゼラスの共同作戦。ライガ、ヴラドサ、ゼラスが俺とメナの場所に来たからライガ、ヴラドサ、ゼラスを引き離した。その結果がこれだ」
結局はその部分、柱を3体も俺を倒すためだけに連れて来たと言われてそれを鵜呑みにしてしまった。そこが歯車の狂った原因、俺があの場に残って戦いながらメナに状況確認をさせていればグラは助けられたかもしれない。もっと言えばカイを前線に送らせても違う結果になった。
あの場に居る戦力と敵の言葉を鵜呑みにしたのが原因。だから俺のミスだ。
「それは難しいね。柱3体を相手にして無事なアンタもおかしいと思うけど、メナドール1人にアイリスとその配下はきついね。ガゼルガとその配下だけでもアタイとグラの2人で押されっぱなしだったから」
叱責されても何も言い返せないのにシアンの言葉からは同情めいた感情を感じる。そこに自分の力不足を感じて苛立つ。
「だからさっさとケリをつけて戻るつもりだった。だけど、ヴラドサとゼラスがサポートに回って時間を稼がれた。それで結局、目的はグラだったらしくて退かれた。嵌められたんだよ」
「それが最善だったと思うよ。完全に不意を衝かれて戦力も足りなかった。その中でこれだけの犠牲で済んだのはゼギウスの指揮のおかげさ。アタイもメナドールも思ってたよりも動けなかった。それが全ての要因さ」
その言葉からは自分の力不足を悔いているように感じる。実際、どのような戦闘が行われたかは分からないが、出せる力を全て出したのは間違いない。ただ、大方無茶をし過ぎて穴ができたのだろう。シアンもメナもそういうところがある。
それを分かっているからこそ、俺がそれを踏まえた指揮を執らなければならなかった。
「戻るぞ。そろそろマルスたちも来る頃だと思う」
「……分かった」
これ以上こうやって話していたらシアンに八つ当たりをしてしまう気がして他にも人の居る城に戻った。
辺りからは自然が消え、何もない焼け焦げた平地が広がっている。その中心にシアンは1人、項垂れていた。
爆発が起こったのは分かるが、誰がどうやって起こした爆発かは分からない。この規模の爆発に気づかなかったのもそうだが、ここからはまだグラの気配を感じる。
不可解なことが多いが、そんなことを今のシアンに聞ける訳もなく無言で傍に寄る。
「ゼギウスか……」
枯れた力の無い声でシアンはそう言う。相棒を失ったシアンの今の心境は計り知れない。
このままだとシアンは抜け殻になってしまう。怒りでも復讐でも何でもいいからどこかを向かせないと壊れてしまう。こうなったのは俺の責任だし、悪役を買うか。
「あぁ、悪かったな。俺のせいで」
そんな気遣いの欠片もない言葉をかける。俺が悪いのはそうだが、無力を痛感しているのはシアンで、そこに俺が悪かったというのはシアンもグラも侮辱しているに過ぎない。
「そんなことしなくていいよ。アタイとアンタもそこそこの付き合いさ。本心じゃないのは分かってるよ」
これは不味い。完全に悟りを開いている、というか無になっている。後にそうだと分かるのはいいが、今そう思うのは駄目だ。生が終わってしまう。
だが、何を話せばいいか分からない。どうすればシアンが生に向くのだろう。
「そうか……」
なんて声を掛ければいいか分からず適当な返事をして沈黙が生まれる。それから少しするとシアンから語り始めた。
「グラってさ、アタイが居ないと駄目なくらい馬鹿だったじゃん?」
「そうだな」
「アタイもそう思ってたんだよ。手のかかる弟みたいな。だけど戦いだと頼りになる存在でアタイが指示をすれば最強。だから相棒としていい関係だったと思うのさ」
「そうだな」
特に中身のある言葉をかけず相槌を打つ。さっきとは違って敢えての相槌だ。今はシアンの話したいことを聞いて、そこから情報を得る。
「だけど違ったんだよね。グラの最期はさ、アタイに力を託して自爆したんだよ。あのグラが…アタイはもうとっくに諦めてたのに、グラは諦めてなくて……最期に気づかされたよ、馬鹿はアタイの方だったんだなって…」
シアンは涙ながらにそう言う。それでシアンの言いたい事は言い終えたと分かっているのに今度はかける言葉が見つからない。
「そうか…」
力を託して爆発…この規模の爆発でシアンが生きていて他が全て消えた…
……継承だな。グラは最後に《暴食》をシアンに継承したのか。それでグラが今まで《暴食》で溜め込んでいた魔力がただのグラの許容量を超えていて爆発した。
シアンはその爆発も《暴食》で生き延びた。いや、生き延びてしまったってところか。
その状況になったら俺も思いつくか分からない芸当だ。七英雄の称号を1人が2つ持つのは体がもたないという前提があれば思いつかない。それに自分が死ぬと分かっていながら誰かを生かすなんてことは簡単にできることじゃない。
だが、それならシアンにはやらなければならないことがある。このままだとシアンの体内の《強欲》と《暴食》が衝突してしまう。
「…シアン、継承したんだろ?」
「そうだね。一方的に託されたよ。……ゼギウスの言いたいことは分かるよ、1つの体に2つの称号は耐えられない、だろ?だけど、渡す気はないよ。それで死ねるなら本望さ」
やっぱりそうくるよな。グラがそんなことを望んでいないのは分かっているだろうに、その上で自分の我が儘を通そうとしている。
だが、ここでシアンまで失うのは不味い。今後、七英雄の称号をどうするかは分からないが、ここで継承を途絶えさせる訳にはいかない。
「分かった。ならシアンの体内からは取り出さねぇ。ただ、状況確認と時間稼ぎをさせてくれ」
「いいよ。ここでゼギウスは嘘を吐かないし嘘だったとしてもアタイは死ねるからね」
とんでもなく自暴自棄な脅しだが、そうするつもりはない。しかもそれ、俺が嘘を吐いた挙句に止めを刺すってことじゃねぇか。流石にねぇよ。
そう思いながら真継承の慣らしをした時と同じようにシアンの背中に手を置き、体内の状況を確認する。
強欲の核と暴食の核、それらは引きつけられるようにシアンの心臓の近くに集まっていた。魔力生成の中枢が心臓だからそうなるのは当然で、同じ場所に集まるから衝突が起こる。
しかし、不思議なことに2つが衝突している様子はない。まだ衝突が始まっていないだけかもしれないが、それでもこれだけ近くにありながらその気配もないのはおかしい。
核と核を《障壁》で抑え込み応急処置をしようと思ったが、これだけ静かだと俺の《障壁》に対して暴れる方が危険かもしれない。衝突が始まったら止めるとして、それまでは見守る方が良さそうだな。
そう結論に至るとシアンの背中から手を除ける。
「早いね」
「まだ衝突が始まってなかったからな。これなら下手に手を出す方が危ねぇ」
「それ、グラがアタイにまだ死ぬなって言ってるのさ。いつもアタイの指示待ちだったのに最期だけ勝手に動いて…あー、本当に勝手だね」
そう悪態を吐きながらシアンは自分の体を抱きしめる。おそらく内側にグラを感じているのだろう。さっきよりも少しは前を向き始めたような気がする。
しばらく沈黙が続くとシアンから話題を振ってきた。
「それで他の戦場はどうなったのさ」
「メナが重症、黄頭が中傷、赤頭が軽傷。腐れとアル、スーはほぼ無傷。マルスとカイは分からねぇ」
「メナドールが重症って、ゼギウスがついてながら何があったのさ」
やっぱりそう聞かれるよな。グラを失いシアンも重症、いや、《暴食》のおかげで中傷か。それに加えて今話した内容…大敗もいいところだ。
完璧な指揮を執れているなら全員が中傷以内で誰も失わずに済んだ。無傷や軽傷は本人が想定以上に活躍したのもあるが、俺の計算能力の無さ。俺の指揮能力の無さに他ならない。
「相手の方が1枚上手だった」
「どういうこと?」
「ガゼルガとアイリスは揺動だと思い込まされた。結局はガゼルガ、アイリスを先陣に後続でライガ、ヴラドサ、ゼラスの共同作戦。ライガ、ヴラドサ、ゼラスが俺とメナの場所に来たからライガ、ヴラドサ、ゼラスを引き離した。その結果がこれだ」
結局はその部分、柱を3体も俺を倒すためだけに連れて来たと言われてそれを鵜呑みにしてしまった。そこが歯車の狂った原因、俺があの場に残って戦いながらメナに状況確認をさせていればグラは助けられたかもしれない。もっと言えばカイを前線に送らせても違う結果になった。
あの場に居る戦力と敵の言葉を鵜呑みにしたのが原因。だから俺のミスだ。
「それは難しいね。柱3体を相手にして無事なアンタもおかしいと思うけど、メナドール1人にアイリスとその配下はきついね。ガゼルガとその配下だけでもアタイとグラの2人で押されっぱなしだったから」
叱責されても何も言い返せないのにシアンの言葉からは同情めいた感情を感じる。そこに自分の力不足を感じて苛立つ。
「だからさっさとケリをつけて戻るつもりだった。だけど、ヴラドサとゼラスがサポートに回って時間を稼がれた。それで結局、目的はグラだったらしくて退かれた。嵌められたんだよ」
「それが最善だったと思うよ。完全に不意を衝かれて戦力も足りなかった。その中でこれだけの犠牲で済んだのはゼギウスの指揮のおかげさ。アタイもメナドールも思ってたよりも動けなかった。それが全ての要因さ」
その言葉からは自分の力不足を悔いているように感じる。実際、どのような戦闘が行われたかは分からないが、出せる力を全て出したのは間違いない。ただ、大方無茶をし過ぎて穴ができたのだろう。シアンもメナもそういうところがある。
それを分かっているからこそ、俺がそれを踏まえた指揮を執らなければならなかった。
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