怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
103 / 185

101話

しおりを挟む
「ん、うぅ」

そう自然と声が出ながら目が覚めた。上体を起こすと、これはビックリ。隣には闇商人ちゃんが寝ていて逆側にはゼギくんが座りながら寝ている。

2人とも私が治るように一生懸命、治療してくれたのがこの姿だけでも伝わってくる。

実際、あの傷はもう助からないと思っていた。だからせめてアイリスを道ずれにしようと思ったのだが、あの後、戦いはどうなったのだろう。気になるが、今の闇商人ちゃんもゼギくんも起こすのは可哀相だ。

誰かに聞きに行こうとベッドから起き上がろうとすると「んっ」と声が漏れ痛みで再び寝転んでしまう。

そうだよね。あの傷だからすぐに起き上がるのは無理だよね…ん?痛みがある?あの傷なら生きていても両足切断は免れないと思っていたのに……闇商人ちゃんとゼギくんには感謝しかない。

「ふわぁ~あ。目が覚めたか」

今のでゼギくんを起こしてしまったようでゼギくんは眠そうに体を起こして伸びをする。ここ最近、と言っても私が意識を失ってからどれくらい経つか分からないが、意識を失う前までゼギくんはずっと働き詰めだった。

それを知っているのもあって起こしてしまったことに凄く罪悪感を覚える。

「起こしちゃったかな、ごめんね」

「あぁ、気にするな。どの道、そろそろ起きる時間だったし」

これは嘘だ。でも、それを言ったところでゼギくんは絶対に認めない。全く、普段は気を遣わないのにこういう時に気を遣うからグッとくる。ゼギくんは卑怯だ。

「そっか。あの後、どうなったか聞いてもいい?」

そう尋ねると、ゼギくんの表情が暗くなる。良くない結果だったのだろう。

話を聞いてもそうだった。

グラとマルスの死亡、私が相打ち覚悟の攻撃をしたアイリスは生きている。幸いなのは旧王国と皇国にほとんど被害がないことくらいだろうか。

あの戦いだけを見れば完敗だ。その原因は全て、私。私の目で気づくのが遅れたから全てが後手になった。

それなのにゼギくんは凄く責任を感じている表情をしている。それはグラやマルスのことだけでなくここまで重傷を負った私に対してもだ。少なくとも私は力不足で、絶対にゼギくんは自分にでき得る最善を尽くしたはずなのにそう思わせてしまった。

「やっぱり私は戦いに関して全然ダメだね。その癖、自分の役割も……」

言いながら涙が溢れてきた。私が力不足なのは分かっている。それなのに怠慢を働いてしまうとは救いようがない。

悔しい。私のせいでゼギくんに責任を感じさせていることが堪らなく悔しい。

「そうだな。俺もメナも油断があった。だからお互いさまだ」

「違うよ。私がしっかりとしてればゼギくんは失敗しなかった。だからお互いさまなんかじゃない!私の責任なの!」

私が責任を感じているのを察してお互いの責任にしようとしていることに余計に責任を感じてしまう。それでつい声を荒げてしまった。それが余計に情けない。

「メナ、仲間のミスを助けてして自分のミスを助けてもらう。そうやって支え合うのが仲間だろ?だからメナだけの責任じゃなければ俺だけの責任でもない。互いに力が足りなかったんだ」

そう優しい声で言葉をかけながらゼギくんに抱きしめられる。そっか、ゼギくんも辛いんだよね。悔しいんだよね。

それなのに自分だけのこと考えて取り乱して、本当に情けない。ゼギくんはどれだけしっかりしていてもまだ子供、私がお姉さんしないといけないのに…

「もうゼギくんったら、そんなにお姉さんに抱きつきたかったの?」

「メナ、無理するな。今は溜め込まず吐き出せ。目を覚まして本当に良かった…」

そうゼギくんの抱きしめる力が強くなる。あー、本当に何から何までゼギくんには勝てないなぁ。

ゼギくんのその言葉にさっきよりも涙腺が決壊する。子供の頃のように「うわぁぁぁあん」と大声を出しながら涙が絶え間なく流れ始めた。

「ごめんね、ごべんね、ゼギぐん~」

情けなく泣きじゃくる私の背中をゼギくんは優しくさすってくれる。そこに安心してどんどん謝罪の言葉が溢れ出す。

こんなに自分に正直な感情を曝け出すのはいつ振りだろう。きっと純粋だった頃、それこそ年齢が一桁前半の時、以来だ。

どれくらいの時間だろう。多分1時間くらいかな?泣き尽くして冷静になると段々、恥ずかしくなってきた。

年下の少年に慰められるお姉さん。うん、恥ずかしい。それも抱きしめられて泣かされるって、穴があったら入りたい。でも、私だけ恥ずかしい思いをするのは癪だなぁ。

仕返しに私の方から力強くゼギくんを抱きしめる、私の特徴の2つの大きなものを押し付けるように。

「ゼギくん、実はお姉さんのこれを堪能したかったんでしょ?」

「アホか。もう大丈夫なら離れろ」

そうゼギくんは私から離れようとするが、どうやって私を引き剥がそうか困っているようで全然力が入っていない。ふふふ、ゼギくんはやっぱり初心だな~。

もっと押し付けるように抱きしめるとゼギくんにはより困惑の色が見える。

「それそれ~、ゼギくんの大好きなお姉さんだよ~」

「何をしているんですか?」

調子に乗っていると闇商人ちゃんに冷めた目を向けられる。このタイミング、さては起きてたな。あれ?でも、そうなるともしかしてずっと見られてた?だとすると凄く恥ずかしい。

そう恥ずかしくなり力の抜けた隙をつかれてゼギくんに逃げられてしまった。むぅ、仕方がない、ゼギくんも恥ずかしい思いをしてもらうのは諦めよう。

姿勢を正して闇商人ちゃんの方を向く。

「目を覚まされたようで良かったです」

「うん、ありがとね。闇商人ちゃんがずっと治療してくれてたんでしょ?」

「いえ、私は傍に居ただけで、治したのはゼギウス様です」

最終的に治したのはゼギくんかもしれないけど、それまで付きっ切りで手当てしてくれたのは闇商人ちゃんで、それがなかったら今こうしていられないのは分かっている。意識がなくても闇商人ちゃんの温かさは感じていた。

だから優しく闇商人ちゃんを抱きしめて「ありがとう」と囁く。

「いえ、本当に私は何もできなくて、私のせいでメナドールさんを死なせてしまうと思って…」

そう闇商人ちゃんまで泣き出してしまう。それだけ不安が強くて安堵しているのだろう。

それにしても今日はみんなしてよく泣く日だ。でも、たまにはそんな日があってもいいと思う。弱みは今日全て吐き出して明日からの力になる。あれ?でもゼギくんは泣いてないような…ううん、ゼギくんが泣くとこなんて見たいし慰めたいけど、今は見たくない。

よし、弱さは全て吐き出した。少しでもゼギくんの役に立てるように慣らしの続きを___

そう頭を切り替え、闇商人ちゃんを離して起き上がろうとすると再び痛みで寝転んでしまう。

「無理するな。今は魔力回路も不安定で多用すれば破裂する。だから休むのが今メナにできる最善だ」

どうやら気を遣っている訳ではなく本当のようだ。軽く魔力を練ろうにも乱れが生じる。

「じゃあ私ゼギくんのベッドで寝ていいの?やったー」

「今すぐ部屋に帰れ」

「でも私、起き上がれないよ?」

ニヤニヤしながらゼギくんを見るとお姫様抱っこでゼギくんに抱えられる。てっきり引き摺られるか雑に背負われるかと思ったのに、優しいな。それだけ私が重症だったということだよね。

それを知ってしまうと焦る気持ちを抑えて安静にしないといけないと理解してしまう。

ゼギくんに部屋に運ばれるとベッドでおとなしく過ごした。だけど、ゼギくんに直接、優しくされるのは嬉しいんだけど、どこかむず痒くて不思議な気持ちだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...