怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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103話

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「ガハッ、グハッ……うぅ…」

口に溜まっていた血を吐き出す。体中が痛いのじゃ。ナナシの奴め、本当に我を殺す気でやりおったな。いや、ナナシが本気で殺す気なら我は生きておらぬか。

今は城の前、地面に寝かされ闇商人に治療されておる。何故か近くにはエストとカイゼルも寝かされておりシアンも疲れ切ったように座っておった。

皆が皆、己にでき得る最善を尽くして庭に対抗しようとしておる。それを見ると我も頑張らねばならぬと活力が湧いてくる。我ももっと気合いを入れるのじゃ。

「ここに居る4方は知らないと思うので伝えておきます。メナドールさんが目を覚ましました」

「本当!?メナドールさっ…」

闇商人からの報告を聞くなりエストが起き上がろうとした。だが、体中が痛いようですぐに倒れ込む。

エストのことはあまり知らぬが、その言動からメナドールを慕っておるのは伝わってきておる。それで、メナドールの目覚めが体の傷を忘れるくらい嬉しかったのだろう。我にもその気持ちは分かるのじゃ。

「ですが、少なくとも今日の間は安静にしないといけません」

「それは後で見舞いに行かねばならぬな。ところで、ナナシの姿が見えぬがどこに行ったのじゃ?」

メナドールの様子は気になるが目を覚ましたのなら大丈夫なのだろう。だが、今の我に周りを気にし過ぎている余裕はないのじゃ。

「ゼギウス様のところかと。魔力体であるナナシさんは自身で魔力の生成ができないため回復もできないのでその補充か休みに行ったのだと思われます。ゼギウス様も疲労が溜まっているので少し休まれているかと」

「うむ。聞きたいことがあったのだが仕方があるまい」

戦闘の途中から記憶がない。だから何が起こったのか聞きたかったのだが、後に回すしかなさそうじゃ。

戦闘も治療が終わり次第、再開したかったが、闇商人の推測的にもすぐ再開という訳にはいかなさそうじゃ。

「おー、お前たちボロボロだな」

そう思っているとゼギウスが我等を見下ろしながら現れる。闇商人の話では疲労が溜まっているということだったが、表情にその色はない。

「お主、休んでおるのではなかったのか?」

「ナナシに起こされたんだよ。シアン、カイ、エストの進捗はどうだ?」

それはお気の毒様じゃ。と、思っていると我の治療が終わり、闇商人はシアンたちの方へ行く。

「私は20%くらいかな?まだコツが掴めないんだよね」

「アタイは《強欲》が終わって《暴食》に入り始めたとかな。明日には終わらせるさ」

「私は終わった。思っていたよりも疲れた…」

「カイはエストにコツを教えろ。シアンは問題なければそのペースでいいが、異変があったらすぐ止めろよ。俺が確認する」

ゼギウスがそう指示をすると3人は頷く。相変わらず周りがよく見えておる。カイゼルは気づけば起き上がって平然を装っておるが、疲れているはお見通しのようじゃ。だからエストにコツを教えさせて休ませる算段じゃな。

こういうことをさらりとやってのける。いつ見てもゼギウスから学ぶことは多いのじゃ。

「アル、回復したなら来い」

感心しながら見ているとゼギウスにそう声を掛けられる。「うむ」と返事をしてゼギウスについて行く。

ナナシと戦闘をした場所まで来るとゼギウスは立ち止まった。

「ナナシとの戦いは覚えてるか?」

「途中から覚えていないのじゃ。わざわざ聞くということは何かあったのじゃな?」

「あぁ。お前の親父、ドラルがドラゴンの姿になれたのは知ってるか?」

「うむ」

小さい頃、母上から聞いたことがある。父上は勇ましいドラゴンの姿になれると。それは父上の《龍王の咆哮》で姿が見えるドラゴンのようだったそうじゃ。

そのことについて父上にも尋ねたことがある。

「だが、父上を以てしてもその力は御せず、死の手前まで行かねば使わぬと申しておったのじゃ。まさか我にも発現したのか?」

「そういうことだ。アルにはそれを制御できるようになってもらう」

「そんなことが可能なのか?父上でも不可能だったのじゃ」

「あのなぁ、アル、確かにドラルは偉大だった。それを間近で見てきたアルが余計にそれを感じるのも分かる。だけどな、それで自分の限界を決めるな。偉大だった、だから超せないってそれでいいのか?あのドラルだってハオに負けドラルの軍は衰退した。それよりもアルが劣るってことはもっと酷くなる。結果として超せないのは仕方がねぇ。だけど最初から決めるのは違うだろ」

確かに我は父上の偉大さに絶対的な壁を感じていた。だが、ゼギウスの言う通りじゃ。

我は父上の偉大さを盾に自分が弱くても仕方ないとある種、逃げていたのかもしれぬ。あの偉大な父上を以てしても全てを守ことはできなかった。それなら当然、我はそれよりも強くならなければ全ては守れぬ。

それは少し考えれば分かることだ。それなのにそこに気づきもしなかったということは全てゼギウス任せに、ゼギウス頼りにしていたということじゃ。

それは駄目だと分かっているが、同時に現実的な部分も見えてくる。本当に超せるのか、あの偉大だった父上を、我が……違う。目指さぬことには何も始まらぬ!

超せるか超せないかではない。超そうと足掻くその姿勢が必要なのじゃ!

「そうじゃな。だが、本当にそんなことができるのか?」

「アル、1ついいことを教えてやるよ。アルにあってドラルにないものがある」

「何じゃ?」

「俺だ。俺はドラルとよく会ってたが、手を貸したことはほとんどねぇ。だから俺に頼れ」

「ふっ、何じゃそれは。本当にお主にはかなわぬな」

普段はそんなこと言わぬのに我に自信がないのを分かって言っておる。1人で不安なら自分を頼れと、そこまで言われては立ち上がる他あるまい。我がここで立てねばゼギウスが役立たずと言っているようではないか。

これだけ世話になっておいてそんなことは言えぬ。思わせてはいけないのじゃ。

「それで、具体的にはどうするのじゃ?」

「まず、アルを半殺しにする。それでドラゴンを目覚めさせる。それをアルが自我を持てるまで繰り返す。ただそれだけだ。ドラルが制御できなかったのは制御の訓練をしようにも止められる者がいなかったからだが、アルが暴れても俺でもナナシでも止めれる。だから気にせず暴れろ。まぁ、あんまりできねぇとそのまま死ぬけどな」

その物騒な内容に「う、うむ」としか相槌を打てない。そうは言いつつも我のことは殺さないと分かっているはずなのに、本当に殺されるというような圧があった。

そこに自然と身構える。身構えたはずなのに、直後、反応もできずゼギウスに腹を貫かれた。

貫かれた場所からは血が流れていき、それに比例するように意識が遠のいていく。

意識が途絶える寸前、目が虚ろになるとまた体を貫かれた。

本当に死ぬ…のじゃ。

そう思った瞬間、意識が途絶えずに意識が切り替わるような感覚がした。

意識は体から離され目線が低くなる。これが、ドラゴンになった状態なのか?視界には見るからに硬質な鱗や鋭い鉤爪が見えた。

自分の意思で体を動かせず視界だけが動く。

「アル、聞こえるか?」

(あるのじゃ)

そう返事をしたつもりが声は出ていない。どうやら体の主導権を奪われているようじゃ。

ゼギウスは我からの返事がないのを確認すると容赦なくドラゴンの胴体を手刀で突く。それは体に刺さるとドラゴンは雄叫びのような悲鳴を上げる。

だが、我には痛みが伝わってこぬ。どういうことじゃ?この体は我であって我ではない?

そう思っていると目線は更に低くなり、視界は真っ暗になる。それと同時に我の意識も途絶えた。
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