怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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119話

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「やり過ぎじゃねぇか?廃人になったら話にならねぇぞ」

シアンが去って行くなりゼギウスにそう言われる。そんなことを言いながらもその声に心配の色はない。私のやることを信用しているようだ。相変わらずお人好しだね。

普通、闇商人の私をそこまで信用するかね。まぁ、これもゼギウスの人徳の1つか。

「ちなみにゼギウスだったらどう返してた?」

ゼギウスは甘いが、シアンのように分かりやすい弱点がある訳ではないから簡単に壊すことはできない。甘いのは必ずしも弱点になるとは言い切れない。特にゼギウスのように圧倒的な力を持っている場合は事が起きてからで全てに対処できる。

だが、この返答次第ではそれが見つかるかもしれない。人の弱点は握るだけ得だ。

「アホか、お前の不遇を他人に押し付けんな。結局、お前は自分を悲劇のヒロインにしてるだけだろ。七英雄なんて強いだけのガキだ。強い上に人格まで求めんな。そんな完璧な奴いねぇよ、ボケ」

そう淡々とゼギウスは答える。同じ、いや、それ以上の境遇で育ったゼギウスでなければ殺しているような返答だ。

だが、本心ではそう思っていないのが丸分かりだ。もしかしたら私の狙いを見透かしているのかもしれない。いや、面倒くさいだけか。それとさっきの言葉がゼギウスにも刺さっていたからささやかな反撃も込めているのだろう。

それでも今のゼギウスの返答のように七英雄は傲慢でなければならない。そうでもなければ七英雄なんて頭のおかしいほどの重責を背負うものは担えない。

現にシアンはそれが重荷になっている。

「何であそこまでしたんだ?」

「中途半端なものなら壊して作り直した方が早いからね」

ゼギウスにシアンを育てると言ったからには責任をもって仕上げる。商人は信用第一だからね。

そのためにはシアンは1度、壊してしまった方がいい。脆くなった剣は補強するより溶かして打ち直した方がいい。補強した場所は他との強度の差を生み、他の弱点を生み出すだけだ。それを繰り返せば繰り返すほど壊れやすくなる。

庭はそんな歪みを持ったまま戦える相手じゃない。私の情報網をもってしても庭の内部は覗けなかったが、それは分かる。というか私の情報網をもってしても覗けないという時点で最大級の警戒が必要だ。

「間に合うのか?」

「庭の力も期間も分からないから何とも言い難いけど、間に合わせるよ。シアン自身が上げる基礎能力込みで今の倍くらいには仕上げれるかな」

「足りねぇな。保険無しならどのくらいまでいける?」

今の回答も保険をかけた訳ではない。ギリギリ届くか届かないかのラインを攻めている。それでも足りない。庭とはそれほどということか。

でも、そうだね。メナドールの処遇で揉めてゼギウスとマルスが庭に行った時も2人で勝てる見込みならあの時に庭と戦っていたはずだ。そうならなかったということは2対6の状況では勝てないとゼギウスが踏んだということ。

仮にマルスが1体に勝てるとしてもゼギウスが5体には勝てないということだ。もしかしたら2:4の比率かもしれないが、それだけゼギウスの相手にできる数が減るということだから、必要な戦力が増える。

現実的な線で見て2:4がギリギリ無理と見積もっておこう。

数が増える分、戦い方は変えられるが、それでもゼギウス以外に最低2人は勝てる人材を用意しなければならない。他は勝てなくても時間と敵の体力を稼げるようにする必要がある。

ゼギウスが次点にシアンを置いているということはシアンの完成は最低限。その次点でアルメシアだろう。更に次点となるとあとは団子だ。

メナドールは戦闘向きじゃないし、連絡係として中継に置いておきたい。カイゼルは能力が高いが、成長は望めない。その点、エストは大幅な成長が見込めるが元が低いから現状で戦力に数えるのはギャンブルが過ぎる。

まぁ、メナドールの分を私が戦えれば上出来だろう。

「おい、どのくらいまでいけるんだ?」

おっと、考え過ぎていてゼギウスへの返答を忘れていた。

「魔道具無しならさっき言った通り。魔道具有りならその数段上ってところかな」

魔道具に関しては通じるかが怪しいと踏んでいる。まぁ、それも私がここに来た目的と腕次第だ。

私がここに来た目的、それは旧文明の力を知り、魔道具を作る。所謂オーパーツを作ることだ。

「今着けてる魔道具なら当てにならねぇぞ」

「だろうね。でも、一応試してみるかな」

そうメデュの眼に魔力を注いで起動する。が、メデュの眼から放たれる光を見ているのにゼギウスの動きは止まらない。ゼギウスに効かないということは庭にも通じないと考えた方がいいだろう。

「やっぱりダメだね。でも、こういうのは効かなくてもシアンの使う短剣やナイフの効果は高められるね」

「なら、それも任せたぞ。その対価は勝手に持ってけ」

あれ、もしかして私の目当てに気づいている?いや、気づいているなら明確に言うはず。ゼギウスとはそういう男だ。

そんなことを話しながら時間を潰しているとシアンが戻ってきた。

「やるよ」

目には力が戻っている。思っていたよりも表面上の立ち直りは早い。その根幹を支えているのはグラや七英雄の責務、あとは故郷を護りたいって気持ちかな。反吐が出るような支えだが、その分、壊すのにも躊躇わなくていい。

それにゼギウスに私の実力を示しておかないと不安でゼギウスが自身のことに集中できなくなる。

「やろうか。ゼギウス、少し危険な物も使うから《障壁》を張ってくれないかい?」

「なら少し場所を移すぞ。城の目の前がボロボロになるとアルがしょげる」

そんなこと気にするんだ、と思いながら場所を移す。近くではメナドールやエスト、カイゼルがゲンの指導の下、基礎能力を高めている。

「始めていいぞ」

ゼギウスのその言葉を合図に戦闘が始まる。

それと同時にシアンは短剣とナイフを投げて《起爆》しながら接近してくる。爆発範囲、それによるナイフの軌道変化は推測できるから簡単に躱す。

しかし、それは私に攻撃の手を打たせないためだったようで懐まで潜り込まれた。

闘技場での勝負と違って動きに迷いがない。それが今のシアンに必要なこと、先手を打ち続けることだ。

七英雄の称号2つ持ちに真継承、短期間でシアンは力を増幅させた。その結果、戦い方に迷いが生じている。相手が私で格下と見積もっているのも影響しているが、そんな戦い方では格下にも勝てない。

私が絡め手を使うと分かっているならそれを使わせないように立ち回るのが定石だ。

それが庭ともなれば尚更だ。相手の攻撃に対処できない可能性が高い。その時に必要なのは先手を打ち続け相手のしたい行動をさせないことだ。

それにシアンの戦い方はそういう戦い方だ。強大な力を手にして、強い=真っ向勝負だとでも勘違いしているのだろう。それは今までの自分を全て否定する行為だ。

「これなら少しは戦いになりそうだね」

そう挑発をしながらシアンの短剣をパイプで受け止める。

しかし、それを意に介していないようにシアンは短剣で追撃を仕掛け、空いている手で腰からナイフを取り出すと《軽業》で距離を取って投げてきた。

それを風雷の羽織に魔力を流して風の防壁を生み出して弾く。

問題はここからだ。スキルを使わない相手にお得意の《強奪》は使えない。

しかし、シアンに迷いはなかった。呪符で誤魔化すなんて悪手も打たずに接近戦を仕掛けてくる。思考が削ぎ落されているのか動きに無駄がない。

パイプで防ぐにもリーチも武器としての性能も短剣には劣る。まぁ、強度と魔道具としての性能は上回っているが、この接近戦では役に立たない。

「そろそろ私も本気を出そうかね」

そう風雷の羽織に魔力を流して風を纏い背後に雷の槍を生成して武装した。
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