怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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126話

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今までのカイゼルの能力を見れば追いつけない速度で移動しているが、カイゼルはついてきている。100%を引き出すだけでなく、今は120%を引き出せているようだ。

それは一重に自身と同じ境遇の者を救いたいという同情からだろう。当事者であるカイゼルが怒るのも分かるが、やはり自分の判断が間違っていたとは思わない。

世界には仕方のない犠牲ものがある。

全てを何の犠牲もなく達成するというのは不可能だ。何を行うのにも犠牲はつきもので、それは規模が大きくなるほど犠牲も大きくなる。

そんな中で考えるべきは優先順位と費用対効果だ。何をどれだけ得るためにどれだけの犠牲を出すか。その計算が大事となる。

儂の場合、最も優先するのは人という種の存続だ。それがゼギウスの言うところの原初から与えられたもう1つの役割だと思っている。そのために種が滅びない程度の犠牲なら厭わない。

それが儂の考えであり、七英雄の存在理由だ。

継続的七英雄輩出計画を画策し始めた頃、既に人間は滅びる1歩手前だった。というのも、先の種を滅ぼす追う側から後の種に滅ぼされる追われる側に変わったからだ。

先の種を滅ぼし世界の覇者になり傲りが生まれた。その油断に加え、先の種との戦いの貢献から七英雄の力も大きくなり、新たに誕生した魔物が未熟であったことも影響して七英雄は人間同士の争いに介入する時代が到来した。

そこで1度、七英雄は本来の目的を見失ったのだ。

そんな中、魔物の脅威を感じ取り早期から魔物に目を向けていた者も居たが、奇異な目で見られ悲惨な末路を辿った。

そこから近代まで無警戒に魔物の発展を許し七英雄は茶番のような見せかけの戦いに現を抜かして発展が止まり、今や人間は滅びる寸前だ。

本来ならこの時が来るのはもっと先のはずだった。それを少しでも遅らせようと、何か打てる策はないかと考え継続的七英雄輩出計画が生まれたのだ。

結果として七英雄はカイゼル以外誕生しなかったが、それすらもやらなければ人類はもう滅んでいただろう。輩出できなかった=何の意味もなかった、100%失敗という訳ではない。施設で得られた研究結果が人間の力を押し上げたこともある。

いや、これは言い訳か。犠牲に対する成果は釣り合っていなかった。それに辛うじて今、対抗できるのもこの世代に強者が揃ったのとゼギウスの存在だ。施設のおかげではない。

考えに少し迷いが生じ始めると、皇国の奥の端へと着く。道中会話もなく夜通しで走り続けていたのもあり数日で着いた。

大きな門と柵に囲まれた広い庭があり聖堂や教会といった神聖さを感じさせる造りの建物が建っている。だが、廃れていて枯れ木が生え庭には所々に枯れたような雑草が生えていて、建物も廃墟になっていて所々崩落していた。

こんな施設が遺されているもいつしかの七英雄の会議を行っていた場所だからだ。儂よりも後の世代だから正確なことは分からないがそんな威厳は微塵もない。

直接見に来る機会はなかったから実態を知るにはいい機会だ。元老院に居たところでこの世界に直接干渉はできず、野放しになっている部分は大きかった。

カイゼルの言葉から実態がまともではないのは確かだ。

「ここには何もない。騙した?」

そう首筋に手を当てられる。カイゼルもここに来たことがあるのだろう。マルスも何回か足を運んでいた。それで調べても何も見つからなかったのだろう。

隠せる場所という意味でも七英雄や元老院が関係していると分かれば疑う場所にはなる。そうでなくとも一般人は踏み入らない場所で何かを隠すには最適だ。

だからこそ、調べられても気づかれないようにすればいい。

「ここで間違いない」

入り口で門に触れながら確認する。劣化や戦闘の跡によって様々な傷がついているが、その一部は故意につけられたものだ。

門に魔力を流すと傷から魔力が漏れ出す。そこから偽装ではない傷を見分け頭の中で繋げるとキツネの紋様になった。

こうやって魔力を流して浮かび上がる紋様によって転移した先にあるのか、この建物自体の見た目を魔力で偽装しているのか、地下や上空にあるのか、将又違う場所にあるのか等が分かる。

ふむ、ここは転移か。

「施設へ転移するから儂から離れるなよ」

今も背中に手を突きつけられ離れる様子はないが、念のために忠告をしてから手に魔力でキツネの紋様を描き《転移》と唱えて門を潜る。すると、さっきまでの廃墟とは変わり暗い地下のような場所に転移した。

そこへ着くなりカイゼルは奥へと走っていく。

思っていたよりも悪い環境だ。血生臭い臭いが鼻につく。よく見れば壁には血の跡がついている。

その血痕の魔力残滓から当時の情景が浮かぶ。ここを逃げようとした子供がここで行き止まり殺された。それを見てしまうとカイゼルが言っていた惨殺場というのも強ち間違いではなさそうだ。

通路を奥に進むにつれ血生臭さが強くなると、悲鳴のような声が聞こえてくる。それは子供の声ではなく大人の声だ。カイゼルがやったのだろう。

少し足を速めて声のする方へ行くと広間に出てカイゼルの姿が見えた。

カイゼルの目の前には悲鳴を上げただろう男性がいて、既に両足を捥がれて逃げられなくされていた。

「ま、待ってくれよっ!何なんだよ、お前は!助けて…何してるのか分かってるのか!」

状況が呑み込めていないのか男性は情緒不安に態度が変化する。それをカイゼルは冷たい瞳で見ていた。

「そんなことに興味はない。お前が無意味な快楽殺人をしてるから消しに来ただけ」

「ふざけんな!ここは未来の七英雄をつく___」

そこから先の言葉が男性の口から紡がれることはなかった。カイゼルが耐えきれず男性の首を飛ばしたのだ。

これでこの広間には儂とカイゼル以外誰も居なくなる。だが、奥にはまだ人の気配があり、カイゼルはそっちの方へ走っていく。それについて行くと戦闘訓練場のような場所に出た。

まだ2桁にも満たない歳の子供が傷も治っていない状態で戦っている。その動きはカイゼルに近いものがあり、互いに致命傷となる場所しか狙っていない。

だからお互いが負っている傷も深く、普通なら戦える状態ではない。

「もう戦わなくてもいい。もう辛い思いはしなくていい」

そうカイゼルが戦闘に割って入って2人を抱きしめるが、2人はそれを振りほどき無言でカイゼルを攻撃する。どうやら感情はとうに消えているようだ。

それをカイゼルは躱し続けていると、奥からここの管理人らしき男性がやって来た。

「誰だ、お前ら。ここに来れたってことは只者じゃねぇな。七英雄か?」

その声の男性の手にはモーニングスターが握られていて血がついている。その血は真新しく奥で何をやっていたかは考えるまでもない。

「元老院統括と言えば分かるか?」

「元老院…そうか。俺をここに閉じ込めたクソ野郎か!」

閉じ込めた覚えはないが、そう声を荒げると管理人はモーニングスターを振りかざして接近してくる。この件はカイゼルの手で終わらせるつもりだったが、カイゼルが子供の相手で動けない以上、自分で対処するしかない。

何より、ここまで実態が酷いと胸糞が悪い。報告だけ適当に都合を合わせていたようだ。この管理人も過去の七英雄という訳ではない。怒り方から察するに過去の七英雄にここに閉じ込められたのだろう。

目の前で振るわれるモーニングスターは魔力を纏って何もせずに受けると砕け散る。すると、今度は体術で仕掛けてきた。

「貴様も被害者なのだろう。七英雄が迷惑をかけたな」

そう相手の呼吸が切れるまで攻撃を受け続けると、頭を掴んで粉砕する。

流石にここまで腐っていると考えを改めざるを得なかった。
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