怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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127話

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2人の攻撃を躱し続けるがどうにもできない。軽く攻撃して意識を飛ばそうにも私がやってはそのまま殺してしまう。だからと言って戦闘を続けさせても体が危ない。この子たちは今も命を燃やして体を動かしている。

「《眠れ》」

そうゲンのスキルを唱える声が聞こえてくると2人とも力が抜けるように倒れて寝息を立てる。

「どういうつもり?」

これで恩でも売ったつもりなのだろうか、私への贖罪のつもりなのだろうか。どちらにせよ、腹が立つ。

「早く奥へ行きたいだけだ」

そう返答をしながらゲンは2人の手当てをしている。本当に何のつもりなのかが分からない。

「なら勝手に行けばいい」

「いいのか?儂が勝手に行けば証拠を消すかもしれんぞ?」

その余裕を持っているような言葉に怪しさを覚える。だが、ここが施設であることはこの光景と子供たちの動きからも間違いない。

眠った2人の子の手当てが終わると奥へ進む。奥からは人の気配を感じ、まだ生き残っている子がいるかもしれない。

分かれている道を血の匂いが新しい方へ進み扉を開けると、そこは人体研究をしていそうなベッドや器具の並ぶ部屋だった。奥には拷問用に見える戦闘には非効率な武器が並んでいて、道具を試されていたのか少女が磔にされている。

そこへすぐに駆け寄り意識の有無を確かめる。すると、浅いがまだ呼吸があった。だけど、私の応急処置では数分の延命ができる程度で何の解決にもならない。

「退け。儂が手当てする」

そうゲンは私を退かすと磔になっている少女を床に寝かせて手当てをしていく。それは私のできることよりも高度で、傷はすぐに塞がっていった。

「さっきからどういうつもり?謝罪?贖罪?媚び?」

「どう受け取るも好きにしろ」

答えるつもりはないようだ。と言うより、どう答えても私が疑うのが分かっているから答える意味がないと思っているのだろう。確かに何を言われても信用しない。

「お爺さんとお姉さんはどなたですか?手当てをしていただいたようですし…」

治療が終わるなり意識の戻った少女が私たちの方を見てそう聞く。この子はさっきの2人とは目が違う。

「助けに来た」

「そう、ですか……」

どこか複雑そうな表情で少女はそう言う。この表情が何を意味しているかは分かる。私が来るのが遅かったのだ。

「ごめん」

「いえ、でも、もう少し早く来てくれたらなって、ごめんなさい、贅沢言って。それにここから出たところで生きていけるのかなって思って…」

この子はこの環境に居ても外へ出ることを諦めていなかったのだろう。ここに居てはいけないと分かっていて、それでも自力では出られないし出ても外をあまり知らなければ不安に感じてしまう。その気持ちは私も味わったから分かる。

気持ちが分かるが故に少女の言葉は心に深く刺さる。何でもっと早く気づけなかったのだろう。何でもっと早く来られなかったのだろう。私が1番、ここの辛さと長くいることの弊害を分かっているはずなのに……

そう自責の念が止まない。だけど、後者についてなら少しは役に立てる。

「もっと早く気づいてあげられなかったのはごめん。私の力が足りなかった」

「いえ、助けに来ていただいただけでも嬉しいです…」

きっと最近、仲の良かった子が居なくなったり感情を失ったりしたのだろう。その気持ちは分かっても、何をしたところで言ったところで辛さは減らない。

「無理はしなくてもいい。だけど、外でも生きていけることは約束する」

「どうしてそんなことが言えるんですか!私の何を知ってるんですか!」

そう少女は激高する。下手な同情をされたと思っているのだろう。

「私もここと似たような場所で育った。私はある人に助けてもらって救われた。だから貴方もここを出ても生きていけるし私が支える」

その言葉を聞くと少女は年相応に泣きじゃくる。わんわん声を出し顔が崩れるほどに泣き始めた。

「どうして、どうしてもっと早く来てくれなかったんですか。もう少し早ければ31325641も…」

何も言い返せない。私にはただ「ごめん」と何度も謝りながら抱きしめることしかできない。

私もゼギウスに対して同じことを思った。中途半端に助けるなら何もしないでほしい。みんなと一緒になれた方がどれだけ楽だっただろう。

その時、ゼギウスに言われた言葉は覚えている。

「悪かったな。俺はお前の気持ちを分かってやれないし多分、お前はここで死んだ方が楽だった。だけど、俺がお前の前に現れて、こうして生き延びることには意味がある。俺はお前の気持ちを分かってやれないが、お前はその気持ちを分かってやれる。だから同じ思いをする奴を助けてやれ。俺にはできなかったことをやってやれ。それはお前にしかできないことだ」

その言葉に私は救われた。施設に居た記憶は思い出すのも辛いけど、私にとっては忘れたくないものだ。それを思い出す意味が生まれた。思い出せば私は目的を見失わず、生きることに意味を見出せた。

「もう大丈夫です」

少女に中てられてか当時のことを思い出していると女の方からそう言われて離す。少し心苦しいが聞かなければならないことがある。

「そう、なら聞きたいことがある。さっき大人を2人始末して子供を2人眠らせて治療した。それと貴方、他にも誰かいる?」

もう人の気配は感じないが隠れる場所や関係している人が居るかもしれない。

「ここにはいません」

「どういうこと?」

「明日、新しい子が来るのでその時に連れてくる人が居ます」

私の居た施設は闇商人が奴隷を含め大量に人を運んできていた。それと同じように闇商人のことを言っているのだろうか。

そう思っているとゲンが口を挟む。

「その者は元七英雄ではないか?」

「七英雄?新しい子を連れてくる時にしか来ないのでどんな人かは分かりません」

「この中に居るか?」

ゲンは魔力で20人近くの顔を浮かび上がらせると少女はそれを1人1人見ていく。どれも私の見たことのない顔だ。

「この人とこの人です」

そう少女は2人の顔を指す。

「そうか、礼を言うぞ。カイゼル、この2人の居所なら分かるが行くか?」

その問いにどう答えようか迷う。向こうからの提案、つまり施しを受けるということは自分の中でゲンを一定認めて許すということ。だけど、ゲンの手を借りず明日までに運び屋を探すのは現実的に無理だ。

明日、ここの外で待ち構えるのもいいかもしれないがこんな腐った場所には近づかせるべきではない。それに事前に薬の投与など今も何かされている可能性がある。

そう思うと答えは出た。自分のくだらない心情に左右されていい状況じゃない。

「この子たちはどうする?」

「連れて行っても後から迎えに来てもいい。それか先にここの内情を調べるのもいいかもしれないな」

そんなの決まっている。私の目的は同じ境遇の子を1人でも減らすことだ。

「ここを調べるのは後でいい。この子たちも連れてく。今は早く対処したい」

こういった施設は機密を守るために遠隔でも魔力起動や一定時間魔力が注がれないと爆発するシステムが搭載されている。だからここを調べてからでもと提案してきたのだろう。

確かにここを調べれば得られる情報は多いだろう。この施設で行われていたことや他の施設の情報、誰が関係しているのか等、知れることは多い。

だけど、それらは目の前の子たちよりも優先されることではない。

「そうか。カイゼルはこの子を儂はさっきの2人を担ぐ」

「私は自分で走れます」

「治療したばかりだ。無理をするな」

「分かりました。それで、あの、お姉さんたちの用事が終わってからでいのでお願いがあるのですが、いいですか?」

そう少女は遠慮がちに聞いてくる。自発的に何かを思うのはいいことだ。

「何?先に言っておいた方がいい」

「ここに居た人、全員の骨を外に埋めてほしいです。死んだ後もここにずっといるのはきっと辛いから」

「分かった。約束する」

そう不確かな約束をすると少女を背負う。さっきの場所でゲンが2人を担ぐと外に出た。
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