怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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128話

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外に出るなり少女の指した顔の持つ魔力を探す。少女に見せた顔は全員、元七英雄の継続的七英雄輩出計画に関係している者で昔と顔を変えた者たちだ。

だが、顔を変えようと魔力は変わらず、儂は歴代の七英雄の魔力を全て覚えている。

だからそれを頼りにこの辺り一帯の魔力から探していく。

それにしても継続的七英雄輩出計画がここまで腐っていたとは思わなかった。定期的な報告は入っていたし研究としての成果は一定上がっていた。

だから任せていたが、まさか職務放棄し他の者を閉じ込めて仕事を押し付けていようとは…。本来なら監視や第三者機関をつけるのだが、機密を重視し過ぎたが故にこういった事態を招いてしまった。

廃れても七英雄、そう思っていたがどうやら芯まで腐っていたようだ。

「見つけたぞ。ついて来い」

少女の言った顔の持つ魔力を見つけ走る速度を上げる。1人は外を歩いていて、もう1人は宿屋に居た。

外を歩いている方は人混みの中で面倒事になりかねない。だから先に宿屋の方から行く。

人の居ない道を選んで走っていき、対象の居る宿屋の裏に来る。逃走時のことを考えているのか対象のいる部屋は都合よく今いる裏側だ。

「2階のあそこの部屋に1人居るがどうする?」

「私が拘束する。だからこの子をお願い」

そうカイゼルは儂に少女を預けてくると、隣の建物の壁を蹴って2階まで跳躍して対象の居る部屋へ窓を割って入っていった。

ここからは魔力感知で部屋の中の様子を見る。

「誰だ!?」

そう窓の割れた音に振り返る男にカイゼルは正面から消えるように背後に回り込み口を塞いで喉に手を当てる。流れるような無駄のない手捌きだ。

「余計なことを喋ったら殺す」

カイゼルがそう言うと男はコクコクと必死に頷く。これが元七英雄とは情けない。

「明日、施設に連れて行く予定の子はどこにいる?」

「どこでそのことを___」

「余計なことを喋ったら殺すと言った。次はない」

「別の奴が受け取りに行ってる」

男がそう返答した直後、異変を察知する。男の魔力が下の階から感じたのだ。

「カイゼル、ここから離れろ!」

そうカイゼルに指示を出しながら子供たちを連れてその場を離れる。言葉で察知したカイゼルも男を捕らえたまま外に飛び出た。

宿屋そのものが木っ端微塵に爆発したが、何とか全員の退避できたようだ。合流するなり宿屋から離れた路地裏に場所を移す。

もう1人の元七英雄の魔力を追っているが、宿屋の爆発に気づいたのか慌ただしく動き始めた。向かう先には馬車があり、その中からは子供の魔力を感じた。

「カイゼル、もう1人の方が気づいて逃げるぞ」

独断で追うこともできるが、判断は全てカイゼルに委ねた方がいい。勝手に動くのは不要な疑いを招くだけで、この件の顛末はカイゼルに任せている。その上で、後処理は行う。

その報告を聞くなりカイゼルは思考する。

儂に対する信用と逃げられるまでの時間、この場をどうして、子供たちをどうするか。そういった様々な思考がカイゼルの頭を駆け巡っているのが分かる。

だが、判断する時間がある訳ではない。追跡に関しては魔力感知の範囲外に行かれても進行方向から再び範囲内に捉えることは可能だ。

しかし、子供たちが無事でいる保証はない。

「私には場所が分からない。捕まえてきて」

「儂でいいのか?」

「時間がないから仕方がない」

渋々といった感情が伝わってくるが、やむを得ない。信用がないのも人に頼む態度ではないのも今は呑み込もう。全ては儂の甘さ不甲斐なさが招いたことだ。

「そうか。子供たちはおいて行くぞ」

そう少女と2人の子を下ろしてもう1人の元七英雄の元へ向かう。

路地裏を走っていき既に出発した馬車を追っていく。どうやら馬車は施設ではなく魔界方面に向かっているようだ。

馬車の速度と近隣の道から通る道を計算して、回り込むと正面から道を塞ぐ。だが、逃げている馬車がその程度で止まる訳もなくそのまま突っ込んできた。

「愚か者が」

そこへ魔力の波動を飛ばして強引に止める。後ろに乗る子供たちに配慮して吹っ飛ばさずにその場に止める程度に威力は抑えた。

「あら、物騒ね。どういうつもりかしら?」

そう馭者をしていた元七英雄の女が降りてくる。風格はさっきの男よりもあるが、所詮はさっきよりも程度で大したことはない。

「先に轢こうとしておきながらよく言えるものだ」

「あら、飛び出して来た人を躱す方が危ないと思うのだけれど」

「戯言はいい。1つ、聞きたいことがある。何故職務を放棄した」

職務、その言葉に女は考えるような仕草をする。薄っすらと儂が何者か気づいているようだ。

「職務……貴方、何者なのかしら?」

「元老院と言えば分かるだろう」

「そう、元老院…貴方たち、狭い空間にしか居られない方には分からないでしょうね、目の前に自由があるのに囚われる辛さを」

その言葉に呆れてものも言えない。ここまで七英雄の質は落ちていようとは…短い時間しか触れない元老院では気づけないことが多いのが身に染みて分かる。

「元でも七英雄としての自覚がないようだな」

「貴方の時代がどうだったかは知らないけれど、誰も彼も人格者という訳にはいかないのよ。人類繁栄の糧になれ、そう言われてもね。私以外の誰かが担えばいい、そう思うのよ」

「そうか。もうよい」

今ので性根から腐っているのが分かった。一瞬にして距離を詰め、腹を殴って意識を飛ばす。本当は今すぐにでも始末してやりたいが、この件はカイゼルに委ねると決めたから抑える。

女を隣に寝かせると馬車を走らせてカイゼルの元へ戻る。

「戻ったぞ」

カイゼルの元に戻ると既に情報収集を終えた後なのか抑えきれなかったのかは分からないが男は首と胴体が離れていた。

「そう。元七英雄はどこ?」

「ここだ、好きにしろ」

そう言いながら隣に寝ている女の首を掴みカイゼルに向かって放り投げると、女は宙を舞いカイゼルの元に落ちる時には首と胴体が別れていた。

「子供たちは?」

「後ろに乗ってるが、眠らされている」

「薬とか投与された形跡は?」

「詳しく見てないから何とも言いかねるな」

「なら調べて」

そう指示をされて荷台に乗っている子供たちの様子を見に行く。ただ、依然信用がないのか本人も心配なのかカイゼルが食い気味についてくる。

荷台の中には鎖に繋がれた子供たちが眠っていた。首輪や腕輪には魔力吸収の魔道具が使われていて、眠っているのはその吸収量に対する疲労からだ。

「薬を投与された形跡はない。首輪と腕輪を外して休ませれば目を覚ますだろう」

そう教えるとカイゼルは首輪と腕輪を1つ1つ外していく。全て外し終わる頃には全員の寝息が穏やかになっていた。そこへ少女と2人も乗せて操縦席へ行く。

「この後はどうするんだ?」

「施設に戻って遺骨を回収する。それから他の施設に行く」

「他の施設からじゃなくていいのか?」

1人でも多く助けるという意味なら先に他の施設へ行った方がいいだろう。だが、カイゼルは表面的な助けるではなくしっかりと向き合って1人1人を助ける方を選んだ。

しかし、それは叶わないだろう。今頃、施設は爆発し消えている。

「約束したからできる限りのことはする」

それが叶わないと悟っているような言い方だ。それでもカイゼルは真摯に向き合う方を優先した。

その意を汲み馬車を動かして施設に戻ると、案の定、施設は跡形もなく消えていた。

その時のカイゼルが少女に「ごめん」と謝る表情は印象的で、その後に回った施設が頭に入らないほど衝撃的だった。
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