怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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おまけ あの戦いの続き3

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「仲間割れしてる余裕はテメェ等にはねぇんだよ!」

そう亀裂の入った3人に追い打ちをかけるようにグリードが仕掛けてくる。3人とも今この瞬間はグリードに割く意識がなく、完璧に不意を衝かれた。

そんな時こそシアンが前に出て対応しながら後ろのメナドールとエストがサポートする。

そうやって態勢を立て直すのだが、シアンの動き始めは更に遅くなった。動こうとした瞬間にこの2人にサポートを任せてもいいのだろうか、と余計な思考が頭を過ったのだ。

その中で最初に動いたのはゼギウスの生成した魔力体だった。

この状況を分かっていないはずのその魔力体は誰よりも早く前に出るとグリードの拳を受け流す。その動きはゼギウス宛らで、すぐさま状況を五分に戻した。

そこへシアンが加勢すると、グリードは流石に分が悪いと判断したのか援軍を呼ぶ訳ではなく退いていく。

今の魔力体の行動は3人に目を覚ませというゼギウスからのメッセージのようだった。

その行動にシアンは心を動かされる。今この場で何が起きようと自分に与えられた役目は変わらない。一方、メナドールの心は微塵も動かされなかった。

「これ、私の魔力。魔力が無くてもコンマ何秒なら私にも稼げると思うから」

そうメナドールはシアンの目の前に魔力体を生成する。元からメナドールは自分の役割を果たした後、ゼギウスの後を追うつもりだった。それほどまでにメナドールにとってゼギウスの存在は大きく重く、代わりの利かないものだ。

だからさっきの魔力体の動きを見ても何も変わらない。ここへ送られる最中に決めたことをただ忠実に熟す、今のメナドールにはそれだけだった。

その意思を汲み取ってかシアンがメナドールの魔力体を《暴食》で吸収しようとすると、横にもう1体、魔力体が生成される。

「私が時間を稼ぎます。だからメナドールさんは後ろで休んでいてください。それがアイツのやろうとしたことで私のしたいことです」

そう言うエストの目には強い覚悟の色が浮かんでいた。それはとてもさっきまで絶望していた者が見せられるような姿ではない。元々こうすると決めていた者の目だ。

「足止めなら我がやるのじゃ」

「アルメシアは弱いんだから引っ込んでて。私がやるよ」

ふらつきながらアルメシアとナナシが歩いてきてシアンたちの元に合流する。アルメシアが戦えるような状態ではないのは勿論のこと、ナナシも相変わらずスライムのような姿のままだ。

そんな状態で助からないのは分かっているはずなのに時間稼ぎの役を買おうとしている。

そんな全員の覚悟を前にシアンも決断した。

メナドールとエストの生成した魔力体を《暴食》で吸収すると、腰からクナイを取り出す。そのクナイで何をするかと思えばメナドールとエストを軽く斬りつけた。

クナイには《麻痺》が込められていて魔力の大半を魔力体に変えていたメナドールとエストは抵抗できずに倒れてしまう。シアンの意図に気づいたメナドールは恨めしそうな目を向けるが、シアンはそれを無視して顔を背ける。

「へぇ、余裕あるんだね」

「では、我等が足止めをすればよいのじゃな?」

2人はメナドールとシアンを助けるという選択に納得しているように自分の役割を確認する。だが、シアンの意図は違った。

「その必要はないよ。アルメシアたちにも眠ってもらうからさ」

そうシアンはアルメシアとナナシをクナイで斬りつける。メナドールとエストを斬りつけたのと同様に《麻痺》が込められていて2人は倒れた。

自分以外を行動不能にするとシアンはゼギウスの魔力体の元へ行く。ゼギウスの魔力体はシアンたちがこのやり取りをしている間もグリードの動きを警戒するようにグリードに体を向けていた。それを警戒してかグリードたちも手を出してきていない。

「ゼギウス…メナドールにシアン、アルメシア、それとナナシは無理かもしれないけどアンタの守ろうとしたものはちゃんと守るよ。だから先に待ってな。アタイもこの戦いが終わったら行くからさ。《暴食》」

そうシアンはゼギウスに通じていないと分かっていながらもそう約束すると魔力体に手を触れて《暴食》で魔力体を吸収した。

「投了ですって訳じゃなさそうだが、テメェがやられたらもれなく全員死ぬぜ?」

ゼギウスの魔力体が消えるなりグリードは再び仕掛けてくる。それを迎え撃つようにシアンも前に出ると衝突した。

「それに関しては問題ないね。さっき使った《麻痺》の効果は短いからアタイが勝とうがアンタが勝とうが決着のつく頃には全員動けるようになってるさ」

「それって100%勝つ自信がねぇってことだろ!《炎狐》」

様子見のような接近戦から先に仕掛けたのはグリードだった。《炎狐》を使うその様はシアンの出方を窺いながら甘い対応をするなら決めるといった意思が感じられる。

「《強食・序・狐火》」

シアンはただグラトニー、プライドを倒したこのスキルに自信があり使ったのだが、それが《炎狐》に対して刺さった。

《強食・序・狐火》によって生み出された火の玉は広がっていくと、《炎狐》で炎の体になったグリードに触れる。魔力に触れた炎の体は実体に戻るが、そうなることはグリード本人が分かっていたことだ。

実体に戻ったことを無視するようにグリードはそのまま接近すると《炎装・焔》を使って炎を纏う。

「そんな弱火じゃ攻撃にならねぇ、ぞ!」

「威力だけがスキルじゃないさ。《暴食》」

グリードの纏っている炎を《暴食》で吸収して無力化すると、そのまま向かってくる拳に対して横から手首の辺りを掴む。

「《強食・破・焼き豚》」

逃げ場のないグリードに炎のブタが襲い掛かるが、それをグリードは《炎狐》でシアンの拘束からすり抜けるように逃れる。そのまま躱すのかと思ったら逆に炎のブタに突っ込み実体に戻って攻勢に出た。

そこからは《炎狐》に対する絶対的な自信が窺えた。

「だからそんな弱火じゃ攻撃にならねぇんだよ!」

苛立ちを爆発させるようにグリードが攻撃に出ると、シアンは受け流しながら笑い挑発をする。

「アンタ、言葉だけで弱いね。早く他と代わりな。アンタじゃ相手にならないさ」

「そういうことは倒してから言えよ!」

「弱いとどこまで追い込まれてるのか気づかないとは滑稽さ」

そう更に挑発をする。その過剰なまでの挑発に前に出ているグリードではなく最後方にいるグリードが意図に気づいた。

「シアンの狙いは私たちを1つの体に戻すこと。さっきの2つのスキルは準備で次のスキルを受けた時に効果を発揮する」

「だってさ、聞こえた?」

後方から中継するように話が前に戻る。声は大きくなかったが良く通り聞こえていた。

「あぁ。見破られてたんじゃざまぁねぇな」

「それならアンタだけ先に倒す。《強食・急・狐豚》」

挑発の思惑を見破られるとシアンは割り切って目の前のグリードだけを倒そうとする。《強食・急・狐豚》で召喚した獣をグリードに向かわせた。

だが、意図の読まれた攻撃が何の偽装もなく当たる訳がなく「バカか」と言いながら簡単に躱される。

しかし、シアンの狙いは違った。目の前のグリードを通り過ぎた獣はシアンの目的に気づいたグリードの方へ一直線に向かっていく。

「止めて」

「はいはい。《散れ》」

そう最後方から後方のグリードへと指示が出ると簡易詠唱が唱えられる。通常のスキルよりも威力が落ちるはずのそのスキルは獣を霧散させた。

それはただ獣を霧散させたのではなく、シアンの勝利への道も霧散させた。
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