怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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おまけ あの戦いの続き4

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立場上、諦める訳にはいかないもののシアンの勝機は失われていた。

グリードが8体居るだけでもシアンの《強食》は相性が悪いのに1体を倒すことすらできなかった。その時点でシアンにはグリードを倒す術がない。

「ゼギウス、ごめん。アタイが2つの戦場を倒すのは無理みたいさ」

そうシアンは天を仰ぎながらゼギウスへ謝罪をする。

庭にも通じると確かな手応えを持っていたスキルが通用しなかった。それはシアンを絶望させるには十分過ぎた。

だが、この戦闘を諦めた訳ではない。

「この戦場は責任をもってアタイが倒すから、もう1つの方は任せるよ」

そうシアンは吸収した魔力体をそのまま内側から取り出す。さっきまでの《強食》はグリードが起こした爆発と《強食》自体で吸収した魔力しか使っていない。

それらの魔力体はメナドール、シアン、そしてナナシの元に返っていく。すると、3人は《麻痺》に対する抵抗力を持ち、解けかけていた《麻痺》は解けた。

麻痺が解けるなりメナドールは最初に立ち上がると怒りに満ちた表情でシアンに詰め寄る。

「何で私たちを動けなくしたの?」

そうメナドールが苛立ちを込めた声で聞く。

自らに課せられた責任と独り善がりを履き違え、七罪を2体倒したと思い込んでいる実績から傲りグリードも倒せると思ってしまった。

吸収した魔力を使わないなら本人たちに持たせたまま連携を取って倒せばよかった。その方が明らかに勝率は高い。それにグリードが8体もいるのに単独で戦うのは明らかな傲りだ。

そういった意味の込められた疑問にシアンは言い返す言葉がなかった。その通りだったからだ。

「ねぇ、答えてよ。ゼギくんはこんな独り善がりのために犠牲になったの?ふざけないでよ!」

言葉にしながら溢れる怒りを抑えられなくなりメナドールはシアンに飛びつく。が、それをエストが羽交い締めにするように押さえる。

「メナドールさん抑えてください!」

「離して!ゼギくんが命懸けで託したのに!こんな捨てるような真似許せない!」

「だーかーらー、テメェ等に仲間割れしてる余裕はねぇんだよ!」

そうグリードが不意を衝くように割り込んでくる。その対応にさっきと同じように3人とも遅れた。

今度は信頼がなかったからではない。シアン自身、メナドールの言う言葉に精一杯だったからだ。

「行かせないよ」

そうナナシがグリードを止めに入る。ゼギウスの魔力でできた魔力体を吸収したナナシは人型に戻っていた。

「体は万全ってか?」

「お前を消す程度にはね」

激しく体術で激突しながらナナシはグリードを足止めする。右へ左へと空間を広く使い仕掛ける側が変わりながら均衡を保っていた。

「メナドールさん!今は目の前の敵に集中しないと。この戦いに勝たないとアイツのやってきたことが全部無駄になります!」

その言葉にメナドールは止まる。怒っていたのが全てゼギウスから由来しているからこそゼギウスの想いを踏み躙るようなことはできなかった。

エストはそれが最低なことだと分かっていながらも今のメナドールを止めるにはそれしかないと思いその罪を犯した。

「この戦いに勝てなかったら許さないからね」

引き下がったとはいえ感情は別で、その声の冷たい感情にシアンは震える。

「う、うん。分かった。勝ってもその先はメナドールに任せるさ」

「そう。じゃあこの戦いは全部シアンに任せるよ。それがゼギくんの意向だから」

メナドールが落ち着いたのを確認するとエストは羽交い絞めを解き「ふぅ」と息を吐く。もし自分が止めていなかったら、そう考えるとエストはゾワッと体に震えが走った。

それほどまでにさっきのメナドールには底知れぬ恐怖があった。

「アタイが《炎狐》を引き出すからエストは《傲慢な禁止事項》で実体に戻してほしい。そこにアタイが《強食・急・狐豚》を当てる。それでグリードを1体は葬れる。だけど、直接狙っても防がれるから全体に序と破を植え付けたい。それをメナドールには協力してほしい」

「それなら私は誘導と囮になればいいんだね」

さっきまでの雰囲気が嘘かのように鳴りを潜めると、ようやく《麻痺》の解けたアルメシアも話に加わる。

「お主等、我のことを忘れておらぬか?」

「その状態で戦えるの?」

メナドールが聞くようにアルメシアはシアンの使った《麻痺》がようやく解けるくらいに魔力が残っていない。それは普通に考えれば戦えるような状態ではない。

「的になるくらいならできよう。魔力がなくとも《龍装》は使えるのじゃ」

「それなら《龍装》をしっかり練って完成したら加勢してほしいのさ」

「分かったのじゃ」

そう話しているとナナシが苦情の声を上げる。

「長いよ!いつまで時間稼げばいいの?」

その言葉に4人が顔を向けるとナナシはいつの間にか2体のグリードの相手をしていた。どうやら戦う気を失い最後方に下がったグリードがナナシの元気な状態を見て戻ってきたようだ。

それに気づかないほど4人は内々の作戦会議に集中していたのだろう。それほどまでにナナシの時間稼ぎを信用していたということでもある。

だが、流石に1対2の状況で長くは均衡を保てないと判断してシアンが指示を出す。

「エストとアルメシアは後方待機で。行くよ、メナドール」

シアンが飛び出すとメナドールも後追いで前に出ながら魔力体を生成する。

シアンが背後に来ているのを感じ取るとナナシは片方のグリード、後から戦闘に加わった方のグリードを釣って引き離す。すると、残った言葉遣いの悪いグリードは自然とシアンの方に誘導された。

「内輪揉めは終わったのか?」

「ナナシが十分に時間を稼いでくれたからね。でも、アンタ如きには興味もないさ」

そうシアンは《軽業》を使ってグリードとの接触を避けて奥にいるグリードの方へ向かう。それを行かせまいとグリードは回り込もうとするが、メナドールの魔力体が先回りして足止めをする。

「ならテメェから相手してやるよ」

メナドールの魔力体の核を一瞬で壊すと操作主であるメナドールの方へ向かう。だが、そこへエストが割って入る。

「アンタの相手は私がしてあげる。《彩槍・レイン》」

「いい度胸じゃねぇか!」

エストの槍とグリードの拳が衝突する。エストはやや押され気味だが、的確な間合いをとって致命傷をもらわないように食らいつく。そこへメナドールが魔力体でサポートすることで五分に変えた。

一方、奥へと向かったシアンは後方のグリードと対峙しようとしていた。

「《強食・序・狐火》」

「はぁ、何で私の所に来るかな。面倒くさい。《散れ》」

グリードは向かってくる火の玉を一瞬で霧散させる。その鼓動にシアンは安堵した。

さっきの攻防でシアンの目的には気づいたものの《強食》の効果については分かっていない。その事実はシアンにとって選択肢の幅を広げた。

敵は8体居る。それは積極的な思考、慎重な思考、そもそも思考しない、思考する必要がない、様々な人格があって、たまたま慎重な思考がその言動から過剰に警戒しただけ。まだ戦いようはある。

そう気の緩んだ一瞬をグリードは見逃さない。面倒くさがりだからこそ相手の見せた隙を的確に衝いて最小限の労力で終わらせる。

「撃って」

その他力本願な言葉は最後方にいる5体のグリードに向けられていた。この戦いが始まってから何もしていないように見えた5体のグリードに。

「《魂砲》」

そう最後方の5体が溜めていた魔力の球体を放出する。それは《風雷》のように高速で飛んできた。

「数は少ないけど、いつもより時間があったから《暴食》でも吸収できないよ」

それはシアンも悟っていた。この砲弾のような魔力の球体を《暴食》で吸収しても許容量を超えてしまう。それほどの魔力量だ。

しかし、警戒していなかった最後方からの攻撃ともあって距離があっても躱せない。

「《燃えろ》」

シアンは咄嗟にそう唱えていた。
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