怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

文字の大きさ
166 / 185

おまけ あの戦いの続き5

しおりを挟む
《燃えろ》と唱えたシアンの体を《魂砲》は貫通していく。だが、それによって生じた穴はすぐに塞がった。

「何それ…《炎狐》?」

自分のスキルと似たような現象にグリードは首を傾げる。だが、《炎狐》とは違うと分かっていた。

《炎狐》は体そのものを魔力に変えるが、今のシアンは間違いなく実体だった。それなのに何事もないように傷口は塞がれた。

不気味で現状だけを見ると《炎狐》の上位互換とも取れるスキルにグリードは対応を変える。

「予定変更、少し様子見するから任せた」

そう最後方に指示を出すと後方のグリードはシアンを目の前にして座る。そんなふざけた行動をシアンが許す訳がなかった。

「そんなことさせる訳___」

「《風雷》」「《地氷》」「《地雷》」「《火氷》」「《水雷》」

シアンが腰からクナイを抜いて無防備に座るグリードに攻撃しようとすると、最後方からシアンを妨害するようにスキルが唱えられた。

真っ先に向かってくる《風雷》を《軽業》で躱し、遅れて迫ってくる《地氷》を跳んで躱す。そこまでは順調だったが、着地際に《地雷》が迫っていた。それは広範囲過ぎて《軽業》を使っても躱せず、大地が割れて足を捕られると雷が亀裂に沿って流れてくる。雷が流れると割れた地面は固まり、身動きの取れないところに《火氷》の体を溶かされるような灼熱と体を芯から凍らせる冷気が押し寄せてきた。

それによって体中の細胞は死滅していく。だが、まだ終わらない。

残る《水雷》が死滅した細胞の間に水を流し込み感電させる。おおよそ、人間では耐えられない連続攻撃だった。

しかし、シアンの体は何事もないかのように再生していく。

「《強食・破・焼き豚》」

「はぁ、本当に面倒くさいなぁ。《散れ》」

諦めが悪く足掻くシアンにグリードがそう唱えるが、ブタの耳が霧散するだけで原型は保ったままだった。そのままブタはグリードの体に触れると、その内側を蝕む。

「あーあ、もう魔力がないや。私に激務を押し付けるからこうなるんだよ。集まって」

その言葉に最後方のグリードは集結すると、1つの体に集まる。その行動の意図がシアンには分からなかった。

集まると危ないと分かっていたはずなのに、自らグリードを集めた。それはシアンにとってこれ以上ないほどにおいしい状況だ。

これで一気に6体のグリードに《強食》の第二段階を植え付けた。

だが、そんなシアンの考えを見透かしたように目の隠れたグリードが表に出ると解説する。

「私たちの魔力体は各々魔力系統が違う。だから今、その毒を打ち込んでも私には効かない。毒に合わせて受け手を代えるだけでその毒は無力になる」

「敵の言葉なんて信じられないさ。《強食・急・狐豚》」

そう召喚された獣はグリードに向かっていくが、グリードに躱す様子はない。そのまま獣はグリードに当たる。

だが、宣言通り何事もないかのようにグリードは立っている。

「これで分かった?私たちの魔力に微細な毒を混ぜて取り込ませることで気づかせないつもりだったのかもしれないけど、私たちは違う人格の異物には気づく」

「じゃあ…じゃあ、どうしろっていうのさ!」

そうシアンはヤケクソのように腰からクナイを取り出し接近戦を挑む。

「《炎雷》、《風雷》、《水雷》、《地雷》」

近づくシアンに容赦なくスキルが降り注ぐ。だが、その全てが直撃してもシアンの体は再生していく。

しかし、それはシアンが望んでいるものには見えない。その顔は絶望と苦痛に塗れている。

もう勝機もなく死を受け入れたいのに、それすらも許されない。一種の拷問だ。

それでもシアンが接近を続ける限り絶え間なくグリードはスキルを放ち続けた。

シアンがグリードの体に届く距離まで足を進めた頃には100を超えるスキルを受けていた。それでもシアンは死を授かろうと前に進む。

「どれだけ苦しもうと、まだ死なせない」

シアンのスキルの効果を分かっているようにグリードはシアンの耳元で囁く。その言葉は本当なのだろう。グリードのスキルは1発たりともシアンの心臓を狙っていなかった。

「あぁぁぁぁぁあぁあぁあ!!!」

絶望に染まったシアンはクナイを振ればグリードに届くというのにクナイを手放すと膝から崩れ落ちる。

「面倒くさいから早く終わらせてよ。《散れ》」

急に表に出ている人格が代わるとシアンに止めを刺そうとする。止めを刺せる時に止めを刺す、それがこのグリードの信条だった。絶好の好機を逃せば立ち直り面倒くさいことになる可能性があるからだ。

しかし、その瞬間にシアンの口角が上がった。

「やっと出てきたさ。《強食・破・焼き豚》」

この時を狙っていたようにシアンはそう唱える。その瞬間、グリードの人格が代わった。

「猿芝居が利くと思った?」

炎のブタは人格の代わったグリードに受け止められる。だが、それはシアンの狙い通りだった。

「バッチリ利いてるさ。《強食・急・狐豚》」

違う人格に《強食・破・焼き豚》を植え付け、そのまま《強食・急・狐豚》を植え付ける。2体のグリードに第二段階である《強食・破・焼き豚》まで植え付けたことになり、最終段階の《強食・急・狐豚》がどっちに対する毒か択をかけにいったのだ。

今まで表に出てこなかったのは出したくない事情がある。そうでなくともとっさの判断は普段の手癖が出てしまう。だからどっちかの人格のはずだ。

「初めまして。私、グリードと申しますの」

しかし、グリードは更にその上をいっていた。今まで表に出てこなかったグリードに人格に代わったのだ。

「ご存じですの?手の内は必要になる時まで隠しておくものでしてよ。ですが、私という手を使わせたこと、褒めて差し上げますわ」

完全なる格上からの見下ろした言葉、それは口調も相まって格の差をまじまじと実感させる。

「一杯食わされたよ……だけど、それと戦いの結果は別物さ。《起爆》」

そうシアンは超至近距離で腰のクナイを全て《起爆》する。それは完全にグリードの不意を衝いたと思われた。

「《炎___

「《傲慢な禁止事項》」

___狐》」

グリードが《炎狐》を唱えようとするが、それは前方で違うグリードと戦っていたはずのエストによって発動を打ち消される。それをシアンは信じていた。

「《滅》」

爆発する中で、《暴食》も使わずにそう唱える。決めに行く一手だ。

それは炎の体になり損ねたグリードの体の大半を消滅させる。そこに《起爆》の爆発も加わってグリードの残っている体を吹き飛ばした。

その攻撃は完全にグリードの死角だった。シアンが唱えた《滅》はいつしかナナシに撃たれたスキルを分解して集約したものだ。微力な違う属性の滅から滅の部分だけを分離した。

グリードはシアンがナナシのスキルを吸収していたことを知らなかった。ましてや温存しているなんて夢にも思っていなかっただろう。

だが、シアンとて温存していたという訳ではない。最後の最後、この戦いに置いてはゼギウスの姿が浮かんだのだ。その姿は体内に残されたゼギウスのスキル、正確にはナナシが使ったものを思い出させた。

その前に上げた悲鳴でエストたちに合図をして気づかせて《炎狐》を使うように誘導したのだ。

そこまで含めて全てはシアンの手の上だった。

しかし、それは諸刃の剣でもある。

エストとメナドールは1体のグリードを足止めするのが限界だった。それなのにさっきのエストはずっとシアンの方に意識を向けていなければ間に合わないようなタイミングで《傲慢な禁止事項》を使っていた。

それは当然、メナドールの負担が増え、長くはもたない。

「くたばれ!《炎狐》」

そう残ったグリードの片割れがエストを攻撃しようとするが、メナドールは対応できない。そこへシアンは向かおうとするも、限界がきたのか体は足元から揺らめく炎のように消えてく。

誰がどう見ても絶体絶命の状況だ。それなのに当のメナドールは穏やかな表情をしていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

処理中です...