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おまけ 後処理1
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「遅れて申し訳ありません。帝国代表のメルダと申します」
そう青空の下、簡易的に用意された机を囲んでいる場にガルドスの奥方であるメルダが姿を現す。メルダは頭を低く下げて挨拶をすると空いている席、ベネッタの対面に座る。
この場所には皇国代表として代理でベネッタが、帝国代表として継承順位の都合で暫定帝王のメルダが来ている。他にもゼギウスを始めとする生存している七英雄とアルメシア、ナナシ、中立の情報提供者として闇商人、見学でララとルルがいた。
その中でメルダとベネッタ、七英雄が席に着き残りの人はゼギウスの後ろに立っている。
「じゃあ全員、揃ったし始めるぞ。まずは報告っていきたいところだが、皇国も帝国も代表が代わってるんだよな。どこまで知ってる?」
そう、この会議はこの戦いの後処理として各国の代表を集め、この戦いの顛末とこれからどうするかを話し合う場だ。
「皇国では最重要機密事項として扱われていたため私を含め皇国関係者は何も知らないだろう。だから1から説明して頂けると助かる」
「帝国も同じく。故ガルドスしか事情は知らないので発端の部分から存じ上げておりません」
その両国代表の言葉にゼギウスは露骨に面倒くさそうな表情をする。だが、説明しないことには始まらず見解の相違や事実に基づかないこと、ゼギウスしか知らないこともあるためゼギウスが自ら話す。
柱よりも上である庭という機関の存在。庭の目的と開戦理由、庭に置ける七英雄の戦い、そしてここでの戦いを端折って説明した。
それらを聞くとベネッタもメルダも難しい表情をする。当然だ、話の次元が違う。いきなり聞いて呑み込める内容ではなければ代理の身で処理していい内容でもない。
「代理の身で決断を下すことはできないな。この話は持ち帰らせて頂けないだろうか?」
「帝国はその判断の全てをゼギウス様にお預けしろとガルドスから遺言を賜っていますので事態の把握さえできればそれで構いません」
「まぁ、仕方ねぇか。なら経緯と両国及び七英雄の責任については後日ってことで。次に本題のこれからについて話し合うぞ」
ゼギウスが話を進めようとすると一気に空気が重くなり殺気のようなものが溢れ出る。その全てはメルダに向けられていた。
だが、メルダはそれに怯えている様子もなく真っ直ぐと向き合っている。
「皆様の考えているところは理解しています。今こうして生かされているだけでも感謝しなければならない身です」
「勘違いするな。貴様を生かしているのは帝国への報告の責務とこの戦いの責任についての話し合いが行われていないだけだ。刑が決まれば私がすぐにでもその首を斬ろう」
そうベネッタは今にも斬りかかりそうな圧を放つ。それでもメルダは怯まず「はい。分かっております」と表情1つ変えずに受け答えた。
しかし、その全てを受け入れている言動が癇に障ったのかベネッタは抜剣して斬りかかろうとする。が、それをゼギウスが止めた。
「止めろ。ここは話し合う場であって争う場じゃねぇ」
「ゼギウス様には申し訳ないが、皇国民ではない貴方に何が分かろう?ミレーネ様は他国からすれば七英雄の言いなりで帝国にいいようにされている暗君に見えていたのかもしれない。だが、私たちにとっては民に向き合う良き君主だった。だからあの者を許すことはできない」
ベネッタはついさっき言ったことも忘れ収まる気配がない。それだけミレーネが慕われていた証だろう。それは正論を言われたからと言って収まるものではない。
だからゼギウスは少し卑怯な手を使う。
「あのなぁ、別に俺は怒るなとは言ってねぇよ。だが、この場にいてお前よりも怒りたい奴が抑えてるのにお前が爆発させるのか?って言ってるんだよ」
そうゼギウスはララの方に視線を送る。そこで視線を向けられるのが予想外だったのか、ララは一瞬、きょとんとするが、すぐに意図を理解して真剣な表情に変えた。
ベネッタはゼギウスに誘導されてララの方を見るなり、その真剣な表情に自分のしてしまったことの重大さに気づく。
自分よりミレーネに近い立場のララがこの場の意味を理解して抑えているのに、ララよりも関係が遠く皇国の代表として来ている自分がそれを壊そうとしている。
ベネッタはその無責任さに気づくと剣を納めて席に着く。
「申し訳ありませんでした。この場に相応しくない言動をしました」
そうベネッタはメルダに対しては勿論のこと、ゼギウスに向ける訳でもなくララに向けて謝罪をする。
しかし、ララはそんなことを思っていなかった。
ララとしては多少思うところがあっても既に縁を切った身だ。そのため近くにいる期間、関係性を見てもベネッタが自分よりも怒るのは当然だと思っていた。
だからゼギウスの視線の意図を汲み取って乗っただけでベネッタが怒りを露わにしたことに関しては何も思っていない。
それでもララのおかげで場が静まるとゼギウスが話を再開する。
「話を戻すが、これからについて俺から1つ提案がある。今回の戦いでも分かったと思うが、自国が有事の際に他国にまで気を遣うことはできねぇ。現状、旧王国領は穴でしかない。旧王国領を突破されれば皇国も帝国も正面と横から衝かれて一網打尽だ。だから王国を再興する」
その提案に対する帝国と皇国の反応は意外なものだった。
「私は意見する立場にないのでお任せします」
「王国方面の戦力が不足していたことには同意しよう。軍を保有している訳でも冒険者が充実している訳でもない。だが、この戦いに置いて見るのであれば王国方面は穴になっていない。それどころか前線を築く基準になっていたと言っていいだろう。そのため、穴ということは認めるが今回の件を理由に再興するのには反対だ」
国としての関係値を見れば王国と皇国の仲は良好だった。加えて、王国が再興すれば帝国との間の緩衝地帯となり帝国と接する土地が減る。
一件、皇国にとっては良いこと尽くめに見えるが皇国はこのゼギウスの提案に否を突きつけた。その理由をゼギウスは探ろうとする。
「これからも魔物の進攻は続くぞ。その度に致命的な穴を残したまま対処するのか?」
「だからこそ今ではないと思っている。この戦いとは違い七英雄が人間界に残っているため対応できると考えている。それに今から王国を再興すると言って始めたとしても機能するのは早くても数年後だ。それまで帝国や皇国からも援助が必要になるだろう。だが、そこに割くくらいなら自国の復興に充てたいと考えている」
その返答でゼギウスはベネッタの意思ではなく皇国として金銭支出に関しては呑むなという統一見解が出ているのだと悟る。
だが、七英雄が人間界に残り対応するとしても全域を守るのは不可能だし所属している国の防衛に充てるのは目に見えている。だからといって旧王国領の民の避難を受け入れてくれる訳でもないだろう。受け入れる気があるならその意思を発言しているはずだ。
つまり、遠回しに旧王国領に住む民を犠牲にすると言っているのと同義で、そんな言葉をルルが呑み込める訳がなかった。
「王国領の民は犠牲になれと言っている?」
「これは優先度の問題だ。現状、全てを守り切るのは不可能だろう。王国領の民を救うために手を差し伸べて皇国の民を守れなくなっては本末転倒であり皇国民に示しがつかない」
こう言われてはルルには何も言い返せない。現状、王国が再興していなければルルは王国代表でもない。だから正式に王国民の避難の受け入れを頼むことができなければ有効的なお願いをする手段も持ち合わせていない。
それを理解したルルは唇を噛み締めるしかなかった。
そう青空の下、簡易的に用意された机を囲んでいる場にガルドスの奥方であるメルダが姿を現す。メルダは頭を低く下げて挨拶をすると空いている席、ベネッタの対面に座る。
この場所には皇国代表として代理でベネッタが、帝国代表として継承順位の都合で暫定帝王のメルダが来ている。他にもゼギウスを始めとする生存している七英雄とアルメシア、ナナシ、中立の情報提供者として闇商人、見学でララとルルがいた。
その中でメルダとベネッタ、七英雄が席に着き残りの人はゼギウスの後ろに立っている。
「じゃあ全員、揃ったし始めるぞ。まずは報告っていきたいところだが、皇国も帝国も代表が代わってるんだよな。どこまで知ってる?」
そう、この会議はこの戦いの後処理として各国の代表を集め、この戦いの顛末とこれからどうするかを話し合う場だ。
「皇国では最重要機密事項として扱われていたため私を含め皇国関係者は何も知らないだろう。だから1から説明して頂けると助かる」
「帝国も同じく。故ガルドスしか事情は知らないので発端の部分から存じ上げておりません」
その両国代表の言葉にゼギウスは露骨に面倒くさそうな表情をする。だが、説明しないことには始まらず見解の相違や事実に基づかないこと、ゼギウスしか知らないこともあるためゼギウスが自ら話す。
柱よりも上である庭という機関の存在。庭の目的と開戦理由、庭に置ける七英雄の戦い、そしてここでの戦いを端折って説明した。
それらを聞くとベネッタもメルダも難しい表情をする。当然だ、話の次元が違う。いきなり聞いて呑み込める内容ではなければ代理の身で処理していい内容でもない。
「代理の身で決断を下すことはできないな。この話は持ち帰らせて頂けないだろうか?」
「帝国はその判断の全てをゼギウス様にお預けしろとガルドスから遺言を賜っていますので事態の把握さえできればそれで構いません」
「まぁ、仕方ねぇか。なら経緯と両国及び七英雄の責任については後日ってことで。次に本題のこれからについて話し合うぞ」
ゼギウスが話を進めようとすると一気に空気が重くなり殺気のようなものが溢れ出る。その全てはメルダに向けられていた。
だが、メルダはそれに怯えている様子もなく真っ直ぐと向き合っている。
「皆様の考えているところは理解しています。今こうして生かされているだけでも感謝しなければならない身です」
「勘違いするな。貴様を生かしているのは帝国への報告の責務とこの戦いの責任についての話し合いが行われていないだけだ。刑が決まれば私がすぐにでもその首を斬ろう」
そうベネッタは今にも斬りかかりそうな圧を放つ。それでもメルダは怯まず「はい。分かっております」と表情1つ変えずに受け答えた。
しかし、その全てを受け入れている言動が癇に障ったのかベネッタは抜剣して斬りかかろうとする。が、それをゼギウスが止めた。
「止めろ。ここは話し合う場であって争う場じゃねぇ」
「ゼギウス様には申し訳ないが、皇国民ではない貴方に何が分かろう?ミレーネ様は他国からすれば七英雄の言いなりで帝国にいいようにされている暗君に見えていたのかもしれない。だが、私たちにとっては民に向き合う良き君主だった。だからあの者を許すことはできない」
ベネッタはついさっき言ったことも忘れ収まる気配がない。それだけミレーネが慕われていた証だろう。それは正論を言われたからと言って収まるものではない。
だからゼギウスは少し卑怯な手を使う。
「あのなぁ、別に俺は怒るなとは言ってねぇよ。だが、この場にいてお前よりも怒りたい奴が抑えてるのにお前が爆発させるのか?って言ってるんだよ」
そうゼギウスはララの方に視線を送る。そこで視線を向けられるのが予想外だったのか、ララは一瞬、きょとんとするが、すぐに意図を理解して真剣な表情に変えた。
ベネッタはゼギウスに誘導されてララの方を見るなり、その真剣な表情に自分のしてしまったことの重大さに気づく。
自分よりミレーネに近い立場のララがこの場の意味を理解して抑えているのに、ララよりも関係が遠く皇国の代表として来ている自分がそれを壊そうとしている。
ベネッタはその無責任さに気づくと剣を納めて席に着く。
「申し訳ありませんでした。この場に相応しくない言動をしました」
そうベネッタはメルダに対しては勿論のこと、ゼギウスに向ける訳でもなくララに向けて謝罪をする。
しかし、ララはそんなことを思っていなかった。
ララとしては多少思うところがあっても既に縁を切った身だ。そのため近くにいる期間、関係性を見てもベネッタが自分よりも怒るのは当然だと思っていた。
だからゼギウスの視線の意図を汲み取って乗っただけでベネッタが怒りを露わにしたことに関しては何も思っていない。
それでもララのおかげで場が静まるとゼギウスが話を再開する。
「話を戻すが、これからについて俺から1つ提案がある。今回の戦いでも分かったと思うが、自国が有事の際に他国にまで気を遣うことはできねぇ。現状、旧王国領は穴でしかない。旧王国領を突破されれば皇国も帝国も正面と横から衝かれて一網打尽だ。だから王国を再興する」
その提案に対する帝国と皇国の反応は意外なものだった。
「私は意見する立場にないのでお任せします」
「王国方面の戦力が不足していたことには同意しよう。軍を保有している訳でも冒険者が充実している訳でもない。だが、この戦いに置いて見るのであれば王国方面は穴になっていない。それどころか前線を築く基準になっていたと言っていいだろう。そのため、穴ということは認めるが今回の件を理由に再興するのには反対だ」
国としての関係値を見れば王国と皇国の仲は良好だった。加えて、王国が再興すれば帝国との間の緩衝地帯となり帝国と接する土地が減る。
一件、皇国にとっては良いこと尽くめに見えるが皇国はこのゼギウスの提案に否を突きつけた。その理由をゼギウスは探ろうとする。
「これからも魔物の進攻は続くぞ。その度に致命的な穴を残したまま対処するのか?」
「だからこそ今ではないと思っている。この戦いとは違い七英雄が人間界に残っているため対応できると考えている。それに今から王国を再興すると言って始めたとしても機能するのは早くても数年後だ。それまで帝国や皇国からも援助が必要になるだろう。だが、そこに割くくらいなら自国の復興に充てたいと考えている」
その返答でゼギウスはベネッタの意思ではなく皇国として金銭支出に関しては呑むなという統一見解が出ているのだと悟る。
だが、七英雄が人間界に残り対応するとしても全域を守るのは不可能だし所属している国の防衛に充てるのは目に見えている。だからといって旧王国領の民の避難を受け入れてくれる訳でもないだろう。受け入れる気があるならその意思を発言しているはずだ。
つまり、遠回しに旧王国領に住む民を犠牲にすると言っているのと同義で、そんな言葉をルルが呑み込める訳がなかった。
「王国領の民は犠牲になれと言っている?」
「これは優先度の問題だ。現状、全てを守り切るのは不可能だろう。王国領の民を救うために手を差し伸べて皇国の民を守れなくなっては本末転倒であり皇国民に示しがつかない」
こう言われてはルルには何も言い返せない。現状、王国が再興していなければルルは王国代表でもない。だから正式に王国民の避難の受け入れを頼むことができなければ有効的なお願いをする手段も持ち合わせていない。
それを理解したルルは唇を噛み締めるしかなかった。
応援ありがとうございます!
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