怠惰すぎて冒険者をクビになった少年は魔王の城で自堕落に生活したい

桒(kuwa)

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混沌と化した会議は全てがゼギウスにとって都合の悪い繋がり方をしていく。

この戦いはガルドスやミレーネを死なせ人間界を支配しやすくし、目的に気づいた邪魔な七英雄を排除するためのもの。そしてこの会議でゼギウスが提案している王国の再興は2国を衰退させながら人間界を支配する基盤を作るためものだと。

それらを裏付けるようにユーキやラクル、他にもグラにマルス、この戦いでカイゼル、シアン、レイブンと短期間で例を見ないほど大勢の七英雄が亡くなっていた。

その中でも七英雄の統括をしていたマルスと皇国にとって親交の深いシアンの死は大きく影響していた。

そんな事実とは真逆の真実が形成されていく中、ゼギウスは何も言えないでいた。

単純に反論する材料を持ち合わせていないのと、自分が何を言ったところで余計に疑心を増すだけだと理解しているからだ。それに呆れていたというのもあるのかもしれない。

ゼギウスは悲しそうで悟ったような複雑な表情をしていた。

そんなゼギウスの表情を見てララとルルは黙っていられなかった。これまでゼギウスが何をしてきたかを近くで見ていた2人に黙っていられる訳がなかった。

「ゼギウス様はそのような方ではありません!」

「そう。いつだって私たちや人間界、世界のことを考えて動いていた」

証拠がないから2人はせめて精一杯の想いを込める。

だが、証拠の伴わない言葉には力がなく誰も信じようとしない。それどころか見苦しい抵抗をしているようにしか見えていなかった。

「その反応、図星のようだな」

「事実だと言うなら証拠を出してみろ!」

水を得た魚のように皇国代表として来ている男性たちは非難する。

こうなると分かっていたからメナドールも闇商人も何も言わなかったのだ。2人と同じように辛くても、その気持ちを前に出すとゼギウスに迷惑を掛けることが目に見えていた。

しかし、そういった反応だけでなく僅かに心が動かされた者も居た。

「レイネシア様……」

そう心の揺らぎを表すようにベネッタの瞳が揺れた。そこに希望を載せるようにララは言葉をかける。

「ベネッタ、貴方なら分かってくれますよね?ゼギウス様がそのような人ではないと」

「レイネシア様の御言葉である以上、信じたい気持ちはあります。ですが、無条件で見過ごせるほど事は軽くありません」

机の下で拳をギュッと握り締めながらベネッタは見放すように目を逸らす。これが私情の場であったなら信用していただろう。

しかし、国を背負ってこの場に居る以上、感情に身を委ねることはできなかった。

状況が悪くなるのは止まるところを知らず、今のやり取りが状況を更に悪くする。

「レイネシアだと…?ミレーネ様の御子の名を騙るとは許し難い!」

「そうだ!王国再興の次は皇国を乗っ取る算段だったのだな!昨日は帝国の代表にもなったと聞いたぞ」

そう皇国側で話が盛り上がっていく。それはもう何を言おうと説得できるような雰囲気ではなく、ララと直接話してレイネシアだと思っていたベネッタも偽物なのかと疑い始める。

だが、そこに敢えて一石を投じる者が居た。

「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、意見を言わせていただきます。私は七英雄の方が裏切っているというのは考えにくいと思っています」

それは帝国民を守るためのものだろう。七英雄が存在して罪が軽くなることで帝国民は今までと大差ない日常を送ることができる。

そんなゼギウスの事を直接は思いやっていないような言葉だからこそララやルルの言葉よりも説得力があった。

「どういうつもりだ!ガルドスもこの者たちに殺されたのかもしれないのだぞ?」

「それはありません。私はガルドスが戦場に向かう前に直接、遺言を賜っております。それは自らの判断の失敗を認めて少しでも帝国民に迷惑を掛けないよう考えていました。その言葉からは嘘も言わされているような恐怖も感じませんでした」

その言葉にベネッタの心は再び揺らぐ。元々レイネシアの生存を信じたい気持ちが強いためその可能性が少しでも強くなって傾いたのだろう。

しかし、それは希望的観測を抱いていたベネッタだけで他はより疑いを強くする。

「ガルドスの後ろに居ただけの奥方に何が分かる!七英雄がいれば帝国の罪が軽くなると保身に走っているだけだろう!」

「そう思われるのも仕方がありませんが、冷静に考えてみてください。もしゼギウス様を始めとする七英雄の方々が人間界を支配するなら先日の戦いに乗じて私たちを含め国の上層部を全員始末すればいいだけです。そうすれば民衆の支持は自然と七英雄に集まります」

「それは我々を始末する隙が無かっただけだろう!」

認めたくないとばかりに男性は声を荒げ続けるが、メルダも負けていない。

「図に乗るのも大概になさい!ミレーネ様の暗殺という隠密に七英雄を半数も始末する力、それらを持っているのなら貴方方を始末するのは造作もありません。それとも貴方方の警備はミレーネ様よりも厚く七英雄の方よりも強いのですか?」

それは皇国側の誰もがぐうの音が出ないほどの的確な指摘だっただろう。だが、男性は何か認めたくない事情があるように論点を逸らして声を荒げ直す。

「図に乗っているのは貴様の方だ!それならレイネシア様と同じ名を持つそこの女は何だ!まさか偶然だとは言わないだろうな!」

「実の御子なのでしょう。それは昨日の証拠映像よりガルドスの反応やレイネシア様の発言で証明されています。事前に会議が行われることが分かっていたのですからガルドスは調査を抜かりなく行ったはずです。その上でレイネシア様として対応しているのが何よりの証拠です」

「それこそ憶測ではないか!レイネシア様は亡くなったのだ!それはシアン様や大勢の冒険者が捜索して尚、見つからなかった事実が証明している!」

そこまで否定されると今度はベネッタが黙ってはいられなかった。

「亡くなってなどいない!その御方は紛れもなくレイネシア様だ!それは直接、会話した私が分かっている!」

「ベネッタ、気でも狂ったのか!今更、出てきた偽物をおいそれと信用するというのか!」

「私は自分の目で見た事実を基に判断する。シアン様が皇国所属に戻った日、ゼギウス様が七英雄統括の地位に就いた日、ミレーネ様は嬉しそうにしていた。それは今にして思えばレイネシア様と会ったからなのだろう。それを含めて私はその御方がレイネシア様だと判断した」

ミレーネのことを思い出しているのか天を仰ぎながらベネッタはそう言う。そこからは決定的な証拠が出ない限りベネッタの見解が変わらないという意思の固さが表れていた。

このやり取りを見てメルダはベネッタと他の皇国代表は違うのだと思い思い切った行動に出る。

「この方々が何故、ここまで頑なに認めないのかその理由をお話しします」

メルダがその先を言おうとすると疚しいことがあるように皇国代表の男性たちは「貴様に何が分かる!」「また憶測か!」と声を荒げる。

しかし、そんな怒声にも臆さずメルダは続けた。

「私はここに居る皇国代表の方々から内密に金銭の取引を持ち掛けられました。その額は帝国の軍事費5年分ほどで、対価は私がいなくなった後も帝国を攻めないというものです。しかし、先程からの反応を見るに反故にするつもりだったのでしょう。それなら私にも出方があるというものです」

その言葉を認めないように皇国代表の男性は反論するが、ここまで過剰に否定する姿を見てきたベネッタが簡単に信じる訳もなく会議を二転三転させる。
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