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5話「龍の峡谷」
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2日目、初日と同じように7時30分にホールに集まりスフィアの中に入る。
昨日と同じように白い空間で操作練習の時間が与えられ、6タイトル時代に使っていたスキルの連携を試していると時間が来てALONESTに飛ばされる。
ここまでは昨日と同じだったが、ALONESTに飛んでからは少し違う。ログアウト前の操作を追体験してから再開される。これは戦闘中にログアウトを挟んだ場合に対応が難しくなるのを解消するための措置だ。
追体験中は当たり前だがその時の視線のままで違う場所を見ることはできない。それでも視界内で注視する場所は変えられるから意外と新しい発見があるかもしれない。だが、体は操り人形のように動かされているような感覚になる。今は移動中で大した会話もなくゴンドラから外の景色を眺めているだけだが肘が勝手に動いた。
城を出てからフィリアとは一言も話しておらず正直気まずい。昨日の時点で大分気まずかったが、こっちは1度ログアウトを挟み緊張感が解けているためこの空気に耐えられない。
どこか落ち着かずソワソワとしているとフィリアに話しかけられる。
「JOKER様、1つ気になっていたのですがどうして爺様と私に対してと母様に対してとでは喋り方が違うのですか?」
何を言われるかと身構えたがそんなことか。落ち着かない俺に気を遣ってくれたのだろう。
「戦闘中は取り繕う余裕がなく素が出てしまっただけです。途中で変えるのも違和感がありそのままになってしまいました。無礼ということでしたら以後、リア様の前でも気を付けます」
「逆です。私と爺様にも素の話し方で構いません」
「なら、ありがたくそうさせてもらう。それで修行の地ってどんなとこなんだ?」
フィリアからの提案に少し空気が緩む。その提案をしてくれて助かった。あの話し方を続けるのは結構負担だったが、そんなことに体力は使いたくない。
話し方を変えるのを試すのにありきたりな質問をする。
「そうですね。今向かっているのは私たち龍人が名を授かるための修行の地、龍の峡谷です。化物の巣窟で下へ行けば行くほど化物が強くなる所謂ダンジョンですね。3合に到達すると名を貰えるのでそこを目指す方が多いです」
「へぇ、名前を貰う前はなんて呼ばれるんだ?」
「種族名でもあるドラガです。私や姉様は生まれた翌日に峡谷へ投げ込まれそのまま3合に到達したのでドラガと呼ばれたことはありませんが」
それを聞いて獅子は我が子を千尋の谷に落とすというのを思い出した。実際、この戦闘狂国家だと同じ発想をしてそうだ。
「今だと何合目まで行けるんだ?」
「最近は立ち入ってないので分かりませんが最高到達は6合目です。姉様は10合、母様は1度入った際に化物を全滅させて立ち入り禁止になったと聞いています」
ある程度力関係を量るために聞いたが聞かない方が良かったかもしれない。間違いなくフィリアとリアの間の溝はこの力関係だ。何も気にしていないように冷静で落ち着いたような声音で話しているが何かにつけてリアとソーマを引き合いに出すのがその証拠だ。
なんというか、再び気まずくなり沈黙が訪れると思われたが幸いなことにゴンドラは目的地へ着いた。
「こちらです」
ゴンドラを降りてフィリアの広げる手の先を見ると、そこには1つの山に亀裂が入ったような何かの足跡にも見える峡谷があった。
高地から見ているためその全貌が見えるが、1つ1つの亀裂を境界に属性が分かれているように山肌の色が違う。それがオーロラのように揺らめいていて神秘的で、観光地と言われてもおかしくないほどに現実にあるなら見に行きたいほどに美しい。
思わず「おぉ~」と感嘆の声が漏れてしまう。するとフィリアは嬉しそうに笑う。
「綺麗ですよね。私もここから見えるこの景色が好きです。でも中に入ったらもっと凄いですよ。これだけ美しく強さも与えてくれる。成長して帰る時にはまた違って見えて一段と綺麗に見えますよ」
結局は強さに結びつくのかと内心で呆れ笑いをしながらも、身を乗り出しまるで自分のことのように自慢気に話すその様子からは本当に好きだという気持ちが伝わってくる。ソーマは知らないがリアはこういったことに興味なさそうだしジークもフィリアに合わせて適当なことを言う姿が思い浮かぶ。だからこうやって俺が興味を持ったことが尚更に嬉しかったのだろう。
「こっちに来てください」
そう手を引かれ小走りで峡谷の入り口に連れていかれる。
しかし、入り口まで来ると戦闘モードに入ったのか真剣な面持ちに変わる。
「ここから先は化物が出るので戦闘の準備をしてください」
フィリアの言うここから先には段差という明確な線引きがあり、そこから先は下り坂になっている。
「武器よ」
右手に死神の大鎌を呼び出して足を1歩踏み入れる。するとデバフがかかったように体が少し重くなる。ステータスを確認するとレベル1だが行動デバフがかかっていた。
このデバフが修行の地たる所以の1つだろう。さして行動に支障が出るほどでもないが少し慎重目に頭を切り替える。指を動かして《索敵》を発動し孤立している化物の方へ足を進める。
雄叫びを上げながら飛び出してきた獣型の化物を斬ると一撃で化物は散っていった。
その雄叫びに釣られて次々と化物が集まって来る。それらを全て一撃で斬り捨てていく。
1合目ともあって出てくる化物は大して強くはない。解析したところレベルは200前後でステータスも6タイトルの化物と大差ない。ここからどの程度の頻度と高さで化物のレベルが跳ねていくかは分からないが武器の扱いを慣らすならこのくらいが丁度いい。
縦横斜め、様々な角度での斬り方による攻撃に化物の攻撃を武器で受け止める防御といったスキルを使わない操作を練習する。後のことを考えれば武器の扱いは早い内に慣らしておかなければならない。
今まではジークにゼルガ、リアと余裕のない戦いが続いて確認する暇もなかったが、ようやくメニューウィンドウを開いてステータスの確認を始め6タイトルとの差を探しながら練習ができる。
ティ・ルナノーグでは600レベルがカンストで経験値ゲージは溜まり切っていたが、今は1ドット埋まったか埋まっていないかに変わっている。それはレベル上限が上がったことを意味しているが何レベル上限が上がったのかは分からない。6タイトル時代はタイトル毎に100の上昇、それを基準に考えるなら700レベルが上限になるが、リアの強さを考えるに特別なシステムでもない限りレベル差が200はあった。
あの強さはダメージの通らなさからエリア限定の特別システムやパッシブのようなものを感じさせるが前者は会話からもあり得ない。後者もスキルを使わなかったことから単純なレベル差と考えた方が納得できる。ステータス上昇の代償にスキルが使えなくなるスキルという可能性もあるが、それは個対集のようなSP消費を抑えたい場合には有効かもしれないが1対1の戦いなら流石にスキルを使えた方が強い。
そうなると単純にレベル上限が大幅に上がったということになる。なら必要になるのは効率のいいレベル上げ……
色々と考えるべきことがあり、やれることが増えたことに興奮が抑えられない。
勢いのままに化物を斬り捨てていくといつの間にか周囲に化物の気配はなくなっていた。
「JOKER様はその……武器の扱いが上手くはありませんが前の世界では違う武器を使っていたのですか?」
少し間を空けて聞きにくそうにそう聞いてくる。
今の武器の扱いはお世辞にも上手いとは言えず、それは一方的に攻撃している今だからこそ基礎の無さ、粗さが目立つ。だから当然抱く疑問ではある。
しかし、それは少し困る質問だ。
メタな話をすれば説明はできる。だが、それでは伝わらないだろうし、何よりロールプレイにメタを入れるのは好きじゃない。
「前の世界には加護っていうのがあって大雑把に振ってもどうにかなってたんだよ。まぁ、どのくらい違うか説明するなら今まで手で使ってたのを足で使うくらいには感覚が違うな」
「加護…その世界独特の力でしょうか?それが世界の理なのかこの世界で言う精霊のようなものなのかは分かりませんが、手と足ほどに差があるなら大変ですね。ですが、同時にそれ程のハンデを抱えながら父様を倒し母様に認められるとは驚きです。益々、本来の強さのJOKER様と戦ってみたくなりました」
こんな適当な言い分を納得しようとするあたりただのお人好しか見分が広いのか。そんなことはどうでもいいが、その後の言葉が気になる。今ではなく本来の強さを取り戻してからとわざわざ言うということは今の段階だとフィリアの足元にも及ばないのか。そうなると道のりは長いな。
フィリアを甘く見ている訳ではないがフィリアを前哨戦程度で倒せるようにならないとリアとは戦いにすらならない。それはフィリアの言葉からも疑いようがない。
まだ上がいて挑戦者でいられる。それはゲームでは久しく味わっていない感覚で、その喜びが気分を昂揚させ更に足取りを軽くした。
1度ログアウトを挟んで3日目、化物を斬り続けてようやく1レベルが上がったところで空を見上げると日が暮れ始めていた。
「JOKER様、日が暮れてきましたがどうしますか?低層とはいえ2人で野営は少し危険なので街へ行った方がいいと思いますが、宿に何か要望はありますか?」
確かに2人での野営は面倒だ。警戒している時間も自分が休んでいる時間も行動が限られる。元々戦闘面以外の試したいことはフィリアが寝ている間にやろうと思っていたのだからこの提案には乗りたい。
しかし、問題がある。
「少し待ってくれ」と言ってメニューウィンドウを開きゲーム内通貨を確認する。エル・ドラードコイン、オフィールコインといった各タイトルの名前の後ろにコインがついたものしかない。それらは全て億の単位で持っているがALONESTでは使えそうもない。
要するにALONESTでは文無しなのだ。
「アイテム、ティ・ルナノーグコイン」
ダメ元ではあるがティノーグ対応しているティ・ルナノーグコインの入った小袋を出す。その無限に広がる小袋の中からコインを1枚取り出してフィリアに見せる。
「前の世界の通貨はこれだったんだけどこの世界でも使えるか?」
「似てはいますが直接使うのは無理ですね。このコインは単一金属でできているので金属としてこのコインを売ってこの国の通貨に換えることはできます。ですが、JOKER様は国賓待遇なので宿泊や食事を始めある程度の物の購入は私が居れば皇室払いで済ませます。それでも自由に使えるお金が必要ということでしたらこのコインを売るよりも化物の素材を売る方が効率はいいですよ」
要するにほぼ無価値ということか。それにしても1つ聞いて3つ教えてくれるとは助かるが、同時に警戒しなければならない要素でもある。
こっちが何の気なしにした行動でも裏を読まれ疑われありもしない事実に繋げられかねない。フィリアの場合余程のことでもない限り確認してきそうだが相手依存ではなく自分でも気を付けた方が良さそうだ。
「ならフィリアのお勧めの宿屋に泊めてもらえるか?」
「お金のことを心配していたのですか。異世界から来たのですからこちらの世界のお金がないのは当たり前のこと。預言書で来ることが分かっていたのですからこういった事態も当然想定済みです。尤も母様を前に生き残れるとは思っていませんでしたが」
確かにそうだ。と思いながらも払う意思はあることを示しておいた方がいい。その点フィリアの言葉は少し刺さる。リアのあの強さを前提に置いているから素直な称賛なのだろうがそれでも敗北は気持ちのいいものではない。
「じゃあ案内頼むわ」
「はい。任せてください」
フィリアについて行き龍の峡谷を出てゴンドラ乗り場を通り過ぎると街に着いた。
修行の地から近い街とあって生活拠点にしている人は少なそうだが街の規模は大きく見える。中へ足を進めると宿屋が多く見受けられるが2軒に1軒の間隔で武器屋、防具屋、道具屋が並んでいた。
それらは全て石材を基調に全体が造られていて石が積み上げられているように見えるが、隙間にコンクリートのような物が敷き詰められている。
しかし、石材で造られているからこそ石材には拘りがあるようでツルツルに研磨された石や荒々しく角ばった石、直方体に加工された石、色も白、黒、灰色だけでなく赤や青、緑といった様々な色があり見渡す限り1軒として同じ物はない。
見ていて飽きないそれらの建物を眺めながら進んでいくとある違和感を覚える。
それは俺とフィリア以外、誰1人として外を歩いていないのだ。修行目的で外から人が来ることで成り立っている街のようだから街の規模の割に常駐している人は少ないのだろうがそれでも施設運営を始め人手は必要なはずだ。近くに化物が出るため日が暮れたら出歩かない文化の可能性も考えて《索敵》を使っても引っ掛かったのは数人程度で建物の数よりも少ない。
疑問を抱きながらフィリアについて行くと、スベスベな白い壁に装飾として楕円形の石が張り付けられている派手さはないが大衆的な雰囲気の造りをした宿屋に着いた。
「この時期に客とは珍しいね…ってフィリア様じゃないかい。隣にいるのは…見覚えのない顔だね。どこかで拾ったドラガかい?」
宿屋に入るとカウンターからおばさんが出迎える。入り口からカウンターに向けて丸テーブルが並んでいることからこの宿屋は1階が食事処で2階と3階が宿泊する部屋になっているタイプのようだ。外に飲食店がなかったのは大半がこういうタイプなのだろう。
「こちらは神使のJOKER様です。今日が降臨の日で母様に認められる強さを持った方です。JOKER様、こちらはこのドラガドの店主のマリエさんです」
マリエからは少し気が荒くも面倒見のいいおばさんというような印象を受ける。
互いに「よろしくお願いします」「よろしく」と握手をする。
「へぇ、これが噂の神使様ねぇ。種族は人間で…案外普通な見た目をしているじゃないか。いや、リア様に認められるんだから大概バケモノの類か。それでこの街に来たってことは龍の峡谷が目的だろ?リア様に認めらる強さならあそこは見たのかい?」
「あそこ?」
何やらマリエが気になるワードを口にしたので釣られるように聞き返すが、その内容は教えてくれない。
「いえ、JOKER様はまだこの世界に慣れていないので1合目へ下見に行っただけです」
「それは明日苦労するね。まぁ、この時期は客がいないから客は大歓迎だよ。フィリア様に神使様ってことは、部屋は最上級だね。案内するよ」
マリエがついてきなというように腕を振り階段を上っていく。
「イザベラちゃんは?」
「戻ってこなかったよ」
「そうですか」
2人は淡々と話しているがイザベラが誰なのか聞けるような雰囲気ではない。2人が重い空気や暗い空気で話している訳ではないのだが、その言葉から推測される内容は積極的に聞くのは憚られる。
3階まで上がると内装の雰囲気が大きく変わる。今までは大衆的な造りだったが、床に赤い絨毯が敷かれ柱のように飛び出ている部分も大理石のような不規則な模様の入った石材で出来ていて龍の峡谷と同じように模様が揺らめいていた。その輝きからも希少性が窺える。
「こっちがフィリア様の部屋であっちの部屋を神使様が使うといいよ。ウチ自慢の最上級の部屋だからこれ以上は勘弁しておくれよ」
そう言いながらも顔からは自身が溢れていた。
「またまた、この街1番の宿屋なのに謙遜して」
「まぁね。それじゃあ何か用があったら下に来ておくれ。食事から雑事、聞きたいことでも何でもいいからさ」
そう言うとマリエは下へ下りて行った。
「それではJOKER様はあちらの部屋をお使いください。この辺りの話ならマリエさんにこの国や世界、広い話は私に聞いてください。いつ来ても構いませんので気軽に来てください」
「何から何までありがとな」
「いえ、それが私の役割ですから」
フィリアが部屋に行くのを見送ってから自分の部屋に行こうと思ったが、フィリアも同じことを考えていたのかお互い無言で動かず何とも言えない微妙な空気になる。少し見つめ合った後、俺が客の立場だから先に行くべきだと気づき何事もなかったかのように自分の部屋に行く。
部屋は廊下と同じように煌びやかでテーブルや棚、椅子といった家具も見るからに違う輝きを放つ石材で出来ている。広さも部屋の中で大鎌を振り回せるほどだ。それだけ丁重にもてなされているということなのだろうが正直、落ち着かない。というか灯りを家具が全て反射してどこを見ても目が疲れる。
部屋の中に発光体が見当たらないのに何故と思いながらも諦めて休もうとドアを閉めると景色が変わった。
部屋の明かりは窓から先込む夕日だけになり、それを家具が反射して天井が暖色に染まる。透明のカーテンが揺れるとそれに合わせて天井の暖色も波打つ。それがまた綺麗でしばらくぼーっと立ち尽くして天井を見上げていた。
今でも十分この街1番と言われる所以が分かるが、夜になればもっと綺麗なのは想像に難くない。外から見た時は大衆的な宿屋と思っていたし1階を見た時もそう思ったのだが、見かけ(外見)によらないとはこのことか。
部屋が1つしか空いていない…なんてハプニングが起こることもなく1人になれた。望んだとおりの展開だし攻略を進める上ではいいのだが、少し残念な気もする。
しかし、部屋を堪能するのもここまで。ベッドに寝転び表向きは目を瞑りフィリアが来ても寝ているように見える状況を作る。
そのままメニューウィンドウを開きステータス画面のスキル欄に切り替えて1つ1つ確認していく。するとリア戦の時から異変には気づいていたが、半数以上のパッシブスキルが赤色になっていた。
6タイトル時代にはなかった状態だ。発動しているパッシブスキルは白色、発動条件を満たしていないが習得しているパッシブスキルは灰色。それだけで完結しているはずだ。
しかし、今確かに赤色に表示されているパッシブスキルがある。それは習得しているスキルだし発動条件を満たしている場面もあった。それなのに効果は発動していなかった。
その共通点……はっ!
今度はパーティー画面に切り替えて所有NPCの状態を確認する。
予想とは違ったが、少し厄介なことになっている。
予想していたのは2つ。1つは赤色のパッシブスキルは特殊な状態でないと発動しないように変更され、それは模倣している間だけ。だが、それならパッシブスキルの数と赤色のスキルの数から噛み合わないと気づく。
もう1つは赤色のパッシブスキルはALONEST内に居ないNPCの持つスキル使えなくなった。習得はしていてもその元となるNPCがいないことで俺も使えなくなっているのではないか。というのもNPCがプレイヤーと同等の扱いを受け9体のNPCがALONEST内に来ていて、来ているNPCのパッシブスキルは共有できているがそれ以外のNPCは共有が一時的に解除されているのだと思っていた。
しかし、NPCは全員来ている、若しくは全員来ていないかのどちらかだ。そうなると考えていた2つとも外れていることになる。
パッシブスキルだけでなく他のスキルも確認していると新しい可能性が浮かぶ。
NPCの所在地は俺のスキル空間内になっている。だが、そこに繋げるためのスキルが使えるかが分からず全員来ているか全員来ていないかのどちらかだと思っていたのだが、そのスキルは白色だ。ということは使えると考えていい。
NPCは全員来ているのに謎の状態のスキルがある、それはNPCとの関係が不明瞭になったからだ。
NPCの状態は全員不明で敵か味方かが分からない。その原因はNPCが自我を持ったこと。
感情を持っている以上、今までの絆のステータスが無くなり俺に対する感情は変動する。それが確認できてはNPCを物と同じ扱いをしているようで感情を持たせた意味がない。これは直継が考えそうでやりかねないことのメタ読みだ。
今起きている現象の原因がこれだとすると、問題はここからだ。
今は全てのNPCがスキル空間に居て敵か味方か分からない。仮に使えるスキルのNPCを味方と考えたとしてもそれの判別にはかなり時間がかかる。複数体が同じスキルを覚えている場合が多く、誰が敵で味方かが確定するかも怪しい。
それをプレイ中にやるのは他のプレイヤーと進行に大きく差ができて無駄足だった場合に取り返しがつかなくなる。ログアウトした時に持ち出せれば試す価値はあるが、100を超えるスキルを全て覚えるだけでも困難だし更に白、灰色と赤とで分けるのは無理だ。
しかし、あまり時間はかけられない。
NPCが関係する部分は他のプレイヤーよりも俺が大きくアドバンテージを得る部分だ。それを活かして出来ることならUNKNOWNに牽制をしておきたい。それにNPCが自我を持っているのならNPC同士で争わないとも限らない。
プレイヤーがコンテニューできないのならばNPCもそうだと考えるのが妥当で知らないうちに数が減っていてスキルが使えなかったなんて負け方は恥ずかしいにも程がある。
だから確認に行って解決するのは前提として、まだ問題が1つある。
俺がスキル空間内に行っている間は当然ここには誰もいなくなる訳でフィリアが来たら不信を買うということだ。来なかったとしても索敵スキルを使われれば俺がこの部屋から居なくなったことがバレる。
それでもNPCに関してはいざという時のために隠しておきたい。
あ~面倒くせぇ。こういった立ち回りを考えるのは好きでもあるが面倒くさくもある。
最悪フィリアにバレた場合は召喚士とでも言って誤魔化すか。召喚獣の様子を見に召喚世界にで行ったと言えばいい。実際スキル空間内に召喚獣はいるしな。
もしそれが通じないなら最悪一戦交えてどうにかする。そうしよう。
そう覚悟を決めてスキル空間内に繋げるスキルを唱える。
「《扉》」
昨日と同じように白い空間で操作練習の時間が与えられ、6タイトル時代に使っていたスキルの連携を試していると時間が来てALONESTに飛ばされる。
ここまでは昨日と同じだったが、ALONESTに飛んでからは少し違う。ログアウト前の操作を追体験してから再開される。これは戦闘中にログアウトを挟んだ場合に対応が難しくなるのを解消するための措置だ。
追体験中は当たり前だがその時の視線のままで違う場所を見ることはできない。それでも視界内で注視する場所は変えられるから意外と新しい発見があるかもしれない。だが、体は操り人形のように動かされているような感覚になる。今は移動中で大した会話もなくゴンドラから外の景色を眺めているだけだが肘が勝手に動いた。
城を出てからフィリアとは一言も話しておらず正直気まずい。昨日の時点で大分気まずかったが、こっちは1度ログアウトを挟み緊張感が解けているためこの空気に耐えられない。
どこか落ち着かずソワソワとしているとフィリアに話しかけられる。
「JOKER様、1つ気になっていたのですがどうして爺様と私に対してと母様に対してとでは喋り方が違うのですか?」
何を言われるかと身構えたがそんなことか。落ち着かない俺に気を遣ってくれたのだろう。
「戦闘中は取り繕う余裕がなく素が出てしまっただけです。途中で変えるのも違和感がありそのままになってしまいました。無礼ということでしたら以後、リア様の前でも気を付けます」
「逆です。私と爺様にも素の話し方で構いません」
「なら、ありがたくそうさせてもらう。それで修行の地ってどんなとこなんだ?」
フィリアからの提案に少し空気が緩む。その提案をしてくれて助かった。あの話し方を続けるのは結構負担だったが、そんなことに体力は使いたくない。
話し方を変えるのを試すのにありきたりな質問をする。
「そうですね。今向かっているのは私たち龍人が名を授かるための修行の地、龍の峡谷です。化物の巣窟で下へ行けば行くほど化物が強くなる所謂ダンジョンですね。3合に到達すると名を貰えるのでそこを目指す方が多いです」
「へぇ、名前を貰う前はなんて呼ばれるんだ?」
「種族名でもあるドラガです。私や姉様は生まれた翌日に峡谷へ投げ込まれそのまま3合に到達したのでドラガと呼ばれたことはありませんが」
それを聞いて獅子は我が子を千尋の谷に落とすというのを思い出した。実際、この戦闘狂国家だと同じ発想をしてそうだ。
「今だと何合目まで行けるんだ?」
「最近は立ち入ってないので分かりませんが最高到達は6合目です。姉様は10合、母様は1度入った際に化物を全滅させて立ち入り禁止になったと聞いています」
ある程度力関係を量るために聞いたが聞かない方が良かったかもしれない。間違いなくフィリアとリアの間の溝はこの力関係だ。何も気にしていないように冷静で落ち着いたような声音で話しているが何かにつけてリアとソーマを引き合いに出すのがその証拠だ。
なんというか、再び気まずくなり沈黙が訪れると思われたが幸いなことにゴンドラは目的地へ着いた。
「こちらです」
ゴンドラを降りてフィリアの広げる手の先を見ると、そこには1つの山に亀裂が入ったような何かの足跡にも見える峡谷があった。
高地から見ているためその全貌が見えるが、1つ1つの亀裂を境界に属性が分かれているように山肌の色が違う。それがオーロラのように揺らめいていて神秘的で、観光地と言われてもおかしくないほどに現実にあるなら見に行きたいほどに美しい。
思わず「おぉ~」と感嘆の声が漏れてしまう。するとフィリアは嬉しそうに笑う。
「綺麗ですよね。私もここから見えるこの景色が好きです。でも中に入ったらもっと凄いですよ。これだけ美しく強さも与えてくれる。成長して帰る時にはまた違って見えて一段と綺麗に見えますよ」
結局は強さに結びつくのかと内心で呆れ笑いをしながらも、身を乗り出しまるで自分のことのように自慢気に話すその様子からは本当に好きだという気持ちが伝わってくる。ソーマは知らないがリアはこういったことに興味なさそうだしジークもフィリアに合わせて適当なことを言う姿が思い浮かぶ。だからこうやって俺が興味を持ったことが尚更に嬉しかったのだろう。
「こっちに来てください」
そう手を引かれ小走りで峡谷の入り口に連れていかれる。
しかし、入り口まで来ると戦闘モードに入ったのか真剣な面持ちに変わる。
「ここから先は化物が出るので戦闘の準備をしてください」
フィリアの言うここから先には段差という明確な線引きがあり、そこから先は下り坂になっている。
「武器よ」
右手に死神の大鎌を呼び出して足を1歩踏み入れる。するとデバフがかかったように体が少し重くなる。ステータスを確認するとレベル1だが行動デバフがかかっていた。
このデバフが修行の地たる所以の1つだろう。さして行動に支障が出るほどでもないが少し慎重目に頭を切り替える。指を動かして《索敵》を発動し孤立している化物の方へ足を進める。
雄叫びを上げながら飛び出してきた獣型の化物を斬ると一撃で化物は散っていった。
その雄叫びに釣られて次々と化物が集まって来る。それらを全て一撃で斬り捨てていく。
1合目ともあって出てくる化物は大して強くはない。解析したところレベルは200前後でステータスも6タイトルの化物と大差ない。ここからどの程度の頻度と高さで化物のレベルが跳ねていくかは分からないが武器の扱いを慣らすならこのくらいが丁度いい。
縦横斜め、様々な角度での斬り方による攻撃に化物の攻撃を武器で受け止める防御といったスキルを使わない操作を練習する。後のことを考えれば武器の扱いは早い内に慣らしておかなければならない。
今まではジークにゼルガ、リアと余裕のない戦いが続いて確認する暇もなかったが、ようやくメニューウィンドウを開いてステータスの確認を始め6タイトルとの差を探しながら練習ができる。
ティ・ルナノーグでは600レベルがカンストで経験値ゲージは溜まり切っていたが、今は1ドット埋まったか埋まっていないかに変わっている。それはレベル上限が上がったことを意味しているが何レベル上限が上がったのかは分からない。6タイトル時代はタイトル毎に100の上昇、それを基準に考えるなら700レベルが上限になるが、リアの強さを考えるに特別なシステムでもない限りレベル差が200はあった。
あの強さはダメージの通らなさからエリア限定の特別システムやパッシブのようなものを感じさせるが前者は会話からもあり得ない。後者もスキルを使わなかったことから単純なレベル差と考えた方が納得できる。ステータス上昇の代償にスキルが使えなくなるスキルという可能性もあるが、それは個対集のようなSP消費を抑えたい場合には有効かもしれないが1対1の戦いなら流石にスキルを使えた方が強い。
そうなると単純にレベル上限が大幅に上がったということになる。なら必要になるのは効率のいいレベル上げ……
色々と考えるべきことがあり、やれることが増えたことに興奮が抑えられない。
勢いのままに化物を斬り捨てていくといつの間にか周囲に化物の気配はなくなっていた。
「JOKER様はその……武器の扱いが上手くはありませんが前の世界では違う武器を使っていたのですか?」
少し間を空けて聞きにくそうにそう聞いてくる。
今の武器の扱いはお世辞にも上手いとは言えず、それは一方的に攻撃している今だからこそ基礎の無さ、粗さが目立つ。だから当然抱く疑問ではある。
しかし、それは少し困る質問だ。
メタな話をすれば説明はできる。だが、それでは伝わらないだろうし、何よりロールプレイにメタを入れるのは好きじゃない。
「前の世界には加護っていうのがあって大雑把に振ってもどうにかなってたんだよ。まぁ、どのくらい違うか説明するなら今まで手で使ってたのを足で使うくらいには感覚が違うな」
「加護…その世界独特の力でしょうか?それが世界の理なのかこの世界で言う精霊のようなものなのかは分かりませんが、手と足ほどに差があるなら大変ですね。ですが、同時にそれ程のハンデを抱えながら父様を倒し母様に認められるとは驚きです。益々、本来の強さのJOKER様と戦ってみたくなりました」
こんな適当な言い分を納得しようとするあたりただのお人好しか見分が広いのか。そんなことはどうでもいいが、その後の言葉が気になる。今ではなく本来の強さを取り戻してからとわざわざ言うということは今の段階だとフィリアの足元にも及ばないのか。そうなると道のりは長いな。
フィリアを甘く見ている訳ではないがフィリアを前哨戦程度で倒せるようにならないとリアとは戦いにすらならない。それはフィリアの言葉からも疑いようがない。
まだ上がいて挑戦者でいられる。それはゲームでは久しく味わっていない感覚で、その喜びが気分を昂揚させ更に足取りを軽くした。
1度ログアウトを挟んで3日目、化物を斬り続けてようやく1レベルが上がったところで空を見上げると日が暮れ始めていた。
「JOKER様、日が暮れてきましたがどうしますか?低層とはいえ2人で野営は少し危険なので街へ行った方がいいと思いますが、宿に何か要望はありますか?」
確かに2人での野営は面倒だ。警戒している時間も自分が休んでいる時間も行動が限られる。元々戦闘面以外の試したいことはフィリアが寝ている間にやろうと思っていたのだからこの提案には乗りたい。
しかし、問題がある。
「少し待ってくれ」と言ってメニューウィンドウを開きゲーム内通貨を確認する。エル・ドラードコイン、オフィールコインといった各タイトルの名前の後ろにコインがついたものしかない。それらは全て億の単位で持っているがALONESTでは使えそうもない。
要するにALONESTでは文無しなのだ。
「アイテム、ティ・ルナノーグコイン」
ダメ元ではあるがティノーグ対応しているティ・ルナノーグコインの入った小袋を出す。その無限に広がる小袋の中からコインを1枚取り出してフィリアに見せる。
「前の世界の通貨はこれだったんだけどこの世界でも使えるか?」
「似てはいますが直接使うのは無理ですね。このコインは単一金属でできているので金属としてこのコインを売ってこの国の通貨に換えることはできます。ですが、JOKER様は国賓待遇なので宿泊や食事を始めある程度の物の購入は私が居れば皇室払いで済ませます。それでも自由に使えるお金が必要ということでしたらこのコインを売るよりも化物の素材を売る方が効率はいいですよ」
要するにほぼ無価値ということか。それにしても1つ聞いて3つ教えてくれるとは助かるが、同時に警戒しなければならない要素でもある。
こっちが何の気なしにした行動でも裏を読まれ疑われありもしない事実に繋げられかねない。フィリアの場合余程のことでもない限り確認してきそうだが相手依存ではなく自分でも気を付けた方が良さそうだ。
「ならフィリアのお勧めの宿屋に泊めてもらえるか?」
「お金のことを心配していたのですか。異世界から来たのですからこちらの世界のお金がないのは当たり前のこと。預言書で来ることが分かっていたのですからこういった事態も当然想定済みです。尤も母様を前に生き残れるとは思っていませんでしたが」
確かにそうだ。と思いながらも払う意思はあることを示しておいた方がいい。その点フィリアの言葉は少し刺さる。リアのあの強さを前提に置いているから素直な称賛なのだろうがそれでも敗北は気持ちのいいものではない。
「じゃあ案内頼むわ」
「はい。任せてください」
フィリアについて行き龍の峡谷を出てゴンドラ乗り場を通り過ぎると街に着いた。
修行の地から近い街とあって生活拠点にしている人は少なそうだが街の規模は大きく見える。中へ足を進めると宿屋が多く見受けられるが2軒に1軒の間隔で武器屋、防具屋、道具屋が並んでいた。
それらは全て石材を基調に全体が造られていて石が積み上げられているように見えるが、隙間にコンクリートのような物が敷き詰められている。
しかし、石材で造られているからこそ石材には拘りがあるようでツルツルに研磨された石や荒々しく角ばった石、直方体に加工された石、色も白、黒、灰色だけでなく赤や青、緑といった様々な色があり見渡す限り1軒として同じ物はない。
見ていて飽きないそれらの建物を眺めながら進んでいくとある違和感を覚える。
それは俺とフィリア以外、誰1人として外を歩いていないのだ。修行目的で外から人が来ることで成り立っている街のようだから街の規模の割に常駐している人は少ないのだろうがそれでも施設運営を始め人手は必要なはずだ。近くに化物が出るため日が暮れたら出歩かない文化の可能性も考えて《索敵》を使っても引っ掛かったのは数人程度で建物の数よりも少ない。
疑問を抱きながらフィリアについて行くと、スベスベな白い壁に装飾として楕円形の石が張り付けられている派手さはないが大衆的な雰囲気の造りをした宿屋に着いた。
「この時期に客とは珍しいね…ってフィリア様じゃないかい。隣にいるのは…見覚えのない顔だね。どこかで拾ったドラガかい?」
宿屋に入るとカウンターからおばさんが出迎える。入り口からカウンターに向けて丸テーブルが並んでいることからこの宿屋は1階が食事処で2階と3階が宿泊する部屋になっているタイプのようだ。外に飲食店がなかったのは大半がこういうタイプなのだろう。
「こちらは神使のJOKER様です。今日が降臨の日で母様に認められる強さを持った方です。JOKER様、こちらはこのドラガドの店主のマリエさんです」
マリエからは少し気が荒くも面倒見のいいおばさんというような印象を受ける。
互いに「よろしくお願いします」「よろしく」と握手をする。
「へぇ、これが噂の神使様ねぇ。種族は人間で…案外普通な見た目をしているじゃないか。いや、リア様に認められるんだから大概バケモノの類か。それでこの街に来たってことは龍の峡谷が目的だろ?リア様に認めらる強さならあそこは見たのかい?」
「あそこ?」
何やらマリエが気になるワードを口にしたので釣られるように聞き返すが、その内容は教えてくれない。
「いえ、JOKER様はまだこの世界に慣れていないので1合目へ下見に行っただけです」
「それは明日苦労するね。まぁ、この時期は客がいないから客は大歓迎だよ。フィリア様に神使様ってことは、部屋は最上級だね。案内するよ」
マリエがついてきなというように腕を振り階段を上っていく。
「イザベラちゃんは?」
「戻ってこなかったよ」
「そうですか」
2人は淡々と話しているがイザベラが誰なのか聞けるような雰囲気ではない。2人が重い空気や暗い空気で話している訳ではないのだが、その言葉から推測される内容は積極的に聞くのは憚られる。
3階まで上がると内装の雰囲気が大きく変わる。今までは大衆的な造りだったが、床に赤い絨毯が敷かれ柱のように飛び出ている部分も大理石のような不規則な模様の入った石材で出来ていて龍の峡谷と同じように模様が揺らめいていた。その輝きからも希少性が窺える。
「こっちがフィリア様の部屋であっちの部屋を神使様が使うといいよ。ウチ自慢の最上級の部屋だからこれ以上は勘弁しておくれよ」
そう言いながらも顔からは自身が溢れていた。
「またまた、この街1番の宿屋なのに謙遜して」
「まぁね。それじゃあ何か用があったら下に来ておくれ。食事から雑事、聞きたいことでも何でもいいからさ」
そう言うとマリエは下へ下りて行った。
「それではJOKER様はあちらの部屋をお使いください。この辺りの話ならマリエさんにこの国や世界、広い話は私に聞いてください。いつ来ても構いませんので気軽に来てください」
「何から何までありがとな」
「いえ、それが私の役割ですから」
フィリアが部屋に行くのを見送ってから自分の部屋に行こうと思ったが、フィリアも同じことを考えていたのかお互い無言で動かず何とも言えない微妙な空気になる。少し見つめ合った後、俺が客の立場だから先に行くべきだと気づき何事もなかったかのように自分の部屋に行く。
部屋は廊下と同じように煌びやかでテーブルや棚、椅子といった家具も見るからに違う輝きを放つ石材で出来ている。広さも部屋の中で大鎌を振り回せるほどだ。それだけ丁重にもてなされているということなのだろうが正直、落ち着かない。というか灯りを家具が全て反射してどこを見ても目が疲れる。
部屋の中に発光体が見当たらないのに何故と思いながらも諦めて休もうとドアを閉めると景色が変わった。
部屋の明かりは窓から先込む夕日だけになり、それを家具が反射して天井が暖色に染まる。透明のカーテンが揺れるとそれに合わせて天井の暖色も波打つ。それがまた綺麗でしばらくぼーっと立ち尽くして天井を見上げていた。
今でも十分この街1番と言われる所以が分かるが、夜になればもっと綺麗なのは想像に難くない。外から見た時は大衆的な宿屋と思っていたし1階を見た時もそう思ったのだが、見かけ(外見)によらないとはこのことか。
部屋が1つしか空いていない…なんてハプニングが起こることもなく1人になれた。望んだとおりの展開だし攻略を進める上ではいいのだが、少し残念な気もする。
しかし、部屋を堪能するのもここまで。ベッドに寝転び表向きは目を瞑りフィリアが来ても寝ているように見える状況を作る。
そのままメニューウィンドウを開きステータス画面のスキル欄に切り替えて1つ1つ確認していく。するとリア戦の時から異変には気づいていたが、半数以上のパッシブスキルが赤色になっていた。
6タイトル時代にはなかった状態だ。発動しているパッシブスキルは白色、発動条件を満たしていないが習得しているパッシブスキルは灰色。それだけで完結しているはずだ。
しかし、今確かに赤色に表示されているパッシブスキルがある。それは習得しているスキルだし発動条件を満たしている場面もあった。それなのに効果は発動していなかった。
その共通点……はっ!
今度はパーティー画面に切り替えて所有NPCの状態を確認する。
予想とは違ったが、少し厄介なことになっている。
予想していたのは2つ。1つは赤色のパッシブスキルは特殊な状態でないと発動しないように変更され、それは模倣している間だけ。だが、それならパッシブスキルの数と赤色のスキルの数から噛み合わないと気づく。
もう1つは赤色のパッシブスキルはALONEST内に居ないNPCの持つスキル使えなくなった。習得はしていてもその元となるNPCがいないことで俺も使えなくなっているのではないか。というのもNPCがプレイヤーと同等の扱いを受け9体のNPCがALONEST内に来ていて、来ているNPCのパッシブスキルは共有できているがそれ以外のNPCは共有が一時的に解除されているのだと思っていた。
しかし、NPCは全員来ている、若しくは全員来ていないかのどちらかだ。そうなると考えていた2つとも外れていることになる。
パッシブスキルだけでなく他のスキルも確認していると新しい可能性が浮かぶ。
NPCの所在地は俺のスキル空間内になっている。だが、そこに繋げるためのスキルが使えるかが分からず全員来ているか全員来ていないかのどちらかだと思っていたのだが、そのスキルは白色だ。ということは使えると考えていい。
NPCは全員来ているのに謎の状態のスキルがある、それはNPCとの関係が不明瞭になったからだ。
NPCの状態は全員不明で敵か味方かが分からない。その原因はNPCが自我を持ったこと。
感情を持っている以上、今までの絆のステータスが無くなり俺に対する感情は変動する。それが確認できてはNPCを物と同じ扱いをしているようで感情を持たせた意味がない。これは直継が考えそうでやりかねないことのメタ読みだ。
今起きている現象の原因がこれだとすると、問題はここからだ。
今は全てのNPCがスキル空間に居て敵か味方か分からない。仮に使えるスキルのNPCを味方と考えたとしてもそれの判別にはかなり時間がかかる。複数体が同じスキルを覚えている場合が多く、誰が敵で味方かが確定するかも怪しい。
それをプレイ中にやるのは他のプレイヤーと進行に大きく差ができて無駄足だった場合に取り返しがつかなくなる。ログアウトした時に持ち出せれば試す価値はあるが、100を超えるスキルを全て覚えるだけでも困難だし更に白、灰色と赤とで分けるのは無理だ。
しかし、あまり時間はかけられない。
NPCが関係する部分は他のプレイヤーよりも俺が大きくアドバンテージを得る部分だ。それを活かして出来ることならUNKNOWNに牽制をしておきたい。それにNPCが自我を持っているのならNPC同士で争わないとも限らない。
プレイヤーがコンテニューできないのならばNPCもそうだと考えるのが妥当で知らないうちに数が減っていてスキルが使えなかったなんて負け方は恥ずかしいにも程がある。
だから確認に行って解決するのは前提として、まだ問題が1つある。
俺がスキル空間内に行っている間は当然ここには誰もいなくなる訳でフィリアが来たら不信を買うということだ。来なかったとしても索敵スキルを使われれば俺がこの部屋から居なくなったことがバレる。
それでもNPCに関してはいざという時のために隠しておきたい。
あ~面倒くせぇ。こういった立ち回りを考えるのは好きでもあるが面倒くさくもある。
最悪フィリアにバレた場合は召喚士とでも言って誤魔化すか。召喚獣の様子を見に召喚世界にで行ったと言えばいい。実際スキル空間内に召喚獣はいるしな。
もしそれが通じないなら最悪一戦交えてどうにかする。そうしよう。
そう覚悟を決めてスキル空間内に繋げるスキルを唱える。
「《扉》」
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