真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

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幕間 シルヴィー 前編

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※残酷な描写(主に虐待に関する描写)があります。
苦手な方はプラウザバックしてください。幕間は読んでいなくても本編に支障はありません。







私は貧民街に生きる孤児だった。
親もお金もなく、泥水を啜りながら誰かのものをくすねて生きるしかない可哀想な人間。それが私だった。

そんな私に突然降り掛かってきた幸運、それが聖女だった。

「貴方は神に愛された人。生まれが貧しくどのような人生を歩んできたとしても、貴方は尊い存在。
どうかこの国をお救い下さい」

神官長様もシスター様も私を敬い大切にしてくれた。それは私が聖女だからっていうのもあるけど、それ以上に神官長様もシスター様も優しい人達だったからだ。
 
仕事は確かに大変だった。結界を張るのも病気の人を治療するのも。でも、頑張ってる私をあの人達は褒めて励ましてくれた。

そして。

着るもの、食べるもの、住むところ、学び……愛……。

全部あの人達はくれた。
あの人達は立派な聖女になってとは言うけれどそれだけで、私を利用しようとか絶対にしなかった。私の幸せを本気で思ってくれた。私を本気で愛してくれた。

私は聖女になっただけじゃなく、温かい家族も手に入れたのだと気づいた。

でも、いつからだろう。

物足りないって思い始めたのは。

確かに幸せだった。聖女になるまでずっとひもじい思いばかりしていたから尚更。
分かった。ちゃんと分かってたよ。
このままこの生活をした方が正しいって。

でも、毎日祈って救って愛されるだけの繰り返しに飽きちゃった。

だから、冷めたごはんを温めるように、ぬるま湯に熱いお湯を足すように、私は熱が欲しかった。

つまらないそんな日々を変えてくれる熱いのをずっと。



そしたら、私の目の前に、クリフォードが現れた。


私とは違う生まれながらの王子様。

出会った時、見初めてくれた時、嬉しかった。

まるで昔シスター様が読んでくれた絵本みたいに王子様が私を迎えに来たんだって思ったら、舞い上がっちゃって……。

私の心は一気に燃え上がった。神様も周りの人達もどうでも良くなるくらい。

クリフォードは私に優しかった。

愛してくれた。

そして、私と共に行こうって。

私達の真実の愛があれば未来さえ変えられるって。

そう言ってくれたの。



でも、あれ?

何で、皆、私を冷たい目で見るの……?



クリフォードと愛し合って恋人になって、じゃあ、次は結婚だねって話してたら、私はいつの間にか聖女じゃなくなってた。

処女じゃなくなると聖女になれないって知ってたけど、それとクリフォードと何の関係があるの? ただ愛し合っただけじゃない。何にも悪いことなんてしてない。

私は意味が分からなかった。でも、神官様もシスター様も怒って、そして、泣いていた。

「貴方を実の娘のように大切に育てたつもりだった。
……だが、私は親として足りなかったのだろう。
まさかこんなにも愚かな……自分のことしか考えられない子になるなんて……」

「どうしてそんな顔をできるの?
悪いことをしたのよ、貴方は。貴方は一時の感情で人を死なせてしまったのよ?
確かに聖女として大切なのは人を愛することだと教えました。でも、その愛は博愛であって、自愛ではなかったの!
しかも、よりによって相手があのクリフォード殿下だなんて……!」

悪いことしたって、人を殺したって、自分しか愛してないって言われて私は首を傾げた。

だって、おかしいじゃん。普通の人と同じように生きただけで何で犯罪になるんだろう?

私は聖女だけど人間よ? 愛される権利も愛する権利もあるじゃない。だから、私の王子様と愛し合ったぐらいでどうして皆咎めるの?

そのせいで人が死んだって聞かされても腑に落ちない。私、誰も殺そうともしてないし、殺してないし、彼らが死んだのは自分が弱かったからじゃないの? 

魔物がどんな生き物か知らないけど、騎士様ぐらい強かったらやっつけられるって話じゃん? その人が強くなかっただけよ。

病気が何なの? 聖女の頃、ずっと治療してきたけど、ずっと疑問だった。私は生まれてからずっと病気なんてしたことないよ? 病気になる方がおかしいよ。体が弱すぎるんじゃない?

皆、私のせいで何百人も死んだって言うけど、ただの偶然じゃない。

おかしいのは神官様やシスター様、そして、周りの人達よ。

牢屋から出して! 私は悪いことなんてしてない!



「果たして、そうだろうか?」



ある日、私の牢屋に国王陛下がやってきた。

この人は昔から嫌い……というより、怖い。

あの目を見ていると底知れない谷底を覗いているような気がする……。

暗くて、冷たくて、気がついたらその闇に飲み込まれそうになる。

私が怯えていると陛下は冷たい口調で言った。

「確かに、君はクリフォードという男を射止めた。そして、彼と子を為した。女としてはこれ以上ない幸福だろう。
だが、考えても見てくれ。君は今どんな状況だ?
聖女でなくなり、神官長といった絶対的な味方はいなくなり、君は今、罪人として牢に入っている。そして、牢を出れば……君はどうなるかな?」

「……っ」

「いいかい? ただのシルヴィー。
悪いことなんてしてないと君は思ってるだろう? だが、君だけなんだよ。君が悪くないと思っているのは。
国民も、シスターも、神官長も、そして……神も……君を悪だと判断した。
君なんて誰も好きじゃないし大嫌いだ。
君は嫌われた。嫌われるようなことをした。人が嫌うことをした。
ねぇ、本当に君は悪くなかったのかい? それをよく考えた方がいいよ。
……君はクリフォードに捨てられたら、文字通り、終わりなのだから」

「っ、っ!!」

国王陛下は言うだけ言って立ち去っていった。

急に、冷水を浴びせられたような、頭が冴えたような、そんな心地になった。

私は恐ろしくてたまらなかった。

終わり。今、気づいた。私、終わるんだ。

王子様と相思相愛になったらハッピーエンドだと思ったのに違った! みんな私の事嫌いになった!

王子様しか私のところには残らなかった。これから敬われることも愛されることもない。しかも、クリフォードに捨てられたら元の平民に戻ってしまう。

またゴミを漁って雨水の下で眠る生活が始まっちゃう。そんなの嫌!

クリフォードだけは、私の王子様だけは手放さないようにしなくちゃ……。



なのに、私、悪魔を産んじゃった。



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