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32.国王陛下との謁見……と思いきや

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国王の玉座がある部屋は実は3つある。

1つは式典などで使われる2000人ほど入れる巨大な玉座の間。

もう一つは議会などが開かれセレスチアの政治を行う中規模の会議室。

そして、内外に広まってはいけない極秘案件を話す為に作られた特別な玉座の間。




マリィはルークを連れ、その特別な玉座の間に来ていた。

窓ひとつないその空間には大理石の床と壁、最低限の明かりと、そして3段上にある玉座だけしかない。

そして、そこは秘匿されるべき話をする場なせいか異様な冷たい空気が漂っていた。

(流石に緊張するわ……)

マリィは深呼吸し自分を落ち着ける。そんなマリィの緊張が伝わってか、隣に立つルークも緊張した面持ちでぎゅっと口を引き結んだ。

そんな2人を見かねてか、2人と一緒にこの部屋に入ってきたフィルバートが2人に話しかけた。

「2人ともそこまで緊張しなくていい。この話し合いは4人だけだし、取って食おうという話ではないからな」

その言葉の違和感にマリィは顔を上げる。
まるで、フィルバートは話し合いの内容を知っているようだった。

「あの……フィルバート様は今日の緊急招集の内容を知っているのですか?」

「あぁ、これを開くよう進言したのは俺だからな」

「え?」

マリィは驚き目を瞬かせる。フィルバートは表情一つ変えずに淡々と説明した。

「あの晩、君の侍女を借りただろう?
あの日、俺は侍女を通して国王陛下に謁見の場を作るよう進言したんだ。
その返答がこれだ」

「そ、そうなんですか? 何故、そんな進言を?」

マリィが戸惑いフィルバートにそう聞いた。

だが、その返答をしたのはフィルバートではなかった。


「そりゃあ、魔法使いの話だもの。私に話が行くのは当然じゃない?」


入口から聞こえたその声にマリィは弾かれたように振り返る。

そこには国王がいた。だが、その格好を見てマリィは驚いた。

(長袖のシャツに……スラックス……?)

確かにそこにいたのは国王だったが……彼は謁見だというのに随分ラフな格好をしていた。しかも、よく見れば小脇に何か白いものを抱えている。

マリィが驚く中、国王は機嫌良さげに玉座の間に入ってきた。

「いやぁ、遅れてごめんね。色々手間取っててさぁ。謁見も今日になっちゃったし」

そんな国王にフィルバートは肩を竦め、首を横に振った。

「いいえ、元より無理を言ったのはこちらですから、

マリィは目を見開いた。フィルバートは何気なく言ったその呼び名には確かに覚えがあった。そう確か、フィルバートの恩師、そして……。

「もしかして、魔法使いを専門に研究している先生……?」

マリィの表情が引き攣る。そんなマリィに対し、国王は笑みを浮かべ、小脇に抱えていたその白いものを広げる。
それは……白衣だった。
国王はそれに袖を通すと、状況をまだ飲み込めていないルークとマリィを迎えるように右手を広げた。

「敢えてこう言おうか。
やぁ、小さな魔法使いと白百合の夫人、ようこそ。私の研究室へ」







マリィは何度も何度も玉座に座るその人を見る。
信じられなかった。まさかルークを引き取った時からずっと関わっていたその人が、ずっと探していた魔法使いを研究しているという先生だったとは。
マリィは頭を抱えたくなった。

(私、ルークの為に色々調べて研究室を探して、家庭教師を探すために色んなお茶会に出ていたけど……もしかして、もったいぶらずに国王陛下に手紙を書けば全て済んだってこと!?
これって私がしたこと全部無駄だったってことよね?
結局、下心丸出しの男の相手をしただけじゃない!)

1人で打ちひしがれるマリィ。
一方、玉座に座るその人はいつにも増して上機嫌な笑みを浮かべ、フィルバートに話しかけた。

「久しぶりだね。フィルバート。君から、しかも、ズィーガー公爵家から、連絡来た時は驚いたよ。
カリスチリア帝国はどうだった? 
楽しかったかい?」

「まぁ……苦労も多かったですが。
先生は相変わらずのようですね。お休みもない毎日のようで」

「ふふっ。まぁね」

国王とフィルバートはマリィが見ても親しげな様子で、かなり長い付き合いを感じる程、フィルバートも国王もその表情はとても柔らかい。

「先日のあれは本当に助かったよ。フィルバート。君の先生としてとても誇らしかった」

「そう言っていただけて良かったです。隠蔽も上手くいったようで」

「ちょっと困ったけどね。
君ってば、いつにもまして派手にやるんだもの。神の力だってことにしたけど、次はもうちょっと良い言い訳が出来るようにしてくれない?
災害の度に神様が降臨するような国になったらどうするんだい。我が国の国民が災害時に働かないニートになったら君の責任だよ?
まぁ教会は大聖堂が聖地化してシルヴィーの件以降減っていた信者が急増して嬉しかっただろうけどね。
それで? 君のやる気が天元突破するような出来事があったのかな?
まぁ、大体は察しているけれど……」

国王の目がルーク……そして、マリィに向けられる。

突然向けられた目にルークは驚いて背筋を伸ばす。緊張しながらマリィから習い立ての挨拶をした。

「は、はじめまして、国王陛下。僕はルーク・ズィーガーです。
僕の為に時間を作っていただきありがとうございます……」

恐る恐る一礼すると、国王はルークを見つめ考え込んだ。

「初々しいね。甘めに見て60点かな。
まぁ、慣れていけばいいさ。ルークくん」

「ろくじゅう……」

低くも高くもない点数をつけられルークは何とも言えない顔になる。だが、そんなルークをフォローするようにその頭をフィルバートは撫でた。

「頑張ったな」

「! あ、ありがとう……!」

ぱあっと目を輝かせるルーク。一方、マリィはまたまた甘やかすフィルバートに呆れ肩を竦めた。

「……フィルバート様?」

「!」

マリィに釘を刺され、フィルバートは慌てて手を引く。一方、何も知らないルークは何故か頬を膨らませているマリィと少し申し訳無さそうなフィルバートを見比べ首を傾げた。

そんな様子を見て、国王は全て察し。

「ぷっ……」

そして……吹き出した。

「あっはははっ! 
フィルバートがこうもたじろいでいるところなんて初めて見たよ。マリィ夫人も相変わらずだねぇ。
というか、君ら2人とも違う方向で子どもに過保護なのかい?
そうだな……このままじゃ君らが喧嘩になるかもだし。
うん、この場は無礼講としよう。
私も国王というより研究室の教授としてここにいるしね」

その言葉にマリィは驚いた。

「よ、よろしいのですか?」

そのマリィの言葉に国王は笑って返した。

「私が良いと言っているのだから良いんだよ。
……さて、マリィ夫人」

国王の目がマリィに向く。その目はとても穏やかなものだったがしかし、マリィが嫌な予感を感じるほどにとても楽しそうであった。

思わず、嫌な顔をしてしまうマリィに国王はにんまりとした笑みを浮かべた。

「ちょっと小耳に挟んだのだけどね。
どうやらマリィ夫人はルークくんの家庭教師を探しているらしいね?」

「……え? は、はい」

予想外の話にマリィは驚く。
ルークの為の話し合いとはいえ、ルークの家庭教師の話は関係ないように思えた。しかし、国王は違うらしい。むしろ……。

「どうして私に真っ先に相談してくれなかったのかはさておき、君は色んな貴族に会って探していたそうじゃないか。
どうだい? 見つかったかい?」

「いいえ。結局、候補すら見つかりませんでしたわ」

嘘をつくところでもない為、マリィははっきりと告げる。
すると、国王は満足そうに頷いた。

「うんうん、それは良かった。
これは私からの提案、そして本題でもあるのだけどね。
どうだい? 
そこにいるフィルバートを家庭教師にしないかい?」

その提案にマリィとフィルバートは目を見合わせた。






























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