真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

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33. 魔法使いの先生

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その国王の提案に2人は驚き、見つめ合ったまま固まる。

だが、ルークはこれ以上ないほど表情を輝かせた。

「フィルバート、僕の先生になるの? ほ、ホント!?」

その声にハッとなり、フィルバートは国王の方を見た。

「何も聞いていませんが? 先生」

国王は心の底から楽しげに微笑んでいた。

「今初めて口にしたからね。
それにどうせ暇でしょう?」

そんな国王にフィルバートは疲れたため息を吐いた。

「はぁ……貴方は相変わらず横暴がすぎる……。
昔から変わらない。言ってしまえば全て俺が了承すると思って」

「でも、考えても見てよ。
君は私にルークくんを任せたかったみたいだけど、私は君の小さい頃と違って多忙を極めているんだよ? 君にしたようにはもう出来ないよ?」

「…………しかし」

「それに、ルークくんは、君みたいな最初から善性の塊の人間とは違うんだよ。ちゃんと良心と理性を教えてあげなきゃでしょ? 仕事の片手間に教えることじゃないよ、それ。
そして、いざとなったら止められる大人も必要だ。
特にルークくんは前科があるからね。
止められる人間がそばに居た方が私が安心。私が、ね。またあんなことされたら一セレスチア国民としても困るよ。
そもそも魔法使いのことは魔法使いに習った方が良いと思わない?
私は知識しか持っていないけど、君は実践で教えられるわけだからさ」

「…………」

そう国王に言われるとフィルバートは深く考え込んでしまう。
一方、マリィは目を丸くした。

「知識しか持っていない……?」

マリィはてっきり国王も魔法使いだと思ったのだが、どうもその口振りからすると違う。マリィが疑問に思っていると、国王はくすくすと笑った。

「まぁ、最もな疑問だよね。
私にとっても非常に残念な話だけど、私は魔法使いではないよ。
私は研究しているだけの一般人さ。この前のフィルバートみたいなことは出来ないし、文献を漁って全容を解明するので精一杯なのさ」

残念と国王は語るが、その顔は少しも残念そうではなかった。むしろ、それで心の底から満足しているように見えた。
だからこそ、マリィは気になる。

「何故魔法使いでもないのに研究を?」

「うん、だって面白いだろう?」

「面白い?」

首を傾げるマリィに国王は好奇心旺盛な無邪気な子供のような顔をして答えた。

「魔法使いの歴史はね。簡単に言えば、人間の身でありながら神が成すようなことをしちゃったって話なのさ。
その隣人愛と人権の無さはさておき、かつての人間達は神の手を借りず、自分達の手で自分を強化して、自分達の手で時代を切り開こうとしたんだ。
まぁ……結局、聖女に役目を奪われ、存在ごと忘れられてしまったけれど、私はそんな人間らしい傲慢さと執念が滲む魔法使いが好きなのさ。
それに夢があるだろう?
人間には無限の可能性がある……そんな夢がさ」

「……は、はぁ」

目を輝かせそう語る国王の熱量は凄まじい。マリィは思わず気圧され後退る。

そして、国王は今も考え込むフィルバートの方へ視線を移した。

「フィルバートは私が初めて出会った魔法使いでね。
私は師として導きつつ、彼の手を借りて、魔法使いという存在の全容を掴む為、研究を進めていたんだ。
言わば弟子兼助手といったところかな?
だから、私が持っている知識は当然、フィルバートも持っているし、むしろ、当事者だからその理解と造詣は私より深い。
どうかな? マリィ夫人、彼の実力は私が保証しよう」

国王の言葉にマリィは悩む。

「それは……」

マリィはそっとルークを見る。
そこには期待しかない目でマリィを見上げるルークがいる。
マリィは察した。これは絶対にフィルバートじゃないとダメだと。別の先生になった瞬間、涙目になり落ち込むルークが余裕で想像できる。
マリィはフィルバートの方へ視線を移す。
そこにはまだ考え込んでいるフィルバートがいた。マリィは彼に声をかけた。

「フィルバート様」

マリィに声をかけられ、フィルバートは顔を上げる。その表情はあまり良くない。悩んでいるようだった。
そんな彼にマリィは遠慮がちに、しかし、はっきりと伝えた。

「私は、貴方にルークの家庭教師になって貰えたら、凄く嬉しいです」

「マリィ夫人……」

「実を言うと、ルークの家庭教師を探し始めた時、最初に思いついたのが貴方なのです。
私が出会った男の人の中で実の親の次に信頼できると思ったのが貴方ですから。
この話は願ってもない話なのです」

「…………」

「もし良ければ、ルークを貴方に任せたいです。
貴方も分かっての通り、貴方にルークは懐いていますし」

フィルバートの目がルークへ向かう。
そんなフィルバートと目が合い、ルークの目がこれ以上ないほど輝いた。

身体をうずうずさせてフィルバートを見上げるルークは、無礼講と言われたが国王の手前、流石に駆け寄ってはいけないと分かっているのだろう。今にも駆け寄りたいをぐっと我慢し、期待の目でじっとフィルバートを見上げている。

そのいじらしい可愛さに、フィルバートは小さく呻いた。しかし、振り払うようにかぶりを振り、マリィと向き合った。

「……俺は悩んでいるのはルークのことじゃない。
先生の言う事はその通りだ。貴方の信頼も嬉しい、ルークの期待もとても光栄なことだ。
だが……」

思い詰めている彼はマリィを、そして、マリィを通して、何かを見て、そして、意を決し彼は打ち明けた。



「……俺は、クリフォードに嫌われている。不用意に近づくのは避けたい。俺は彼を出来るだけ不快にさせたくないんだ」



















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