真実の愛の犠牲になるつもりはありませんー私は貴方の子どもさえ幸せに出来たらいいー

春目

文字の大きさ
53 / 77

46. 時は経ち、彼が先生となる日

しおりを挟む



その日は陽射しが燦々と降り注ぎ、晴れやかな陽気が心を明るくする、そんな日だった。

ズィーガー公爵家の別邸は朝早くから浮き足立っていた。

侍女は家中の掃除の仕上げに勤しみ、ルークは何度も自室と玄関を往復して確認し、マリィも何故か浮き足立っていた。

「マリィ、今日、いつもよりずっと綺麗だね?」

「えぇ、そ、そうね?」

「お出かけ?」

「そ、そうじゃないわ」

「なら、なんで?」

「え、えーとなんでかしらね?」

わざわざ髪型をハーフアップにし、普段より張り切った化粧をして、可憐なドレスとアクセサリーを身につけた彼女は、いつも以上に綺麗だ。

そんな彼女は、ルークを前にしても、その目は泳ぎそわそわと落ち着きなく、その頬をやや赤くしている。

ルークは初めて見るマリィの表情に目を瞬かせた。

「一体どうしちゃったの? マリィ」

頬が赤いことから風邪を疑うが、どうも違う。

ルークが首を傾げ考えていると、玄関がノックされた。

「来た!」

その音にルークは弾かれたように駆け出し、玄関に向かっていく。ルークが辿り着くと玄関に控えていた侍女が玄関を開き、やってきたその人を出迎える。

ルークは真っ直ぐにその人に駆け寄った。

「フィルバート!!」

そして、その人を抱きしめようとして……そこでルークは足を止めてしまった。

そこにいたのは、確かにルークのよく知る黒髪で琥珀色の瞳を持つ人だったが……。

「フィルバート……?」

眼鏡だけはそのままに。
顔半分を覆っていた前髪をバッサリ切り、髪型を洒落たミディアムヘアーにして、使い込んでいた黒い外套は脱いで、シワひとつない真っ白なワイシャツ、紺色のベストとスラックスにしていた。

中身はともかく、外見だけ見れば、どこか野暮ったく陰気臭かったその人はどこにもいない。そこにはただのクールな印象の美男子がいた。

「…………えっ、誰?」

ルークは2度見では足りず、見る角度を変えながら3度見、4度見する。

すると、彼は困った顔をしてルークを見た。

「ルーク……? どうした?」

「あっ! フィルバートだ!」

声でようやくルークはフィルバートだと気づき、駆け寄った。すると、フィルバートは慣れたようにルークを抱える。やはりルークが知るフィルバートである……外見がイメージチェンジというレベルではなく、あまりにも変わり過ぎているが。

「びっくりした! 誰か分からなかったよ!」

「そんなにか?」

「うん! 前のフィルバートも好きだけど、今のフィルバートもかっこよくて好きだよ!」

「そ、そうか……格好いいか……。
マリィ夫人の隣にいても問題ないだろうか?」

「ん? なんでマリィ?」

何故ここでマリィの話になるのか。ルークは首を傾げる。
しかし、その人は先程のマリィと同じように頬をやや赤くし浮き足立っていることに気づき、ルークは目を細めた。

「マリィと何かあった?」

「いや、別に……」

頬をかきながら目を泳がせるフィルバートを訝しみルークはじっと見る。

すると、そこへマリィがやってきた。

「お久しぶりです、フィル……」

しかし、その言葉は不自然に途切れる。マリィの目にフィルバートの姿が映ると同時に彼と目が合う。
マリィはすっかり変わった彼を。
フィルバートはいつも以上に綺麗な彼女を。
2人はお互いを見た瞬間、これ以上ない程、真っ赤になりお互いから目を逸らした。

「マリィ夫人、その、今日も、いや、一際、綺麗だな……」

「フィ、フィルバート様はその……とても変わられましたね……か、かっこいいです……」

「そ、それは、良かった……貴方がそう言ってくれて、安心した」

「……ただちょっと、面映ゆくて、見れませんね」

「! それは……こちらのセリフだ。貴方も眩しすぎる……髪型、似合っている」

「っ!」

照れ混じりの甘い初々しい空気が玄関ホールを包み込んでいく。
その空気の真ん中で、ルークは1人、目を瞬かせた。

それからマリィとフィルバートは目が合う度、お互いに慌てて逸らし、照れるのを繰り返した。

ルークが「2人ともどうしたの?」と聞いても、2人とも「別に……」というだけで答えてくれない。

「なんだろう? 変なの……」

確かに何かある筈なのに何も教えてくれない2人にルークは唇を尖らせる。

ただ侍女達は皆、察して、つい笑みを零してしまいながらも何も言わず2人を見守っていた。







しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】結婚前から愛人を囲う男の種などいりません!

つくも茄子
ファンタジー
伯爵令嬢のフアナは、結婚式の一ヶ月前に婚約者の恋人から「私達愛し合っているから婚約を破棄しろ」と怒鳴り込まれた。この赤毛の女性は誰?え?婚約者のジョアンの恋人?初耳です。ジョアンとは従兄妹同士の幼馴染。ジョアンの父親である侯爵はフアナの伯父でもあった。怒り心頭の伯父。されどフアナは夫に愛人がいても一向に構わない。というよりも、結婚一ヶ月前に破棄など常識に考えて無理である。無事に結婚は済ませたものの、夫は新妻を蔑ろにする。何か勘違いしているようですが、伯爵家の世継ぎは私から生まれた子供がなるんですよ?父親?別に書類上の夫である必要はありません。そんな、フアナに最高の「種」がやってきた。 他サイトにも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫(8/29書籍発売)
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

居場所を失った令嬢と結婚することになった男の葛藤

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢ロレーヌは悪女扱いされて婚約破棄された。 父親は怒り、修道院に入れようとする。 そんな彼女を助けてほしいと妻を亡くした28歳の子爵ドリューに声がかかった。 学園も退学させられた、まだ16歳の令嬢との結婚。 ロレーヌとの初夜を少し先に見送ったせいで彼女に触れたくなるドリューのお話です。

王妃様は死にました~今さら後悔しても遅いです~

由良
恋愛
クリスティーナは四歳の頃、王子だったラファエルと婚約を結んだ。 両親が事故に遭い亡くなったあとも、国王が大病を患い隠居したときも、ラファエルはクリスティーナだけが自分の妻になるのだと言って、彼女を守ってきた。 そんなラファエルをクリスティーナは愛し、生涯を共にすると誓った。 王妃となったあとも、ただラファエルのためだけに生きていた。 ――彼が愛する女性を連れてくるまでは。

処理中です...