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45. 打ち明けられた衝撃
しおりを挟むその日の夜。
王城で2人の男が話していた。
2人がいる部屋は王城とは思えないほど装飾も絨毯もない簡素な部屋だった。
窓もない為、明かりが無ければ何も見えない。そんな部屋で1人の男が机に向かって何かの設計図の描き、もう1人の男がその辺りにあった椅子に座って、彼に話をしていた。
その話を一通り聞くと設計図を描いていた男は顔を上げた。
「なーんだ。その話か。随分思い詰めているから何だと思ったら。
気にしなくていいよ」
「だが、セロンが……」
「全く心配症だな。君が思うほど彼は弱くないよ。
だけど……まぁ、妥当な対応策と処分は考えておくよ」
彼……国王は渋々といった様子でそう言うと、「私の方針に合わないのだけど……?」と不満そうにもう1人の男に零しため息を吐いた。しかし、もう1人の男……フィルバートの視線が痛い。
「全く……」
その視線に国王は呆れつつ肩を竦めた。
「それなら自分でやったら?
いや、私がやった方が効果はあるだろうけど……」
「今の俺は貴方から貰った貴族籍を手放しています。
平民同然。出来るわけないでしょう」
「あぁ、なるほど。
王族籍は抜いてないからそちらを使えば?」
なんて事のないように話されたその言葉に、フィルバートは目を見開き、驚愕した。思わず、絶句してしまう。
「………………は?」
「何のために、君が出て行く時に名乗る時はセレスチアの姓を名乗れと厳命したと思っているんだ。
貴族籍を抜けるのは許したが、王族籍は許していない。
だから、王城にも普通に入れるし、全員普通に応対してくれるだろう?」
国王はクックっと楽しそうに笑う。だが、その笑い声に、目の前にいるフィルバートは嫌な予感がした。
「……待ってください。だったら、継承権はどうなっているのですか?
俺は王族籍と一緒に手放したと思っていたあれは……」
「あぁ、あれ。そのままだよ?」
「……は?」
国王は設計図にコンパスをあて、クルクルと回しながら機嫌良く話した。
「流石に継承権順位は最下位にさせて貰っているけれどね。
王家の血を簡単に手放すわけないだろう。特に君は半分は純血なんだから」
「…………」
「だから、君が幼い頃に手放したのは王位だけさ。
だから、君が本気出せば、いつでも取り返せるよ?」
「…………要らない。邪魔だ」
「言うと思った」
明かりの下で椅子に座るフィルバートは不満そうに顔を歪めた。
「俺はもう王族や貴族の縛りに囚われ、国の為に自分を犠牲にするようなことはしたくない。
俺は自分と、目の前の誰かの為に……」
「それがルークくんでありマリィ夫人というわけかい?」
設計図を描く手を止め国王はフィルバートの顔を見る。
あまり明るくない明かりの下、図星だったのか、わざとらしく視線を逸らす彼がいた。しかも、いつもその顔を覆っているはずの前髪は綺麗に分かれて、素顔を晒していた。
「君も変わるんだねぇ……」
つい国王はそう零した。
「今まで君は多くの人々に出会ってきた筈だ。下手をしたら私よりもね。
だが、君はずっと変わらなかった。だから勝手に、君は他人に影響されるなんて無いのだろうと思っていたけど……」
国王は机から離れ、フィルバートに近づく。そして興味深そうに彼の顔を覗き込んだ。
「研究させてよ。君の心の変化が君の魔法を大きく変えた筈だ。
元より君の魔法は1級品だが、君の純然たる感情が君の魔法を更に高め増大させているかもしれない」
「お断りします」
「いいだろう? 愛は時に人を高め時に人を凋落させるものだが、君のは間違いなく前者だ。
調べれば人類が持ちうる可能性を垣間見ることが出来るだろう。つまり、測定すれば必ず素晴らしい結果が……」
「お断りします……!」
「いいや、君は測定されるべきだ。人類の発展に貢献したまえ」
「だから、断るって言ってるだろ!」
育ての父と子。師匠と弟子。研究者とモルモット。そんな関係の2人は狭い部屋の中で押し問答を繰り返す。
しかし、その時だった。
するしないでキリのない会話を続ける2人のもとへ、部屋から駆け込んでくる青年がいた。
乱暴に開かれた扉に2人が目を向けると、青年は床に頭をつける勢いで頭を下げた。
「お願いです。フィルバート兄様、貴方が王太子になってください!
僕はもう無理です……!」
その一言にフィルバートは驚愕し頭が真っ白になった。しかも、つい先程まで国王と押し問答していたのだ。だから、ついその流れで……。
「断る……!」
そう即答してしまい、青年は床に卒倒した。
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題名 少し改変しました
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