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第四章 何もしなければ何も起こらない、のだ。

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採石場で任務を遂行して帰ってきたら、
マリーさんが温泉に誘ってくれた。

4階建てのお城みたいに大きな館の
最上階に作られた例の露天風呂だ。

夜に入ると星空が綺麗に見える上に
さっき立ち寄った湖の湖畔に建つ
別荘や家の灯りも煌めいて
綺麗らしいけど、今みたいに
明るい時間帯に一度入ってみて
周りの景色を楽しむのも
おすすめだという。

王都でルルーさんが準備して
くれていた湯浴み着に着替えると
マリーさんが一緒に入ってくれた。

あ、やっぱり1人では
入らせてくれない感じなんだ・・・。

シンシアさんはお風呂には
入らないで、私のために
湯上がりの冷たい飲み物を
準備してくれている。

うーん、景色を眺めながら
日本酒を飲むみたいに
ジュースを持ち込みで露天風呂を
堪能するっていうのもダメか・・・。

多少の不満はありつつも、
景色はすごく綺麗だったので
おおむね満足だ。

輝く湖面、広がる牧草地と森林。
目の前に絶景が広がっている中で、
元の世界では考えられないほど
のんびりと温泉を楽しんでいる。

体が小さくなったり
まだ思い通りに力を使えなかったりと
小さな問題はいくつかあるけど、
この世界に来て良かった。

・・・色々あったけど、私は元気です。

パン屋さんに居候しながら
宅急便屋を営んでいる思春期の
魔女みたいなセリフが
頭に浮かんだけど本当のことだ。

満足して温泉から出て
涼しい風がそよぐバルコニーに
移動する。

しっかりと体が温まって暑くなり、
未使用の湯浴み着の中でも
かなり薄手のものを
バスローブ代わりに着て、
下には膝丈くらいのゆるっとした
ワイドパンツみたいな
ズボンを履いた。

暑さのあまり下着もつけずに
直接湯浴み着を着ていたら
シンシアさんに
汗が引いたらきちんと
下着をつけるんですよ、
と注意されてしまう。

ごめんね、でも上はともかく
ズボンの下にはちゃんと
パンツは穿いてるよ?

それに上は上で10歳児の
つるぺただから大丈夫じゃ
ないかな?と思ったけど、
そういう問題じゃないか・・・。

素直に返事をすると
シンシアさんはそれで良し。と
用意してくれていた
冷たいオレンジジュースを
手渡してくれたので、
長椅子に座ってジュースを
飲みながら一息つく。
ここは天国かな?

そのまま少し休んでいて
何気なく下を見たら、ちょうど
斜め下にある、3階のバルコニーが
目に入った。

リオン様がいる。その前には
何個か並んだグラスとお酒の瓶に
おつまみらしきチーズ。

これは・・・ワインの試飲では?

そう思ったら、体がウズウズした。

飲みたい。

露天風呂ではお酒が飲めなかったから
余計にそう思ったのかもしれない。

考えてみたらこの世界に来てからは、
子どもなこともあってお酒には
全く縁がなかった。

元の世界ではそれなりに
飲める方だったと思う。

接待で飲まされても
潰れたことはなかったし。
ただ、今の体ではどうなんだろう?
もしかするとお酒に弱いって
こともあるのかな。
一度試してみてもいいかも知れない。

そうと決まったらさっそく確認だ!
決してお風呂上がりに
飲みたいだけではない。

シンシアさんにお願いして、
リオン様の所へ連れて行ってもらう。

が、薄手の白くストンとした
ノースリーブの湯浴み着を
上半身は下着もなしに着ている私に、
さすがにその格好は肌が見え過ぎると
シンシアさんは上にケープみたいなのを
羽織らせた。
ちょっとだけ暑い。

シンシアさん、本当はきちんと
私を着替えさせてから
リオン様のところへ
連れて行きたそうだったけど
そんな事をしていたら
試飲が終わってしまうかも知れない。

なので、ちょっとだけシンシアさんを
急かしてしまったので
譲歩してケープを羽織ることに
なったのだ。

そしてその格好のまま、
リオン様のいる部屋をノックすると
レジナスさんが出てきてくれた。

「ユーリ」

そんな格好で一体どうした?と
不思議そうにしているので
張り切って答えた。

「リオン様がおいしそうな
ジュースをたくさん並べているのが
上のお風呂から見えたので、
私も貰いに来ました!」

久しぶりの子ども偽装術を発動した。

あえてお酒とは言わずに
ジュースと言って、
子どもらしい無邪気さを装った。

「いや、でもあれは子どもの
飲むものでは・・・」

レジナスさんはなんて言おうか
戸惑っている。
すると、部屋の奥・・・
バルコニーの方からリオン様の
楽しそうな笑い声がした。

「いいよレジナス、ユーリを
連れておいで」

やったね!

いそいそと、バルコニーの
リオン様の元へと向かうと
思った通りワインの試飲を
しているところだった。

「・・・ジュースじゃない?」

一応子どもらしさを装って、
小首を傾げてみせた。
もう18だとバレているけど
このあざとさは通用するだろうか。

「そう、ジュースじゃないよ。
これは全部お酒だから、
ユーリにはまだ少し早いかもね。」

リオン様は楽しげに目を細めて
私の頭を撫でるとそう言った。
おや。このあざとさ、
意外と通用してそうだ。

「私が飲んでも大丈夫ですか?」

一応聞いてみる。だめって言われても
粘るつもりでいるけどね!

「うーん、どうだろう。
舐めてみるだけならどうかな。」

一応蜂蜜を用意してくれる?
リオン様がシンシアさんに
声を掛けると、心得たとばかりに
シンシアさんは準備のために
部屋から下がった。

「・・・大丈夫でしょうか。」

レジナスさんはまだ心配そうだ。

「ユーリくらいの年の頃には
僕も兄上も王族教育の一環として
アルコールには少しずつ
慣らされていたから、
全くダメってことは
ないだろうけどこればっかりは
体質だからねぇ・・・。」

もしユーリがお酒を飲めたら
一緒に楽しめるのにね、と
言いながら数種類の中から
1つ選んでくれた。

多分それが一番度数が
低いものなんだろう。

「リオン様はどうして
こんなにたくさんのお酒を
並べているんですか?」

「兄上へのお土産と、来月
王宮である晩餐会用に新しい
ものを仕入れたくてね。
・・・さあどうぞ、お姫様。」

話しながら、リオン様が
おつまみ受けにでも
しようとしていたらしい
小皿にちょっとだけ
ワインを注いでくれた。

おお、入れ物がなんだか結婚式の
三三九度を飲むみたいだ。

さて、どんな味かな?
わくわくしながら一口飲んでみる。

とたんに喉の奥がカッとなって、
頬も熱を持ったみたいに感じた。

・・・あれ?この感じは、この体
相当お酒に弱くないか⁉︎

目もなんだかウルウルしている
気がして、パチパチ瞬きを繰り返した。

ウソでしょう?たった一口しか
飲んでいないのに。

「ああ、やっぱりまだ
早かったみたいだね。」

私のその様子にリオン様が
笑っている。

試しにもう一口飲んでみる。
あ、ダメだ。やっぱり
おいしいとは思えない。
ていうか、まず味が分からない。

これは子ども舌だからなのか
この体がアルコールを
受け付けないからなのか。
一体どっちなんだろう。

気になってもう一口飲む。
うーん、やっぱり分からない。
そして体が熱い。

「ユーリ、大丈夫か?もうそのくらいに
しておいた方が・・・」

「今シンシアに蜂蜜を
用意させているからね、
それと水で割れば子ども用の
葡萄ジュースみたいな味に
なるからおいしく飲めるかも・・・」

リオン様とレジナスさんの声が
ちょっと遠くに聞こえる。

あ~、これ本当に酔っているのかも。
 
今までにないくらい体が熱い。
なんだか頭もフワフワするし、
体の内側から力が溢れてくるみたいだ。

そこでふと小皿を持つ
自分の手が目に入った。

あれ?うっすら光ってる?
酔って幻覚でも見えてるのかな?

「りおんさま・・・わたし、
ひかってますか?」

「えっ?」

何を言ってるんだと思われるかな?
でもなんか変だ。

バルコニーのガラスに映る
自分を見る。

ぼーっとした顔で小皿を持って
リオン様の向かいに座っている
私の姿が映っているが、
やっぱりうっすら光っているような?

「わたし、おさけに
よわいみたいです。
からだがちいさいから?
もとのおおきさだったら
よかったのかなあ」

リオン様とレジナスさんが
焦ったように私に手を伸ばしたのは
見えていたけど、ぼんやりしながら
構わず話していた時だった。

元の大きさなら、と考えた瞬間
一際強く体が光った。

眩しさに一瞬目を閉じて、
何が起きたのかともう一度
ガラス越しに自分を見る。

そこに映っていたのは、
この世界に来たばかりの時に
イリューディアさんに
与えてもらった姿の、
あのあざとい美しさを持った
元のサイズの黒髪美少女だった。

酔い過ぎて幻覚を見てるのかと
思って思わず立ち上がる。

がたん、と大きく椅子が
動いて肩にかけていた
ケープが落ちた。

・・・夢じゃない。
立ち上がった時の視線の高さが
いつもと全然違う。

自分の両手を見る。
いつもよりすらりと長い。

そして何より、そのまま
視線を下げるとつるぺたじゃない。
ちゃんと立派な胸がある。

さっきまで体のどこにも
ひっかかることなく
ストンとしたノースリーブ型の
ドレスだったのに、
今はこのご立派な胸のおかげで
胸周りがだいぶきつくて苦しい。

この苦しさは夢じゃないだろう。

間違いなく、イリューディアさん
渾身の作の美少女姿だ。

お酒で戻るってアリなの?
いや、とにかく戻れたなら
なんでもいい。

慌てて伸ばした手もそのままに
固まっているリオン様と
レジナスさんの2人に、
あまりにも嬉し過ぎて
うふふ。とにんまり笑いかけた。
完全に酔っ払いが人に絡む時の
笑い方をしていたと思う。

「よく、わからないけど、もとに、
もどれましたぁ~~っ・・・‼︎」

両手をあげて万歳をした。
そして私の記憶はそこで途切れた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「さて、あと2種類どれにしようかな」

7本のワインを目の前に並べて
僕はちょっと考えた。

来月、ルーシャ国は
隣国の国王を迎えての
晩餐会を予定している。

父上が退位して隠遁生活に入る前に、
仲の良い隣国の国王が
視察名目で父上に会いに来るのだ。

久しぶりに会うお二人のためにも
とびきりおいしいワインを
用意してあげたい。

晩餐会用と、その後の親睦会用。

どれにしようかな・・・?
思案していると、部屋の扉が叩かれた。

シンシアの声がする。
おや?今はユーリと一緒に
上の露天風呂を楽しんで
いたはずなんだけど。

そう思っていたら、
対応したレジナスの向こうから
ユーリの声も聞こえてきた。

ジュースを飲みに来ました、と
いう元気な声がする。

ああそうか、このバルコニーの上には
ちょうど露天風呂の休み処が
あったはずだ。

そこから下を見て、このワインを
ジュースだと思って来たんだね。

せっかく楽しみにしてきたのに
追い返すのはかわいそうだ。

レジナスに声を掛けて、
中に入ってもらった。

嬉しそうにこちらに駆け寄ってきた
ユーリはお風呂上がりらしく
まだ頬をわずかに紅潮させている。

乾かしたばかりの髪の毛は
いつもよりも、より一層
美しい艶を放っているが
着ているものはなぜか
肩からすっぽりケープを
羽織っていた。

お風呂上がりにそれは
暑くないのかな?

ちょっと心配になったがユーリは
特に気にしていないようだ。

それよりも僕の目の前に並べられた
ワインに興味津々でいる。

ジュースじゃないと分かって
少しがっかりしたようだったけど、
それでもなんだか
飲んでみたそうだった。

レジナスは心配そうだが、
僕がユーリくらいの年の時には
もうアルコールは少しずつ
摂取し始めていた。

ユーリも今から慣れておけば、
そのうち一緒にお酒を
楽しむこともできるように
なるだろうか?

ほんのりとお酒で頬を赤らめて
僕と楽しげに会話をする
未来のユーリ、という図を
想像すると知らずに笑みがこぼれた。

念のためこの国の子どもたちが
お祝い事の時にお酒の代わりに
よく飲む方法・・・ワインを水と
蜂蜜で薄めてジュースみたいに
する飲み物の用意もしておこう。

もしワインが飲めなくても
それならがっかりせずに
おいしく飲めるはずだ。

シンシアに頼むと、心得て
いるようですぐに準備を
するために下がった。

これくらいなら大丈夫かな、と
手近にあった小さなお皿に少しだけ
ワインを注いでユーリに渡す。

彼女はそれをとても嬉しそうに
受け取ったけど、
一口飲んで変な顔をした。

どうやら口に合わなかったらしい。

あの綺麗な瞳が、たった一口しか
飲んでいないのにあっという間に
潤んでしまって、ユーリ本人も
それが不思議なのか
パチパチと瞬きを繰り返している。

やっぱりまだ早かったか。と
小皿を取り上げようとしたんだけど、
なぜかユーリはまたそれを飲んだ。

あれっ、大丈夫なのかな?

更にもう一口。
顔もだいぶ赤くなっているし、
明らかに酔っているのにそれでも、
なぜか何かを確かめるように
ワインを口にする。

さすがにレジナスもユーリから
小皿を取り上げようと、
控えていた僕の後ろから
一歩踏み出した時だった。

ーリオン様、私、光ってますか?

ユーリが突然そんなことを言い出した。

何を言っているんだろう、と思ったが
よくよく見ると本当に彼女の体全体が
うっすらと光に覆われている。

・・・これは一体何なんだ?
ユーリに何が起こっている?

目の前の現象に、僕が少し
戸惑い始めている間も
ユーリの体を覆う光は
段々と明るさを増してきていた。

ユーリは酔っているのか、
ぼんやりと舌ったらずなまま

体が小さいから酔ってしまったのか、
元の大きさなら良かったのか?
と話していた。

元の大きさなら良かったのに。

ユーリがそう口にした時だった。
光がより一層強まった。

このままだとこの光に呑まれてユーリが
消えてしまうのではないかと思い、
慌てて彼女を捕まえようと
手を伸ばした。

どうやらレジナスもそう思ったようで
僕と同時に手を伸ばしていた。

が、次の瞬間。
そのまばゆい光が突然消えたかと
思うと、今までユーリが座っていた
その場所に見知らぬ少女が座っていた。

いや、この顔には見覚えがある。

大人びてはいるけれど、
ユーリじゃないか?

でもまさかそんな。一体どうして?
本当にユーリなのか?

しかし、羽織っているケープといい、
小皿を手に持っているところといい、
今の今まで目の前にいたユーリと
まったく同じだ。

すると、目の前の少女は
さっきまでのユーリと同じように
パチパチと目を瞬くと、
小皿を持ったまま緩慢な動作で
ゆっくりとバルコニーのガラスに
目を向けて、そこに映る自分の姿を
確かめていた。

その気だるげな動作一つにも
なんともいえない色気が漂っている。

その時だ。
突然意識が覚醒したかのように
彼女は目を見開くと、
椅子を大きく鳴らして立ち上がった。

その拍子に彼女の肩にかかっていた
ケープがばさっ、と音を立てて
床に落ちる。

そうすると、ノースリーブの
白く薄い生地の上衣から
ほっそりとしてたおやかな、
服の色にも負けない
艶めかしい白さの肩と両腕が
露わになった。

僕とレジナスは対面に座っていた
ユーリを捕まえようと、
中腰で手を伸ばしたまま
固まっていたけれど
その視線の場所が悪かった。

ちょうど立ち上がった彼女の胸元を
まっすぐ見る位置に顔があった。

見るとはなしに、ついそこに
目が吸い寄せられる。

白い柔肌の間にある深い胸の谷間。
その先にある、薄手の生地を大きく
押し上げる二つの豊かな双丘。

その中心には小さな尖りが更に他より
僅かに布地を押し上げている。
ように見える。

・・・いや、ダメだろう‼︎
そんなにまじまじと見つめてどうする⁉︎

慌てて視線を逸らして
彼女の顔を見上げた。

そうしたら、彼女と目があった。

豊かな黒髪を揺らし、
長いまつ毛の奥に見える
とろりと融けたように潤む瞳は
黒の中に紫紺色が混じって
複雑で、時折りちらちらと
のぞく金色が目を離せない、
なんとも言えない不思議な色味。

間違いなくユーリだ。

目が合った彼女の唇はアルコールで
いつもよりも赤味が増して
真っ赤に熟れた木苺のようで、
まるで食べて欲しいと言わんばかりに
こちらを誘うような艶を放っている。

そして彼女は、つややかなその唇で
ゆっくりと弧を描くと僕に向かって
ふふふっ、と妖艶に微笑んだ。

その蠱惑的な表情から目が離せない。

小さく形の良い、柔らかそうなその唇が
ゆっくりと開いて言葉を紡ぐ。

「よく、わからないけど、
もとに、もどれましたぁ~っ・・・」

色っぽい表情とは裏腹に話す言葉は
いつものユーリだった。

白くほっそりとしたその両手を
大きく広げて無邪気に喜んでいる。

いやっ、そんなことすると
また胸が押し上げられて
色々と強調されるから・・・っ‼︎

本人は無邪気だが僕には目の毒だ。

しかしユーリはそんな慌てる僕には
お構いなしに立ち上がったまま、
よっぽど嬉しかったのか
そのまま二度三度、その場で
ぴょんぴょん飛び跳ねた。

そうするとあの豊かな胸は
しっかりとその大きさと重さを
主張するかのように揺れるし、
ドレス型の上衣の裾がひるがえって
その白くくびれたウエストが
時折りチラチラとのぞく。

本当にやめて。

そもそも着ているのが子どもサイズの
ユーリに合わせてあるものだから、
風呂上がり用に多少ゆったりとした
作りでも今のユーリにはサイズが
全然合っていない。

だからほら、上に着てるのもそうだけど
下にはいているズボンだって今にも
はち切れそうにパツンパツンだ。

そのくびれたウエストから
繋がる豊かな腰回り、
その下の色っぽい曲線を
描く太ももにすらりと長く
しなやかに伸びた白い足まで、
体のラインがほぼ全て丸見えだ。

確かユーリ本人はレジナス達に、
18になっても姿形が
ただ大きくなるだけだから
そんなに変わらないですよ、と
言っていたらしい。

・・・全然違うじゃないか。
18になったユーリがこんなにも
魅惑的に色っぽく成長するなんて。

ともすれば、思わずその腰に
腕を回し抱きしめて、腰の細さを
この手で確かめたくなるような。

もしくは僕の下に組み敷いて
じっくりとその魅力的な肢体を
見つめて堪能したくなるような。

無邪気な仕草とは真逆の、ユーリの
放つ色気に当てられてくらくらする。

・・・今すぐこの手にかき抱き
腕の中に閉じ込めて口付け、
その唇と体の柔らかさを感じたい。
そんな気分にまでさせられてしまう。

どうしよう。僕の理性と忍耐力が
物凄く試されているような気がする。

混乱していたけど、ふと気付くと
目の前のユーリはいつの間にか
テーブルに突っ伏して
気持ち良さそうに眠っていた。

よ、良かった。

豊かに広がる長い黒髪があちらこちらに
散らばって顔にかかっていたので、
そっと整えてあげる。

・・・こうして見る寝顔はいつもの
ユーリで、あどけないものだ。

そう。見た目は大人びているけど
さっきの言動からしても
中身はいつものユーリだ。

そんな彼女に今、邪な気持ちを
抱くのは何か違う気がする。
冷静にならなければ。

それでもどうしてもこらえきれずに、
髪の毛を顔から払ってあげた最後には
彼女のいつもより赤く色付いた
柔らかな唇の形を親指でそっと
なぞってしまった。

しかしそこで僕はやっと
レジナスの存在を思い出す。

そうだ、レジナス!
彼はどうしてる?
また固まってるのか⁉︎

慌てて隣を見てみたら案の定、
ユーリに差し出した手も
そのままに口をぽかんと
開けたまま固まっていた。

ただしその顔は尋常じゃない位
赤くなっているし、
オレンジ色の瞳も見たことも
ないくらい見開いている。

あー・・・、彼も多分
ユーリの揺れる胸元とか
色々ハッキリ見てしまったな。

固まってしまった分、
視線がそこに長く固定されて
しまったんじゃないだろうか。

無理もない、
それは動けなくなるなぁ。

僕ですら一瞬理性が
焼き切れそうになったくらいだ。

レジナスだってどうすれば
いいか分からなくなったのでは。

目の前に突然あんな、
体の線も露わな刺激的な格好で
好きな相手が現れたんだ。

今日の夜は眠れないかも知れない。
ーいや、それは僕もか。

とりあえず、眠り続けている
ユーリと固まったままのレジナス、
2人をどうにかしなければいけない。

・・・さてどうしよう?
珍しく僕は途方に暮れたのだった。














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