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第十三章 好きこそものの上手なれ

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ノーパンツノーライフ。

危なかった。レジナスさんに恥を偲んで思い切って
下着が破けて脱げているらしい事を伝えて良かった。

そのおかげで、慌ててレジナスさんがシンシアさんを
呼び寄せてくれたので私は人としての尊厳を失わずに
済んだ。

つまりはレジナスさんとシンシアさん以外には
ノーパン姿でいることはバレなかった。

ノーパンであるということ以外にも、胸だって
はだけているしスカートだってぼろぼろだしで、
それ以上一歩も動けない状況だった。

レジナスさんにも妙な気分になるし目のやり場に
困るからとりあえず隠せ、と耳まで真っ赤にされて
言われてしまった。

ユリウスさんから強奪した上着をかき寄せて胸元を
隠し、体育座りで縮こまっていれば、エル君に手を
引かれて私のところへ駆けて来てくれたシンシアさん
が「ユールヴァルト家のタウンハウスへ戻れば、
持参している荷物の中に大きい姿用のドレスや下着
など着替え一式があります」と教えてくれた。

さすがシンシアさん、頼りになる。どんな時も
準備万端だ。

王都の街中から離れているこの場所から、すぐに
タウンハウスへ戻れるのかとユリウスさんに聞けば
さっき転移したばかりでその時の魔法陣がまだ使える
はずだから、今ならすぐにでも戻れると言う。

「ただ、それを描いたドラグウェル様とセディさんが
魔力不足っす。転移したのと、ユーリ様達があの黒い
霧に影響を受けないように防ぐための魔法を使ってた
から・・・団長も休ませてあげたいし、馬車を手配
するっすよ。」

シグウェルさんはまだ静かに眠り続けている。

最低限の回復魔法だけをかけたユリウスさんによれば
魔法で無理矢理全回復させるよりもこのまま安静に
して本人の魔力が自然回復するのを待つ方が体への
負担は少ないという。

なるほど、と納得したものの・・・馬車⁉︎

出来ればこのまま一歩も動きたくないんですけど。
ユリウスさんは、私が座り込んでいるのは大立ち回り
を演じたせいだと思っているけどそうじゃないのだ。

「私がドラグウェル様達を回復させますから来た時と
同じようにまた魔法で帰れませんか?」

「えっ、でもユーリ様さっき浄化に力を使ったんじゃ
ないっすか?」

疲れてるのに悪いっすよ、とユリウスさんは言うけど
あれはグノーデルさんの力が全てやってくれたので、
私は自分の力を全然使っていない状態だ。

いつもは魔力を使うと小さい姿に戻ってしまうのに
今もまだ大きいままなのはきっと何も力を使ってない
からなのかも。

そんな事を話して、ドラグウェル様とセディさんにも
私の力で回復してもらってもいいか確かめた。

「ユーリ様のお力を使わせるなど申し訳ないこと
ですが・・・」

ドラグウェル様はそう言って迷っているようだった。

でも私としてはいくらユリウスさんの上着を羽織って
いるとはいえノーパンのまま短いスカート姿で馬車
までレジナスさんに抱えられていくのはちょっと。

レジナスさんもそれを想像したのか顔が赤いし。

「ぜひ!やらせて下さい‼︎」

こうなったら実力行使だ。いいとも悪いとも返事を
し兼ねて立っていたドラグウェル様とセディさん、
ついでにユリウスさんにも魔力が回復出来るように
地面に手をついて魔力を流した。

なる早やでお願いします!

ノーパン姿から早く解放されたいとあせる私の気持ち
が強過ぎたのか、気持ちいつもより少し強く明るい
光が三人に走ったような気がした。

「ちょっとユーリ様⁉︎」

ユリウスさんがびっくりしたような声を上げた。

「これは・・・」

ドラグウェル様もじっと自分の両手を見つめている。

「どうですか?回復しましたか?」

早く着替えたいなあと思いながら声を掛ければ、
セディさんと顔を見合わせていたドラグウェル様は

「・・・私だけでやろう。」

そう言って片膝を付くとを地面にそっと当てた。
あれ?ここに転移してくる時はセディさんと一緒に
両手をついて魔法を使っていたのに?

不思議に思う間もなく温室と呼ばれている実験場
いっぱいに魔法陣が広がって白く輝く。

来た時と同じような眩しい光に包まれて、思わず
目を瞑ればまた違和感のある浮遊感に一瞬襲われた。

次の瞬間、

「・・・信じられん。」

ドラグウェル様の呟きにハッと目を開ければそこは
私やレジナスさんが通されたユールヴァルト家の
タウンハウスの部屋だった。

戻ってきた。ほっとしていたらセディさんに感激の
面持ちで声を掛けられた。

「ユーリ様‼︎なんと身に余る光栄、なんと素晴らしい
お力‼︎」

「え?なんのことですか?」

そんなに感動されることをした覚えはない。

「さきほどわたくし達に使っていただいた回復魔法
です!いえ、あれはただの一時的な回復などでは
ございません‼︎わたくし達の魔力総量を増やされ
ましたのでそう、言うなれば魔力増強か新たな魔力を
付与されたに等しい行いでございます・・・‼︎」

召喚者様の加護をこの身に与えていただけるなど
恐れ多いことでございます!

そう言われて驚く。

「え?転移魔法に必要な分だけ回復させたつもり
だったんですけど⁉︎」

そんな私にドラグウェル様は膝をついて目を合わせて
説明してくれる。

「違いますな。身の内に感じ取れる魔力量の限界は
魔導士であれば誰でも把握しているものです。それが
明らかに増えているのを感じます。魔力の限界値が
今までの自分よりも大きいものに置き換わっている
のが分かります。試しに先ほどの転移魔法、私が
一人でいつもの半分ほどの力で行使してみましたが
この通り無事成功しております。」

なんと尊い御力か。そう言うと私の片手を取った
ドラグウェル様はそこへそっと口付けた。
ハッとして、

「ユリウスさん⁉︎」

それじゃあなたも⁉︎とユリウスさんを振り返れば、

「いや、セディさんの言う通りっす。なんか今まで
よりも少ない魔力で大きい魔法を使える気がするし、
自分の中の魔力を扱える容量が増えた感じがしてる
っすよ。なんでこんな事になったっすか?」

「えっ・・・」

それは私がノーパン状態を早く脱したくてそれを
強く意識したから、とか・・・?

そんな恥ずかしい理由、絶対言えないけど。

「なっ、何ででしょうね⁉︎早く帰らなきゃって
焦ったからですかね⁉︎」

さっきまでは恥ずかしくて顔が熱かったのに、今は
とんでもない事をしでかしたのに気付いて冷や汗が
背中を流れている。

ノーパンでいたくないから早く帰りたいという
自己都合が魔力増強強化人間を三人も生み出して
しまった。やらかしてしまった。

「そんなに急に魔力が増えたりしたら、目まいや
吐き気がするとか、どこか具合が悪いとかはない
んですか⁉︎」

青くなって三人を心配したけど、三人ともそんな事は
全くないと言う。むしろ体が軽く気分も良い位だと。

「どこか調子が悪くなったら言って下さいね⁉︎」

そう言ったけど、逆にボロボロの服装と擦り傷だらけ
の私の方を心配された。

自分で自分に回復魔法を使っていると、早く着替えた
方がいいとシンシアさんだけが部屋の中に残って
私の着替えを手伝い、エル君とレジナスさんは部屋の
前で護衛しながら待機してもらうことにした。

その間にドラグウェル様やユリウスさん達は、まだ
眠ったままのシグウェルさんを別の部屋で休ませる
ためにその場を離れた。

「着替えましたらセディに食堂まで案内させます。
大きな力を使ったのですから、少し遅くなりましたが
昼餐ちゅうさんに致しましょう。」

そう言って、シグウェルさんを抱えたドラグウェル様
は優しい目で私に微笑んでくれた。

『強欲の目』をこの屋敷の中に持ち込んだことで
何かあった時のために人払いをさせていたとさっき
セディさんが教えてくれた。

そのおかげで幸いにも大きくなった私の姿を他の人達
に見られる心配はないらしい。

「お料理は前もって準備させてありますし、昼食を
配膳する侍従も避難させてしまいましたがそこはこの
セディが賄いますのでご安心下さいね!」

にこにこしてそう言われたら、現金なもので途端に
私のお腹はくうと鳴った。

あらまあとシンシアさんには笑われて、エル君には
「ユーリ様・・・」と哀れみを帯びた視線を向けられ
恥ずかしくなる。

「だっていっぱい動きましたから!」

動いたのは私じゃなくてグノーデルさんの力のせい
だけど。

「早く着替えてご飯にしたいです、さあエル君も
レジナスさんも外に出て下さいね⁉︎」

座り込んだままそう言えば、

「よく頑張ったな」

ぽんと私の頭をひと撫でしてレジナスさんが褒めて
くれたことだけが救いだ。




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