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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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ルーシャ国の軍隊は第一から第七までの兵団に
分かれていて、それぞれの兵舎や訓練場が王宮の
近くにあるという。

ちなみに中央騎士団は半分以上が貴族階級出身で、
レジナスさんのように一般市民から騎士になる人は
よほどの才能がないと難しいらしい。

それが軍隊所属の兵士となると、貴族と一般人出身の
割合が逆転しているとか。

「だからユーリ様、兵士達は地方の傭兵達ほどでは
ないにしろ荒々しい者達が多いのでエル様のそばを
離れないように気を付けて下さいね。」

私が兵士さん達の訓練所に顔を出すと言ってから
ルルーさんはずっと心配そうだ。

「大丈夫ですよ、私を護衛してくれる人達なんです
から!それに顔を出すのはダリウスさんが勤めている
将軍の執務室で、訓練所はその通り道にあるだけ
ですよ。」

ヘーキヘーキ、と笑っては見せたものの、実は
内心ドキドキしていた。

前の世界の勤め先や取引先にいたみたいな女子供は
黙ってろ!みたいなむすくれた、挨拶をしても返事も
返してくれない人達だったらどうしようかと。

・・・だけどいざ行ってみたら全然違った。

騎士団よりも人数が多いため、必然的に王宮からは
少し離れた広い場所にあるそこは私が馬車から降りた
途端に

「うおっ!ユーリ様だ‼︎」

野太い大声が上がったと思ったらどこからか
わらわらと人が現れて来た。

「まじかー」

「初めて見た‼︎」

「ホントにちっちゃい女の子なんだな‼︎」

「オレんとこの娘よりも小せえぞ」

「どけよバカ、見えねぇよ‼︎」

「おいでーお嬢ちゃん、お菓子あげるよ!」

「まるっきり不審者だろそれじゃ!」

なんか色んな声が聞こえてくる。強面や怒号交じりの
説教には悲しいかな、社畜時代に慣れているけど
強面の人達に満面の笑みや好奇心丸出しの顔で興味
深そうに見られるのは初めての経験だ。

その辺り、騎士団の人達はもう少し控えめに私を
チラチラ見てきて声を掛ける時もそうっと様子を
伺うみたいだった。

なるほど、騎士団と雰囲気が全然違う。

頭の中ではそんな事を考えながら、とりあえず
挨拶を、と思っているのに体が動かない。

あ、これはあれだ。まだ私の中に10歳女児の子どもの
心が残っていてそれが突然たくさんの人達に囲まれて
びっくりしちゃってる。

体がその気持ちに引っ張られている状態だ。

いつぞやの、王都の夜に感情のコントロールが
出来なくなってレジナスさんの前で大泣きした時
みたいな感覚がする。

背も伸びて少しは成長したと思ったのにまだそんな
子どもっぽい部分が残っていたのかと驚いた。

「大丈夫ですかユーリ様」

珍しくエル君が気遣うようにそっと私の手を握って
来た。

護衛が手を繋ぐなんてあり得ないです、なんて
言ってたのに。

わー、優しい!と感動したらそれでやっと少し体が
動いた。

「あ、大丈夫ですよ」

ぎこちなくエル君に笑いかけたら途端に

「あっ!笑った、かわいいぞおい‼︎」

「まじ天使だ!」

「おもちゃみたいなぎこちない動き方してるなあ」

「ばか、そういう時はお人形さんみたいって言う
んだよ!」

「お姫様じゃねーの?」

また声が上がった。いやだから、私の動きをいちいち
実況しなくていいんだって!

注目されるのが一番苦手なのにどうしたものか。

今日はエル君と二人きりで、ここに着いたら案内役の
兵士さんがダリウスさんと将軍のいる執務室まで
連れて行ってくれるはずなんだけど・・・

こう人だかりが多いと一体どの人がそうなのか
よく分からない。

困った、と困惑していたら

「あ、泣くぞ⁉︎」

「ええ?何でだよ!」

「お前の顔が怖いからだろ⁉︎」

またざわつく。いや、この程度で泣くとかないから
安心して。ただ困ってるだけだから。

「申し訳ございませんユーリ様。」

「ダリウスさん!」

人垣の間から現れたのはダリウスさんだった。

「副官‼︎」

ダリウスさんの周りがさっと開けてみんなが敬礼
した。さすが、そのあたりは軍人だ。

「わざわざ出迎えてもらってすみません。」

「あまりに人が多くて連れて来れないと案内役の者が
教えてくれましたので。」

そのまま他の兵士さん達に注目される中を連れ立って
ダリウスさんに案内される。

と、なんだか何か言いたそうな顔でダリウスさんが
私を見ているのに気付いた。

「どうかしましたか?」

「いえ、先日は我が家に二度もお越しいただき
ありがとうございました。またぜひおいでください。
いつでも歓迎致しますので。」

セライラ様に似た顔でニコリと微笑まれた。

そういえばナジムートおじさんこと国王陛下が
どうしても自分が料理した魔獣を私にご馳走する
んだと言い張った上にリオン様も説き伏せまで
したので私は再度夕食をご馳走になりに行ったのだ。

そのため、ユリウスさんの家を夕食会で訪問した
二日後にまたバイラル家を訪れて、再度リリちゃん
姿にもなった。

そして陛下は

『お義父さまってのが恥ずかしくて言えないなら
ナジムートおじさんなら恥ずかしくないだろう⁉︎
どうだユーリちゃん!』

そう言って私にナジムートおじさんと呼ばせて
悦に入っていた。

それを眺めながらユリウスさんとゲラルドさんは

『陛下は随分と満足してるっすけど、義父より
おじさん呼びの方がその辺を歩いてる一般人と
変わらない格落ちした呼び方だって分かってる
んすかね・・・?』

『あそこまでなりふり構わない国王陛下のお姿は
見たくありませんでしたねぇ』

コソコソと話していたっけ。

「陛下が魔獣を獲って来たのには驚きましたけど
あのイノシシみたいなお肉もおいしかったです!」

「ユーリ様は食べ物に偏見がなくなんでもおいしそう
に食べられるので、見ている俺も嬉しくなりますね。
今日は執務室ですが昼食を準備しておりますので
楽しみにしていて下さい。」

ダリウスさんの言葉にテンションが上がる。

「お肉ですか⁉︎」

「ええ。騎士団で出されたあの粗野な食事をとても
喜ばれたと父からも聞いておりますので、今回は
我々が普段食べている塊肉の煮込みや串焼きを
準備させていただきました。」

ごろごろお肉の煮込み・・・!なんて美味しそう
なんだろうか。

想像しただけでワクワクする。味付けは何かな?

赤ワイン煮込みなのかそれとも白湯スープみたいな
ものなのか。

野菜は入っているのかな?ざっくり大ぶりでお肉と
同じように柔らかく煮込んである野菜なのか、
とろとろにスープに溶け込んでしまっているもの
なのか。それをピリッと黒胡椒で味が引き締めて
あると最高だな~。

「楽しみですねぇ・・・‼︎」

早く食べたいです、とダリウスさんを見上げたら

「おいしいお食事をされた時や食べ物について
話されている時にユーリ様の瞳は一番輝くとユリウス
が申しておりましたが、なるほど今のユーリ様の瞳は
とても美しい金色に輝いておりますね。」

目を丸くされた。あ、食い意地が張ってて本当に
すみません・・・。







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