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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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「どっ・・・」

どうして。こちらを向いて笑うヒマがある位なら、
シェラさんならその間に私のところへ来ることも
容易いはずなのに。

それをしないで赤々と燃えて倒れる木々の間に姿が
見えなくなったシェラさんを思って茫然とする。

その時、シェラさんのいた場所の向こう側で一段と
火の手が上がった。

溶岩が近付いて更に周りが燃え始めたのかも、と
我に返る。

まだだ。ユリウスさんはシェラさんに防護魔法を
付けたって言ってたからまだ助けられる。

いつもは頼みもしないのにくっつくくらい側にいたり
人の寝顔まで観察するほど近くにいるくせに、
こういう肝心な時に私のそばに来ないってどういう
こと?

一人だけ笑顔で満足そうにして勝手にいなくなる
なんて。

そう思うとなんだか腹が立ってきた。

シェラさんに託された赤ちゃんを安全なところへ
そっと寝かせて思い切り声を上げる。

「・・・シェラさん‼︎」

この火が邪魔だ。邪魔しないで!

そんな苛立ちも込めてシェラさんの名前を呼べば、
それに応えるように轟音と共にその場に雷が落ちた。

シェラさんのいた辺りの地面が抉れて燃えていた
木々が吹き飛ぶ。

広範囲で燃えるものがなくなったそこに、もう
火の手は上がらずめくりあげられた地面のおかげで
溶岩の進行方向も変わったらしい。

辺りの炎はすっかり消えてしまって白い煙と
木の焼け焦げた匂いだけが漂っていた。

その中に倒れているシェラさんの姿が見える。

「シェラさん!」

もう一度名前を呼んで駆け寄る。

「どこか怪我をしてますか⁉︎」

だから逃げられなかったのかも。治そうと思うけど、
グノーデルさんの力が強まっている今の状態だと
いつものように癒しの力をうまく使えない。

最低限かろうじて少し動けるくらいの癒しの力を使い
意識を取り戻したシェラさんが、ぱちぱちと眩しそう
に瞬いて横になったまま私を見つめた。

膝枕で支えてあげて顔の埃も払ってあげる。

「・・・ああ、オレの好きな金色の瞳ですね。最期に
これを見つめながら終わるのも悪くないと思った
のですが・・・」

「何言ってるんですか!」

縁起でもないことを。そう怒れば弱々しくいつもの
あの笑顔を向けられてそっと私の頬に手を伸ばして
きた。

そのまま瞳を見つめられて愛しげに頬を撫でられる。

「ふふ。でもダメですね、こうしていざ近くに
おりますとやっぱり離れがたくなってしまう。」

「それでいいじゃないですか!」

あの勇者様の結界に入るのをためらっていた時も、
私と一緒ならと嬉しそうに手を取ってくれた。

なのに今はどうして呼んでも来なかったのか。

「悪党どもと同じ性根を持つオレなら、勇者様の
結界の炎でなくともこのような炎に焼かれて終わる
のもありなのかとふと思いまして・・・」

そんなバカなことをシェラさんは言っている。

「私の目の前でシェラさんが死ぬのを黙って見てる
わけないじゃないですか!一緒にいますよって言った
時に手を取ったのはシェラさんなのに、約束を破る
つもりですか⁉︎」

「・・・それはそれでユーリ様のお心に永遠にオレの
存在を刻めそうな気もします。」

なんて拗らせた人だ。人の心にそんな傷を残してまで
記憶に残りたいとか。

「生きて一緒にいる方がずっといいに決まってます!
どうしてこう世話が焼けるんですか・・・‼︎」

ユーリ、と言うレジナスさんの声が遠くに聞こえる。

どうやらやっと馬が追いついたらしい。

とりあえずこんなところにシェラさんは置いて
おけないからよいしょとお姫様抱っこで抱え上げる。

「力持ちですね。」

女性にこのような抱かれ方をしたのは初めてです。

そんな風にシェラさんは言ってるけど私だって
男の人をまさかお姫様抱っこする日が来るとは
思わなかった。

グノーデルさんの力が強まると、力持ちになるけど
感情のコントロールもいつも以上にきかない気が
する。怒りなのか何なのか、感情の昂りのまま
抱え上げたシェラさんを見る。

「二度と私の前でわざと死のうとしないで下さい!
一緒にいますよって言った私がバカみたいじゃない
ですか‼︎ほら、私に何か言うことはないんですか⁉︎」

ごめんなさいとか。弱っているケガ人にそれは
どうかと思ったけど、苛立たしい気持ちそのままで
キッときつくシェラさんを見下ろして睨む。

そんな私の瞳をシェラさんはまっすぐに見つめて
またパチパチと瞬いた。その顔が怒られた子供
みたいに存外幼く見える。

と、口を開いたシェラさんは

「・・・言いたいこと、ありますよ。この世の
何よりもお慕いしております、ユーリ様。ずっと
一緒に、と言うならばオレが死ぬまで、死んでも
ずっと側にいて下さい。オレの身も心も全て捧げます
から、ユーリ様のその美しい瞳も髪も爪も唇も、
体だけでなくその心まで全部オレにください。
ユーリ様の全てをオレのものにさせてください。」

そうしてオレもユーリ様のものにして下さい。
そんな事を言った。

思っていたのと全然違うものすごい答えが返って
来て面食らう。

驚きすぎて一瞬息が止まった。

な、な、何を言ってるのシェラさんは!いつもの
オレの女神っていう言い回しとは違う。

え?告白?告白だよねこれ?

言ってることがまるでプロポーズなんですけど⁉︎

おかげで酔いが冷めたような気がする。

「は、はいぃっ⁉︎」

素っ頓狂な声を上げた私は多分耳まで赤く染まった
だろう。酔いのせいなんかではなく。

「だ、誰がそんなことを言えって言いました⁉︎
私はこんな状況に自分で自分を追い込んだシェラさん
にごめんなさいって言ってもらうつもりで」

「心の底から愛しておりますよ、ユーリ様。オレを
伴侶に選んで下さい。」

動揺する私にかまわずシェラさんはさらに言葉を
重ねた。

それはまるで、了承の言葉以外はあり得ないとでも
言いたげな物の言い方だった。

なんで今それをこの場で言うわけ・・・⁉︎
そんでもって、私は今すぐこの場で答えなきゃ
いけないの?

シェラさんを抱えたまま呆然と立ち尽くしていると

「・・・聞こえていますか?申し訳ありません。
背中を痛めて力が入らないせいかいつもよりオレの
声も通らないようですね。」

シェラさんはふっといつものあの艶のある笑顔を
顔に浮かべた。

「女神としての敬愛以上に、一人の男として愛して
おりますよ、ユーリ様。その柔らかな体を抱き締めて
甘い香りを胸いっぱいにさせてもらえば、この上
ない幸せです。ユーリ様の隣に一生ずっと一緒に
いたいんです。だからオレを伴侶として側に置いて、
オレを愛してください。」

「きっ、聞こえてますよ!ケガをしてるわりに口が
回りますね⁉︎」

もう、なんて返せばいいのか分からない。

「返事をください。はいと言って」

やっぱりイエス以外の返事はあり得ないらしい。

意味あり気にまた頬をひと撫でされた。

レジナスさんの馬の蹄の音が近付く。

「シェラは無事かユーリ!」

気遣わしげなレジナスさんの声にはっとする。

チッ、と私の腕の中から小さな舌打ちと共に
「いいところだったのにこの男は」と言う
シェラさんの呟きが聞こえたのは気のせいじゃ
ないと思う。

「へっ、返事はまだ保留で!今はそれどころじゃ
ありませんからっ‼︎」

逃げるように・・・というか、実際逃げたんだけど
抱えていたシェラさんをレジナスさんにはいっ‼︎と
渡して、

「オレは男に抱えられる趣味はありませんよ」

と言うシェラさんの声を後ろに一目散に私は流れ出る
溶岩へ向かって駆け出した。








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