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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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「はいっ、ユリウスさん温泉が勿体ないんで早く
囲いを作っちゃってください‼︎」

どうどうと大きな音を立てて勢いよく高さを持った
噴水のように湧き出る温泉を前にお願いすれば、

人使いが荒いっすね⁉︎と文句を言いながらも
ユリウスさんは地面に手を付いた。

そうすれば、いつかのキリウさんのように地面は
少しずつ盛り上がってくると噴水のように湧き出て
いる部分を中心に大きな池のようになってみるみる
温泉がたまり始めた。

もっとも、勢いが良すぎて囲いからもお湯はどんどん
溢れてきている。

それを見たユリウスさんも、

「せっかくユーリ様の力で出た温泉なのに垂れ流しは
勿体無いっすね。落ち着いてからきちんと整備すれば
ここから引き込んだ温泉があと二つは出来そうっす」

ここは足湯にでもすれば小さい子からお年寄りまで
男女の区別なく楽しめそうっすしね。

なんて言っている。なるほど、それはいいかも
知れない。

「それなら後で私もここに改めて病気や怪我が治る
加護を付けますよ。足だけつけても治るなら何かと
便利そうですよね!」

これだけ湯量があれば確かにあといくつか温泉が
出来そうだ。

そこに大きなログハウスみたいに木組みの立派な
建物の温泉施設をいくつか建てることが出来れば、
みんなが安らげる小さな健康ランド的な物ができる
かも。

ついでにご飯を食べられるところも作ってレンさんが
そうしたように、この場所の周りにぐるりと魔物避け
の結界もつければ、何かあった時の避難場所にも
なるだろう。

「ユリウスさん、結界石って持ってますか?」

溢れ出る温泉から濡れない位置までレジナスさんに
運んでもらってから聞けば、ユリウスさんは頷く。

「万が一に備えていつでも持ち歩いてますけど・・・
どうかしたっすか?」

不思議そうにしながらも懐から出してきた数個の
結界石の塊を受け取る。

「これに魔物避けの加護を付けるんで、後で砕いて
この場所の周りに埋めて欲しいです!」

話しながら受け取った結界石を両手で包み込み
目を閉じて祈る。

ダーヴィゼルドの山のように、ここに近付く魔物が
いたらグノーデルさんの力で雷を落としてそういう
ものが入り込まないようにして欲しい。

その願いを聞き届けたかのように両手の中の石が
ほんのりと暖かく熱を持った。

目を開ければ、青白く輝く光が私の手の中で静かに
その色を失うところだった。

それをユリウスさんに返して後での作業をお願い
する。それからもう一つ。

「それから、後で私が溶岩をとめるために雷を
落とした場所の確認もお願いします!地面が抉れて
溶岩を止めるように祈ったつもりなんですけど
なんだか地割れしたみたいになっちゃってて・・・
力加減が出来なかったからかなあ、思ったのと
違う感じになったのが気になります」

そんな事を言っていたらまた一つヒック、と
しゃっくりが出てレジナスさんに水を勧められた。

それを飲むと少し気分がすっきりする。

「あれっ、ユーリ様。瞳の金色が随分薄れたっすね。
いつもの色に戻って来てますよ?」

「ほんとですか?」

まだ全然眠くないんだけどもう力が切れるのかな?

そう思いながら確かめてもらうようにレジナスさんを
見つめれば頷かれた。

「いつもの瞳の色になっている。体調に問題は
ないか?」

「なんともないですけど・・・なんだろう、あの
リーモのお酒のせいかな?物凄く度数は高そう
だったから残り香みたいに体の中でアルコールが
分解された後もその影響が残ってるとか?」

その影響で私の体もまだしっかりと元に戻りきれずに
いるんだろうか。

そんなことを考えていたらユリウスさんが

「え?リーモの酒?なんすかそれ。」

と聞いてきた。

「シェラさんが魔導士院の庭にあったリーモの実を
とって作ったお酒ですよ。凄くきついお酒だった
んですけど、おかげでこの通り大きくなれてみんなを
助けることが出来て良かったです!」

ごくりとまた水を飲めばさらに気分は晴れてくる
気がした。

「リーモの酒・・・って、アッ!あの不穏な事を
呟いていた時のやつ⁉︎あの人マジで酒作って持って
きてたんだ!」

「不穏なこと?」

一体なんのことかと首を傾げれば、何でもないっす!
とユリウスさんは慌て、結局何のことかは教えては
くれなかった。

「まあいいですけど・・・。それよりレジナスさん
この温泉、入っていっちゃダメですか?」

せっかく出来た温泉だ、入ってみたい。

まだまだユリウスさんの作ってくれた囲いからお湯を
溢れ出させながら勢いを弱めない湧き上がる温泉を
見つめれば、

「ダメだ、湯浴み着も着替えもないだろう?俺達の
いる前で裸にでもなって入るつもりか⁉︎」

うっすらと頬を赤くしたレジナスさんに止められて
しまった。

「せっかく作ったのに・・・」

「別宮にある温泉で我慢しろ、早く帰ればその分
早く風呂にも入れるぞ?」

そう言ったレジナスさんに縦抱っこで抱き上げられて
しまう。

「私の温泉!」

往生際悪く手を伸ばせば暴れるな、としっかりと
抱え直されてしまった。

その手を振り解けないから、どうやらグノーデルさん
の加護のあの馬鹿力も弱まってきているらしい。

あれ?てことは。

「グノーデルさんの力が弱まったのにまだこの姿で
瞳の色もいつものってことは、もしかして癒しの力を
うまく使えるかも?」

それなら別宮へ帰る前にここの温泉と、シェラさんや
ユリウスさんが誘導した避難した人達にも癒しの力を
使える。

それに重傷だというシェラさんも、しっかりと治せる
に違いない。

そう話せば、ユリウスさんはさっそく私に避難先の
場所を教えてくれた。

「俺の馬はまだ来ないんで、レジナスと二人で先に
行っててください。頼んだっす!」

手を振るユリウスさんに見送られて、ローブを
しっかり被り直すとまたレジナスさんの馬で
二人乗りをして私達は先へと進む事にしたのだった。





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