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第十六章 君の瞳は一億ボルト

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往生際も悪く何とかして私を自分の馬に乗せようと
するシェラさんとそれを止めさせようと牽制する
レジナスさんを引き連れて、再度ユリウスさんの馬に
乗る。

「それにしてもどうして私にも昨日の場所を見て
欲しいんですか?」

改めて聞けば、

「いや、あまりにもユーリ様の言ってたのと様子が
違い過ぎて。ちょっと見て欲しいって言うか場合に
よっちゃあもう少しなんとかしてもらう方がいい
のかなあって思ったんす。」

そんな事をユリウスさんは言う。

どういう意味かと思っていれば、やがてあの崩れた
城壁や黒々と冷え固まった溶岩の塊が川のように
横たわる場所まで来た。

そうだ、この固まった溶岩もどうにかしなきゃ。

豊穣の力を使って土の養分に変えてしまえばここも
いい耕作地になるんじゃないかな。

そちらをじっと見つめていたら、シェラさんの
感心したような声が聞こえた。

「・・・ああ、これは凄いですね。やはりユーリ様の
お力は素晴らしい。この力が奮われる様を直に目に
することが出来なかったのが悔やまれます。」

んん?とそちらを見れば、いつの間にか馬を降りた
シェラさんは私が雷を落として亀裂が入り、割れて
いる地面に近いはじの方に立って自分の足元を
見つめていた。

そこは崩れた城壁があって溶岩が入り込んできて
いた場所を、大きく抉れた地面を境目にしてこちらと
その向こう側とを隔てるように幅広に分かれている。

私が今いるところからはちょっと離れているので
見えにくいけど、落とした雷の軌跡に沿うように
ちょっとした深さの側溝か用水路みたいになって
いるようだ。

「あっ!危ないっすよ、落ちたらどうするんすか⁉︎」

「落ちる?」

馬上でユリウスさんが慌てたので思わず振り返る。

落ちるくらい深いのかな。まあ凄い雷だったし。

そう思っていたら、レジナスさんが私を馬から
降ろしてくれた。

「危ないから俺にしっかり掴まって見に行こう」

いつものように縦抱きでシェラさんが下を眺めて
いるところへと連れて行ってくれる。

そんな私にシェラさんはにっこりと微笑むといつもの
ように大袈裟なくらいの褒め言葉をくれた。

「ご覧下さいユーリ様。なんと深い谷間でしょうか。
あの世にも美しい金色の瞳のユーリ様が奮われる
お力の素晴らしさを讃える言葉を持ち得ないオレの
教養の無さが残念でなりません。美しいだけでなく
神の力の顕現を余すことなく使うことの出来ると
いう偉大さの証であるこの場所を、人々は書物に
記して後世まで長く伝えていくことでしょう。」

「そんな大袈裟な・・・」

呆れながらレジナスさんと一緒にそこに近付いて
みて茫然とする。

ちょっとした側溝どころじゃない。ちょっとした
渓谷だ。

シェラさんの立つ足元には下が見えないくらい深い
谷間が覗いていた。

そしてそこに冷えた溶岩が黒く落ち固まっている
様子も見える。それがずうっと、私が雷を落とした
軌跡の通りあの城壁に沿って長く続いている。

ああ・・・ウン、これだけ深い谷間なら溶岩は
その下に落ち込んでこちら側まではやって来ない
だろう。

私のイメージしてたものとちょっとどころか全然
違うけど。

レジナスさんも思わずこれは凄いな、と呟いている。

「その様子だとやっぱり思ってたのと違う感じ
なんすね?ユーリ様は地面が抉れてるはずって
言ってたけど、これってどう見ても抉れてるって
言うか裂けて」

「言わないでください‼︎」

たまらず声を上げてしまった。酔って力を使った
結果としてはダーヴィゼルドの山に大穴を開けた時
以上のやらかしだ。

まさか人様の領地にこんな大きな谷間を作ってしまう
なんて。

なんだっけ、あの時は思いがけないシェラさんの
告白を思い出してイライラしながらそれを振り切る
ように叫んだ。レンさんみたいに。

「・・・砕けろ地面、裂けて崩れてぜーんぶ壊せ
・・・」

あの時のセリフを思い出してぽつりと呟けば、それを
聞いたレジナスさんが頷いた。

「その言葉通りの結果だな。凄まじい威力だが
あれだけ酔っていたわりには使いこなせていた
んじゃないか?」

「使いこなしている・・・?これがですか?」

いやまあ、言葉通りっちゃあ言葉通りだけど。
私のお願いを聞いてくれるグノーデルさんの力も
それに協力してくれ精霊達も有能過ぎる。

そこでハッとする。あの時私、ついでにシェラさんの
ばかーって叫んだっけ。

「シ、シェラさん?あの時シェラさんの近くにも
雷は落ちてませんでしたか・・?」

恐る恐る聞いた私に小首を傾げて不思議そうな顔を
したシェラさんが、

「落ちましたよ?あの時はまだ森の中でユリウス
副団長が再度やって来る直前でしたね。ユーリ様の
雷は人に被害を与えないのでそのおかげで、まだ
燻っていた森林の火事が完全に収まっただけでオレは
何ともありませんでしたよ。」

お気遣いありがとうございます。そう微笑まれた
けど知らないって幸せだ。

心の中でこっそりと私は土下座した。

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