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第十七章 その鐘を鳴らすのはわたし

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私が垣間見た景色の中では魔石に欠けがあったと
いう話をユリウスさんにすれば、

「そういうことならすぐにあそこから砕けた魔石を
一つ残らず回収して団長に送るっす!」

と頷いてくれた。

「なんでそこでシグウェルさんが出てくるんです?」

「そりゃあその手の作業は団長が得意だからっす。
俺がやってもいいけど、集落や神殿の後始末やら
何やらがまだ残ってるし、砕けた魔石が欠けてたかも
なんて知ったら団長は絶対に他の仕事を放り出して
でもその復元に夢中になるはずっす。」

あの人、自分が興味を惹かれたものに関しては異常な
集中力を発揮するからきっとあっという間に復元して
見せるはずっすよ、と言う言葉に納得する。

確かに難しいはずの竜の鱗への加工やその心臓から
出来た魔石の鐘作りをたった一晩でやってみせた
くらいだから魔石の復元なんて簡単に出来そうだ。

ヨナスの力を失ってしまったあの魔石はもし復元した
としても周りに悪影響を与えるということはないそう
だし、ここはシグウェルさんにおまかせしようかな。


それにしても今のユリウスさんの話で思い出した。

「あの集落の中にある神殿、壊れてませんでしたか?
あそこにまだ倒れている人がいて被害にあっていたり
していませんか?」

集落やら神殿の後始末ってユリウスさんは言った。

それってつまり、私の力で魔石は効力を失くしたけど
神殿にも何らかの被害があったってことじゃないの?

あの鐘を鳴らした最後、目にした景色では一際明るい
光が集落に向かって落ちていき、大きな音がした。

嫌な予感しかしない。

そう思っていたらユリウスさんがああ!と笑顔を
見せた。

「いやー、相変わらずユーリ様が使う力ってすごい
っすねぇ!実際にその場に立ち会ったわけじゃない
んすけど、神殿や魔石の様子から察するにその力は
正確に魔石を貫いたと思うっす!魔石を中心に綺麗に
同心円状に星でも落ちてきたみたいな穴があいてる
っすよ。あ、だけど人には被害はないんでそこは
安心してもらって大丈夫っす!」

魔石を貫いた?神殿に穴があいている?全然安心でも
大丈夫でもない。

誰もいなくて人に被害がないのは良かったけどそれ
以外はいつも通りのやらかしだ。

「わ、私は鐘の音で魔石の力がなくなったり音波で
魔石が砕ければいいなとは思いましたけど、空から
何かが落ちて来てそれが衝突すればいいとは少しも
考えてませんでしたけど・・・⁉︎」

どうしよう、神殿や土地の復元なんて余計な手間を
かけさせる羽目になってしまった。

落ち込んだ私にシェラさんが、

「あの夢のように美しい光景をオレは生涯忘れません
よ。ユーリ様の偉大な功績はこの神殿の書物を始め、
ありとあらゆる文献に残され後世まで伝えられる
ことでしょう。」

まるで追い討ちをかけるような事を言い出した。

「やめてください!みんなを助けられたのは良かった
ですけど、その度に土地に被害があるとか申し訳ない
と思ってるんですから!」

「ですがこの部屋の中はご覧になりましたでしょう?
皆ユーリ様のお力に感謝こそすれ、それを迷惑に思う
者などおりませんよ。まあそのような事、口に出す
どころか思っただけでオレが許しはしませんが。」

確かに部屋の中は私へのお見舞いの花で溢れ返らん
ばかりだけど。

シェラさんの言葉を引き継ぐようにユリウスさんまで

「この人の言ってることは一番最後の部分だけ
ちょっとおかしいっすけど、その他はおおむね同意
っすよ。誰も手が付けられなかったヨナス神の力を
制してみんなを救うなんて、魔道具の力を借りたと
してもユーリ様にしか出来ない事っすからね。
そんなに恐縮することはないっすよ。」

そう言って、もし体調に問題がなければ集落を見に
行ってみるっすか?と提案された。

「行きます!行って私にも後始末のお手伝いをさせて
ください!」

声を上げればシェラさんが

「念のため、まだ安静にされた方が良いと思います
が・・・。気の利かない男ですね」

とユリウスさんをあの金色の瞳で射るように見つめて
怯えさせる。

「あんたこそユーリ様が言い出したら聞かない人
だって分かってるっすよね⁉︎」

ユリウスさんはそう叫ぶとまたエル君の後ろにサッと
隠れた。

それでも、どうしても集落を確かめたいという私を
心配したシンシアさんは馬で二人乗りなどとんでも
ない、馬車で行くならと条件をつけシェラさんにも

「集落の中ではオレが抱いて移動しますから、それで
良ければお連れします」

・・・有無を言わさず縦抱っこ移動を宣言されて
しまった。

だから渋々それに同意して馬車に乗り、いざ集落に
着くと今度は

「では行きましょうか。レディの扱いをご希望で?」

とにこりと意地悪そうな目の光を浮かべて微笑む。

「何言ってるんですか、普通でいいですよ!」

本当は縦抱っこ移動もごめんなのにお姫様抱っこ
なんて絶対にダメだ。

赤くなって声を上げれば、

「だからなんでそうアンタは人目も憚らずに堂々と
ユーリ様とイチャついてるんすか?え?俺が寝てる
間になんかあったっすか?」

ユリウスさんが私達を見て呆れながらも不思議そうに
首をひねった。勘が鋭い。

「いっ、いつも通りですよ⁉︎シェラさんがこんな感じ
なのはいつもじゃないですか‼︎」

あわあわとシェラさんに抱き上げてもらい、その腕に
縦抱っこで収まるとほらほら!とアピールするけど

「いやでも、なんかこう・・・うまく言えないんす
けど、雰囲気が違うような・・・?」

まだ不思議そうにしている。そんなユリウスさんに
シェラさんは

「なるほどさすが騎士団長のご子息だけはあります、
気配の違いに敏感なのはさすが優秀な騎士の家系
ですね。あなたはもっと体を鍛えれば優秀な魔法騎士
にもなれるのでは?」

と言っている。だけどユリウスさんは

「何が悲しくて俺が脳筋騎士にならなきゃいけない
んすかね⁉︎クソ親父に変なこと言ったりしないで
くださいよ、それでなくてもなんとかうちの奴らを
説得して魔導士になったんすから!」

と恐ろしい事を聞いた、この話はここまでっす!と
声を上げて先を促す。

あれ、もしかして話を逸らして誤魔化してくれた
のかな?と思ってシェラさんを見上げれば

「オレ達のことについてはまだきちんと話がついて
おりませんからね。それなのに今からユリウス副団長
に騒がれるのは早いですから。」

と微笑まれた。話がついてないって・・・私、
ちゃんとシェラさんの告白を受け入れたよね?

まだ何かあっただろうか。

「まあこの話はとりあえず置いておきましょう。
今は神殿の様子を確かめるのが先ですからね。」

不思議そうにしている私をニコニコと抱え直した
シェラさんは足取りも軽やかに集落の中を神殿へと
その歩みを進めた。







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