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第十八章 ふしぎの海のユーリ

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その夜は結局、シェラさんに踏まれた足が痛いと騒ぐ
ユリウスさんを「お前には回復魔法があるだろうが
さっさと治して明日は早朝から町へ行け」と話した
シグウェルさんが引きずって私の部屋を出て行った。

同時にシェラさんも部屋を出る時に、

「ではユーリ様おやすみなさい。夜着やお休みの際
お使いになる香木などはシンシアがすでに隣の寝室へ
準備しているはずです。くつろいだ気分で、夜更かし
せず早くお休みくださいね。」

と言った。なんでわざわざ寝る前のことを話したり
したんだろう?

香木というのはアロマオイルみたいに寝る前に炊く
もののことだけど、何か特別なのかな?

そう思っていたら特別なのはそっちじゃなくて
夜着の方だった。

手触りがつるつるすべすべで、胸元についている
リボンの質も服の裾に縫い付けられているレースも
こまやかで上質なものだ。

等間隔でこまかく寄せられたピンタックも、幾つにも
重なったフリルが繊細で素敵だけどその分手間が
かかっているのは一目瞭然だ。

いつも着ているものよりも特別豪華なそれは、淡い
ピンク色も桜貝みたいで色もかわいい。

ただちょっといつもより裾が短かくて薄手だろうか?

いつもの物が足首近くまであるロングワンピース
みたいなのに対してこれは膝丈ほどだ。

前の方は膝が少し出るくらいの長さで後ろにいくほど
ちょっと長く、前後で長さが違うアシンメトリーな
丈感だ。それはそれでかわいいけど。

試しにくるっと回って見たら裾がふんわりとひらひら
軽やかに広がって膨らみ、危うく下着が見えそうに
なって慌てた。

薄手で柔らかく、いつもよりも上質な生地の分
めくれあがりやすい。

これは寝相に気を付けないと温泉旅館で浴衣で寝起き
した朝に帯一本になっているパターンと同じになる。

起きたらおへその方までスカートが上がっているかも
知れない。

「かわいいけど、寝るにはなんだか少し落ち着かない
っていうか心もとないですね・・・?」

ちなみに中に着ている下着もいつもよりレースや
フリルが多めで夜着とお揃いの淡いピンク色だ。

薄手の夜着と色が重なる部分が他よりも少し色濃く
見えて、合わせて着るとピンク一色のはずなのに
グラデーションがかった服を着ているみたいで凝って
いる。

あちこち見たり触ったりして確かめているそんな私を
シンシアさんは嬉しそうに微笑んで見つめて言った。

「そちらはリオン殿下からの贈り物です。さすが
殿下ですね、ユーリ様がいつもより一層愛らしく
見えるお色やデザインをよくご存知で。そのお姿を
贈られたご本人に見ていただけないのがとても
残念ですね。」

リオン様が選んだ?その言葉に思わず動きが止まる。

「・・・これ全部ですか?中に着てる下着も?」

「夜着と下着は揃いの一式ですので。使われている
生地も王族の中でも陛下と王子、王女殿下とその
配偶者のみが使用を許されている物を今回初めて
下賜されて使わせていただきました。この後王都に
帰りましたら、殿下にはぜひお礼をおっしゃって
下さいね。そのお姿を見せて差し上げればなおのこと
喜ばれると思いますが・・・」

シンシアさんの説明に顔がみるみる熱を持つ。

いやこれって、シェラさんが言ってた私の下着やら
何やら四人で集まった時に相談して決めたとかいう
アレじゃないの⁉︎

ユリウスさんに聞いた時は伴侶が相手の格好を決める
とかそういったルールはないって言ってたのに。

まさか本当に人の下着の色を含めてあれこれ決めて
いたなんて。

「えーと、シンシアさん?世間一般的にお付き合い
している相手が服を選んでプレゼントしてくれたら
それって贈ってくれた人に見せますよね・・・?」

「まあそうですね。服でも装飾品でも、そのお礼や
嬉しく思っているという感謝の気持ちも兼ねて、
贈られたものは身に付けて相手の方に見せますわね」

当然のようにシンシアさんは頷いた。

そういえばレジナスさんに髪飾りを貰った時も、
すぐにその場でつけて見せたらすごく嬉しそうな
顔をしていたっけ。あれと同じか。

でも今回はモノがモノだ。贈られたのが下着と夜着で
それを「嬉しいです!ありがとうございます‼︎」って
贈ってくれた本人に見て見て、って言うのはなんて
いうかアレだ。ある意味挑発でしかない。

「この格好って、リオン様に見せなきゃいけない
んでしょうか・・・⁉︎」

昔いつだったか、相手に口紅を贈るのはキスしたい
意味合いだとか、服や靴を贈るのはそれを脱がせたい
からだとかいう事を聞いた気がする。

まさかこっちの世界にそんな意味を持つ風習はないと
思うけど。

私が赤くなって唸っている姿に何を考えているのか
薄々分かったらしいシンシアさんが苦笑した。

「見せて差し上げた結果、どうなるかは私には何とも
言えませんが・・・」

「どうなるか⁉︎」

「ユーリ様を大切に思っておられる殿下のことです
から、そこは鉄の意志で理性的に振る舞われると
思いますよ?」

「そうですかね・・・?」

鉄の意志と人の恥ずかしがる顔を見て楽しそうにする
意地悪さは果たしてどっちがリオン様の中では勝つ
んだろうか。

「今回リオネルへ同行出来ないことを殿下は大変
残念に思っておられるようでした。ですからゆっくり
過ごして欲しいというお気持ちは勿論のこと、多少
ユーリ様に動揺されても自分のことも忘れないで
欲しいとも殿下は思われたのかも知れませんね。」

そういえばここに来ることを決めた時、ユリウスさん
が過保護なリオン様がシグウェルさんとシェラさん
だけで私が休暇を過ごすのを許すだろうかって話した
時にシグウェルさんが、「そこはシェラザード隊長が
うまくやるのだろう」なんて言っていたけど。

もしかしてこれもその交渉のうちに入ってるんじゃ
ないだろうか。

自分達だけが私に同行するかわりに、夜着はリオン様
の好きな格好をさせるからどうぞお好きに選んで
下さい、リオン様の選んだ物を身に纏い眠るのだから
夜を一緒に過ごすも同然ですよ、位はあの口の上手い
シェラさんなら言ってそうだ。

シェラさんに一度確かめてみないと、と考えている
間にもシンシアさんは重ねて

「私としてはユーリ様のそのかわいらしいお姿は
ぜひ殿下に見ていただきたいですが。何はともあれ、
自分の好きな人が自分が一生懸命考えて選んだ服を
喜んで着ているのを目にするのはとても嬉しいと
思いますので。」

とリオン様に私の格好を見せる事を主張してきた。

「よ、喜んで着ているように見えました⁉︎」

「殿下が選ばれたものだと分かるまで、つい先ほど
まではかわいいと喜んでおられましたよね?」

いつもは控えめなシンシアさんがここまで言うなんて
珍しい。

「そんなに言うなら一回だけでもいいんですかね?
おやすみなさいって挨拶をする一瞬だけでも?上に
何か羽織ってても?」

下手にリオン様を煽ることをしなければ平気かなと
思いながらそう聞けば、「それで全然いいと思い
ます!」とにっこり微笑まれる。

王都に帰ったらリオン様とレジナスさんの三人で
出かけるのを楽しみにしていたけど、戻ったら
やることが一つ増えてしまった。

しかも、主に私の羞恥心が試されることが。

そう思うとシェラさんの用意してくれたおやすみ用の
香木のリラックス効果もなんだか効き目が薄くて
夜遅くまで眠れなかった。

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