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第十九章 聖女が街にやって来た

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なんか、謁見ってもっと穏やかな表面上の挨拶程度のやり取りだと思っていたのにちょっと違う感じになっちゃったなあ。

そんな風に考えていたら私の目の前にそれまで静かに佇んでいた聖女、エリス様も

「アラム陛下、本日はとりあえずルーシャ国国王陛下と癒し子様へのご挨拶のみのはずです。」

とたしなめるように優しげに言うと、

「リオン殿下も困っておいでではありませんか」

少しだけ困ったように眉を寄せると同意を求めるようにリオン様へ視線をくれた。

・・・えーと、なんでそこでリオン様に振るのかな?

むしろ困ってるのは突然親交を深めたいと言われたり、それを嫌味で返すリオン様を見ていた私なんだけど。

親しい仲のように意味深にリオン様を見つめているエリス様に何だか不安になっていたら、

「お、そうだユーリちゃんからも一言貰っとくんだったな」

陛下が私の不安を断ち切るように明るく言った。

リオン様は肩においていた手を膝の上にあった私の手に重ね、腰を落とすと

「そうだねユーリ、お願いするよ」

わざわざ仲の良さを見せつけるかのように私の耳元近くでそう言った。

なぜまた無駄に煽るようなことを⁉︎と内心焦り、ちらっとヘイデス国の人達の方を見る。

さっきまでリオン様を見つめていたエリス様はその様子に困ったようにその綺麗な顔に微苦笑を浮かべている。

アラム陛下はまるで大人気ないとでも言いたそうにフッと鼻で笑ったような態度だ。

うん、いやまあ確かにリオン様の態度はちょっと大人気ないよね・・・。

なんだか申し訳ないなと思って、笑いかける必要もないし無表情でいいと言われていたこともつい忘れ

「ユーリと申します。遠路はるばるようこそ。皆様のルーシャ国での滞在が実りある良いものになりますように」

と愛想笑いを浮かべた。

面倒な場面を当たり障りなくなるべく穏便にやり過ごそうという社会人の嗜みのような反射的な笑顔だ。

そんな誤魔化すような笑顔を顔に浮かべ、ついでに癒しの力を使ってヘイデス国の人達の疲れを取る。

広間全体が淡い光に包まれて、白く小さなリンゴの花がふわりと天上から降り注ぐと一瞬で消えていった。

「おいおいユーリちゃん、やり過ぎだろ」

私の隣で陛下が呆れ半分、嬉しさ半分と言ったような声を上げて面白そうにその様子を眺めていた。

・・・うん、私もまさか花まで降るとは思わなかった。

最近他国の使者や要人に面会した時に乞われてするようにちょっと癒しの力を使うつもりだったんだけど・・・。

よく考えたらこの大きさに成長してからそんな加護の付け方は初めてだったから力加減を間違えたかもしれない。

そういえば先日、私がアラム陛下に一本釣りされた庭園でバラの花を咲かせていた時も力が強まったみたいだから加減をしないとって思ったんだった。

リオン様にもユーリ・・・と呟かれて、重ねた手をぎゅっと握られる。

ご、ごめんリオン様。まさかこんな風になるなんてと思ってちらりとヘイデス国の人達の様子を伺う。

一番先頭に立っているアラム陛下は自分の手を見つめたまま、その手を握ったり開いたりして疲れの取れた様子を確かめていた。

そして最後、ぐっと拳を握るとあの色の薄いグレーの瞳にギラリと強い光を浮かべ、ニヤリと口の端で笑いこちらを見た。

ひえっ、怖い。実利主義者だっていうし庭園でも手に職があれば国に迎えてやるとも言ってたから栄養ドリンク代わりの便利な人間だとでも思われただろうか。

エリス様は・・・なぜかその顔が青ざめていた。

体の前で重ねている手はぎゅっと握られ、少し震えているようにも見える。

どうしたんだろう、大丈夫かな。

昨日も具合が悪くて私に会うのをやめたし、まだ本調子じゃない?

え、でも具合が悪いなら今私が使った力で治るはずじゃ?

それとも聖女様と同じような力を持つ私だと効き目が悪い?

「だ・・・」

大丈夫ですか、と声を掛けようと思ったのに

「なんと素晴らしい」

「これが噂に聞く癒し子様のお力」

「ありがとうございます!」

アラム陛下と聖女様の後ろに控えていた、ヘイデス国の他の人達が口々に声を上げたので私の問いかけはうやむやになってしまった。

アラム陛下はそんな一行を黙れお前たち、と制するともう一度私に向き直った。

「なるほど確かに素晴らしいお力だ。その上、そのように花のように美しい笑顔を見せられてはリオン殿下を始めとした人々が魅了されるのも理解できる。やはり滞在中はぜひともエリスにその力の指南を願いたいものだ。」

なあ?と傍らのエリス様を促せば、さっきまでの顔色の悪さが消えていて

「ええ、是非とも。ユーリ様、よろしくお願いいたします。」

とすっかり元通りの笑顔で微笑まれた。・・・さっきのあれは何だったんだろう?

疑問は残るものの、昨日会えなかった分はまた改めてお茶を飲もうということになりその日のヘイデス国の人達との謁見は終わりを告げた。




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