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番外編

チャイルド・プレイ 4

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音の鳴る靴まで履かせられて、完全なる幼児扱いに憮然とした私に構わずシェラさんは抱き上げると、

「では参りましょうか。レジナスの驚く顔が楽しみです」

と嬉しそうに微笑んでいる。

「ええー、もう行っちゃうんすかユーリ様」

とユリウスさんは名残惜しそうにしているけど、ノイエ領に私の猫耳の絵を残して来ているとは知らなかったのでもう一度念を押す。

「ユリ、ノイエりょーの絵、あとで燃やしゅよ⁉︎」

「何でですか、ダメっすよ!ていうかその言い方も可愛いっすね⁉︎」

とキャンディを渡された。賄賂だ。こんな物で誤魔化されないぞ、と思ったのに幼児の体は勝手に手を差し出すと自然にそれを受け取ってしまう。

「にゃんで⁉︎」

自分で自分にびっくりした。

「小さいと欲望の自制が効かないのか?面白いな。」

とシグウェルさんもクッキーを試すように私の目の前に見せる。

あっ、おいしそう。そう思ったらまた手を伸ばしていた。と、それを取ろうとした私からさっとクッキーを避けられる。

「何しゅるんですか、わたしのクッキー!ルーしゃん‼︎」

八の字に手を泳がせて微妙に私の手の届かないところでクッキーを行ったり来たりさせるシグウェルさんに私の手と目もそれを追いかけて泳ぐ。

「ひとで遊ばないで!」

ひとしきり遊ばれた後にやっと渡されたクッキーを手にそう怒れば、

「おい、こんなに食い意地が張っていて大丈夫か?食い物をダシにどこかで攫われたりするんじゃないか?」

とシグウェルさんにまた面白そうに目を細められた。

「ルーしゃんが悪いんでしょ!」

人で遊んだりして。それにこんな事をしていたらますますレジナスさんを待たせてしまう。

「シェラしゃん、もー行くよ!レジーしゃん待ってる‼︎」

「はいはい、分かりましたよ。ではその両手に持っているキャンディとクッキーは一度しまいましょうね。」

シェラさんにそう言われて、今更ながら意地汚くも両手にお菓子を持っていた自分にやっと気付く。なんてことだ。

「く、くつじょく・・・でしゅ!」

それを聞いて、私から受け取ったキャンディとクッキーを丁寧にハンカチに挟んでしまってくれていたエル君が、

「あんまり普段のユーリ様と変わらないと思いますけど・・・。」

と酷いことを呟いた。

「エリュ・・・エル君まで!それ、いつものわたしも幼児って言ってりゅ‼︎」

ダメだ、ぷんすか怒って興奮したせいでますます呂律が回らなくなっている。

「もーみんな嫌い!口きかない‼︎」

ぎゅっと目をつぶり、シェラさんの胸元に顔を埋めてそう言ったら

「え、何コレ可愛いっす。嫌いって言ってる人に思い切り抱きついてるの分かってるんすかねユーリ様・・・」

「お黙りなさい、こういう迂闊なところがユーリ様の良いところなのですから」

とユリウスさんとシェラさんがヒソヒソしていた。

言われてみればそうだ。なんだか都合が悪くなったけど、抱きついたシェラさんから今さら離れる訳にもいかず聞こえないフリをしてそのまま目をつぶっていたら

「ではオレはこのまま騎士団へ寄って奥の院へ戻ります。殿下へはあなたから報告を?」

「そうだな、考えられる副作用の原因やそれが切れる見込み時間も含めて俺から報告しておく」

「殿下が聞いたら仕事を放り出してすぐにでもこの愛らしいお姿のユーリ様を見にいらっしゃいそうですねぇ・・・」

「それでは政務に支障が出て困るな。まあまだはっきりした原因は判明していないから、それを探りがてら報告は少し遅くするか」

「アンタらって二人揃うとマジで碌でもない事しか考えないっすね?こんなに可愛いユーリ様をリオン殿下に見せるのをわざと遅らせるとか」

なんだかシグウェルさん達がわいわい話していたけど、温かくて甘いミルクにクッキーでお腹を満たされた上に抱き上げている私の背中を赤ちゃんをあやすようにとんとんと叩いているシェラさんの動作が相まって、いつの間にか私は眠ってしまっていた。


・・・そして次に目が覚めたのはそのシェラさんに声をかけられたからだ。

「ユーリ様、そろそろお目覚めになってください。もうすぐレジナスの所へ着きますよ。寝顔も大変愛らしいですが、あの美しい瞳も見せていただけませんか?」

「うーん・・・?」

「愛らしいユーリ様のお顔をひと目見ようと、さっきから騎士達がオレの後ろをついて来て鬱陶しいので、申し訳ありませんがあいつらに一度だけその可愛らしい笑顔を見せて手を振っていただけますか?そうすれば彼らも満足してもうついて来ないと思うので」

何を言っているんだろう?目をこすって周りを見れば、いつの間にか見覚えのある騎士団の敷地内だ。

魔導士院のシグウェルさんの部屋でシェラさんに抱きついたまま眠ってしまい、そのまま馬車に揺られて騎士団に着いたらしい。

そしてその後またシェラさんに抱き上げられて歩き、いつも訓練する騎士さん達の声で活気に溢れて騒がしい敷地内でもぐっすり眠っていたってことか。

幼児ってこんなにも眠れるものなんだ?とあくびを一つしたら、

「おっ、おい!起きたぞ!」

「ユーリ様、ってあのクソたいちょ・・・隊長が話しかけたってことはやっぱりあの子はユーリ様の子どもじゃなくて本人なのか⁉︎」

「だから言っただろ、子どもなんて計算が合わないって!」

「いや、でもなんで⁉︎」

「酒か・・・?酒で大きくなるなら小さくもなるんじゃ」

なんだか周りがざわざわと騒がしい。

「にゃに~・・・?」

まだぼんやりとしている私をシェラさんが抱え直して、その肩越しにシェラさんの後ろをついて来ていた騎士さん達と目が合った。

「ねっ、猫耳・・・⁉︎」

「これがあの噂の、ノイエ領の?」

「何だよあのド下手な絵と全然違うじゃねぇか‼︎」

騒めきがまた一段と上がった。猫耳、ノイエ領、という単語が聞こえてハッとする。

まさか騎士さん達まで、ユリウスさんがこっそり描かせたらしい私の猫耳姿の絵を見たのかな⁉︎でもド下手って・・・?

不思議に思ったけど、どうにもこの猫耳ゴスロリ姿みたいなのを晒すのが恥ずかしい。

笑って手を振るどころではなく、シェラさんの肩口に隠れるように齧り付いたら

「あっ!隠れた‼︎」

「ええ⁉︎ユーリ様?本当にユーリ様ですか⁉︎ホンモノでしたらお顔を見せて下さい‼︎」

「おい見ろ、ドレスの後ろのリボンが猫の尻尾みたいに揺れててかわいいぞ!」

とガヤガヤしながらまだ後をついてくる。収拾のつかないその様子にシェラさんにも

「ユーリ様、この人数を引き連れてレジナスの所に行くのはさすがに」

と言われてしまった。仕方ない。

おずおずとシェラさんの肩から顔を出し、

「わたし、ユーリでしゅよ。ルーしゃんのおくしゅりで小しゃいだけ!心配ないよ、またね。」

と手を振った。説明もしたし分かったよね?これでもう着いてこなくてもいいからね、の意味も込めてばいばい!とぎこちない笑顔もオマケに付けた。

そうすれば金魚のフンかカルガモの親子みたいに後をついて来ていた騎士さん達がダルマさんが転んだ遊びをしているみたいに一斉にその歩みをピタリと止めた。

「やっべぇ・・・何アレ」

「マジでユーリ様⁉︎破壊力ありすぎなんすけど」

「俺もあんな娘が欲しい・・・」

「つーか、ルーさんて誰?」

「薬のせいって言ってたから魔導士団長か?」

「またかよ、ホントあの人は余計なことしかしねぇな‼︎」

「いやでも、これはいい仕事をした方の部類に入るんじゃ・・・?」

「魔導士団長の魔法なら効力は長いのか⁉︎」

赤くなって胸の辺りを抑えている人やぽうっとして手を振り返してくれる人達も交えて、立ち止まった騎士さん達の間で何かよく分からない議論が始まっている。

「やれやれ、やっと静かになりました。ありがとうございますユーリ様。さあ、レジナス達がいるのはこちらですよ。」

まだ足を止めて話し合っていて遠ざかる騎士さん達を肩越しに見ていたら、そんな風にシェラさんから声を掛けられた。

「うん?レジーしゃん達?レジーしゃんだけ、ないの?」

「今日はレジナスの選んだ、結婚式当日に大神殿内部でユーリ様を一番近くでお護りする重要な任務を与えられた護衛騎士達との顔合わせでして。レジナスの選んだ者達なら間違いはないと思いますが、念のためその実力をオレもチェックするんですよ。」

てことは、この先で待っているのはレジナスさん一人じゃなくて、中央騎士団の中でも更に選ばれた精鋭みたいな人達も一緒ってことだ。

それなのに散々待たせて遅刻した挙句に、こんな幼児姿の私までやって来るなんてかなり迷惑では⁉︎

「シェラしゃん、わたしと一緒にごめんしゃいしてよ⁉︎」

「え?何故です?むしろこんなに可愛らしいユーリ様に会える騎士達の方がその有り難さに膝をついて礼を言うべきでは?」

まずは遅刻のお詫びをしなければと慌てる私とは対照的にシェラさんは首を傾げている。本気でそんな事を思っていそうなのが怖い。

「シェラしゃん、ちこく!わたしのせい‼︎あやまるの‼︎」

「ユーリ様以外の者に頭を下げるのはイヤですねぇ・・・」

それはどこの大声殿下?シェラさんの言っていることは、イリューディアさんとヴィルマ様以外には頭を下げん!と開き直って言っていたいつぞやの大声殿下そっくりだ。

と、予備演習場と書かれた扉の前でシェラさんと二人で謝る謝らないとそんなやり取りをしていたら

「さっきから何をしているんだお前は。一体誰と話している?かなり遅刻しているんだから来たんならサッサと入って来い!」

バンと扉が開いて怖い顔をしたレジナスさんが現れた。

「あっ!レジーしゃん‼︎」

ごめんなさい、と頭を下げた私を見てレジナスさんの顔がこわばったまま固まった。

「・・・いや、誰だこれは?」

まるでユーリがそのまま小さくなったみたいな子どもだ、とレジナスさんが呟いた。

・・・残念ながら正解だよ?







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