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番外編

夢で会えたら 2

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自分をシャルと名乗ったその子を、カティヤ様はとりあえず神殿で預かろうかと申し出てくれたけどシャル君が嫌がった。

あの青い瞳いっぱいに涙を浮かべて涙目になると、また私のドレスの裾にぎゅうっと抱きついてきたのだ。

そのまま私を見上げて何ごとかを訴えてきたけど、当然ながら前ルーシャ語なので私には分からない。

「さっきの話ですと四歳を迎えたばかりのようですのでこれくらいの時期であれば前ルーシャ語の他に周囲との意思疎通のために簡単な今のルーシャ語も話せるはずなんですが・・・」

そう言ったカティヤ様がシャル君に優しく話しかけた。

と、ハッとした顔つきになったシャル君は慌てて私に

「タタ・・・かあさま、ごめんなさい。ボク、セプレビューしたの。ちゃんと話します。」

と言ってきた。

「セプレビュー?」

聞き慣れない単語に首を傾げればカティヤ様が

「前ルーシャ語で慌てた、というような意味合いですね。迷子になって混乱したので普段から慣れている前ルーシャ語が出たということでしょうか。」

「あ、なるほど。」

帰国子女が会話の中につい英語が混じってしまうようなものなのかな?それにしてもだ。

「とりあえず、この子は本当に私とリオン様の子なんですかね?」

状況的にはそれっぽいけど事実確認が必要だ。そう思ったらカティヤ様は早速シャル君に尋ねている。

「シャル君、あなたのお父様はどなた?」

「とうさまを知らないんですか?ルーシャ国の大公様ですよ!みんなにリオン大公かっか、って呼ばれてるすごく優しくてカッコいいとうさまです!かあさまととっても仲良しなの‼︎」

あ、そうですか・・・。あっさり誰の子か分かったのはいいとして、まさかこんな小さい子の前でも仲良く見えるほど未来の私達はまだイチャついてるとか、知らなくていいことまで知ってしまった。

なんとなく気まずくなってしまっていたらカティヤ様が嬉しそうに微笑んだ。

「この様子では普通のルーシャ語もそれなりに話せそうで安心しました。それにさすがお兄様とユーリ様のお子様ですね、ハキハキとして賢い上にとても愛らしいですわ。」

「でもこれからどうしましょう?この子がもし本当に過去に迷い込んだのなら、未来の私やリオン様がすごく心配しているだろうしどうにかして帰してあげたいですけど。」

くっついて離れないシャル君の頭を撫でながら相談すれば、

「もう一度選女の泉の近くへ連れて行って祈りを捧げてみては・・・と思うのですが。ユーリ様もお兄様も多忙ですぐにノイエ領へ行く準備は整わないでしょうしその点、姫巫女であるわたくしの方がイリューディア神様に関する場所へ出向くのには融通がきくのですが・・・」

カティヤ様は普段神殿の外への出入りは禁止されているが神事に関すること、特にイリューディアさんに関係したことなら私よりも早く動けるみたいだ。

だからこそ神殿でシャル君を預かろうかと言ってくれたんだけど・・・。

「かあさま、とうさまはどこ?ラーズは?みんなもうご飯をたべに行きましたか?」

ボクも行きたいです、とシャル君が言う。どうやら母親・・・私に会えて安心したらお腹が空いたらしい。というか、

「ラーズ?」

また知らない単語が出てきた。前ルーシャ語かな?と首を傾げたら、

「ラーズ、ボクがシカにおそわれると思って剣を振ったんです。だからせっかく近付いてくれたシカがびっくりして逃げたから、それを追いかけたの。弟なんだからボクを守ろうとしなくていいのに。ボクがラーズを守るのに。」

ぷうと頬を膨らませてそう言う。その様子は小さなリオン様が拗ねているみたいで可愛い。

「じゃなくて‼︎」

シャル君の言葉にとあることに気付いた。

「ラーズは何かの単語じゃなくて人名ですか⁉︎お、弟⁉︎」

え?シャル君の他にもう一人子供がいるってこと?

しかも四歳のシャル君より小さいはずなのにもう剣を振ってたり、お兄ちゃんのシャル君を守ろうとしているなんてかなり勇ましい。

「かあさま?」

シャル君がどうかしたのかと小首をかしげる。

「あ、いえ!剣を振るなんて危ないなあって思って」

「でもラーズのとうさまがあげたんですよ?かあさまからもらった大事なものだからラーズのお守りがわりにって。ピカピカの真っ黒でカッコいい短剣!」

「く、黒い短剣⁉︎」

「はい。あれはティピュー・・・じゃなくてえっと、小さい、からラーズの手が小さくてもちょうどいいって」

待って待って。私が持っていて誰かにあげた黒い短剣なんて、新婚休暇の途中に立ち寄った町のお祭りで花女神をやって手に入れレジナスさんにあげた黒い魔石の短剣しか覚えがない。

てことはつまり、ラーズ君というシャル君の弟は私とレジナスさんの・・・?どおりで勇ましいはずだ。

カティヤ様も興味津々で、

「あら、ラーズ君は何歳なのかしら?他にも兄弟はいるの?」

なんて聞いて、シャル君はそれにパッと顔を輝かせると

「ラーズは三歳!ボクのいっこ下‼︎でもお兄ちゃんのボクよりもちょっと大きいから悔しいの!あとね、今度ボクにまた弟か妹が出来るんです!この間ねえやのマリーがそう言ってました‼︎」

と元気よくハキハキと答えた。その言葉にカティヤ様は目を輝かせて

「あらあら、それは素敵ですこと。それじゃ・・・」

「ストップ‼︎そこまでです‼︎」

無邪気なシャル君からまだ何か聞き出そうとしているカティヤ様を止める。こんなにもこれから先の未来のことを知ってしまっていいの⁉︎

そんな私をエル君がちらりと見て

「顔が赤いですよユーリ様」 

と言えば、この状況にだいぶ慣れたのかシャル君はエル君にも話しかける。

「エル、どうしてそんなに小さいですか?シューブル・・・髪の毛も切ったの?長い方がカッコいいよ?」

「えっ?エル君て髪を伸ばしてるんですか⁉︎」

未来のことは知らない方がと思いつつ、思わずシャル君の言葉に食い付いてしまった。

「ボクやラーズのお稽古の相手をしてくれてる時、髪の毛がお馬さんの尻尾みたいに揺れて面白いです!」

「大きくなってポニーテールのエル君・・・‼︎」

それはかなりカッコよくなっていそうだ。しかも私にはいつも塩対応なのに、私の子供の相手はしてくれているなんて優しい。

「なんですかユーリ様、そんな変な笑顔で僕を見ないでください」

「変ってなんですか!」

シャル君の言葉にエル君を見る私は笑顔になっていたみたいだけど、そんな私にエル君は安定の塩対応だ。

と、そこでまたシャル君が

「かあさま、ボクお腹が空きました!」

と声を上げた。

「おやつください‼︎」

その言葉に

「まあ・・・」

「言い回しが間違いなくユーリ様の子供っぽいです」

カティヤ様とエル君が顔を見合わせる。し、失礼な。顔と立ち居振る舞いがリオン様に似て食い気が私に似たとでも?

「こんなに愛らしい子を神殿に留め置けないのは残念ですが、この子をぜひお兄様にも見ていただきたい気持ちもいたしますわね。ではユーリ様、そろそろお兄様もこちらへ着く頃でしょうし行きましょうか?」

「お腹が空いたって言ってるしご飯も食べさせてあげなくちゃいけませんしね。リオン様、びっくりするだろうなあ・・・」

「かあさま、抱っこをしてもらってもいいですか?」

うーん、と悩む私にシャル君がもじもじと私のドレスの裾を引く。

「はい?」

「えっと、ラーズもいないので・・・だからボク、今はお兄ちゃんじゃないし・・・」

ああ、これはきっと普段は弟にお母さんを譲ってお兄ちゃんらしく甘えるのを我慢してるってことだろうか。

弟の姿が見えない今だから私に甘えたいらしい。

「いいですよ!」

はい、と両手を広げてかがめば青い瞳を輝かせ、白い頬を紅潮させたシャル君が私の胸元に飛び込んでくる。

エル君は心配そうに、

「大丈夫ですか?ユーリ様、非力なんですから無理をして落とさないでくださいよ」

と言えばその言葉に振り向いたシャル君が

「かあさまがつかれたら、いつも途中でエルが抱っこを変わってくれますよね?またお願いします!」

と笑いかけた。それにエル君が

「僕は子供のお守りじゃなくて護衛なのに・・・。両手を塞ぐとかあり得ない・・・」

とかぶりを振ったけど、

「あは、エルはいっつもそーゆうけど結局僕やラーズを抱っこしてくれるから大好きです‼︎」

とまた無邪気に声を上げて笑った。えー?エル君、随分と私の子供に甘くないかな?

そう思った私はまたエル君に向かって笑いかけていたらしい。

「なんですか、また変な顔して僕を笑ってますよ」

とあからさまにエル君に嫌そうな顔をされてしまった。

そんな感じで、なんとか私が頑張って神殿の馬車寄せまでシャル君を抱いていけば

「え?その子、どうしたのユーリ。神官見習いの見送りに来た子?それとも帰る途中、どこかの孤児院に寄って連れて行く子?」

と馬車を降りてきたリオン様に目を丸くされてしまった。

一緒に馬車を降りた、リオン様に同行していたレジナスさんも興味深げにまじまじと私に抱かれているシャル君を見ている。

馬車の御者台に御者と一緒に座っていた護衛のデレクさんも、こっそりこちらを見つめているのが分かった。

「えーと・・・」

どこから説明しようか。そう思っていたら、リオン様の声に反応してそちらを見たシャル君の方が先に声を上げる。

「とうさま!レジーとうさまも‼︎ラーズは?」

「「・・・え?」」

シャル君の発言に二人が面食らって、今までに私が見たことのない顔をしている。

あ、どうしよう。えーと。

「・・・というわけで、この子は私とリオン様の子です。」

思わず簡潔に、あらゆる説明をすっ飛ばして事実のみを告げてしまいさらに二人を絶句させ、デレクさんは御者台から立ち上がってシャル君を見る。

そして私の後ろでは「ユーリ様・・・」とカティヤ様とエル君が呆れてため息をついた。



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