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番外編
なごり雪 7
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初めて乗るクーヤに揺られてシェラさんの軽口にレジナスさんと二人で振り回されたりそれをエル君に呆れられたりしているうちに、私達はいつの間にかどんどん山を登っていた。
標高が高くなるほどに背の高い草木は減って来て、たまにごつごつした岩場があり牧草のような柔らかそうなあまり高さのない草地を目にすることが多くなり始める。
なんだかテレビなんかで見たことのあるスイスっぽい雰囲気だ。ルーシャ国の北海道的なダーヴィゼルドの中にスイスっぽい場所まであるなんて、なんだか一粒で二度おいしい得した気分になった。
そのスイスっぽい牧歌的な風景の中を歩んで行けば、やがてちらほらと可憐な白く小さな花をつけた植物もあったりしてそれは稀少な高山植物なのだとシェラさんが教えてくれた。
「この辺りではクーヤの他にも高地でしか生息しない珍しいヤギも育てております。そのヤギのミルクから作られるチーズも濃厚ながらクセがなく滋味深いものなのですが、鮮度を保つのが難しくダーヴィゼルド領以外では滅多に口にすることが出来ないほどです。」
え?何それ。シェラさん、なんて興味深いことを言ってくれるんだろうか。すごく食べてみたいんですけど。
食い意地を刺激されて思わず同乗しているクーヤの後ろのシェラさんに振り向いて
「それ、もしかして村に着いたら食べることは出来ます?そんな風に言っておいて食べられないとかないですよね・・・?」
と聞けばもちろん、と微笑まれた。
「ユーリ様にご賞味いただくために説明していますからね。到着後の小休憩時にはそのヤギミルクから作られたチーズタルトにふんだんに木イチゴを乗せたものを準備させておりますよ。濃厚なチーズに木イチゴのさっぱりとした酸味が素晴らしい組み合わせで、早く召し上がっていただきたいものです。」
「聞いているだけですごくお腹が空いて来ますね?」
「それだけではありませんよ、」
白いチーズタルトに真っ赤な木イチゴが乗った色鮮やかなコントラストを想像して目が輝いていたらしい私に、さらにシェラさんは続けた。
「夕食では茹でた野菜や肉にそのヤギのチーズを溶かしてかけた、村の名物料理も出ますからね。もしお気に召したら結婚式後の披露宴に出す料理の食材の一つとして、そのチーズを取り寄せるように手配いたしましょう。」
その料理っていわゆるラクレット的な?ますますスイスっぽい。
ていうかここまできたらいっそスイスが舞台の某名作アニメ劇場的に白パンに火で炙って溶けたチーズを乗せて食べてみたい。
村への訪問はヒルダ様のお城まで日帰りで往復できない距離なので一泊する予定だし、ついでにワラのベッドで寝たり出来ないんだろうか。
そんな事を聞いてみたら、白パンにチーズはともかく
「ユーリ様は変わったことを仰られますね?わざわざ寝心地の悪いベッドをご希望ですか?」
とシェラさんに首を傾げられてしまった。
「え?楽しそうじゃないですか?」
「昔はそのようなベッドが主流だったようですが、今はさすがに相当貧しくなければそんなことはしないと思いますが・・・。それにそんなベッドでは寝心地も悪いですし体を冷やしてしまいますよ?」
「そ、そうなんですね?」
さすがにアニメと現実は違ったか。でもどんな寝心地なのかちょっと気になるんだけどさすがに癒し子をそんな布団には寝かせてくれないだろう。
「もしどうしてもそれで寝たいのでしたらオレがユーリ様を抱きかかえて寒くないように」
「あ、それはダイジョウブです」
いい事を思いついたとでも言うようにシェラさんが声を弾ませたので慌ててそれを遮る。
「遠慮なさらなくてもよろしいのに・・・」
背後の声があからさまにがっかりして、隣でクーヤを並走させていたレジナスさんはなぜか満足そうに頷いている。
そしてそのレジナスさんには
「栄養価が高いヤギのミルクは飲めば冬場の寒い時期にも体力を保つのに役立っているから、村に着いたらぜひ加護を付けてやってくれないか?きっと村人達に喜ばれる。」
と勧められた。それこそ私が無理を言ってレジナスさん達に同行した意味があるし役立てることだ、もちろん喜んでやらせてもらう。
「ぜひやらせて欲しいです!ヤギのミルクの出が良くなるようにもしますし、良いヤギが育つように牧草地にも加護を付けますよ!それに甘いお菓子や白パンもたくさん出しましょう!」
元々パン籠を村に置いてくるつもりだったけどここに来るまでに聞いた話やさっき私が話した白パンの事から察するに、どうやらこういった山間部や地方ではそもそも柔らかくて甘めの白パンは殆ど食べられていないらしい。
長期保存のためや手に入る材料の関係、育てている小麦の種類などもあり砂糖やミルクを入れて作る白パンは贅沢品だという。
そのためなるべく水も使わずパン単品でも食事になるような固くて塩っけのあるものが主流らしい。
なんていうか、癒し子としてあちこちを訪れても当然のようにもてなし料理ばかり出されているのであまりそういった固いパンには遭遇したことがない。
だから普段はあまり意識していなかったけどこういった所に来て話を聞くと改めて自分が恵まれているんだと実感してありがたく思う。だからこそやれる事はなんでも全力でやってあげたい。
「村に着いて一休みしたら、まずは牧草地に加護を付けたいですね!そこに行けば放牧されているヤギや牛がいますよね?そのまま家畜にも加護を付けられるでしょうし効率が良さそうです!」
張り切った私にレジナスさんもこくりと頷いてくれた。
「ではその間にユーリを護衛しながら俺とシェラはその近辺を見回ってこよう。」
シェラさんとのふざけ合いの仲裁ですっかり忘れてたけど、そうだよ元々二人はセビーリャ族に国境沿いの人が困らされていないか見に来たんだった。
私も自分のするべきことをきちんとしないと。おいしいご飯はその後だ。改めてそう気を引き締めると前を見たのだった。
標高が高くなるほどに背の高い草木は減って来て、たまにごつごつした岩場があり牧草のような柔らかそうなあまり高さのない草地を目にすることが多くなり始める。
なんだかテレビなんかで見たことのあるスイスっぽい雰囲気だ。ルーシャ国の北海道的なダーヴィゼルドの中にスイスっぽい場所まであるなんて、なんだか一粒で二度おいしい得した気分になった。
そのスイスっぽい牧歌的な風景の中を歩んで行けば、やがてちらほらと可憐な白く小さな花をつけた植物もあったりしてそれは稀少な高山植物なのだとシェラさんが教えてくれた。
「この辺りではクーヤの他にも高地でしか生息しない珍しいヤギも育てております。そのヤギのミルクから作られるチーズも濃厚ながらクセがなく滋味深いものなのですが、鮮度を保つのが難しくダーヴィゼルド領以外では滅多に口にすることが出来ないほどです。」
え?何それ。シェラさん、なんて興味深いことを言ってくれるんだろうか。すごく食べてみたいんですけど。
食い意地を刺激されて思わず同乗しているクーヤの後ろのシェラさんに振り向いて
「それ、もしかして村に着いたら食べることは出来ます?そんな風に言っておいて食べられないとかないですよね・・・?」
と聞けばもちろん、と微笑まれた。
「ユーリ様にご賞味いただくために説明していますからね。到着後の小休憩時にはそのヤギミルクから作られたチーズタルトにふんだんに木イチゴを乗せたものを準備させておりますよ。濃厚なチーズに木イチゴのさっぱりとした酸味が素晴らしい組み合わせで、早く召し上がっていただきたいものです。」
「聞いているだけですごくお腹が空いて来ますね?」
「それだけではありませんよ、」
白いチーズタルトに真っ赤な木イチゴが乗った色鮮やかなコントラストを想像して目が輝いていたらしい私に、さらにシェラさんは続けた。
「夕食では茹でた野菜や肉にそのヤギのチーズを溶かしてかけた、村の名物料理も出ますからね。もしお気に召したら結婚式後の披露宴に出す料理の食材の一つとして、そのチーズを取り寄せるように手配いたしましょう。」
その料理っていわゆるラクレット的な?ますますスイスっぽい。
ていうかここまできたらいっそスイスが舞台の某名作アニメ劇場的に白パンに火で炙って溶けたチーズを乗せて食べてみたい。
村への訪問はヒルダ様のお城まで日帰りで往復できない距離なので一泊する予定だし、ついでにワラのベッドで寝たり出来ないんだろうか。
そんな事を聞いてみたら、白パンにチーズはともかく
「ユーリ様は変わったことを仰られますね?わざわざ寝心地の悪いベッドをご希望ですか?」
とシェラさんに首を傾げられてしまった。
「え?楽しそうじゃないですか?」
「昔はそのようなベッドが主流だったようですが、今はさすがに相当貧しくなければそんなことはしないと思いますが・・・。それにそんなベッドでは寝心地も悪いですし体を冷やしてしまいますよ?」
「そ、そうなんですね?」
さすがにアニメと現実は違ったか。でもどんな寝心地なのかちょっと気になるんだけどさすがに癒し子をそんな布団には寝かせてくれないだろう。
「もしどうしてもそれで寝たいのでしたらオレがユーリ様を抱きかかえて寒くないように」
「あ、それはダイジョウブです」
いい事を思いついたとでも言うようにシェラさんが声を弾ませたので慌ててそれを遮る。
「遠慮なさらなくてもよろしいのに・・・」
背後の声があからさまにがっかりして、隣でクーヤを並走させていたレジナスさんはなぜか満足そうに頷いている。
そしてそのレジナスさんには
「栄養価が高いヤギのミルクは飲めば冬場の寒い時期にも体力を保つのに役立っているから、村に着いたらぜひ加護を付けてやってくれないか?きっと村人達に喜ばれる。」
と勧められた。それこそ私が無理を言ってレジナスさん達に同行した意味があるし役立てることだ、もちろん喜んでやらせてもらう。
「ぜひやらせて欲しいです!ヤギのミルクの出が良くなるようにもしますし、良いヤギが育つように牧草地にも加護を付けますよ!それに甘いお菓子や白パンもたくさん出しましょう!」
元々パン籠を村に置いてくるつもりだったけどここに来るまでに聞いた話やさっき私が話した白パンの事から察するに、どうやらこういった山間部や地方ではそもそも柔らかくて甘めの白パンは殆ど食べられていないらしい。
長期保存のためや手に入る材料の関係、育てている小麦の種類などもあり砂糖やミルクを入れて作る白パンは贅沢品だという。
そのためなるべく水も使わずパン単品でも食事になるような固くて塩っけのあるものが主流らしい。
なんていうか、癒し子としてあちこちを訪れても当然のようにもてなし料理ばかり出されているのであまりそういった固いパンには遭遇したことがない。
だから普段はあまり意識していなかったけどこういった所に来て話を聞くと改めて自分が恵まれているんだと実感してありがたく思う。だからこそやれる事はなんでも全力でやってあげたい。
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張り切った私にレジナスさんもこくりと頷いてくれた。
「ではその間にユーリを護衛しながら俺とシェラはその近辺を見回ってこよう。」
シェラさんとのふざけ合いの仲裁ですっかり忘れてたけど、そうだよ元々二人はセビーリャ族に国境沿いの人が困らされていないか見に来たんだった。
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