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68 ノヴァルト
しおりを挟むトウカが倒れた。
メイドが慌てた様子で執務室へやってきた。
「王妃様がすぐに来るようにとの事です」
何があったのだろう。
母上の部屋へ行くとトウカが床に倒れていて母上がトウカの頭を膝に乗せていた。
「トーカさんが突然倒れて……熱があるみたいなの。あなたの寝室の隣の部屋に運びましょう」
次期王妃の部屋だ。廊下に面した扉と私の部屋とも扉1枚で繋がっている。
鍵もかけておけるが、突然掃除に入れなくなると皆不思議がるだろう。だがトウカの存在を知られるわけにはいかない。
何かあればすぐに私が様子を見に行けるし最善の選択だろう。
トウカを横抱きにし、毛布を被せて隠す。
さっきまで熊たちと戯れたりして元気だったのになぜ……
ちょうど夕食の準備で忙しい時間なので廊下で使用人にすれ違う事もないだろう。
足早に移動し、寝室まで辿り着きベッドにトウカを寝かせる。廊下に面したドアの鍵はかけておき、後で使用人達にはしばらくこの部屋へは入らないように言っておかなければ。
少し遅れて母上がミケネコサンを毛布にくるんで連れて来てくれた。
ミケネコサンもベッドに乗りトウカを見つめている。
一体どうしてしまったのか……母上に状況を聞いてもわからない。ただ……
「治癒魔法のヒールと言ったかしら。トーカさんが自分にかけていたのだけれど効かないみたいなの」
ノシュカトのあれ程のケガを治した魔法だ。それが効かない…………? 不安が胸を過る。
ノックがしてノクトとノシュカト、オリバーが私の寝室からこちらの部屋へやって来る。皆少しためらっていたがそんな場合ではない。
「何かあったのか?」
状況を説明すると皆不安気な様子になる。
「トーカ……」
ノクトがトウカの額に触れその熱さに驚く。
オリバーが氷水とタオルをもらいに部屋を出る。
「僕、トーカの家にリライを取りに行ってくる」
ノシュカトも部屋を出る。
トウカもゲートでこちらに来たから鍵はかかっていない。
今は緊急事態だ……許してくれトウカ。
「トーカの魔法が効かないとは……父上に報告してくる」
ノクトが部屋を出て行くときオリバーが戻ってきた。
タオルと氷水を母上に預け、ここは任せる事にした。
私とオリバーは仕事に戻るため部屋を出る。
「ノヴァルト殿下……トーカは……」
オリバーも不安そうに言う。
「ノシュカトがトウカの家からリライを持ってくる。それが効いてくれればいいのだが」
トウカが倒れたのが1人の時ではなくて良かった。
トウカの魔法は効かない。もしかしたらリライも効果がないかもしれない。
これは……この世界の病ではないかもしれない。トウカのいた元の世界……異世界のものかもしれない。
トウカが目を覚ました時に何か聞けるといいのだが……
私達が出来る事はあるのだろうか……いや、今度は我々がトウカを救う。
トウカの存在を隠しておくため、母上以外は皆いつも通り仕事をこなす。
ノシュカトがリライを持って戻ってきた。
母上がトウカの口に含ませそのまま様子をみてくれている。
夕食の席に母上は来たけれど皆の顔を見て首を振る。
様態は変わらないようだ。
やはり……リライも効かないのか。
オリバーも心配しているだろうから食後ノクトから様子を伝えてもらい一緒にトウカの様子を見に行ってもらう。
父上も母上と一緒に就寝前に様子を見に来た。
「トーカさん無意識にクリーンを定期的にかけているみたいなの。こんなに汗をかいているのにお布団もお洋服も汚れていないわ」
そうだったのか……こんな時まで1人で頑張ろうとするのだな…………もっと頼って欲しい。
それから父上と母上は、後は頼む……と自室へ戻って行った。
トウカ…………
額に乗せているタオルを交換して水差しの水でハンカチを湿らせトウカの唇を濡らす。
顔が赤く息も荒い……
その苦しそうな様子にどうにかして楽にしてあげたいという思いと、その官能的にも見える表情にどうにかしてしまいたいという思いがせめぎ合う。
こんな時に……
頬に触れると冷たくて気持ちいいのかピタリと頬を寄せてくる。
トウカが熱さで無意識に引っ張りボタンが千切れ飛んでしまいそうだったからと母上が外していった……汗ばんだ胸元が見える。
いつもは私達の手の届かない力を使うトウカがこんなに弱っている姿をみると庇護欲をそそられる。
このままここに閉じ込めてしまいたいような……
自分の身勝手な感情に驚きながらも……やはり元気になって欲しいと思う。
トウカには笑っていて欲しい…………
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