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しおりを挟む今日は木曜日。ノバルトは仕事が忙しく、今日ならと明日来られない王妃様に午前中お城に呼ばれた。
という訳で、午前中はマナー教室です。
ドレスは着ていないけれど着ているつもりで歩き方からカーテシーとご挨拶の仕方。
「本日はお招き頂き……」って招かれることもないと思うのですが……? と王妃様に疑問を投げかけたら
「ホホホホホッ覚えておいて損はないわ。これもこの世界の常識の一つですよ。もしかしたらトーカさんが結婚する時に役にたつかもしれなくてよ」
私は一般的な庶民なので貴族社会の事はわからないからありがたいけれど、結婚ねぇ……まだ考えられないし貴族と知り合うこともないから関係ないと思うけど……まぁでも確かに知識として持っておいて損はないかな。
「所作が美しくなるのはいいことですよね。改めてよろしくお願いいたします」
それからは細かい所を直されながらひたすら繰り返し。
お茶にしましょうということになったので、メアリに教えてもらった事を実践すべく私が紅茶を入れた。
「あら、トーカさんお茶を入れるのがお上手だわ。ここで働いているメイドにも負けないくらいよ」
ギクッ
「お、恐れ多いことでございます」
……動揺してしまった。
いつか息子達にも振る舞ってくれると嬉しいわと、クスクス笑っている。
お茶を飲み終わり少しだけ復習してマナー教室が終わった。
王妃様のお部屋を出て使用人棟のお部屋へ移動する。
一息ついてからメイド服に着替えて午後のお仕事をこなす。
メアリは相変わらず教え方が上手でメリッサメイド長や他の仕事仲間も気にかけてくれているから、私のメイドとしての仕事振りもなかなかなものになってきた気がする。
お城という職場は意外と、と言ったら失礼だけれど待遇もいいし人間関係も良好。もっとドロドロな現場を目撃してしまうのでは……と思っていたのに。
王妃様や他の方々も使用人とよくお話をされて良い関係を築いているのも大きいと思う。
そんなわけで今日も一生懸命仕事をして程よくクタクタになった。
そしてその疲れを癒すのは…………そう! 温泉です。
今日もご機嫌で温泉に向かう。
昨日はちょっとしたレオンというハプニングがあったからね。
今日はゆっくり浸かろう。
ウキウキと温泉に向かい一応周りを確認して裸になる。全身洗って髪をまとめ上げてお湯に浸かる。
ふぁ――――……毎回声がでちゃう――――
温泉でやってはいけないこと…………でもここは大自然の中。そして私しかいない。ならば、泳ぐでしょう。
背面をお湯につけ星を仰いで、泳ぐというよりプカプカ浮いている。
星が綺麗。
「今晩は、ノア」
ゴボォッ……ゲホッゲェホッ
「フッ……クックックす……すまない。驚かせてしまったな」
「ケホッ……な……何で!?」
「昨日の話の続きをしようと思ってね」
また岩陰から声がする。急いで髪と目の色を変えて体にタオルをまく。
「時間をずらすはずですよね!?」
「うん。昨日は無事に帰れたようで安心したよ」
「あ……はい。……ありがとうございます……」
じゃなくて。
「顔を合わせて話してもいいかな?」
裸だよね? お互い。混浴の文化もあるの?
身の危険を感じたらどうにかできるけど……大丈夫かな?
「……いいですけどあまり近づかないで下さいね」
パシャリと水音がして岩陰からゆっくりと姿を現したのは茶色い髪に日焼けした肌の健康的で……たくましい……全裸の男性……全裸…………
「……前を……」
かろうじて湯気でぼやけているけれど腰にタオルを巻いていない……
「ん?」
「……前をっ…………隠さんかいっっっ!!」
頭に乗せていたタオルを投げつけた私は悪くないと思う。
「うわっ危ないなぁ。ごめんごめん。怒らないで」
ね? とキレイな顔で言われてもタオルは巻いて欲しい。
湯船に浸かりようやく落ち着く。
改めてみてもキレイな顔。褐色の肌が健康的で魅力的。
「それでノア、家はどこなのかな? 家族は?」
「レオン、私は家の場所を教えるつもりはないですよ。家族は……遠くにいます」
物凄く遠くに。
「信用ないなぁ。温泉仲間じゃないか」
「レオンはどこから来たのですか? ご家族は?」
きいたと言うことはきかれてもいいという事かな? 同じ質問をしてみよう。
「俺は旅をしているからね。今はこの山のふもとの街の宿屋に世話になっている。家族はザイダイバの王都に住んでいる」
あっさり答えられてしまった。
「ザイダイバ王国の方なのですか? なぜ旅を?」
「ノア、そろそろその堅苦しい話し方やめないか? それに俺ばかり質問に答えるのは不公平だ」
ぬぅっ……ド正論をいわれてしまった。仕方がない。
「わかりま……わかった。じゃぁ答えられる質問には答える」
「ありがとう。ノアはリアザイアに住んでいるのか?」
まぁ国くらいはいいよね? レオンも答えてくれたし。
「はい」
「家族は遠くにいる、と……国外にいるのかな?」
国外というか異世界。
「まぁ……そんなようなものです」
「……ふぅん?……」
曖昧な答えを怪しんでいる。話を変えなきゃ。
「レオンはお仕事は何しているの?」
「俺は旅をしながら商人のような事をしているよ。街から街へ物を買い付けては売って旅を続けているんだよ。商売相手は貴族だったり街の人達だったり色々だ。ノアは? どんな仕事をしているの?」
「私は……お屋敷でメイドをしている」
普通に答えてしまった。
「メイドが1人でこんな山奥に……? 仕事は楽しいかい?」
最初の呟きはスルーしよう。
「仕事は楽しいですよ。仕事仲間も優しいし、待遇もいいし」
「そうか……楽しいか……」
? どうしたのかな? 何か考えている。
「ノア、今の屋敷での仕事を少しの間休めないか? 俺の知り合いの屋敷で働いてみて欲しい。何度か仕事で世話になった事があるのだが……何だか違和感を感じるんだ。気のせいならばいいのだが……」
私に頼んでいいことなのかなぁ……
「まだ会うのは2度目だけれど……それは私に頼んでも大丈夫なの? それにザイダイバの貴族のお屋敷ですよね? リアザイアに住んでいる私がどうやって潜り込むの?」
忍び込むのは得意なんだけれど……と怪盗みたいなことを思ってしまった……
「まだ2度目だけれど2度とも裸の付き合いをした仲じゃないか」
フフッと笑いながら……語弊のある言い方っ!
「紹介状も書くし、あちらにも手紙を送っておく。しばらくは向こうに住み込みになるけどどうかな?」
どうなんだろう? お休み頂けるかな?
「レオンが知りたいことを知ることが出来るかはわからないけれど、お休みが頂けるなら働いてみてもいいよ」
「本当に?」
引き受けると思っていなかったのか心底驚いた顔でこちらをみる。イケメンだな。
「うん。お休みが頂けるか確認してからね」
「ありがとう! ノア!」
そう言ってバッと腕を広げ抱きついてこようとする彼に平手打ちをした私は悪くないと思う。
「痛いなぁ、もぉ」
そう言いながら笑う彼はやっぱり嬉しそうだった。
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