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しおりを挟む先週の金曜日、結局レオンとは会っていないけれど、現状を簡単に書いた手紙を受付のお姉さんに預かってもらうためレオンが泊まっている宿へは行った。
するとレオンからも手紙を預かっていると言われ渡された。
開けてみるとレオンも用事が出来たと書いてあり来週の月曜日の夜8時頃都合が良ければまた夕食を一緒に食べようと。それが無理なら金曜日に夕食を共にしようと。
私が持ってきた手紙に返事を書き足して預かってもらった。
今日はその月曜日。そして今日からティナ様とシュゼット様付きのメイドのお仕事が始まる。
終わる時間がシュゼット様次第だからレオンにもそう手紙に書いておいた。
朝8時、ティナ様と一緒にシュゼット様のお部屋へ向かう。
そしてもう1人……いや、もう1匹、三毛猫さんも一緒なのです。今回はちゃんと付いてきてくれている。
シュゼット様のお部屋へ着く前に侍女のコリンヌさんにご挨拶をした。
「私はティナ・デル・ブラウンと申します。ブラウン子爵家の次女でございます。名誉ある役職を賜りまして感謝申し上げます」
おぉ、ティナ様がしっかりしている。頼りになりそう。
「初めまして、私はノアです。精一杯務めさせていただきます」
「私はシュゼット様の侍女のコリンヌです。お二人とも本日よりよろしくお願いします」
コリンヌさんに続いてシュゼット様のお部屋へ向かう。
「あなた方はここで待っていなさい」
コリンヌさんだけお部屋へ入り私とティナ様はお部屋のドアの左右に立って待つ。
しばらくしてドアが開きコリンヌさんに部屋へ入るように言われた。
シュゼット様のお部屋に入ると応接室があり、そこには3つのドアがある。
1つは寝室へ続くドアで、寝室の奥には洗面台やバスルームがある。
もう1つは廊下へ出る、さっき私達が入ってきたドア。
最後のドアは開けないように言われた。
なんでだろう?
お部屋は広いけれど意外とシンプル……と言うか物が少ない。
ご令嬢のお部屋といえばもっとこう……ねぇ……
でもこの部屋って……
「ノア、ベッドメイクをはじめるわよ」
ティナ様に言われ仕事に集中する。
2人でベッドを整えたあとは洗面台やお風呂などの水回りのお掃除は任せるわねと言われ、ティナ様はお部屋の棚などの埃をフワフワで叩いている。
応接室へ戻るとお部屋に入ったときにはなかった大きな人形がソファーに座ってお茶を飲んでいた。
お茶!? 人形がゆっくりとこちらをみる。
ハッとして慌ててご挨拶をする。
「お初にお目にかかります。本日よりシュゼット様の専属メイドを務めさせていただきますノアと申します」
あの開けてはいけないお部屋にいたのかな。
いつの間にか隣に来ていてティナ様もご挨拶をする。
「ティナ・デル・ブラウンと申します。ブラウン子爵家の次女でございます。シュゼット様にお仕え出来ること、光栄に思います」
おぉ、ティナ様しっかりしている。
シュゼット様は興味が無いのか再びお茶に口を付けている。
興味がない、というか……無……表情も変わらないし頷くなどの反応もない。
ソファーに黙って座っていれば本当に美しい人形だ。
シュゼット様が朝食に向かわれたのでその間に応接室のお掃除をする。
2人になるとティナ様がソファーへ座り指示をだす。
「棚と窓を拭き終わったらこのテーブルも拭くのよ。まったく、シュゼット様もコリンヌ様も私の事をきちんと見ていただきたいわ。貴族であり美しい私に気付いたらアーロン様に会わせたくなるだろうし、登城の際は近くに付けたくなるはずだもの…………」
ティナ様が何かブツブツと話している。放っておこう。
それにしてもシュゼット様のお部屋は物が少なくて掃除がしやすい。
やっぱりこの部屋……シュゼット様はもしかして……
三毛猫さんが開けてはいけないドアをジッ……と見ている。
入りたいのかい三毛猫さん。でも入っちゃダメって言われたんだよぅ……どうにかならないものかねぇ……
魔法は使わずに、常識の範囲内で考えていたらティナ様がいつの間にか近づいて来て
「ノア、あのお部屋を見てきなさい」
非常識なことを言われた。
え――――――やだよ。クビになりたくないし。
が、顔に出ていたらしく
「あら? 嫌なの? 誰のお陰でこのお仕事に就けたと思っているのよ」
「でもあのお部屋には入ってはいけないと……」
「大丈夫よ。今は私達だけだし少し開けて覗くだけよ。見張っていてあげる。早くしなさい、お二人が戻ってきてしまうわよ」
ほらほらとドアの前まで追い立てられる。
まぁ私も興味が無い訳ではないけれど……三毛猫さんもなぜかドアの前から動かないし。
ドアの前で考え込んでいると、ティナ様がドアを開けて、えっ!? と驚いている私の背中を押した。
よろけて開けてはいけないドアをくぐり、入ってはいけないお部屋に転がり込む。
三毛猫さんはそんな私よりも先にお部屋へ入って行った。
突然背中を押されたので足が追い付かず転んでしまった。
そんな私を見てティナ様が大丈夫? と手を差し出してくれるはずもなく、そのままドアを閉められた。
……え――――ティナ様…………ドア押さえてるし。
まぁ入ってしまったものは仕方がないのでお部屋を見てみよう。
このお部屋にもやっぱり物が少ない。
三毛猫さんが向かった方を見てみると、小さなベッドの上に赤ちゃんが入るくらいの小さいカゴのような物がある。
三毛猫さんはカゴの中を覗いている。
私も中を覗くと……………いた。
お部屋に棚はあるけれど置いてある物が少ない理由はやっぱり…………
シュゼット様はネコを飼っているんだ…………でも……
このコ弱っている? 三毛猫さんも心配そうに見つめている。この前もこのコのところに来ていたのかな。
まだ若そうだけれどなぜこんなに弱っているのだろう。
私が部屋に入っても真っ白でフワフワな身体を触っても反応がない。
お二人が戻って来たらこの部屋へはもう入れないかもしれない。
三毛猫さんも私もこのコが気になって仕方がないのでとりあえず急いでこの部屋にゲートを作り結界を張っておく。
ヒールをかけて急に元気になったらみんな驚くだろうし説明も出来ない……けど…………
だから説明はしない事にした。奇跡ということにしよう。
このコを治さない選択肢はない。
そう決めてヒールをかけようとしたらドアが開いた。
振り向くとコリンヌさん……とシュゼット様。
「ノア、どういう事ですか。この部屋のドアは開けないように言ったはずです」
「も、申し訳ありません。あの……」
「私はダメだと止めたのに言うことを聞いてくれなくて……ノアはいつも私の言うことを聞いてくれないのです」
ヘイッ! ティナッ!
シュゼット様は……無表情そして無言。
「ノア、初日なので大目にみますが初日からこれでは先が思いやられます」
コリンヌさんもそのまま受け取らないで……いや……わかっていて言っているのかも。
三毛猫さんが鳴いている。抗議してくれているのかな。
エヘヘありがとう。
「出ていきなさい」
シュゼット様が喋った。声も美しい……
そんな場合じゃない。もしかしてクビですか…………
「皆この部屋から出ていきなさい」
違ったみたい……静かにそう言うシュゼット様を残し、私達はお部屋を出ていく。
ヒールをかけられなかった……三毛猫さんも心配そう。
それにしてもなぜあんなに弱っているのだろう?
獣医さんには見せたのだろうか……
その日はシュゼット様がお部屋にこもってしまったため特にやる事もなかった。
定時には終わったから夜レオンと会う事にした。
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